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第二話 ギルド

 大声で叫んだリールはそのあと、半ばあきれたような顔をした。彼女はそのまま少し力の抜けた手で、氷雨に彼の能力をメモした紙を手渡す。その時、リールが氷雨に手渡した紙には次のように能力値が書きこまれていた。


名前:氷雨


攻撃:23

防御:18

敏捷:21

器用:22

知性:8

魔力:0

気力:139


職業:無職

称号:葛城神明流免許皆伝

特性:気力操作、気功剣、武士の心


 これを見た氷雨はぽかんとしたような顔をした。その顔は「どこがおかしいのかわからないでござる」ということを如実に表している。するとリールがふうっと息をついて、彼にこの能力が以下にあり得ないのかを説明し始めた。


「最初に言っておくと、普通の人間の能力がだいたいオール10なの。だから氷雨の場合、知性と魔力以外は平均をすべて大幅に上回ってるわね。でも攻撃とかはそこまで問題じゃないのよ。問題は……」


「問題は?」


 リールはペンを手にすると、それで魔力と気力と書かれた欄をビシッとさした。そして形のよい眉をぴくぴくさせると、強い口調で話しだす。


「この魔力と気力のバカみたいな値よ! 気力は上級冒険者並みの値を示してるけど、魔力はまったくない! 普通に暮らしてたらこんなことありえないわよ!」


「そうなのでござるか?」


「そうよ、魔力も気力も普通はひとしく上がっていくものなの。だから氷雨みたいに、どっちかだけやたら高くて片方がないとかありえないのよ」


「ふうむ……」


 氷雨はその細い顎に手を当てて、何か考え込むようなしぐさを始めた。リールは重要なことを思い出しているのかと期待して、きらきらとした視線を氷雨に送る。そうしてしばらくが過ぎると、氷雨は手を顎から離してぐっと背伸びをした。そして……


「すまんが、腹が減りすぎてて何も考えられんかったでござるよ……」


「ば、バカーーーー!!」







 ガチャガチャと皿が音を立てて積まれていく。その上にあった料理はとうの昔に、氷雨の腹の中へと消えていた。彼の前に座っているリールは、その腹の中にオーガでも飼っていいるかのような食べっぷりに茫然としている。皿はすでに、見ていて倒れるのが心配になりそうなほど積まれていた。


 二人はしばし登録説明を中断して、ギルドの中で食事をしていた。氷雨が腹を抱えてあまりにも切ない顔をしたので、見るに見かねたリールが彼に食事を食べさせたのである。もっとも氷雨はよっぽど腹が減っていたのか、奢ってもらっているということを失念しているかのような勢いで食べているが……。


「まったく……どんだけお腹すいてたのよ」


「いやあ、かれこれ二日間何も食べてなかったのでござるよ! 正直とても助かったでござる!」


「あんた、能力だけじゃなくて生活もめちゃくちゃね。路銀の管理とかはどうしてたのよ」


「路銀……ああ、金の事でござるか。船に乗るだけでなくなってしまったので、そこからは狩りをしながら旅してきたでござる」


「……」


 ロマリウムから船の発着する港までは海路の関係上遠く、馬車で約一週間はかかる。人の歩きだとだいたい二、三週間といったところか。つまり、氷雨はその長い距離を狩りで食料をまかないながら延々と旅をしてきたということになる。


 リールはそのある意味で超人的な行動に、感心したようなあきれたような気分になった。もう氷雨のことに関しておよそ突っ込む気にはなれない。何を言っても軽く受け流されてしまうような気がしてきたのだ。そのため彼女は、そのままボケっとした顔で次々と皿を空にしていく氷雨を見つめる。


 氷雨はそんな視線は関係ないとばかりにそれからも食事をかきこんでいった。そうしてしばらく時が流れ、腹が風船のように膨らんだところで彼はようやく食事をやめて一息ついた。


「ふうっ、腹いっぱいでござる。こんなにうまいもの本当に久しぶりでござるよ」


「そう、それは良かったわ。さてと、説明を再開するからカウンターに戻るわよ」


「了解したでござる」


 氷雨とリールは皿を厨房の方に片づけてくると、カウンターの方へと戻っていった。すでにギルドにほかの冒険者たちの姿はない。おそらく花街にでも繰り出したのであろう。ここのギルドでたむろしている冒険者たちはほとんど三流であったが、金回りはだけは割と良かった。リールはそのことを少し訝しく思っているが、うっとうしい連中なのでギルドに居ない分には文句は言わない。それに碌でもないことに巻き込まれるのは彼女もごめんであった。


「じゃあさっきの続きから行くわよ。とりあえず、能力の測定が終わったからさっそくカードを発行するわね」


 リールはさきほど氷雨に見せた紙を、カウンターの脇に置いてあったなにやら巨大な機械に入れた。すると機械はガタガタ音を立てながら何度も何度も震える。さらにしばらくすると取り付けられている水晶玉のようなものが、紅いあやしげな光を放った。それと同時にシュッと空気が漏れるような音がして、薄っぺらい銀色の板のようなものが吐き出される。


 リールはそれを手に取ると氷雨へ手渡した。氷雨がそれを見てみると表に名前、裏に能力が書いてある。どうやらこれがリールの言っていたカードのようだった。


「カードに刻んである内容に間違いはない? よく確かめて」


「大丈夫、全部正しいでござるよ」


「よし、なら説明を続けるわ。そのカードはうちのギルドの一員であることを証明する大切なものだからなくしちゃだめよ。カードがないとクエストを受けられないし、迷宮にも入れないわ。さらに再発行には三万ゼニーかかるから気をつけてね」


「さ、三万ゼニー! 気をつけるでござるよ」


 氷雨はスッと顔を青くすると、手にしていたカードをあわてて懐へと仕舞い込んだ。リールはそれを見てふんふんとうなづくと、話をさらに続ける。


「えっと、次はクエストとランクに関してよ。冒険者が受けるクエストはランクが定められていて、基本的に冒険者のランクと同じか一つ上までしか受けられないようになっているの。下から順に五級、四級、三級、準二級、二級、準一級、一級と定められているわ。氷雨の場合は登録したてだから五級ね」


「なるほどなるほど。それはわかりやすいでござるな」


「ランクの昇格については一つ上の依頼を十回こなすか、迷宮で一定階層を踏破するごとにできるわ。クエストとランクに関してはこれぐらいかしら」


「わかったでござる。説明はこれで全部でござるか?」


 氷雨は少し疲れたような顔をしていた。どうやら説明を飲み込むのに疲れてしまったようである。リールはそんな彼を見て、ほかにまだ説明せねばならないことがあったかと考えを巡らせる。なにぶん小さなギルドであり、非常にまれにしか来ない初心者のための説明に、マニュアルなど用意されていなかったのだ。


「うーん……だいたいそうね。あと迷宮に関してはギルドじゃなくて管理協会が別個にあるからそこで聞いて。初心者用の窓口があったから、そこへ行けば丁寧に教えてもらえるはずよ。説明は以上ね、あとわからないことがあったら私は一日中ここにいるからいつでも聞いてくれればいいわ」


「わかった、それでは拙者は失礼するでござる」


「ああ、ちょっと待ちなさい!」


 リールはあわてて氷雨を引き留めると、彼の手に数枚の銀貨を握らせた。氷雨はびっくりしたように銀貨を見つめると、リールの方へと振り返る。リールはそんな氷雨にニコッと笑いかけた。


「所属してる冒険者が野宿してたら、うちのギルドの無いように見えて意外とある信用が傷つくのよ。それだけあれば安い宿なら一週間ぐらい泊まれるから、その間にクエストか探索をして野宿しないようにしなさい!」


「おおっ、これはまことかたじけない! この借りはいつか必ず倍にして返すでござる!」


 氷雨は何度も何度も頭を下げながらギルドを出て行った。それをリールは温かい目で見送ったのであった--。



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