銀色の序章
――ガキィィィン!!
草花が光輝き、湖が美しく光っている広場では二人の青年がお互いの槍を交えていた。一人は黒長髪で瞳は金色の青年。もう一人は銀髪で後ろを束ねていたおり黒の鎧と銀の鎧を帯びていた。
――キィン
――ガキィィィン!!
今までで一番大きい音を奏でた後、二人は倒れ込む。
「――ハァハァ。」
「はぁ。――強くなってるじゃねぇか、ディルムッド!」
銀髪の男は自分の右隣りで寝ている黒長髪の男――ディルムッドに笑顔で話しかける。
「Thank You。クー兄さん。」
ディルムッドも銀髪の男クーに褒められて嬉しいのか照れくさそうに言う。
「いや!ディル!お前は今以上に強くなるんじゃねえの?地味に押されてきてるしな。」
クーは上半身を上げながら答える。
「そんなことはないですよ。兄さんの方が強い。」
「まぁな。まだ俺は強くならなくちゃいけないからな。」
クーはディルの言葉に真っ直ぐ前を見ていた。ディルは静かに上半身を上げながらクーを見る。
「そう言えばディルムッド...。人間界に興味はないか?」
「は?」
クーの突然の言葉に動揺を隠せぬディルにクーはにやりと微笑む。
「だぁかぁらぁ、人間界だよ人間界!昨日、オジキが言ってただろ!?あの『ロンギヌスの槍』がみつかったってさ!」
興奮しながら槍のことを話すクーに対しディルは溜め息混じりで話す。
「知ってますよ。兄さんが盗み聞きしてたのでしょ?・・・まさか探しに行くなんて言わないだろ?」
ディルが顔を青白くしながら言うとクーは真顔で答えた。
「うん。」
「駄目です。」
義弟から即拒否られた。
「何でだよ!!?」
「駄目と言ったら駄目。昨日、オジキ言ってただろ?確かに槍が見つかったのは凄いが逆にそれを狙う奴等が大勢いると...しかも人間界ですよ?俺は嫌です。」
「...えぇ~ったく!つうかお前は生前のことがあって人間界に行くのが嫌なんだろうが!?」
「んなっ!?確かにそれも一理ありますが嫌です。槍を探せば必ず危険が待っていますよ?俺は...もう大切な人を失いたくないだけだ。」
ディルは真っ直ぐクーの瞳を見つめながら言う。
「...わかったよ。槍を探しに行くとは言わない。」
クーは両手を上げ降参ポーズをとるとディルは安心したのか優しくクーに微笑む。
「...ディルムッド様。申し訳ありません。オジキが呼んでいます。」
ディルの肩に妖精と思われる小さな男の子がいた。
「そうか、わかった。...それじゃクー兄さん。俺は一旦オジキの所へ言って来ますね。」
「おぉ、んじゃ俺は家に帰ってますわ。」
「...はい、わかりました。後で俺も向かいます。」
「あぁ、後でな。」
クーとディルはお互い立ち上がり別れる。ディルはクーの後ろ姿が見えなくなるまで見ていた。しばらくしてディルも歩きだす。――しかしディルはこの数時間後、後悔することになろうとは...。
「...わりぃな、ディル。」
◇ ◇ ◇
「...この扉が人間界に繋がってるんだよな?」
クーは義弟ディルムッドと別れた後、ある扉の前に立っていた。そこは綺麗な装飾が施されていた。
「いいよな?別に何も減るもんじゃないし...。」
クーは生前、人間界に住んでいた人間として...。しかし己の死後、神として祀られた自分は天国でも地獄でもないここ、神の国へと呼ばれる。しかしやはり当時はディルやバルドルやオーディンなどの強者がいたので片っ端から決闘を送りつけては戦ったていた。今ではディルは大切な義弟だ。――流石にオーディンやオジキには勝てなかったが...。だからクーは今回、槍のことを聞いて自分の何かが動いた。「槍を見ていたい。」「強いやつと戦いたい。」そんな強い欲求が膨らんでいく。
「(まっ、要するに血に飢えた狼ってところかな。)」
自分を一生懸命止めていた義弟を思いだし、笑ってしまう。しかし、自分のこの思いはどうにもならない。
「後悔するより行動して後悔した方がマシだな。...すまん、ディル。お土産ちゃんと買ってくるからさ。」
クーはそう言うと深呼吸する。目を開け、顔を引き締めると扉を開ける。クーの前に眩い光が彼を包み込んだのだった。
◇ ◇ ◇
「大変です!オジキ!ディルムッド様!」
ディルムッド...そしてオジキと呼ばれているケルトの神々の王――ダグザがそこにいた。白い部屋で彩られまさに王の部屋と呼ぶに相応しい所だった。
「何じゃ?妖精よ...。今は会議中だぞ?」
ダグザは自分の顎髭を撫でながらいきなり入ってきた妖精に言った。
「...も、申し訳ありませんオジキ!しかし、緊急事態何です!!」
緊急事態と言う言葉を聞き、ディルムッドの顔は強ばる。
「まぁ、落ち着け...。そんなに急いでは何を言っておるか分からんぞ。...どうした?」
ダグザがそう言うと妖精は深呼吸をし呼吸を整える。
「――実は、クー様のこと何ですが...。」
「クー兄さんに何があったのか!?」
ディルが妖精に掴みかかる。
「だから落ち着けって言うとるんじゃ!!」
ダグザの言葉にディルは妖精に謝り手を離す。
「のぁ~...。実はクー様が人間界に行ってしまったと言うご報告が...。」
「「!!」」
ディルとダグザは妖精の報告に言葉をなくす。
「なっ、何だと?クー兄さんが!?」
「・・・。」
ダグザはただ黙って聞いていた。
「オジキ!きっとクー兄さんは、『ロンギヌスの槍』を探しに...。」
「...分かっておる。ほっとけ。」
「!?」
ダグザの言葉にディルは動揺する。
「ディル、あやつは前から槍を探しに行きたいと言っていた。儂はずっと反対しておったが奴が危険を侵してまで行ったのだ...。何も言えんなぁ。」
「...。」
ダグザは笑いながら言っていたがやはりクーを心配する。ディルは考えてついに決めた。
「...オジキ、俺はクー兄さんを探します。」
「ほう!女性恐怖症のお前がか!?」
「はい、しかしクー兄さんのことが心配です。クー兄さんを見つけたらすぐ戻ります。」
ディルの真剣な眼差しを見てダグザは静かに頷く。
「行ってこい。我が息子よ...。」
ダグザの言葉にディルは頷き歩きだす。ケルト神話の大英雄の二人が今、地上へとやってくる。
end