Lv6
前話の改正をしました。
度々すいませんが、読み直していただけると幸いです。
最初の頃の設定を忘れかけている今日この頃。非常にまずい。
四神演武。陰陽師の最強スキルであり、青龍、朱雀、白虎、玄武の四神を残りの全魔力と交換で呼び出すことが出来る。
青竜は刀を装備しており、剣術の達人。
朱雀は回復スキルを保有している上に、攻撃魔法まで使える。
白虎はスピード特化の格闘家である。
玄武は盾を装備しており、鉄壁の守りを見せてくれる。
このように四神達は凄まじい戦力を持っているのである。この四神演武の素晴らしいところは、四神を術者が操る必要はなく、四神それぞれが意思を持ち攻撃、支援をしてくれるのだ。ちなみに、全員男性の姿をしている。
だからこそ、俺はこの試合で絶対勝つため四神を呼び出したのだ。おかげで魔力と符は空っぽなので、符術はもう使えない。
『こ、これは、どうやら代理人が召喚したようです!これで一気に形勢逆転となるか!!』
さすがのキリカ達も、これには驚いたようだった。
しかし、さすがはAランクといったところか。すぐさま臨戦態勢になった。
「全員で一気に片を付けるぞ」
『御意』
俺は四神にそう言い、二人に向かって飛び出した。
そこからは俺のワンサイドゲームだった。四神と俺の連携の前にキリカ達はなすすべもなく、俺は武闘大会で優勝することが出来たのだった。
優勝者への表彰式が終わり、俺はクォーツ達と合流した。そして、先日と同じくアホ毛の泊る宿屋に向かった。
「ユリィ、よくやったのじゃ!」
アホ毛は俺の背中をバシバシ叩いてくる。
「これで母様を助けれるのじゃ!」
「ベル様、少し落ち着いてください」
苦笑しつつクォーツがアホ毛を宥めている。
「それで、俺はどうすればいいんだ?このまま帰ってもいいのか?」
「あぁ、ちょっと待ってください。ユリィさんには出来れば、ノルグまで着いて来て欲しいのです」
「まぁ、そんなことだろうと思ってたよ」
ノルグまで俺も行かなければいけないのは、予想していたことだ。
翌日、俺はアホ毛達と共に安い馬車を借り、ノルグへ向けて出発した。徒歩だと四日ぐらいかかるが、馬車だと二日程度で着くからだ。
ガルディを後にして半日ほど経った頃、御者をしていたクォーツの横に俺は座っていた。中ではアホ毛とフォンの二人が寝ているため、自然と話し相手がクォーツになったというわけだ。
「それにしても、決勝の時のユリィさん、突然雰囲気変わってましたね」
突然クォーツがそう言った。おそらく、俺が四神演武をする直前のことを言っているのだろう。
「まぁ、油断があったから気を引き締めなおしたからかな。負けられない戦いだったし」
「ユリィさんは素晴らしい人ですよね。僕だったら初対面の人を助けようなんて思えれませんよ」
クォーツは俺に羨望の眼差しを向けた。
「……俺はそんな立派な奴じゃないよ」
「そんなことありませんよ」
「今回だって俺の自己満足なんだよ」
「?」
「ただ自分を許したいがために、昔出来なかった事をしただけだよ……」
そう、俺が小学三年生になったばかりの頃の話だ。
昔からの親友と二人で公園ではしゃいでいたのだが、日が沈み始めたので帰ることになった。明日遊ぶ事を約束しながら。しかし、その「明日」は来なかった。
彼は目の前で車に轢かれてしまったのだ。俺が彼の腕を引っ張れば助けれたのだ。しかし、俺は何も出来なかった。彼に迫りくる車に気が付いていたにもかかわらず。
「でも、ユリィさんは僕達を助けてくれました。それは揺るぎようのない事実です」
そう言ってクォーツは微笑んだ。
なんだかクォーツの言葉に少しだけ救われた気がした。
✛
あれから一日経ち予定より早くノルグに着いた俺達は、早速アホ毛の家に向かった。
アホ毛の家にはすでに件の上級貴族と思われる男がいた。そいつの名前はコウというそうだ。
「コウ様!早く母様を!」
コウに駆け寄り急かすアホ毛を見て、コウはアホ毛の頭を撫でながら頷いた。そして、コウは俺に目を向けた。
「そちらの君」
「あ、はい」
「一緒に来てくれるかな」
コウは俺とアホ毛を連れて、ベルの家を後にした。クォーツ達はアホ毛の親を見ておくそうだ。
どうやら、医者の元へと向かっているようだ。しかし、着いた場所は何の変哲もない一軒家だった。
「ゾフ、失礼するよ」
医者は、ゾフというのか。見た目は普通のご老人といったところ。
「おお、コウか。ということは、そちらの二人が例の?」
「あぁ、そうだよ。こちらがベルヴェールだ」
コウの紹介を受けたアホ毛は、突然頭を下げた。
「お願いします、ゾフ様!母様を助けてください!」
「ふぅむ……」
腕を組んだゾフはアホ毛から目を外し、俺を眺め始めた。
「ほうほう、お主名前は?」
「ユリィです」
「ユリィ、か。その手に持ってるものは、先日の武闘大会の優勝トロフィーか」
簡単に持ち運びできる大きさだったので、一応トロフィーを持ってきておいたのだ。
「ふむふむ。よし、いいじゃろう。今回は特例としておこうかの」
「じゃあ!」
アホ毛は頭を上げ、ゾフを見た。
「早速、その患者のところへ行こうかの」
「ありがとうございます!!」
「別に良いぞ。代わりにユリィ君を少々借りるがのう」
こうして、アホ毛の母親はゾフに診てもらえることになった。しかしゾフの最後の発言に、俺はまたしても面倒なことになりそうだと思ったのだった。
アホ毛の家に着くと、早速ゾフはアホ毛の母親を診察した。
「ふむ、『水神の毒』とは珍しい」
『水神の毒』とは一種の状態異常で、水神の棲む湖や川の水を飲むと稀に、持続性のある状態異常を複数引き起こすものだ。確か、JO内でこの状態異常に陥るというのは滅多になかった。何故なら、水神が棲む湖というのが少なく、プレイヤー自身からその水を飲まなければ、状態異常にならないからである。
しかし、持続性があるといっても、これ程長いとは。
「確か一年前から、病に臥せっていたのだったかのう?」
「はい、そうですが」
「ということは、お主の母は普段飲んでいる水と別の水を飲んだのかもしれんの」
ゾフの言葉にアホ毛は何かを思い出したようだった。
「そういえば母様が病気になる直前、行商人から珍しい水を買ったと、自慢げに話していました」
「ふむ、おそらくそれが原因じゃろうな。運悪く、お主の母だけが水神の毒に侵されたんじゃろう」
「そうなんですか……」
「まぁよい。龍薬ならすぐ直る」
ゾフは鞄から龍薬を取り出し、アホ毛の母親に飲ませた。すると、今まで苦しそうにしていた母親は、みるみる落ち着いていき、顔色もよくなった。
それを見たアホ毛は、ゾフに向かって頭を勢いよく下げた。
「あ、ありがとうございます!」
「気にせんでもいいぞい。あと数時間したら目を覚ますじゃろう」
それだけ言うと、ゾフは荷物をまとめだした。
「あ、あのお代は……」
喜んでいるアホ毛の代わりに、クォーツがゾフに尋ねていた。
「四千リリ、といったところかの」
「わかりました。すぐ準備しますので、少々お待ち下さい」
クォーツはそう言って、部屋を出て行きすぐ戻ってきた。
「四千リリです」
「ふむ、確かに受け取った。それじゃあ、ユリィは借りてくぞい」
どうやら、早速俺はゾフに使われるらしい。と、思っていたら、ゾフが小声で俺に「今はお主がおらん方がいいじゃろう」と言ってきた。
なるほど、確かに。せっかく親の病気を治すことが出来たんだ。親が目を覚ますまで、近くに居たいところだろうし。
俺はゾフと共に先ほどの一軒家に戻ることになった。アホ毛達との別れ際、クォーツは今度キチンとお礼がしたいので、また会いましょうと言っていた。ちなみにトロフィーはアホ毛に押し付けてきた。あんなもの持っていても仕方ない。
日が暮れ始めた頃、俺はゾフと二人で馬車に乗っていた。最初、俺はゾフの事を悪い医者なのだろうと思っていた。が、実際会ってみると、そんな悪い人には見えなかった。
俺が見ていると、ゾフと目が合った。
「なんじゃ?」
「いや、なんで中級貴族以上しか診ないのか、と思いましてね」
つい好奇心で聞いてしまった。
「儂も全ての人を対象に診察をしたいのじゃがのう。上から止められてるのじゃ」
「上から?」
「そうじゃ。ノルグにおる医者の内、龍薬を入手できるのは今のところ儂だけじゃ。じゃから、上の連中、上級貴族の連中は、流行病等が起きた時に自分達だけ助かるように、龍薬を出来るだけ取っておきたいのじゃ。しかも連中は儂がそれを無視しようものなら、根も葉もない噂を流して、儂の医者人生を潰すつもりなんじゃよ」
「なら、龍薬の入手ルートを教えればいいんじゃ?」
「それは無理じゃのう。なんせ入手先を明かさんことが条件で、龍薬を仕入れているからの」
そう言ってゾフはため息をついた。
「まあ、そんなことよりじゃ。お主に頼みたいことがあるんじゃが」
「なんです?」
と、本題に入ろうとした時、馬車は止まった。
「む、どうやら着いたようじゃの。すまんが儂は仕事があるのでな。明日の今頃にここへ来てくれ。詳しい話はその時しよう」
「あ、はい」
「お主も疲れたじゃろう。今日はゆっくり休むといい。宿はここから少し行ったところにあるからの」
それだけ告げると、ゾフは家の中へと入って行った。
俺も馬車から降りて宿屋へ向かうことにした。