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魔王さまシリーズ

魔王さまの仕事裏

作者: Iso Rock

魔王さまシリーズの他作品もよろしく!

 勇者を待ち構える吾輩の元に慌てて駆けてくる影があった。

「ベル様ぁーーー!! 大変です」

 吾輩こと――魔王ベルケンドのいる玉座の間に飛び込んできたのは、吾輩の家来である触手族のテルル。

 傍仕えのメイドとして、身の回りの世話を頼んでいる非戦闘要員だ。

「落ち着け。慌てているのは分かるが、結局正しく伝えられなければ意味がないぞ」

 ましてや吾輩の傍仕えならば、いかなる状況であれもっと堂々としていて欲しいものだ。

 まずテルルが落ち着いた所を見計らってから、吾輩は問いかける。

「――それで、どんな要件だ?」

「……先ほどは、御見苦しい所を申し訳ありませんでした。魔王様には可及的速やかに戦闘の準備をして頂きたく。

 実はその……、勇者が来ました」

 ついに来たか、久方ぶりの勇者だ。また、存分に相手をしようではないか。

 しかし、ここはラストダンジョンの魔王城。そう簡単に、吾輩の元には辿りつかせたりはしない。

「四天王の準備は整ったか?」

「バッチリです。城内に居る魔王様の親衛隊をブチコロにして、ウォーミングアップも済ませました」

「バカヤロ!」

「きゃっ!」

「親衛隊、親衛隊だぞ! テルル、貴様は親衛隊の意味を分かって言っているのか?

 敵が攻めてきているのに本陣の戦力を減らしてどうする」

「どーせ、大した見せ場も出番も無く、うろつけば無限湧きする連中ですよ?」

 そーだが、確かにそーだが。

 死んだら死んだでで、そこら辺をうろつくとどこからともなく無限に湧いてくる、吾輩から見ても引くレベルの不気味な連中だが。

 それに加えて吾輩は、勇者と誰も護ってくれる者も居ない中で孤独に戦う身だから、関係ないかもしれないが。

 それでも、勇者がここに入って来る前から死屍累々となっている光景って嫌でしょうが!

 ウチの魔王城は禍々しくても『整理整頓清潔』がモットーだぞ。オプションとして勇者の血の染みぐらいは雰囲気として許すけど。

 そんな味方同士で殺伐とした職場環境、吾輩は嫌だ。

「もういい! それより、四天王の配置は済ませたか?」

 気分を切り替えて、吾輩は勇者が来た際の手筈を確認する。

「はい。第一の大広間に全員集結しております」

「バカヤロ!」

 吾輩の二度目の「バカヤロ!」がテルルに炸裂。こやつは様式美の何たるかが分かっているのか?

「のっけから四天王を集結させてどうする!」

 もし初めに四天王を全員倒されたとしら、残りの無駄に長ったらしいこのダンジョンを勇者にどうやり過ごさせるんだ。

「だって、勇者は控えを含めて六人もいるんですよ? それだったら一対六で戦って各個撃破されるよりもよりも、四対六の総力戦の方が良いにきまっているじゃないですか。勝てますよ?」

「勝ってどうする! 吾輩たちは苦戦をさせてもいづれ負けるのが仕事だ」

 吾輩は負けたくないし、戦うときは何時でも全力だぞ?

 だが、物語の悪役を張っている以上は、いずれは敗れ行く存在。勝てない敵であっては駄目なのだ。

「四天王はそれぞれ別々の間で勇者と当たるようにしろ。それから、『死のルゲール』『毒のヘテロピラー』『闇のパドロップ』『滅のキルゲイザー』の順に配置し直せ!」

「分かりました。それでは、四天王の皆様にはそのように伝えておきます」

「伝えておけよ?」

「畏まりました」

 テルルは触手を伸ばし四天王へと命令書を飛ばす。これで一安心だ。

 城内の城内に勇者を迎える布陣は整った。

 吾輩は遠見の魔法を使い魔力で作ったスクリーンへと投影する。これによって吾輩は勇者らの動きを魔王城深部に居ながら把握することができる。

「吾輩のもとを訪れようという勇者はどのようなやつかな?」

 最初は真っ暗だったスクリーンの暗がりが次第に取れてゆき、勇者らの徐々に姿が映し出される。

 吾輩に戦いを挑む勇者は初挑戦の者、再挑戦の者、周回プレイの者など理由は様々。

 さて、今回はどのようなものが訪れたのであろうか。

 スクリーンには勇者の情報や会話ログ、戦闘情報まで映し出すことができる。

 勇者はすでに最初の関門を突破し、四天王の一人目との対決に入っていた。

「何だと……!?」

「これは……!?」

 吾輩もテルルも勇者のパーティーを見て驚いた。


 ヨシヒコ 勇者   Lv.60 

 ヨヨ   姫    しぼう

 ミンウ  反乱軍  しぼう

 カイン  竜騎士  しぼう

 ユウナ  召喚士  しぼう

 ライトニ 警備員  しぼう


「メンバーが勇者一人だと!?」

「ちなみに、さいごのひとりは四文字表記の都合で入りきってないですね。本来ならば『さん』が最後についているそうなんですけど……」

 正確には勇者以外のパーティー全員が死亡して棺桶を引きずっている状態だ。

 ちゃんとルゲール戦の前に休憩所と戦闘の準備ができているかの選択肢が出るようにしておいたのだが。

 まさか気付かなかった……なんてことはないよな。

 勇者とルゲールの会話がスクリーンに表れる。


『貴様、我が前に一人で挑もうとはなめているな!』

『はい、舐めプっす。くひひ、さーせんwww』

『……』


「最近の勇者というものは、礼儀というものがなっておらんようだな!」

「魔王様! お控えなすってください。ルゲールは耐えておりますよ」

 そうだ、この場で最も屈辱的なのはルゲールだ。

 そいつが耐えているのだ。吾輩も矜持を保たねば。


『腹が立つがそれもプレイスタイルの一つだ。とやかくは言わん。かかって来い』

 ルゲールのせんせい

 しのきりがあたりをつつみこむ

『そんな即死攻撃、いまさら効かないよ』

 しかし マサアキにはこうかがなかった

『ならば、これはどうかな?』

 ルゲールのこうげき

 ルゲールはおおがまをしゅつげんさせ たましいをかりとった

『そんなのも効かないってば』

 マサアキに 0ポイント のダメージ

『貴様、ただレベルが高いだけではないな?』

『御名答。チート使ってます。ズルしてさーせんwww』


「ええいテルル、その触手を離せ! 今から勇者を操作しているプレイヤーにダイレクトアタックをかますから行かせろ!」

「なりませんベル様! 第一、どうやって二次元の世界から飛び出そうというのですか!」


『お前ー、ムカつくんでー、いまからー、ちょー殺すわー。ていっ!』

 マサアキのこうげき

 マサアキのもてるすべてのちからが いっていんへとしゅうそくされてゆく

『グワァァァァァァァ!』

 ルゲールに け8 ポイントのダメージ


「ダメージ表記がバグってる!」

「どうやら本来表記できるダメージ数値の限界のさらに上をいってしまったようですね」

「どうか勝ってくれ。それが叶わぬのなら、せめて後続の四天王の為に一矢報いてくれルゲール」

 吾輩は勇者の攻撃を受けて瀕死状態となったルゲールへ応援を送る。シナリオの都合上、今居るこの場を離れることが出来ないのが悔しい。


『ここで倒れては四天王の名折れ、一矢報うぞ』

 ルゲールのこうげき

 ルゲールはぜんりょくのまりょくをかきあつめ こんしんのこうげきをマサアキへとはなった

『だから痛くないってば』

 マサアキに 1 ポイントのダメージ


「ああ……」

「元気だしてください」

 希望が経たれた。

 吾輩は悔しい、これも仕事であるから、どの様な勇者の相手でも受けて立つ。

 その先に敗北が待っていようが悔しくはない。それが役目というものなのだから。

 だが、この卑怯な勇者にだけは決して負けたくはない。

 まだ、吾輩の負けではない。四天王はルゲールが敗れたとしてもあと三人残っている。

 がしかし、ルゲールの攻撃は終わり、勇者のターンが回ってきた。これでルゲールは終わる。

 それが吾輩にはどうしようもなく悲しいのだ。


『さぁ、こちらのターンだ。終わりにしてやる』

 マサアキのこうげき

 ルゲールに !”#$%U’(I)O ポイントのダメージ


(盛大にバグった表記のダメージが何か出たーーーー!!!)

 もう駄目だ、お終いだ。

 吾輩はとても悔しい。こんなに悔しい敗北は初めてだ。






































「……あれ?」

「なにも起きませんね」

 BGMは平常通り流れているが、『こうげき』から、先のテキストが流れない。

 このあとはルゲールが遺言を残して倒れ去るはずなのだが。

 変だと思い、吾輩とテルルはルゲールのいる部屋へと向かった。ラスボス自らが勇者を訪れるのは異例の事態だが、それでも事態が事態なのだから仕方がない。

「ベル様、見てください!」

 そこでは、剣を振り上げ静止した勇者の姿があった。

 突いても切っても殴っても反応がない。

 ただのしかばねのようだ

「ベル様、これは……」

 心配そうに様子を窺っていたテルルに俺はこう断言した。

「フリーズだな」


 プレイヤーの皆様、チートも程々に。

チートなんてしなくても難易度を選べる。良い時代になったもんです。

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