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Lv1


書き溜めたものを連続投下。



  



 俺は何処かの森の中で1人唸っていた。


「どうなってんだよ……」


 自分に『表示』という魔法をかけた所、レベルが0になっていることに気が付いたのだ。ちなみに『表示』は自分以外の人にかけると、名前とレベル、メインジョブが表示される。自分にかけるとステータス全てが表示されるという、誰でも使える基本魔法なのだ。

 その時何処からか、あの神を名乗った爺の声が聞こえて来た。どうやら頭の中に響いてきたようだ。


『すまんのぉ、如何せんお主のレベルが高すぎたようじゃ。バクってしもうた』

「おい、バグったで終わらせるな」

『安心せい、ステータスは変わっておらん』

「まぁ、そうみたいだな」


 確かに、レベル以外は全く変化ない。だが、俺が使えたのだから、この世界にも『表示』はあるということになる。


『あるのぅ』

「じゃ、俺のレベルは0って表示されるのか」

『そうなるのぅ』

「ダメじゃん」


 Lv0って見たことないぞ。どんな初心者でもLv1はあるぞ。


『まぁ大丈夫じゃどうにかなる。最寄りの街はお主の左手方向にあるからの』

「おい待て!!」


 あんの爺……!早口でそれだけ告げると、消えたみたいだ。いくら呼びかけても反応がない。


「くそ……」


 まぁ、仕方ない。こうなってしまった以上、出来るだけ『表示』をかけられないようにすればいい。幸い『表示』を他人からかけられると、かけられたことが分かるようになっている。

 俺は憂さ晴らしを兼て、教わった最寄りの街まで本気ダッシュをした。





     ✛





 着いた先の街はかなり大きな街だった。JO通りなら王都というやつだろうか。街の周囲を5メートルほどある壁が囲んでいる。さらには、街全体を結界が包んでいた。おそらく魔物が空から侵入するのを防ぐためだろう。

 なぜここまでしているのだろうか、と一瞬思ったが、先ほど抜けてきた森の状態を思い出し納得した。というのも、森の中には結構な数の魔物が見られた。

 厳重に守られた街、森をうろつく数多くの魔物――これらのことを踏まえJOのシナリオ通りの世界なら、この街はおそらく邪神との戦いの最前線の街なのだろう。


 JOは、魔物や魔族たちの頂点に立つ邪神を打ち倒すことで、世界に平和をもたらすことを最終目標としたゲームであった。俺はJOのシナリオをすべてクリアしたのだが、邪神との戦いの最前線にある街に来た時、今目の前にある街と同じように防壁と結界が張り巡らされていた。


 そんなことを考えていると、先ほどと同じように頭の中に声が響いた。


『今は邪神は封印されておるから、安心せい。目の前にある街は、昔の戦いの名残じゃ』

「へー、てかおい、さっきはよくも逃げやがったな」

『わしも忙しいんじゃ、じゃあの』

「あ、おい」


 またも逃げられた。逃げ足早い神様って、どうなんだ。

 と、まぁあの爺に対する愚痴をこぼしながら街に入った時、俺の腹が空腹を訴えてきた。


「全力疾走なんてすんじゃなかった……」


 何か買って食えば済む話だし……と、腰袋に手を入れた。


「あれ……」


 いつもなら、金やら道具やらでジャラジャラと音を立てる腰袋が、何故か黙ったままだった。理由は明白。腰袋の中が空だったからだ。


「……は?なんで空?」


 必死で集めた金や道具が全てなくなっているとはどういうことなのか。混乱している俺の頭の中に、再びあの爺の声が聞こえてきた。


『いやー度々すまんのぅ。お主の体を持ってくるので精一杯だったのじゃ。お主の装備だけしか持ってこれんかった』

「じゃ、じゃあ、俺は一文無しってことか……?」

『そうなるのぅ。まぁ、装備品が無事だったんじゃから、それで許しておくれ』


 その言葉を最後に、爺の声は全く聞こえなくなった。


「…………あんのクソ爺ぃぃ!!ふざけんな!!」


 思わず俺は叫んでいた。街のど真ん中で。当然、俺は周囲の人に奇異の目で見られていただろう。しかし、叫ばずにはいられなかった。

 無一文では、飲み食いだけでなく、宿屋に泊ることも出来ない。


「くそっ……どうにかして、今日飲み食いする分だけの金を稼がないと……」


 この際、宿屋なんて贅沢言ってられん。いざとなれば少々危険だが、この街の外で野宿でもすれば済む話だ。

 何か物を売って金にしようにも、装備品以外は何も持ってない。

 唸りながらフラフラしている時、ギルドの看板が目に入った。


「……これだっ!」


 幸いにも、装備品はあるんだから、戦って稼げばいいじゃない。なんでこんな簡単な事、すぐ思いつかなかったんだろう。

 俺は駆け足でギルドの中に入った。


 ギルドとは、街の住人からの依頼から国からの魔物討伐の依頼まで、様々な依頼を受けられる場所だ。ギルドの依頼を受けるには、まずギルドに名前を登録しなければいけない。ギルドへの登録は無料で出来る。タダって素晴らしい。

 俺はJO内でギルド登録してランカー証を持っていたのだが、その登録証はあのクソ爺のせいでそれは消滅してしまった。

 ランカー証というのは、ギルドに登録した証と自身の強さを表すランクを示すものである。ギルドに登録したての時は、Eランク。そして、依頼をこなしギルド長に認められるとランクが上がっていく。最高ランクはSランク。しかし、Sランクは基本的に5人までと決められている。なんでも、大昔の邪神との戦いの際、5人の優秀なランカー達が邪神封印を達成したことに由来するそうで、その数に合わせているのだそうだ。ちなみに、俺もSランクの一人だった。Sランクになるまでにとてつもない苦労をしたが、それはまた別の話。


 ギルドの扉をくぐった俺は、早速受付に足を運び、新規登録の旨を伝えた。


「新規登録ですね。では『表示』をかけさせていただきますね」

「はい。って、『表示』?」


 以前の登録時はそんなことしなかったはずだが。

 俺が不思議がっていると、俺より年上に見える受付の男性が説明してくれた。


「半年ほど前から、新規登録をする方が増えまして。それは非常に喜ばしいことなのですが、登録直後に魔物との戦いで負傷する方が多くいましたので、あらかじめこちらの方でLvを把握し、そのレベルに見合った依頼を受けていただくことになりました」

「なるほど、それで『表示』をかけるんですか」

「はい、そういうことです」


 確かに、登録直後に負傷者が続出というのは、ギルドの評判を落としかねない。


「ということで、『表示』をかけさせていただきますね」


 と、そこで俺は自身のレベルがどうなっているのかを思い出した。


「ちょ、まっ……!」


 急いで止めようとしたが、時すでに遅し。


「……え?」


 目の前の男性の顔は、表示された俺のレベルと俺の顔を何度も行き来した。そして――


「……Lv0?」


 信じられないものを見た顔をして、そう呟いた。

 その呟きが聞こえたのだろうか、俺の近くにいた人々が一斉にこちらを見た。


「こ、これは、初めて見ましたね……」


 動揺しながらも、受付の男性はそう言った。


「ちょ、ちょっとお待ちください。ギルド長に確認を取ってきますので」


 受付の男性は受付の奥にある扉に入っていった。何の確認を取りに行くのか、なんて聞かなくてもわかる。俺のギルド登録をしていいのかどうかに決まってる。


 受付の男性がいなくなって、周囲の人達のざわつきが俺の耳に入ってきた。「おい、今レベル0って言ってたよな……」「レベル0なんてありえないだろ……」「レベル0とかうけるんですけどww」etc……。

 数十分ほど前に、「見られなければどうということはない」なんて言っていた俺が懐かしい。軽い現実逃避をしながら、受付の男性が早く戻って来ることを願っていた。


 五分ほどした頃、奥の扉から先ほどの男性と一緒に大柄な男性が一人出て来た。そして、その大柄な男性は、俺の前に来た途端、『表示』を俺にかけてきた。


「ふむ……」

「どうしましょう、ギルド長……」

「こいつ男なのか」

「そこではありません!って、え、男!?」


 どうやら、目の前の大柄な男性がギルド長のようだ。どうやら、受付の男性は今まで俺のことを女だと思っていたようだ。まぁ、そう思われても仕方ない風貌だが。しかし、このギルド長、俺を一目見ただけで、男だと分かったようだ。俺を初見で男と分かったのは、このギルド長が初めてかもしれない。この男、出来る……!


「おい、ユリィとやら」


 突然名前を呼ばれた。


「……何でしょーか」


 この五分の間に、周囲のざわつきで俺のHPはゼロになっていたため、多少投げやりに答えた。


「このふざけたレベルの説明が出来るか?」

「……出来ません」


 まさかここで「俺実は転生者なんですよねーだからレベル0になっちゃったんですよねーてへっ」なんて言おうものなら、間違いなく可哀想な人、もしくは狂人のレッテルを張られるだろう。


「む、そうか……」


 そう言うと、ギルド長は腕組みをして俺の体を上から下まで、じっくりと見始めた。そして、よし、と言いギルド内を見回した。そして、白髪の女性を呼んだ。見た感じだと、俺と同じ年回り。


「どうしたんですか、ギルド長」

「キリカ、お前に頼みたいことがある。この新人を今日一日見てくれないか?」


 キリカと呼ばれた女性は、俺の方を一瞥し疑問符を浮かべた。


「一体どういうことですか?」

「ま、見てもらった方が早いだろう。そいつに『表示』をかけてみろ」


 再び俺は『表示』をかけられ、そして驚く表情を見た。この数分の間にこれだけ驚く顔を見るのも珍しいかもしれない。


「こ、これは……」

「ま、早い話が、こいつをギルドに登録していいかどうかを確認して欲しいんだ」

「し、しかし、このようなレベルでは、登録をしない方がいいのでは……」


 そこまで言うと、キリカは少し申し訳なさそうに言葉を切った。

 しかしまぁ、俺もキリカや受付の男性と同じ立場なら、登録しない方がいいと思う。

 そんなことを思っていると、ギルド長は俺の方を見て、笑みを浮かべた。


「Lvは関係ない。魔物に簡単にやられないような素質があれば、いいだけの話だ」


 俺はその瞬間、ギルド長が神様に見えた。あのクソ爺より、こちらの方がより神様に見える。


「むぅ、わかりました」


 キリカは渋々といった様子で、ギルド長の提案に乗った。


「というわけだ、ユリィ。せいぜいキリカを黙らせる位の成果を上げるんだな」


 ギルド長は豪快に笑いながら、俺の頭をぐしゃぐしゃとこねくり回した。ひとしきりこねくり回した後、俺の頭から手を離しギルド長は奥の扉に消えていった。

 頭を揺さぶられた俺は、受付の男性の声をかけられるまで少し呆けていた。


「で、では、特例ながら、仮のランカー証を渡しておきますね」


 そして、俺は受付の男性からランカー証を受け取った。後に、俺はこの男性の名前はニックであると知った。

 横でため息をついていたキリカは、俺がランカー証を受け取ると同時に、ニックに簡単な依頼はないかと尋ねていた。おそらく、その依頼に俺も同行することになるのだろう。


「そうですね、今ある依頼で最も簡単なのは、西の森に住み着いているゴブリンの討伐ですかね」

「ゴブリンの討伐ですか、丁度いい依頼がありましたね。ではそれをお願いします」

「分かりました」


 どうやら俺はゴブリン討伐を行うことになるみたいだ。

 ゴブリンとは魔物の中で最も弱いとされる魔物だ。脆弱な肉体に残念な頭という、まさに初心者向けの魔物である。しかし、ゴブリンの怖いところは群れを成すところだ。いくら弱いといっても、数の暴力に訴えられると、どうしようもなくなる。なので、ゴブリン討伐で死んでしまうという初心者は数多くいた。

 手続きが終わったのか、キリカはくるりと俺の方に向き直った。


「では行きましょうか、ユリィさん。私はキリカと言います」


 第一印象としては、とても礼儀正しい人であるといったところか。


「分かりました。今日一日よろしくお願いします」


 ついつい相手の口調につられて、俺も敬語を使ってしまったが、まぁいいだろう。

 俺とキリカは一緒に西の森に向かって、ギルドを後にした。

 そこで、俺は西の森というのがどこのことを言っているのか、わからないことに気が付いた。が、キリカについて行っていると、俺が先ほど歩いた道を逆戻りしているのが分かった。


「……ということは、さっきの森が西の森なのか」

「ユリィさん、西の森に行ったのですか?」


 俺の呟きにキリカが反応した。


「まぁ、そう、なる……なりますかね」


 あれは西の森に行った、というより西の森から来たというのが正しいのだろうが、説明が面倒くさい。


「あ、敬語じゃなくてもいいですよ?魔物とは戦ったのですか?」

「あ、そう?じゃ、遠慮なく。いや、戦ってないよ」

「そうですか。あの森はここ最近になって、突然魔物の数が増えたところなんです。ですので、気を付けてくださいね。ゴブリン以外の魔物が突然襲い掛かってくることもありますので」

「了解」


 最近になって魔物の数が増えた、か。でも、邪神は封印されている状態だから、邪神の活動が活発になったわけでもないだろう。それ以外の原因で、魔物が増えてるのか?

 その時キリカに話しかけられ、俺は思考を止めた。


「しかし、ユリィさんは珍しい髪色をしていますね」

「そうか?」

「そうですよ。私、黒髪なんて初めて見ました。それに綺麗です。同じ女性として、うらやましい限りです」


 そう言われ、周囲を見渡してみたが、確かに結構な人がいるが黒髪は一切見当たらない。しかし、キリカも俺のことを女だと思っているようだ。ここは訂正しなければ。


「にほ……俺の故郷では黒髪は珍しくないけどなぁ。あと、俺、お……」

「それに、服装も珍しいですね」


 訂正する暇もなく、服の話に移った。

 俺の服装は全身黒ずくめで、上はタートルノースリーブで二の腕には魔人のアームレット。そして肘まで覆うガンガレット。下はタイトパンツにアーミーブーツ。右の太ももにはレッグホルダーを装備し、符を入れている。腰には腰布を巻き、腰袋とその上に短刀を装備。特に変な格好とは思わないが。


「どこが珍しいんだ?」

「普通は全身を一色でまとめる人はいませんから」


 こちらも色関係だった。


「まぁ、黒色が好きだから。それに一色の方が組み合わせ云々を考えなくて済むし」


 こう、なんだろうか。中二病の心をくすぐるというか。

 でも確かに、キリカを取ってみても、その服装は一色ではない。簡単な鎧の間から見えるキリカの服装は白をメインに、青や緑といった色を使っている。まぁ、色を多く使ってる方が華やかには見えるだろうな。そう思っていると、キリカの腰にあるロングブレードに目が行った。


「ロングブレードか」


 ロングブレードは扱いが難しいと聞いたことがある。ショートブレードのように片手で扱うには難しく、両手持ちになるため、盾は持てない。大剣のように剣腹でのガードのように広範囲をガードすることも出来ない。よって、相手の攻撃を捌くときは、おおよそが受け流すか避ける、もしくは弾くといった選択肢になるそうだ。


「あ、はい、そうですよ。ユリィさんは、短刀ですか」


 と、そんな話をしていると、防壁の外に出た。んー、しかし、なんか忘れてる気がする。何か間違いを訂正しようとしていた気がするんだが……。


「そろそろ戦いに備えてくださいね」

「了解」


 何とか忘れていることを思い出そうとしていると、キリカがそう言ってきた。んー、思い出せん。まぁいいか。思い出せないということは、そんな重大な事でもないんだろう。

 装備品を一通り確認している時、俺はレッグホルダーの中を確認してないことに気が付いた。腰袋の件があるため、すぐさま確認せずにはいられなかった。符がなくなっているのではないかと、心配したが、符はしっかり詰まっていたので、ほっと一息つけた。

 森に着くまでの間、特に戦闘もなく少し退屈な時間を過ごした。が、森に入って少しすると、魔物達の気配が近くから感じられた。


「ユリィさん、来ましたよ」


 どうやらキリカも気付いた見たいだ。近くの茂みから五体のゴブリンが飛び出してきた。


「危なくなったら、助太刀しますね」


 そういうと、キリカは一歩下がった。

 俺は五体のゴブリンと対峙しながら、今回の依頼の目的を思い返した。要は、簡単に魔物にやられないようにすれば、いいんだろう。ということは、適当に力を抜いてやることがいいと思われた。ここで本気を出すと、どうせ「レベル0なのに、なんでそんなに強いんだ」なんて言われることになるだろう。そうなるのは面倒だ。ならば、レベル0らしく振舞おうではないか。

 そう結論付けた俺は、短刀を抜き、両腕の力を抜いた。


「ゴアァァ!」


 俺が武器を抜いたのを皮切りに、五体のゴブリンが一斉に躍りかかってきた。


「血気盛んなこと、でっ!」


 まず最初に俺へ到達し、殴りかかってきたゴブリンを左に避けると同時に、アサシンのスキルを発動させ、右手の短刀を振り上げ首元を一刀両断する。それだけでゴブリンは絶命し、その死体は消滅する。JOでの魔物達は絶命すると、消滅するというのは、この世界でも適応されるそうだ。

 そして、非常に直線的な軌道で俺へ殴りかかって来ている二体目を、振りぬいた短刀の柄尻を顔面に叩き込む。勢いを殺されたゴブリンは、真下に落下し始めた。そして、地面に落下する前に左足で蹴り飛ばし、飛びかかって来ていた三体目にぶち当てる。


「お、ラッキー」


 別に狙ったわけではない、とキリカにアピールしておくことも忘れない。効果あるかは知らないが。

 二体目と三体目が一緒に吹っ飛んだところで、四体目と五体目が左右から同時に攻撃を仕掛けてきた。ゴブリンの怖いところは、おそらく本人達は狙ってないのだろうが、妙なチームワークを見せるという点もある。


「うおっと」


 俺はそれを後ろに飛び退くことで回避し、左手に短刀を持ち替えると同時に、レッグホルダーから符を一枚抜き取った。


「焔よ、舞い熾れ」


 そう言いながら、符を四体目と五体目の間に投げつける。すると、ゴブリン達に到達する寸前で符が燃え上がり、ゴブリン達の目を眩ませる。そしてたたらを踏んでいる四体目と五体目に近づき、右手に持ち替えた短刀で切り裂く。これで三体を屠った。

 その頃になって、ようやく二体目と三体目が態勢を整え終えた。そして、二体目の方が先に直線的な動きで近づいてきた。俺も前に駆け出し二体目の眉間目掛けて、アサシンのスキルを発動させ短刀を突き出し貫く。そして、その勢いのまま最後のゴブリンに接近。右腕を自身の頭上を通して振りかぶり、そのまま振り下ろし、縦に切り裂く。そのゴブリンもあっさりと消滅した。

 これでゴブリンを倒し切った。まぁ、そんなに本気出さなかったし、いい線行ったんじゃないだろうか。あとは、キリカの判断を待つとしよう。

 俺は短刀をしまい、キリカの方に向き直った。キリカは少し驚いたような顔をしていた。


「素晴らしい身のこなしですね。正直レベル0だとは思えませんでした」


 あら?俺が思っていた反応とは違うな。こう「まぁ、合格ですかね」みたいな感じの反応が欲しかったんだが。

 そこで俺はこの世界のレベル基準を知らないことに気が付いた。こんなことではレベル0を演じどころではない。とりあえず、キリカのレベルとSランクの最高レベルを知っておこう。それだけでも違うはずだ。


「ちなみにキリカはLvいくつなんだ」

「私は132ですね」

「132か」


 レベル132となると、上級者に分類される。となると、ランクはBあたりか?


「ランクは?」

「Aランクですね」

「そうか。あと一つ聞きたいんだが、Sランクで最高レベルっていくつか分かる?」


 俺がそう聞くと、キリカは不思議そうな顔をした。


「知らないんですか?確かレインさんのレベル238だったと思いますよ。結構有名だと思ったんですが」

「あぁ、ごめん。俺、田舎者だからさ。その辺の話に疎くて」


 それらしいことを言って、何とかごまかした。が、最高レベルが238だとはね。カンストしてないんだな。そうなると、もし俺のLv表示が正常だった場合、突然現れた新人が最高レベルを有しているってことになっていたのかもしれない。それを考えると、レベル0となった今の状態の方が良かったのかもしれない。主に俺の精神的な事情で。





    ✛





 その後も順調にゴブリンを倒していると、キリカがそろそろ帰ろうと提案してきた。俺もそろそろ面倒臭くなってきていたので、その提案に乗っかった。どうやらキリカのお眼鏡にかなったようだった。

 ギルドに戻った俺達をギルド長が直々に出迎えてくれた時、キリカがギルド長に頷いていたのが見えた。それにギルド長は笑みで答え、俺によくやったと言いながらランカー証と依頼の達成報酬である金を渡してくれた。


「ありがとうございます」


 自然と俺の口から感謝の言葉が出ていた。

 その言葉を受け、ギルド長は豪快に笑いながら、またも俺の頭をこねくり回してきた。


「お前が頑張った結果だ、礼なんていらんよ。じゃあな、ユリィ」


 そう言って、奥の扉に向かうギルド長だったが、何かを思い出したのか途中で振り返った。


「今更だが、俺の名前はハシムだ。この王都、ガルディでギルド長をやってる。よろしくな」


 それだけ言うと、今度こそハシムさんは奥の扉に消えていった。

 こうして、俺は正式にギルドに登録された。




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