Lv5
夜中に細々と更新。
大会初日、俺は難なく三連勝した。正直初日の三戦では、初戦のパーティーが一番強かった。残りのパーティーはメンバーが瞬殺されたことに動揺し、まったく動けずにいた。まぁ、楽だったからいいけどさ。
そして、俺は大会初日戦い終えて、会場を後にした。もちろん、外套は途中のトイレで脱いでおいた。
会場を出ると、クォーツが待っていた。
「お疲れ様でした、ユリィさん」
クォーツが労いの言葉とともに、飲み物を渡してくれた。俺はそれを一気に飲み干し、喉を潤した。なんせ満足に水分補給が出来なかったのだ。俺は待合室には飲み物が置いてあると思ってたんだが、一本も置いておらず、大会運営者を捕まえて飲み物を分けてもらう始末だった。
「ぷは、あー助かったよ、クォーツ」
「いえいえ。それより、ユリィさんの戦いぶり、凄かったですよ!」
「そうか?」
「はい!僕すごい興奮しました!」
興奮気味に俺の試合を話すクォーツをなんとか宥めて、どうして外で待ってたのかを聞いた。
「あ、そうでした。ベル様のところに行くんでした」
「そういや、あのアホ毛は何故いないんだ?」
「ベル様は途中であの暑さにやられてしまいまして、先に宿屋にフォンと戻ってたんです」
「あーなるほど」
要は熱中症になってしまったようだ。
俺はクォーツの後について行き、クォーツ達の宿屋に向かった。宿屋に着いた頃には日は完全に沈んでいたが、武闘大会が開かれているからだろうか、あたりは喧騒に包まれていた。
クォーツの案内で、俺はアホ毛の借りている部屋に入った。
「おぉ、ユリィ!よく来たのじゃ」
アホ毛はベッドの端に腰かけ、フォンと談笑していたようだ。俺が来たのを見て、嬉しそうにアホ毛を左右に揺らし始めた。
「おう、大丈夫そうだな」
「なんじゃ、心配してくれたのか?」
ニタニタしながら、俺を見てくるアホ毛。なんだかイラッとしたので、無言で左右に揺れていたアホ毛をむんずと掴んでおいた。
「な、なにするのじゃ!」
「イラッとしたからな」
「きー!」
うーん、やっぱこいつ弄るの楽しいな。
「んで、どうして俺を呼んだんだ?」
「先日決め忘れてたことがあったので、今のうちに決めておきたかったんですよ」
俺の近くで騒いでるアホ毛の代わりに、フォンが話してくれた。
「決め忘れてたことってなんだ?」
「報酬の話ですよ。ユリィさんをベル様が雇っているという状況なので、報酬を決めておきたいのです」
「あー、報酬か。んじゃ、報酬は俺が優勝したら優勝賞金を貰おうかな」
確か優勝賞金は五十万リリだったはず。
この世界の金の単位はリリであり、日本円に換算するとだいたい、一リリ=五円になる。
「あ、あと俺が優勝できなかったら、その時は報酬無しでいいぞ」
「え!?いいんですか?」
「だって、優勝しないと医者を納得させられんのだろ?なら、それでいい」
と、俺がそう言うと、さっきまで騒いでいたアホ毛が途端に静かになった。
「ユリィ、聞いたのか?」
「何を?」
「私の目的をじゃ」
「ああ、クォーツからな」
「そうか」
アホ毛は姿勢を正し、俺に向き直った。
「もうユリィしか頼れる人はおらんのじゃ。よろしく頼むのじゃ……」
あのアホ毛が初めて俺に頭を下げた。それだけ必死なんだろう。
「分かった、任せとけ。んじゃ、俺は帰るわ」
それだけ告げて、俺は自分の宿に帰った。
✛
大会三日目、俺はフードに加えて昨日露店で見つけた狐の面を顔に装着していた。フードのみで顔を隠すのは、そろそろ限界になるだろうと思われたからだ。
この狐面の素晴らしいところは、視界が狭まることがないという点だ。俺はその説明を露店の店主から聞いた瞬間、購入を決めていた。
今日はパーティー部門で勝ち残った全員が一つの待合室にいた。俺はそこにいる人達を見渡して、思わず肩を落とした。
何故なら、キリカとガイルがいたからだ。知り合いに会わないことを願っていたのだが、効果はなかったようだ。というか、あの二人パーティー組んでたのか。
「マジかよ……」
ざっと見渡した感じ、優勝を目指す限りおそらくあの二人とは戦うことになるだろう。キリカの強さは不明だ。そもそも、ガイルだって本気の強さは知らない。しかもキリカは俺が符術を使うことを知っている。出来るだけ符術は使わない方がいいだろう。
これは面倒なことになってきたな……。
あわよくば、二人とは当たらずに優勝できることを願っていたのだが、世の中そんなうまくいかないようで。
「決勝戦の相手ですね。よろしくお願いします」
決勝まで勝ち残った俺は、結局キリカ達と当たることになった。今は待合室でキリカに挨拶されたところだ。
「よろしく」
俺は短く答えただけで、目を瞑って集中しだした。まぁ、当たったからにはやるしかない。
それに、二人とのレベル差は百以上離れているんだ。よっぽどのことがない限り、負けることはないだろう。
side キリカ
私とガイルが出会ったのは、今から二年ほど前だった。その頃私はまだCランクだった。
その日は西の森を抜けた先にある、『龍人の祠』で発生したCランクの魔物を討伐した。そして、その帰りに西の森で傷だらけで倒れているガイルがいた。私は応急処置をして、ガイルが目を覚ますまで近くにいた。
結局、その日は野営をすることになった。翌日、目を覚ましたガイルに話を聞くとガルディに用があるそうなので、一緒にガルディまで戻った。その後、彼はギルド登録をしてランカーとして依頼をこなし始めた。
当初はたまに依頼を共にこなす程度だった。本格的にパーティーを組んだのは一年前。
今回はそんな彼と武闘大会に出場したのだが、なんと驚いたことに決勝まで残った上に、相手はたった一人というパーティー部門では異色の相手。
「キリカ、あいつはかなり強いぞ」
ガイルが対戦相手の方を見ながらそんなことを言う。相手には、一人でパーティー部門を勝ち抜いてきた、という結果があるのだ。
「気を付けていきましょう」
「ああ」
そうやって二人で気合を入れていると、決勝の準備が整ったようだ。係員の指示に従って、私達は試合会場に入っていった。
『さぁ!ついにこの瞬間がやってまいりました!パーティー部門決勝戦です!!』
司会者の声に歓声が一際大きくなった。
『赤コーナー、チームキリカの鮮やかな連携が勝つのか!?青コーナー謎に包まれた代理人の早技が勝つのか!?いざ、尋常に勝負!!』
司会者の開戦の合図とともに、横にいたガイルはすでに飛び出していた。私はそれに追随する形で、剣を抜き地面を蹴った。
しかし、すでに相手はガイルに向かって短刀を振り下ろしていた。ガイルはそれを剣を交差させて受け止めた。私はガイルの横を通り抜け、相手のがら空きの胴体を一閃する。
完璧なタイミングで放った剣戟だったはずだが、相手の姿はすでになく距離を取られていた。
「速いな……」
「そうですね……」
「しかし、相手は一人。奴の攻撃は俺が受ける。キリカは攻撃に専念してくれ」
「分かりました」
今の攻防を見る限り、相手にガイルが遅れをとるとは思わない。
これで私達の方針は決まった。
side out
最初の一撃でガイルを退場させるつもりだったんだが、ガイルの反応速度は思った以上だった。結果、ターゲットをキリカに変えようとしてもガイルに阻まれ、キリカが鋭い反撃という状況になってしまい、俺は攻めあぐねていた。キリカの反撃は徐々に俺へと迫り始めていた。
こりゃあ、油断してると危ないな。
「くそっ……」
今も右肩への突きを避けて、二人から距離を取ったところだ。
向こうは完全にカウンター狙いの行動をしていて攻め込まないということもあり、中々隙を見せてくれなかった。
打開策を探していると、二人は俺が疲労しているように取ったのだろう。
「フレイムレイン!」
ガイルが突然魔法を放ってきた。
「魔法使えたのかよ!」
しかも無詠唱って、どういうことだよ!?
不意打ちを食らい反応が遅れた俺だが、忍のスピードがあれば避けきれない程でもない。
火球の雨を軽々と避けきり、反撃に向かおうとした時だった。
キリカが先ほどまでより一段と速い速度で俺に接近していた。全身に微かに緑色のオーラを纏っているところから、速度上昇の魔法をガイルに受けたのだろう。
「はぁぁぁぁ!!」
咆哮とともに俺の首へと突き出される剣を見つつ、俺は未だに油断していることを悟った。そして、その時アホ毛が俺に向かって頭を下げた姿を思い出した。
そうだ、俺は負けられないんだ――
「ぐっ!」
俺は眼前まで迫っていた剣を避けたが、キリカの剣は俺のフードを貫いたため、フードが脱げてしまった。しかし、そんなことを気にしている暇はない。
俺は左足でキリカを蹴り飛ばし、バックステップでさらに二人と距離を取った。蹴り飛ばされたキリカは、空中で態勢を整えガイルの横に着地していた。
『おぉっと!代理人、フードが脱げました!が、その下には仮面をつけています!!どこまでも素顔を晒したくないようだ!』
司会者の声を聞き流して精神を集中させ、二人へと殺気を向ける。
今度こそ俺は、助けるんだ――
俺は短刀を鞘に戻した。
『代理人、武器を仕舞いました!一体何をするつもりなのか!?』
レッグホルダーを取り外し、中の符を全部空中にばらまいた。キリカ達は俺の殺気に気圧されたのか、その場でじっとしている。
「汝ら、我が声を聞き給え。我が霊力を糧に、我と共に舞い踊れ!」
俺の声に反応して、宙を舞っていた符が一斉に動き出した。
「四神演武!!」
そして、符が俺を囲むように四つに分かれ、それぞれが青い炎、朱い炎、白い炎、黒い炎を纏った。その炎が収まると、そこには人の姿があった。
Lv4の一部分を改正しました。
お手数ですが、読み直していただけると幸いです。