Lv3
短いですが投下します。
<(^o^)>┌┛’,;’;≡三{次話}
あれから一か月ほど経った。その間に俺はEランクからDランクに昇格していた。ハシムさん曰く、俺は短期間でかなりの数の依頼をこなしていたようで、ランクアップが認められたのだそうだ。
ランクアップ時にもう一度『表示』をかけられたのだが、俺のレベルは一切動いておらず「Lv0」のままであった。さすがのハシムさんも首を傾げていたのが、印象深い。
そんなことがあったこの一か月だが、その間にガイルやキリカと出会う機会がなかった。そのため、俺は一人で黙々と依頼をこなしていた。まぁ、一人の方が慣れてるし、気楽だった。のだが。
「はぁ……」
三日ほど前から、理由はわからないがバカに後をつけられている。ガルディの市場を歩いている今もつけられており、振り返ればそれで隠れているつもりなのか、大樽の影からアホ毛とともに頭の先が出ていて丸見えなのである。そして、その特徴ある頭には見覚えがある。
「そろそろ問い詰めるかな……」
ため息をつきながら、俺は三日前のことを思い出していた。
✛
今日は街の薬屋からの依頼で、薬草採取の仕事に就いていた。
その薬草は西の森にある「アンチハーブ」という解毒効果のあるもので、特徴としてレモンのような香りを持っていて、紫色の花をつけることが挙げられる。
西の森に入った俺は、早速アンチハーブを探し始めた。途中魔物に襲われたが、難なく撃退。ドロップしたアイテムを収集することも忘れない。
魔物は絶命すると消滅するのだが、その時に魔物の体の一部は残るのだ。この現象をドロップという。ドロップするアイテムの中には、牙とか爪、頭蓋骨なんて物もある。それらのアイテムは、武器や防具の素材になったり、ギルドの換金所にて金になったりする。
西の森に入って少しした頃、大きな岩が視界に入った。その近くにアンチハーブが群生していた。俺は必要数だけ採取し、西の森を後にした。
あとは、薬屋にアンチハーブを届けて達成証をもらうだけ、なんて思いながら、西の森とガルディの間にある平原を歩ていた時だった。俺の進行方向より左手の方から、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「何をやっているのじゃ、は、早く何とかするのじゃ!」
「で、ですが、我々二人だけではこの数の魔物は相手にできません!」
「な、ならば、どうするのだ!?」
よく見ると、この辺りの平原に生息する「ラビット」という、ウサギをそのまま大きくしたような魔物に囲まれている三人組がいた。基本的にラビットは温厚な魔物で、こちらから何もしなければ害はないはずなんだが。
ま、そんなことも言ってられんか。このまま放っておくのも、寝覚めが悪いし。
「おい、そこの三人!こっちだ!」
俺は大きな声を上げながら、近づいた。というのも、ラビットは大きな音に驚き、動きを止めるという習性があるからだ。そして、俺の狙い通り今にも飛びかかろうとしていたラビットは動きを止めた。
その一瞬の間に、三人組に近づきラビットの輪から蹴り出し、俺も離れる。
「い、痛いではないか!」
三人組のリーダーと思われる女の子が、その頭から生えているアホ毛を左右に振りながら怒ってきた。なんとも偉そうな物言いだが。
「んな事言ってる場合か、さっさと逃げるぞ」
ラビット達が俺にまで敵意を向けてきたので、俺は一刻も早くこの場を去りたかった。だって面倒臭いもん。
「というわけで、俺は逃げるからな。お前らもさっさと逃げたほうがいいぞ」
俺が駆け出すと、ようやく三人組も逃げ始めた。って。
「なんで俺についてくんだよ」
そう、三人組は俺の後ろに引っ付いてきたのだ。
「わ、我々は、ガルディに、向かって、いるのです」
偉そうな女の手下と思われる男が息を切らせながら、そう答えた。
その後一分ほど走り続けると、ラビット達は諦めたのか俺達を追いかけてきていなかった。それを確認した途端、三人組はその場にへたり込んだ。
「つ、疲れたのじゃ……」
「だ、大丈夫ですか、ベル様……」
「おえぇぇ……」
手下の一人(今更ながら女の子だと気が付いた)は吐き気を催すほど疲れたそうだ。
「おい、大丈夫か」
俺は吐き気を催していた女の子の背中をさすりながら、符を取り出して治癒を発動させた。すると、青ざめていた顔が少しだがマシになったようだ。
「あ、ありがとうございます……うぷっ」
まだ少し気持ち悪いようだが、話せるまでは回復したようだ。その様子を見ていたアホ毛(リーダーらしき女の子のことである)が、「私にもしろ」と騒がしかったので残りの二人にも治癒を使っておいた。
そして、落ち着いたところで、アホ毛以外の二人が俺にお礼を言ってきた。
「あの、ありがとうございました。僕はクォーツといいます」
「危ないところを助けていただいただけでなく、治療までしていただいて。あ、私はフォンといいます」
「あー、いいよ、気にすんな。俺はユリィだ。それより、なんでラビットに囲まれてたんだ?何もしなきゃ、あいつ等は襲ってこないぞ?」
その話になった途端、二人とも苦笑してアホ毛の方を見た。
「な、なんじゃ?私は悪くないぞ?」
アホ毛の言い訳を聞き流し、俺は二人から話を聞いた。のだが、正直呆れました、アホ毛に。
二人の話を纏めると、なんでも一週間後にガルディで行われる武闘大会に参加するため、隣街のノルグから来たのだそうだ。で、このアホ毛はノルグの低級貴族でガルディの武闘大会で有名になって、低級貴族から中級貴族になりたいのだそうだ。
しかし、本人が出る訳ではなく強者を雇って、そいつを大会に出そうとしていた。そしてその強者を見つけ、雇金を前払い。意気揚々とノルグを後にしたのだそうだが、その強者に逃げられ、結局金を無駄に使ってしまっただけに終わった。
で、その腹いせにアホ毛はクォーツとフォンの忠告を無視して、石をラビットに投げつけた。あとは俺も知っている展開になったそうだ。
その話を聞き終わると、なんだかクォーツとフォンの二人に同情してしまった。
「なんというか、お前さん達も大変だな」
「あはは……」
「ま、まぁ……」
苦笑する二人から哀愁を感じた。
「そ、そんなことはどうでもいいのじゃ!それよりだ、早くガルディの宿で休みたいぞ!」
「は、はい、わかりました。じゃ、僕達はこれで失礼しますね」
「本当にありがとうございました」
そして三人組はガルディに向かっていった。俺もガルディに帰るつもりだったんだが、このまま真っ直ぐ帰ると三人組に追いついてしまうことになる。それは気まずい空気が流れそうで、遠慮したところ。
結局俺は少し時間をつぶして、ガルディに戻ることにした。
✛
「あ、こっち見てますよ!気付かれたんじゃないですか?」
「大丈夫じゃ。私の隠密に気付ける奴はおらんのじゃ」
よく見ると、アホ毛以外にクォーツとフォンまでいるようだ。……何してんすか、あんた等。
俺は前に向き直り、駆け出す。後ろの方からあの三人組が慌てている声が聞こえてきた。そして、俺は人通りの少ない路地裏へ入る道に入って、すぐ足を止めた。
その後すぐに、三人組が駆け込んで来て、俺がいることに驚いて立ち止まった。
「さぁて、この三日間何で俺に引っ付いていたか、教えてもらおうか」
「き、気付いてらっしゃたんですね……」
「当たり前だ。特にそこのアホ毛にはな」
俺は目の前のアホ毛を指さし言い放った。
「あ、アホ毛とはなんじゃ、馬鹿者!私にはベルヴェール・スミア・フィングズという立派な名前があるんじゃ!」
「へーへー、俺はバカだからそんな長い名前覚えられんわ、アホ毛」
「きー!!」
少しからかうだけで、こうも怒るとは楽しい奴だ。と、遊んでいるとクォーツとフォンが事情説明を始めた。
「実はユリィさんに頼みたいことがありまして……」
「ここ三日間、ユリィさんの戦いぶりを見せていただいてたのですが、素晴らしかったです」
「つまり、何が言いたいんだ?」
「つまりですね、武闘大会に出てくれませんか、ということです」
あーなるほど。確か前に雇った奴は逃げたんだったけ?で、俺を代わりに雇いたいと。
「面倒臭いからヤダ」
「そ、そんなこと言わずにお願いします……!」
「ユリィさん以外にはいないんです……!」
クォーツとフォンは頭を下げて頼み込んできている。その間アホ毛はそっぽを向いている。
「あー、二人とも頭を上げてくれ」
「じゃ、じゃあ!」
「受けてくれるんですか!?」
「いや、受けるつもりはないが」
「「そんな~……」」
二人は泣きそうな顔になっている。と、クォーツが何かを決意したような顔をして、服を脱ぎだした。
「こ、こうなったら、僕がお色気|(?)作戦で……!」
「な、何をしてるの、クォーツ!?早まらないで!」
「おいおい、男の裸なんぞ見ても嬉しくねーぞ」
何が嬉しくて男の裸なんぞ見んといかんのだ。
しかし、何を勘違いしたのか、今度はフォンが脱ごうとし出した。さすがに、俺も焦った。
「おいおい待て待て!なんでフォンが脱ごうとしてる!」
「え、だってユリィさんが男の裸には興味ないって……」
「当たり前だ!俺は男だぞ!?」
その言葉にクォーツとフォンの二人だけでなく、今までそっぽを向いていたアホ毛までがこちらを見てきた。
「「「ええぇぇ!!?」」」
「……はぁ」
三人組の声が路地裏に木霊した。