第一章 銀の魔法
この世界の魔法は全て『神秘的な力』で成り立っている。魔法を中心に超能力も入れればおよそ十もある。魔法、魔術、仙術、妖術、幻術、呪術、死霊術、神通力、超能力、錬金術の十個だ。その中で全ての術式を修得した者に『賢者』の称号を与えられる。階級は金、銀、銅、赤、黄、青の六つだ。金の称号を得た者は魔法使いのトップだ。リーチェ・リロイドは銀の魔法使いの称号を持っている。リロイド家は代々、魔法と錬金術を受けついでいる。なので治癒能力は他の者達に比べればその力は凄まじい。魔法も能力が高く使える主な魔法は『水』と『風』...そして『雷』。水と風ならまだいいが雷は聞いたことがない。雷は魔法使いが使う五大魔法の中には入っていない大変イレギュラーな力だ。そして雷とは火を作ることもでき、神々が使える力をリロイド家は簡単に使える。なのでリロイド家は魔法使い達からはこう呼ばれている...。『天空の一族』と...。
◇ ◇ ◇
「全く、君には参るよ。リーチェ君...。いきなり来たと思ったら『月の妖精』を貸せとは...。」
リーチェは今、ロンドンにいる。そこには魔法使い達の本部の一つ『月の教会』に来ていた。この教会はアレイスター・クロウリーが団長をしている『黄金の夜明け団』とは違う宗派の魔法協会だ。『黄金の夜明け団』は情報収集、聖遺物の確保、危険人物の処罰など危険な役割を担っている。対して『月の教会』は聖遺物の保管、新たな魔法使いの排出などを担当している。現団長十四代目のアレイスター・クロウリーは『月の教会の神父』バージラリア・コンスタンとは昔からの馴染みなわけだったので二つの組織は良好だ。リーチェがその月の教会に来ている理由は父の遺した形見を借りていたためだ。...正式には返してもらうためだが。
「貸せじゃなくて返せだよ。父さんの遺書からその人工精霊剣をあたしに渡せって書いてるんだからさ。」
リーチェは目の前にいる老人『月の教会』の魔術教師『透明人間のアウレス・パースキン』に言う。アウレスは二つ名の通り透明人間である。そのため全身に包帯を巻いている。正直、本当に老人なのか分からないが本人が「もう年だからのぉ。」と言っている限り老人なのだろう。杖をついているし...。
「むむっ。返すのは正直、嫌じゃ。」
「正直過ぎるよ。何で?」
リーチェは中々、父の形見を渡さないアウレスにイライラしていた。そんなリーチェが分かったのかアウレスは渋々、人工精霊剣『月の妖精』を渡す。
「その人工精霊剣は中々、上出来だ短剣だとしても美しい黄色の色をした剣じゃからな。後、これを渡して置く。」
アウレスはリーチェに一つの黒い銃を手渡した。
「...何これ?軽いね。」
リーチェは銃を見ながら言うとアウレスはほっほっと笑いながら銃に指を差す。
「その銃はな、魔装銃『暁』と言ってだな。日本のとある知り合いから貰い受けたんじゃよ。」
「だからこんなに綺麗な龍の彫りがあるのか...。凄いな。」
「日本はいろいろと凄いからのぉ。彫りもそうじゃがその銃の機能も凄いんじゃよ。」
アウレスはそう言うと銃弾を出す。その銃弾にはリーチェには理解出来なかった文字が書かれていた。
「この銃弾はな、霊獣の骨で創られているんじゃよ。」
「...霊獣の?」
「あぁ、日本には多くの霊獣がいるらしくその一匹か二匹の骨で創ったと言っておったわ。」
「そうなんだ。」
リーチェは魔装銃と銃弾を見比べる。そもそも魔装銃――魔銃とも呼ぶがこれは本当に役に立つ。普通の銃では殺せない悪魔、堕天使、霊獣、異形者を撃ち殺すことも出来る便利な道具だ。銃を作る時、呪術か錬金術の術式で創らねばならない。それは別にリーチェでも簡単に出来るのだが何分材料が異常だ。銃弾は特に『霊獣』と呼ばれる獣達を使わないといけない。『霊獣』、『人獣』まではリーチェも狩れる。しかしそれ以上の『幻獣』、『神獣』は流石に無理だと言える。幻獣に乗れるのは神に認められた者達とも言われているためか誰もその姿を見たことない。神獣は昔一度だけだが父と見たことがある。父に見たいとせがんだ時に父が自分を連れて見に行ったのだ。大変な旅ではあったが今ではいい思い出だ。
「ちなみにこの魔装銃を創った魔法使いは銅の魔法使いじゃ。」
「銅?何て名前?」
リーチェが銅の名前を聞くとアウレスは笑い答える。
「カナト・カナウチと言う名前じゃよ。」
リーチェは顔をしかめた。何せ自分が聞いたことのない名前だからだ。
◇ ◇ ◇
クーは目を覚ました直後まさか自分がこんな所に飛ばされるとは思っていなかった。あの扉は特定の場所ではない場所へと飛ばされるらしい。クーは目を再度開けるとそこには子豚がクーの顔をつついていた。一匹だけではなく何十...嫌、何百もの豚がいた。推測すると自分は豚小屋に飛ばされたようだ。
「俺は豚ですか。何か軽くショックだよなこれは...。」
クーは子豚を抱き上げながら身体を起こす。変な場所には飛ばされたが人間界に来たことは素直に嬉しかった。クーは豚を撫でながら周りを見渡す。
「うわぁ、これ全部お前の家族?凄いな。」
「ぶひっ」
子豚はクーに答えるように鼻を鳴らす。
「うしっ、ここにずっといたらあれだからさっさっと槍を探しに行こうかね。じゃあな子豚君。」
クーは子豚を下に置き歩き始める。豚がたくさんいたのでちゃんと手で避けながら進む。するとクーの後ろをさっきの子豚が着いてくる。
「....何?」
「ぶひっ?」
「イヤイヤ、ぶひっじゃなくてね。ついてくんな、ここでバイバイだ。」
子豚に手を降りはや歩きをする。ようやく出口が出てきたのでクーは安心する後ろを見たがさっきの子豚は着いて来ていない。それにも密かに安心した。クーは人間に見えるように自分の身体を実体化させる。服装は白のTシャツに黒の長ズボンとシンプルにした。クーは自分の両頬を叩き気合いを入れる。
「よぉし!絶対、見つけてやるからなぁ。待ってろよ聖槍!!」
「――ちょっといいかなお兄さん?」
「えっ?」
クーは汗水を滴ながら後ろを見るとそこには農作業服を来た一人のお爺さんが立っていた。
「はい?何でしょうか?」
クーは慣れない笑顔と敬語を使いながら声を出す。お爺さんはニコッと笑うとさっきの子豚を出してきた。
「...あっ?そいつ。」
何で?と言う表情を出しながら子豚とお爺さんを見比べると子豚はクーを見て可愛く鳴き出す。
「お兄さん、この辺じゃ見ない顔だけど...旅人かい?」
お爺さんはクーをじっと見つめながら言う。
「...ん?ま、まぁな。ここはどこなんだじいさん。」
クーは多少、心の中で冷や汗を流しながら答える。
「ん?ここかぁ、ここはフランスの小さないなか町だよ。ここからパリまで行けば時間はかかるけどな。」
「まじで?」
内心クーは焦っていた。フランスやパリなど彼は知らない。何せ彼は死んでから何百年も神界から出たことはないのだ。例えると今の彼は初めてのお使いに出たにもかからわず迷子になってしまった小学の五年生というわけだろう。彼は悩む悩み続ける。さぁ、まじでどうしよう。クーの冷や汗は止まらない。
「...なぁ、今からわしは果物とかをパリに運ばなきゃいけないんだがどうする?荷台でいいなら乗っけてやるぞ。」
「まじで!?いいのか!!」
クーが笑顔でそう言うとお爺さんも笑顔で答える。
「あぁ、その代わり今日一日、わしの仕事を手伝ってもらうぞ。明日の朝出発だ。」
「あぁ、任せとけって!!」
クーはお爺さんが抱いていた子豚を抱き上げ喜ぶ。その姿はまるでお爺さんと孫のいい光景があったのだ。