エピローグ
何事にも始まりがあり、終わりがある。それが自然であり、例外はない。
終わりは必然であり、終わるべくして終わるのだ。
しかし嘆くことはない。終わりは悲しくもあり同時に喜ばしいことでもある。なぜなら、終わりを越えてまた新たな始まりが生まれるからだ。
人の世はその繰り返しなのだ。
エピローグ
1
日々が忙しいと、時が経つのが早く感じられる。
結城はこの一年でそれを嫌というほど思い知らされた。
(もう一年かぁ……。)
暴走VFが海上都市群を暴れ回っていたのがつい先日の事のように感じられる。
私はあれから1年歳を取り、その間に世界中でVFに関する様々な出来事が起きた。
それは主にVFBの規制であり、危険な機械だと認識されてしまったVFはその数をあっという間に減らされてしまった。各国にあるVFBスタジアム周辺ではデモも起こったりして、VFに関する仕事に就いている人の肩身は今も狭くなり続けている。
そんな状況の中、私はVFBを宣伝するために様々な場所を訪れた。
合計で50回近く飛行機に乗っただろうか、往復を含めたら100回にもなる。もう10回は世界一周旅行をした気分だ。
始めの方は旅行気分で飛行機に乗っていたが、5回もしないうちに乗りたくなくなった。
仕事だから仕方ないとはいえ、もうあれだけ酷い時差酔いは経験したくない。
(まぁ、その分だけVFに乗れたからいいんだけど……)
結城はVFBスタジアムがある国を訪れ、その先でVFに乗って宣伝活動をしたわけだ。ファンからは事件のことを心配されたが、VFBに反対している人からは罵声を浴びせられてしまった。まぁ、VFみたいな大きなロボットというだけで恐怖を感じる人がいるのは当たり前だし、あまり気にしてない。
この宣伝活動は暴走VF騒ぎのせいで植え付けられたマイナスイメージを少しでも軽減させようと七宮重工が企画した案だった。その七宮重工自体も色々とメディアに顔を出してVFBの安全性を説いていたし、そんなランナーと七宮重工双方の努力の甲斐もあってか、何とかコアなVFファンを呼び戻すことはできたみたいだ。その証拠に、VFBのコミュニティサイトも以前と同じくらい賑わっている。
もちろん、私以外のランナーも同じように宣伝活動に励んだと聞いている。これだけランナーやらチーム関係者が宣伝に取り組めたのも、VFBのシーズンが1期まるまる抜けてしまったおかげだろう。
(ちょっとは休めると思ったんだけど……シーズン中よりハードスケジュールだったな……。)
結城は、行く先々でデモンストレーションやら派手なエキシビジョンマッチをさせられ、学校に関しても週に3日、酷い時は週に5日も行けない日々が続いた。つい先日学校を卒業できたのが不思議に思えるほどだ。
卒業に関しては、ツルカや槻矢くんも無事に卒業できた。もともとこの2人は飛び級して留学できるほど頭がいいのだから全く問題ない。
そんな優秀な2人とは打って変わり、私は例によって諒一に家庭教師をしてもらって何とか卒業基準をクリアできた。あのまま合格できなかったらどうなっていたのだろうか……。
企業学校は私の学年で終わることは決まっていたし、留年もできなかったはずだ。となると、やっぱり退学という形で終わらされていた可能性が高い。
本当に諒一にはお世話になりっぱなしだ。
……そして今現在も私は諒一に助けられていた。
「ねぇ、これキツくない?」
「式典用のワンピースなんだ。こういうものなんだろう。」
諒一は素っ気なく言うと、私の背後でワンピースの背中のファスナーをぐいっと上に持ち上げた。そのせいで私の胸は一気に締め付けられ、肺から押し出された空気と共に変な声が漏れてしまう。
「ぐえっ……。」
更衣室の中に呻き声が響いたが、諒一はこちらの声を無視して淡々と話す。
「やっぱりこっちで用意しておいて良かった。まさかジャージで記念式典に出てくるとは思ってなかった。」
「ごめん……。」
結城がいるのは新しく建造された海上アリーナの内部、その更衣室の中だった。
目の前にある鏡には赤に近い紫色のワンピースを着た私の姿が映っていた。
いわいるフォーマルワンピースというものだろうか、ノースリーブのシルク地のワンピースには胸のすぐ下あたりに大きなリボンが巻かれていて、かわいい結び目が正面にあしらわれていた。
更にその下、膝丈のスカート部分には黒色のレーズ地のフリルがあり、それが丁度私の膝小僧を隠す位置に取り付けされていた。
また、カーディガンもレース地の薄い生地で、スカート裾の黒のフリルと同じような色形なので結構バランスがとれていた。
諒一が用意したにしてはなかなか上等な物のような気がする。
というか、経緯はどうであれ諒一に服をプレゼントしてもらったのは初めてだ。なんだか妙にうれしい。
「あとはアクセサリーだ。ネックレスと髪留めだけで十分だな。」
鑑を見ながらパンプスを履いていると、諒一がこちらにシルバーの小さな飾りのついたネックレスと、コサージュを手渡してきた。
ネックレスの飾り部分は光り物もなく特徴的な形状でもなくこぢんまりしていたが、柱を捻ったような形状のそれはシンプルなデザインであり、私に合っているように思えた。
そんなネックレスはともかく、コサージュは胸元あたりに付けたほうがいいのではないだろうか……。
そんな事を思いつつも、結城は言われた通りに濃い赤のフラワーコサージュをこめかみの少し上辺りに留める。
すると、諒一はそれを見計らったかのように私の手からネックレスを取り、背後に回って私の首に付けてくれた。その際に小さな飾りが胸元に当たり、少しだけ冷たい感触を覚えたが、すぐに肌の温度に馴染んでくれた。
これでセットが完了し、諒一は私の背中越しに鑑を眺める。
私も同じように自分の姿を改めて観察してみたが、どう考えてもやり過ぎな気がした。
「ちょっと派手すぎじゃないか?」
「そんな事はない。」
即座に否定してくる諒一に対し、私は負けじと反論する。
「でもさ、案内状にはカジュアルな恰好でいいって……」
案内状の文章を持ちだすと、背後から諒一の重いため息が聞こえてきた。
それに続いて呆れ混じりの注意の言葉も発せられる。
「……いいか結城、ジャージ姿はカジュアルな恰好じゃない。」
「そうかなぁ……。」
――案内状、それは新海上アリーナの完成式典の案内状の事だった。
VFBでは新ルールが適用され、それに応じてアリーナの拡張が決まりクライトマンの会社が施工主となって拡張工事を進めていたわけだが、それがようやく完成したというわけだ。
ただ、大々的に式典を行う必要もなかったのか、案内状はあまり多くの人に配られていないみたいだ。どうせ、VFBチームのスタッフやランナーにしか配っていないのだろう。つまりは身内同士のパーティーである。だらしない姿を見られた所でみんな見知った仲だし、ジャージで全く問題ない。
それなのにこんな恰好をしなければならないなんて、社会というのは色々と面倒くさい。
……でも、そのおかげで諒一から色々もらったのだし、それはそれで良しとしよう。
そんな私とは違って、諒一は相変わらずの無表情で呟いていた。
「はぁ、せめて制服で来たら良かったのに……」
「もう卒業したし、制服はなぁ……。」
すぐさま反応した結城だったが、諒一の微妙な表情の変化を読み取り、今まで気付かなかった事案にたどり着く。それは、服の値段についてだった。
更衣室の隅に大量にある紙袋を見ると、全部自腹で買ったのだと予想できる。その急な出費のせいで元気がないのかもしれない。
結城は勝手にそう解釈し、諒一に質問してみることにした。
「ねぇ、これ全部でいくらしたんだ?」
そんな質問に対し、諒一は金額を答えることなく首を左右に振る。
「気にしなくていい、もう時間も近いし上に急ごう。」
そして、そそくさと更衣室から出ていってしまった。
単に太っ腹なのか、私に気を使って見栄を張ってくれているのか……。いつもなら素直に値段を言ってくれるのだが、そんな新鮮な反応を結城は嬉しく思っていた。
2
新海上アリーナ完成式典。
巨大な海上アリーナ複合施設の完成式典は、そのアリーナ上で行われていた。
工事を終えたばかりの床からは金属の匂いというか、資材の独特な匂いが発せられている。おまけに屋外なので少し暑い。
私としては太陽の下でサンサンと降り注ぐ日光に焼かれるのは嫌だったが、アリーナ状の広けた空間の開放感はその不快感を遥かに上回っていた。
こんな事なら夜の涼しい時間帯にやって欲しかった。でも、まだ内装工事は終わってないみたいだし、あまり時間が取れないのだろう。
そう思うと暑さも我慢できる気がしないでもない。
アリーナの中央部分にはテーブルが20近く配置されていて、そこから少し離れた場所に設置された壇上では施工主のリオネルが挨拶をしていた。
式典の進行表を見る限りでは、挨拶の他にも色々やるみたいだ。船の進水式然り、このアリーナも海の上に浮かぶものなので、いくら安全を願ってもやり過ぎということはない。酒瓶を割ったりくす玉を割ったり歌を歌ったり神に祈るなり何でもしていい。
テーブルの上には冷えた料理やジュースがあり、結城はそれを口にしながらアリーナを見渡していた。
(へぇ、広いもんだ。)
アリーナは今までの円状のフロートを単純に3つ結合させたような形状をしている。色の三原色とかの説明でよく見るアレである。その為、面積は3倍ではないのだが、何にせよ広かった。
暫く観察しているとようやくリオネルの挨拶が終了したのか、周囲の人々が拍手し始めた。結城もグラスを一旦テーブルの上に戻し、周りに合わせて拍手する。
関係者だけの式典なので拍手の規模も小さかったが、みんなこのアリーナが完成したのが嬉しいらしい。拍手はそこそこ長く続いた。
「計画通り完成するのかと不安でしたが、なんとかなるものですな。」
「かなりのハードスケジュールでしたから……。ウチの現場作業員は疲れ果てていますよ。私も暫く休暇を取りたい気分です。」
拍手に混じってそんな会話も聞こえてきた。周囲から聞こえてくるのは互いを労ったり、海上アリーナの完成に安堵している旨の会話ばかりで、式典会場にいるのがほとんどが海上アリーナの建設関係の人だということが分かった。やはり、早く完成させるために大量の人材を投入したみたいだ。
というか、小規模な式典だと聞いていたのに意外と人が多い。これが小規模なら、普通規模の式典だと一体どれだけの人が集まるのだろうか。
諒一の言う通りに着替えておいて良かった。もしもこの場にジャージ姿でいたら目立って目立って一生残ってしまうような恥ずかしい思いをする所だった。
そんな風に周囲とは別の意味で安堵していると、不意に誰かから話しかけられた。
「こんにちはタカノユウキ、やはりあなたも招待されていたんですね。」
その言葉の後、私の隣から視界に入ってきたのは長い前髪で目元を隠している、若干猫背気味のランナー、セルトレイさんだった。
(“やはり”ってことは、他にもランナーが招待されてるんだな。)
この情報だけは確かなようだ。今は人ごみのせいで誰が来ているのか分からないが、あとで探すことにしてセルトレイさんに挨拶を返すことにした。
「セルトレイさん、久しぶり。」
こちらが軽く会釈すると、セルトレイさんも同じように応じてくれた。
続けてセルトレイさんは足の裏でアリーナの地面を小突きながら話題を振ってきた。
「新しい海上アリーナ、あっという間に完成しましたね。どうですか?」
「どうもこうも……。とにかく広いとしか言いようが無いというか……。」
こんなに広くする必要はない気もする。
実際にVFの乗ってアリーナに立つとまた違った印象を受けるのかもしれない。でも、今の時点ではこの半分くらいの広さでも十分な気がしていた。
難しい顔で周囲を見渡していると、セルトレイさんは興味深い情報を教えてくれた。
「確かに広いですが、聞いた話では障害物なども配置するみたいですよ。やはり、だだっ広いフィールドだと味気が無いですしね。」
「障害物かぁ……。でも、そっちのサマルは腕もいっぱいあるし、あまり問題は……。」
問題はないと言いかけて、結城は今更ながらセルトレイがダグラスに雇われていたランナーだということを思い出す。
ダグラスが消滅し、VFチームも解散したはずだ。しかし、招待を受けたということはまだ何らかの形でチームが存続しているのだろうか……。
気になった結城は率直に訊く。
「そういえば、ダグラスのチームはあの後どうなったんだ?」
「言うまでもないですよ。ダグラスが無くなったおかげでチームも自然消滅……。当然報酬もゼロでした。サマル、結構気に入ってたんですが……。」
本当にお気の毒としか言い様がない。
セルトレイさんは肩を落としたまま続けて話す。
「またフリーのランナーに戻って気楽にVFランナーを続けるつもりです。また戦うことがあればその時はお手柔らかにお願いしますよ。」
「あ、うん。こちらこそ。」
セルトレイさんはダグラスのことを話しただけで気が滅入ったらしい。
「それじゃあ、失礼します……。」
元気の無い声でそう言うと、こちらに背を向けて離れていってしまった。
(本当に手加減してしまうそうで嫌だな……。)
ランナー同士、同情は無用であるが、あんな姿を見せられてしまっては本気で相手を倒せないような気がする。
「来たかユウキ。オレ様が作った新しい海上アリーナはどうだ? あまりの凄さに驚いて声も出ないか?」
とぼとぼと歩いて行く彼を見ていると、今度は威勢のいい声が聞こえてきた。それはセルトレイさんとは打って変わって気力に満ちあふれていた。
「あ、リオネル。えーと、本日は招待していただき……まぁいいや。完成おめでとう。」
無駄に威張ったリオネルのセリフに軽く応え、結城はテーブルの上に置いていたグラスを手に取り、中身をぐびぐびと飲む。
その間、リオネルは自分の純白のコートの襟を正して、私が飲み終えるのを待っていた。
やがて私がグラスから唇を離すと、待っていたと言わんばかりにリオネルが再び口を開く。
「おい、他の奴らはどうした。アール・ブランのメンバーはほぼ全員招待したはずだが……。まさか、来てないなんてことはないよな?」
「大丈夫、みんな来てる。」
みんなは来ることには来ているが、それほど式典自体に興味はなく、今は端っこの方のテーブルでゆっくりと寛いでいる。ランベルトや鹿住さんは昼食目当てで来たようなものだし、諒一も式典よりも新設された海上アリーナの下見に忙しい。
そんな中、私だけが話を聞くために前に来てあげているというわけだ。感謝して欲しいくらいだ。
メンバーがいる方向に目を向けながら考えていると、リオネルは思い出したように私の服装について言及してきた。
「ところで、……なんだその格好は? 言っちゃ悪いが似合わないな。」
「悪いと思うならわざわざ本人の前で言うなよ……。私だってこういうの着るの初めてなんだからな。」
咄嗟に強気に言い返したが、それでも結城は服を隠すように両腕を前に持ってきてクロスさせてしまう。腕程度では隠せないのは承知している。しかし、仮にも男性に『似合っていない』と言われて堂々と出来るほど図太い神経は持っていなかった。
結城はその体勢のままで不貞腐れたように付け加えて言い返す。
「……というか、褒めてくれたっていいだろ。レディは褒めるもんなんだし。」
すると、リオネルはこちらの言葉を鼻で笑い、ある方向を指差した。
「履き違えるなよ、レディと言うのはな、ああいう人の事を言うんだ。」
「……!!」
リオネルが指差した先にはオルネラさんの姿があった。オルネラさんは真っ黒なパーティードレスを着ており、その黒と銀の髪のコントラストは感動すら覚えるほど美しかった。
パーティードレス自体も、スカート部分が斜めにカットされたデザイン性に優れたもので、優美さの中に可憐さも混じっているように感じ取れた。
その隣にはツルカもいて、姉妹揃って同じようなドレスを着ていた。
ツルカもあんなドレスが似合う年頃になったのだなぁ、と渋々思っていると、視界の隅にぴょこぴょこと動くリボンを見つけた。その下にはあどけない少女の顔があり、それがリュリュだということに気がつく。
リュリュは近付いてきたかと思うと、私を擁護するセリフを兄に向けて呟く。
「お兄様、今日は非公式のパーティーなんですし、そこまで求めなくてもいいと思います。私もランナースーツやジャージや制服以外の姿のタカノ様を見るのは初めてですし、こういう恰好には慣れていないのだと予想できます。そんなタカノ様をオルネラ様と比べるのは適当ではないかと……」
「まぁそうだな。……悪かったなユウキ。」
リオネルはあっさりとリュリュの言い分を認め、あっさりと謝ってきた。しかし、こちらとしては何だか馬鹿にされているような気がしてならなかった。
「それとお兄様、そろそろ……」
リュリュがそう言うと、リオネルは懐から取り出した無駄に装飾された懐中時計を確認して咳払いをする。
「オレ様にも段取りがあるからな、失礼させてもらうぞ。」
リオネルは一方的に話を中断すると、どこかへ行ってしまった。去り際にリュリュはお辞儀をしてくれたが、結城はそれに応じられるほど心に余裕がなかった。
(この服、そんなに似合わないか……?)
鏡で確認した限りでは問題無いと思ったのだが、リオネルみたいな金持ちというか、階級が上の人から見ると印象が違うのかもしれない。国も文化も性別も違えば、価値観も違うのは理解できるが、似合わないと言われるのは納得出来ない。
それに、折角諒一が用意してくれた服なのだ。私の事はともかく、似合わないと言われるのはかなり腹がたった。
服が問題ないなら、やっぱり私自身に問題があるのだろうか……。
「メガネ外したほうが良かったかな……」
あと、髪も解いたほうがいいのかもしれない。
一度諒一のところへ戻って恰好を確認してもらおうと考えていると、またしても誰かが声を掛けてきた。しかし、それは先ほどまでとは違って見知らぬ青年だった。
「あんなキザ野郎の言うことなんか気にしちゃ駄目です。俺はすごくかわ……可愛いと思いますけどね。」
「……?」
どうやらさっきの会話も聞いていたみたいだ。いきなり可愛いなんて言われて不可解に思ったが、リオネルの事を『キザ野郎』と呼ぶあたり、彼もランナーなのかもしれない。
また、その褐色の肌の青年はなぜか緊張していた。じっとこちらを見て、表情を固まらせている。
向こうは私のことを知っている。そして、私が彼のことを知っていると彼は思っているに違いない。それなのに、この場で彼の名前を訊くのは失礼だ。
(どうしたものか……。)
そんな彼に対してどう対応すればいいか悩んでいると、背後からいかつい顔の持ち主が現れた。
「ジン、お前こんなのが可愛いと思ってんのか?」
馬鹿にしたような口調で褐色の肌の男に声を掛けたのはアザムさんだった。こちらの顔はもちろん覚えている、というか絶対に忘れられない顔だ。
結城はその鋭い目線を見ただけで背筋が寒くなるのを感じていた。
……正直、アザムさんには強く言い返したくはないが、辛うじて残っていた女としてのプライドが結城に言葉を発せさせた。
「こんなのって失礼な……」
「そうですよアザムさん、どこからどう見たって……可愛いですよ。」
「おいジン、言うなら言うでいちいち言葉に詰まってんじゃねェよ。情けねぇ……。」
アザムさんとこの青年は随分仲がよさそうだ。また、ジンという名前には覚えがあった。
「ジンって、もしかしてクーディンのランナーですか? あの弓を使うVFのー……」
咄嗟にVFの名前が浮かんでこなくて語尾を伸ばしていると、アザムさんがVFの名前を教えてくれた。
「雷公だ。そのくらい覚えてろよ。」
覚えていたけれど思い出すのに時間が掛かるだけだ。
しかし、それで私がジンというランナーのことを知らなかった事が本人に知れてしまったようで、ジンは雷に打たれたような表情をこちらに見せていた。
「あはは……俺の事覚えてなかったんですね。喫茶店で一度会ったはずなんですけど。」
「喫茶店?」
「いや、何でもないです。いきなり変な事言ってすみませんでした。」
VF同士で戦ったことはあるが、直接会ったことはない……と思う。なので、お互いに知らなくても不思議ではないのに、ジンにはそれがかなりショックだったみたいだ。
その理由は計りかねたが、取り敢えずフォローしておくことにした。
「いやいや、服のこと褒めてくれてありがと。また対戦できるといいな。」
そう言って手を差し伸べると、ジンは両手で握手してくれた。そんなに私との握手が嬉しいのだろうか……。
結城はジンに手を握られながら、アザムにも同じようなことを言う。
「アザムさんも、対戦楽しみにしてます。」
しかし、アザムさんから返ってきたのは予想外の言葉だった。
「はァ? 俺はもう試合には出ねぇぞ。」
「え、なんで……?」
「団体戦なんて俺の柄じゃねェからな。ジンと適当なランナーに任せることにした。」
つまり、引退したということだろうか。まだまだ現役で行けそうな気もするのに……。でも、本人が決めたことなのだからとやかく言う必要もないだろう。
あと、ジンに任せるという言葉も気になった。
「ジンって、この人に任せるってことですか?」
握手している手を持ち上げてアザムさんに問うと、今度はジンが答えてくれた。
「そうなんですよ。俺、クーディンから抜けてラスラファンに移籍したんです。……新リーグは階級関係なく試合するみたいだし、結果的には良かったというか。」
アザムさんがジンをスカウトしたのだろうか……? まぁ、私が首を突っ込むようなことでもないし、深く考えずに聞いたままの事実を受け入れておこう。
「クーディンも馬鹿な選択をしたもんだ。ジンを簡単に手放すなんてなァ……。」
珍しくアザムさんは背後からジンに優しい目を向けて言う。
そんな風に遠回しにアザムさんに実力を認められたジンだったが、彼は全くアザムさんの話を聞いておらず、私におどおどした態度で話しかけてきた。
「……ところでユウキさん、俺とアドレス交換しませんか? ランナー同士、繋がりを持つのはいいことだ、なんて思って……。」
「別にいいよ。ちょっと待って」
特に問題もなかったので結城は即答し、携帯端末を取り出すべくポシェットを手に取った。……だが、携帯端末を出そうとした所で、またしても新たなランナーが目の前に現れた。
「あ、じゃあ自分もユウキタカノのアドレス教えてほしいです。」
当たり前のように私の横に身を滑り込ませてきたのはドギィだった。病的なほど肌が白い彼は遠慮することなく携帯端末の画面を覗きこんできた。
それを注意するべく体を押し返そうとすると、その前にドギィは何者かによって引き戻されてしまう。
その先にはドギィの保護者の姿があった。
「ドギィ、断りなく人の会話に割り込むもんじゃない。あと、許可無く携帯端末を覗きこむのも失礼だぞ。」
そうやってドギィに言い聞かせているのはオールバックにサングラス姿の初老の男、フォシュタルさんだった。
彼らまで招待されているとなると、海上都市群にあるチームは全て招待されているのかもしれない。
「済まないなユウキ嬢、時間があったら後でドギィとも話してやってくれないか。君と会うのを楽しみにしていたみたいだからな。」
「そうだったんですか……」
「そうなんですよユウキタカノ。ここ最近アール・ブランはずっと忙しいと聞いていたんです。まだ宣伝活動は忙しいですか?」
アザムさん、ジンに続いてドギィまで現れるとは……。
わらわら湧いてくるランナーに驚いていると、類が友を呼んでしまったのか、来て欲しくないランナーまで現れてしまった。
「――もてもてじゃあないか、結城君。」
含み笑いを浮かべながら姿を見せたのは七宮だった。フォーマルスーツに身を包んだ七宮は、ウェーブの掛かった髪をかき上げながら颯爽と私の目前まで移動してくる。
(七宮……。)
近付くにつれて結城の表情は険しくなり、また体も自然と緊張して七宮に対して構えてしまう。周りにいたランナーも結城の緊張を感じ取ったのか、急に無口になって鋭い視線を七宮に向けていた。
「オイ、七宮。よくツラ出せたもんだなァ。」
まず口火を切って七宮に声を掛けたのはアザムさんだった。
「今度ジンに余計なこと吹き込んだら……ただじゃ済ませねェぞ?」
アザムさんのドスの利いた声はそれだけで相手を怯ませる迫力があったが、七宮はそれをけろりと受け流して言葉を返す。
「いきなり何だい、僕だけ仲間はずれかい? リーグを存続させられたのは僕のおかげなんだし、感謝はともかく、少しくらい話してもいいだろう。」
「リーグがめちゃくちゃになったのも、全部てめェが悪いんだろうがよォ……」
飄々とした物言いにアザムさんは七宮に詰め寄ろうとしたが、それを遮って、七宮の隣にいたスーツ姿の男が強い口調で発言した。
「いや、根本的にはダグラスのせいですよ。」
「なんだテメェは?」
アザムさんの言葉に、そのスーツ姿の男は毅然とした態度で応じる。
「私は昔ガレスの秘書をやっていたベイルです。内部の事情を知っていた私が言うんだから間違い無いです。1年前のあの事故はダグラスのミスが原因なんです。」
「ほら、ベイル君もこう言ってるんだ。もうこの事で言い争うのは止めにしよう。」
七宮はベイルという元秘書を横に退けると、堂々とアザムさんの正面に立った。
……2人は暫くの間睨み合う。
アザムは敵意を剥き出しにして七宮を睨みつけていたが、対する七宮は余裕の笑みを浮かべていた。
結城たちは息を呑んでアザムと七宮の動向を見守っていたが、10秒ほど経つとアザムが目を閉じて顔を七宮から逸らした。
そして、先ほどの七宮の提案を承諾する。
「ああ、言い争いは止めてやる……“言い争い”はなァ!!」
承諾する……と見せかけて、アザムさんは七宮に殴りかかった。
その動作は素人のような大振りなパンチではなく、格闘家に相応しい洗練された無駄のないストレートだった。
結城達が息を呑む暇もなくその拳は七宮の頬にめり込み、七宮は頭部を仰け反らせながら二歩ほど後退した。その七宮の動作は、アザムの拳の威力を物語っていた。
「流石に速いね……。」
しかし、七宮はちっとも痛がる仕草を見せず、袖で口元を拭う。フォーマルスーツは黒いせいで色は付いていなかったが、口元には赤い血が付着していた。
これでアザムさんも少しは落ち着くかと思ったのに、そんな私の予想とは裏腹にアザムさんは怒りのこもった声を七宮に浴びせる。
「てめェ、わざと当たりやがって……舐めてんのか!?」
そして、今度は七宮の胸ぐらを掴み、近くのテーブルに押し付けた。
そのせいでテーブルの上にあった皿やボトルが落下し、大きな音を周囲に響かせる。
「ちょちょちょっ、アザムさん駄目ですって!!」
ここでジンがアザムさんを背後から引っ張るも、既に時は遅く、周囲にいた人々の注意を引いてしまっていた。
しかし、そんな状況にあっても七宮は落ち着いていた。
「皆さん、心配ありません。ちょっとした事故ですから。」
そう言って周囲に説明していたが、口元から血を流している七宮の言葉に説得力はなかった。
事情を知らない人々は口々に喋る。
「すごい音がしたけれど、何があったのかしら。」
「誰かテーブルにぶつかったみたいだ。そういや、さっきから怒鳴り声も聞こえてたような……」
「何だ? もしかして喧嘩か……?」
「でもあの二人、ランナーじゃなかったかしら。何であんなことに……」
周囲が騒然とし始めた時、その場を制する落ち着いた声が響き渡る。
「お二人ともこんな昼間から酔っ払って何してるんですか。何もない場所で転けるなんて、ランナーらしくも無いですよ。……ほら、立てますか? 手を貸しますから。」
それは諒一だった。
諒一は周囲に聞こえるようにわざとらしく言うと、アザムさんと七宮に両手を伸ばす。
すると二人とも諒一の意図を理解したのか、素直にその腕を掴んだ。
「悪いな七宮、足滑らせちまったわ。」
「全く、転けるなら一人で転けて欲しいね。」
二人もお互いにわざとらしいセリフを交わし、酔っ払ったフリをする。
それを見て周囲の人々は事件でも騒動でも何でも無いと判断したのか、すぐに雰囲気が元通りになった。アザムさんも周りに迷惑をかけてまで七宮を追求するつもりは無いみたいだ。
ひとまず事態が収まると、諒一は二人から手を離してこちらに駆け寄ってきた。
「平気か結城、……怪我はないな。」
「諒一……。」
別に驚いたわけでも暴力沙汰が恐いわけでもない。が、諒一が私の危険を察知してくれたことはとても嬉しかった。
ここは大人しくか弱い乙女を演じておこう。
「平気だけど、ちょっと静かな場所に行きたい……かも。」
小さな声で伝えると、諒一は間を置かずに私の手を取った。そして、フォシュタルさんなど、そこに集まっていたVFB関係者に告げる。
「結城は席を外します。……行こう、結城。」
「うん。」
結城は諒一に手を引かれ、その場から離れていく。
そこにいた人達は反省したような表情を浮かべていたが、なぜかジンだけが私と諒一を交互に見て物凄くショックを受けた顔をしていた。
3
「リュリュ、手当してやれ。」
「平気だよ。気遣いありがとう。」
クライトマンの妹の手を優しく払いのけ、七宮は医務室の椅子の背もたれに体重を預ける。
今僕がいるのは海上アリーナ施設内部の医務室だ。
アザムに殴られた後、騒ぎが起こる前に彼氏君に誤魔化してもらったのだが、やはりクライトマンの坊っちゃんの目は誤魔化せなかったらしい。すぐに医務室まで連れて来られたというわけだ。
ただ口の中が切れただけなのに大層なことだ。……と思ったが、本当の目的は治療ではなく、僕とアザムを引き離しておくことだろう。今日はもうアリーナ上の式典会場には戻れないかもしれない。
(顔も見れたし少しは話せたし、今日はこれで良しとしようかな……。)
そもそもこの式典に招待してくれただけでも奇跡に近い。短い間だったが、ちょっとでも施設内を見れてよかった。
「それにしても、すっきりした医務室だね。」
七宮はガーゼで口元の血を拭いながら医務室の中を観察する。
医務室には最低限の物しかないようで、あとは梱包材にかこまれた戸棚や簡易ベッドなどが無造作に置かれていた。
内装も全て完備されるまでにはもう少し掛かるみたいだ。
「まだ準備中なのですっきりしていても仕方ありません。ですが、来月には備品も完璧に配置できる予定で……」
「知ってるよ。」
クライトマンの妹、リュリュのありがたい説明を途中で遮ると、今度は兄のリオネルが話しかけてきた。
「知ってるなら訊くな。……それはともかく、嫌な予感を見事に的中させてくれたな、七宮。」
「それほどでもないさ。」
リオネルは椅子に座る僕の背後にいて顔は見えない。だが、声だけで彼の感情は手に取るように理解できた。簡単に説明すれば、呆れが7割、怒りが3割といった所だろう。
原因が僕なのには間違いないが、直接的な原因はあのアザムなので、リオネルも僕を強く責められないみたいだ。それに、僕をこの式典に招待したのはリオネル本人なのだ。原因の一端は彼にもあると言っていい。
僕が3枚目のガーゼを口元にあてた時、リオネルは悩ましい口調で話しかけてきた。
「いいか七宮、ダグラスの闇を暴いたのは正しい行いだ。でも、それが万人とって良い選択だったとは限らない。」
「そうかもしれないね。でも、少なくとも僕は良かったと思ってるよ。」
暴走VF騒ぎに巻き込んでしまった彼に向けてそう言うのも気が引けたが、頭のいい彼ならダグラスを潰した僕の気持ちも理解してくれるはずだ。
事実、クライトマンもダグラスから色々と嫌がらせを受けていたのは確認済みだ。程度こそ違えど、僕とリオネルの思いのベクトルにそれほど違いはない。
「……これから大変だぞ、七宮。」
「分かってるさ。」
僕に同情しているのか、それとも哀れんでいるのか。どちらにしても、これから僕が……七宮重工が進む道は、栄華の裏に闇を孕む危険な道になるのは確実だった。
VFを兵器として扱う以上、これは避けて通れない道なのだ。
……しばらくするとリオネル白いマントを翻し、こちらから離れて医務室の出口に向かい始める。
「悪いが、ここで大人しくしていてもらう。またトラブルが起こるといけないからな。あと、部屋の外にリュリュを置いておくから、何かあったら言うといい。」
去り際にそう言われたが、要らぬ世話だった。
「ありがとう。でも必要ないよ。」
こちらの返事にリオネルは納得いかない表情を見せたが、その表情も妹のリュリュの報告によって元通りになる。
「お兄様、ミリアストラ様がいらっしゃってるんですが。」
「ミリアストラが……?」
ようやく医務室まで来てくれたようだ。ミリアストラ君がいれば人払いに困らないし、式典が終わるまで医務室でゆっくりとくつろぐことができる。
リュリュを残した目的の中には僕の動向を監視することも含まれているに違いないので、これで無駄なことに気を割く必要も無くなるというものだ。
ミリアストラ君が医務室に入ってくるのを確認しつつ、僕は重ねてリオネルに告げる。
「監視してなくても別に変な気は起こさないよ。暫くはここで休むつもりだから安心していい。ほら、折角の式典に施工主がいないと駄目だろ?」
そこまで言うとリオネルも諦めたのか、再び歩を進めて医務室の外に出ていく。
「今はその言葉信じてやる。……行くぞリュリュ。」
「はい、お兄様。」
リュリュもこちらを一瞥すると、すぐに医務室から去って行った。
これで医務室内は静かになり、七宮は背もたれに体重を預けて、ため息を吐きながら顔を上に向けた。
すると、ミリアストラ君が嬉しそうに怪我について言及してきた。
「へー、殴られたんだ。……アンタが避けられないって相当よね。VFBでもほとんどの攻撃は避けられてたのに。」
「正直な話、敵意を持った人に殴られたのは初めてかもしれないよ。」
すぐに返事をして、ミリアストラ君のいる方に顔を向ける。僕が負傷したのが余程珍しいのか、ミリアストラ君はかなりの近距離からこちらの顔を興味津々に覗き込んでいた。
七宮は視界の半分を占めているミリアストラの顔をぼんやり眺めつつ、率直な感想を述べる。
「やっぱり本気で殴られると痛いよ。それに、VFと違って生身だと心にも響くね……。」
ランナーの皆から反感を買うのは覚悟していたが、あそこまで露骨に暴力を振るわれたのは想定外だった。でも、反撃しないで素直に受け止めたのは正しい判断だったはずだ。
少し感傷的に話すと、急にミリアストラ君はこちらから離れて背を向け、先ほどの兄妹と同じように医務室から出て行く仕草を見せた。
早速通路に出て医務室に人が来ないように見張りをしてくれるらしい。
とは言え、今の今まで気さくに話していたのにいきなり何だろうか……。
取り敢えず本人に理由を訪ねようとしたが、こちらが声を掛けるよりも先にミリアストラ君が短い言葉を発した。
「誂うのはこれくらいにしておくわ。……アタシ、外にいるわね。」
僕が落ち込んでいるとでも思っているに違いない。
まぁ、痛みのせいでげんなりとしているのは事実だが、僕の精神状態は至って正常だ。しかし、これ以上ミリアストラ君と話すのも面倒だったので、そんな彼女の提案を受け入れることにした。
「ああ、そうしてくれるとありがたいね。」
そう答えると、ミリアストラ君は返事をすることなく部屋の外に出ていってしまった。
医務室で一人になり、七宮は思い出したように口元からガーゼを離す。もうガーゼに血はついていない。思ったよりも傷は浅かったみたいだ。
七宮は早速消毒をするために医務室の棚を漁ってみる。しかし、医療の知識に乏しい七宮が適切な薬を見つけるのは無理に近かった。
(消毒液って口の中に入れても大丈夫なんだろうか……)
根本的な疑問について考えていると、部屋の外から何者かの声が聞こえてきた。
「――ここに七宮がいるんだろう? 会えないかな。」
それはミリアストラ君に対して言った言葉であり、すぐに彼女の返事も聞こえてきた。
「そうよ。でも駄目、通してあげない。あの時アタシを踏んだこと忘れたとは言わせないわよ。」
いつものミリアストラ君なら問答無用で追い返してしまうだろうに、何故か今日は言い合っている。話の内容からして、ミリアストラ君と知り合いなのかもしれない。
少し気になって通路側の様子を見ようかとドアに近づくと、“カチッ”という小さな音が聞こえた。それは銃の安全装置を解除した時に発せられる音だった。
それに続けてミリアストラ君の警告がドア越しに聞こえてきた。
「通りたかったらアタシを……いッ、イタタタ!! まだ何も言ってないじゃない!!」
だが、その警告は途中で痛みに耐える声に変わってしまった。
「スタンガンなんか食らったら今度こそ昇天してしまうよ……。悪いけど、通してもらうよ。」
「ちょっ、駄目……」
ミリアストラ君の制止も虚しく、勢い良くドアが開いて男が医務室内に侵入してきた。
それはこちらの予想通りイクセルであり、入ってくるとすぐに僕に屈託の無い笑顔を向けてきた。
その笑顔を保ったままイクセルはドアに鍵をかける。その後、外から激しいノックの音が聞こえたが、それも数秒で収まってしまった。
イクセルが来たなら教えてくれても良かったのに、ミリアストラ君も色々とイクセルに思う所があったのだろう。
ノックの音が止んで静かになると、イクセルが先ほど式典会場での騒ぎについて触れてきた。
「……一部始終見てたよ。わざと嫌われ者になるなんて、七宮も辛い選択をしたね。」
「変に感謝されるよりよっぽどいいさ。」
返事をしながら七宮は医務室の奥にある椅子に座り直す。
すると、イクセルも近くにあったベッドに腰を下ろした。ベッドと言ってもまだマットレスはなく骨組みだけの状態だったので、座り心地はかなり悪そうだ。
幸いこちらの椅子はキャスター付きだったので、イクセルと近くで話すためにベッドのある位置まで移動する。地面を蹴ると椅子は音もなく医務室内を移動し、ベッドの前でピタリと停止した。
「さてイクセル、僕に何の用かな?」
「いやあ、パンチが見事に顔面にヒットしたから少し心配になってね……。ちょっと見てもいいかい。」
イクセルはベッドの骨組みに座ったまま上半身をこっちに傾けて顔を寄せ、こちらの頬を観察してくる。
その際、微かに薬品の匂いが鼻に届いてきた。医務室内には薬は殆ど無いので、これはイクセルから発せられてる匂いに違いない。……やはり、イクセルはまだ病院に通っているみたいだ。
ちょっとした心臓病かと思ったのに、治療にはまだまだ時間が掛かるらしい。もしかすると、このまま一生治療を続けないといけないのかもしれない。
そう思うと、イクセルがVFBで最強と呼ばれていた『イクセル』とは思えなくなり、急に物悲しくなってきた。
そんな気持ちを紛らわせるために、目の前でこちらの頬を見ているイクセルに対し、近距離から話しかけてみる。
「そうだ……ルールの変更は気に入ってくれたかい?」
遠隔操作での試合参加の事を話すと、イクセルは満足気に頷いた。
「ああ、引退して何をすればいいか本気で悩んでたからね。また試合に出られるのは嬉しいよ。……それに、オルネラの期待は裏切れないかな。」
口ではそう言っているが、そこまで嬉しそうな表情をしていない。もしかしてお節介だっただろうか。実はもう試合なんかしないで家でゆっくり過ごしたいのかもしれない。
(イクセル、本気で引退するつもりだったのか……?)
柄にもなくそんな事を思っていると、イクセルが再び口を開いた。
「病気は嫌だね。体だけじゃなくてやる気も衰えちゃうんだから。……でも頑張るよ。今はツルカと練習するのも楽しいし。」
そう言ってイクセルは力なく笑う。
そんな気力のない笑顔を見ながら七宮は少し誂うつもりで呟く。
「なんだいイクセル、もうすっかり定年退職後のじいさんみたいになってるじゃないか。」
「一気に年を取ったと僕も自覚してるさ。事実、そこら辺のおじいさんよりも体力がないんだから仕方ないよ……。」
それだけ言ってイクセルはこちらの頬を観察するのを止めてベッドから立ち上がる。
「本当に真正面から拳を受け止めたみたいだね。」
「自分でもよく気を失わなかったと思うよ。」
七宮も自分の頬を撫でながら椅子から立ち上がり、イクセルと向き合う。
すると、その場でイクセルは周囲を見渡し、急に突飛なことを提案してきた。
「そうだ、ここで一緒に何か呑もうよ。ジュースでも貰ってこようかな。」
どうせ上には戻れないのだし、ここで小さな宴会を開くのは賛成だった。しかし、飲み物に関しては異論があった。
「ジュース? シャンパンの方が良くないかい。」
「ドクターストップが掛かってるんだ。それに、今なら酔わなくても十分に会話を楽しめると思うんだけどな。」
「それもそうだね。……本当に君は憎めない男だよ、イクセル。」
1年前のことなど無かったかのようにイクセルは僕の事を相変わらず信用してくれている。まるで全てを受け入れる聖者のようである。聖者でなければ疑うことを知らないただの馬鹿だ。でも、こんな馬鹿だからこそオルネラもイクセルのことを好いているのだろう。
包容力があるとでも言えばいいのか……。VFBでのイクセルの異常な人気もこんなところから来ているに違いない。
そんな馬鹿の顔を眺めていると、急に銃声が聞こえ、医務室のドアのドアノブが吹っ飛んだ。続いてそのドアも蹴破られてミリアストラ君がダイナミックに侵入してきた。
「今すぐ出ていけイクセル!! 今度は本気で撃つわよ?」
ノック音が聞こえなくなった時、空気を読んで諦めてくれたのかと思ったが、どうやら拳銃を調達するためにどこかに行っていたみたいだ。
いくらイクセルに敵対心があるとはいえ、ここまで派手に登場することもないのに……。
でも、いいタイミングだった。
「ちょうど良かった。ジュースとコップを貰ってきてくれないかい。」
無下に追い出すのも勿体無かったので、七宮はミリアストラを使いっ走りに使うことにした。
命令を受けたミリアストラは怪訝な表情で七宮を見つめる。
「え? ジュース……?」
「僕は施工主から上の会場に行かないように注意されてるし、イクセルも疲れてるみたいだからね。君なら楽に取ってこれるだろう?」
銃を構えたまま呆然としているミリアストラ君に頼むと、僕と同じようにイクセルも彼女に声を掛ける。
「そういう事だから、悪いけど頼んでもいいかな。」
銃を向けている男にまで頼まれてしまい、ミリアストラ君は呆れて物も言えなくなったのか、銃を下ろして大きくため息をついた。
「なんなのよ……。」
そして不機嫌そうに呟くと、ミリアストラは銃を投げ捨て、すぐに踵を返して部屋から出ていった。
しかし、数秒もしないうちに医務室に戻ってくる。
「どんなジュースがいいの? アタシ、そんなに多くは運べないわよ?」
「適当でいいよ。イクセルもそれでいいね?」
振り向いて確認すると、イクセルは小さく頷いた。
「そうだね、ジュースならなんでもいいよ。」
「ミリアストラ君、そういう事だから……」
こちらがイクセルから了承の言葉を受け取った時、既にミリアストラ君の姿はなかった。
仕事が早いミリアストラ君に対し、イクセルは腕を組んで彼女を褒める。
「わざわざ種類を確認してくれるなんて、良い人じゃないか。」
確かにその通りだが、その彼女に銃を向けられた人間が言うセリフではないような気がしていた。
4
諒一に連れられ、結城はアリーナの端まで移動していた。
ここまで来ると会場の人々の声はほとんど聞こえない。代わりに聞こえてくるのは波の音と風の音だ。いつも潮風は絶えず吹いているものの、特別に今日は強いような気がする。
今いる海上アリーナに何も障害物がないので、余計に風が通りやすいのかもしれない。
(急に突風とか吹かないでくれよ……。)
柵がないので少々不安だが、落ちても落下防止用のネットがあるので命までは落とさずに済むだろう。
暫くその場で佇んで海を眺めていると、隣にいる諒一が話しかけてきた。
「……少し、出すぎた真似をしたかもしれない。こんな場所まで結城を連れてくる必要は無かった。」
諒一を見ると、後頭部に手を当てていた。相変わらずの無表情だが、先ほどの騒ぎのことを思い返しているみたいだ。
あの時、諒一の機転がなければ乱闘騒ぎになっていたかもしれない。なので、あのセリフはみんなを助けたとも言える。それに、私を連れ出したことに不満はなかった。
「いいよ。みんなと話すのも面倒だと思ってたし。」
「本当か?」
「本当だ。」
無理して嘘を言っているわけでもないので堂々と諒一に言うと、諒一は後頭部から手を離して海に目を向けた。
そんな諒一に今度は私から声を掛ける。
「……海、広いな。」
「ああ、ついでに大きいな。」
適当な言葉をこちらに返すと、諒一は姿勢を崩してその場に座る。
結城も同じように座ろうかと試みたが、ワンピースが汚れるのが嫌だったので立ったままでいることにした。
結城は座るかわりに両手を水平に思い切り伸ばして深呼吸をする。すると自然とあくびが出て、肩や背中の骨からポキポキという音が発生した。やっぱりこういう格好をしていると自然と体も緊張するみたいだ。
尚も海を見つめたまま結城は何となく話す。
「毎日眺めてるから感動も薄れてきちゃったな……。諒一もそう思うだろ?」
同意を求めるように言ったのだが、諒一は全く別の事を思っているらしく、あまり関係のない言葉が返ってきた。
「もう海上都市に来てから4年か……。」
4年と聞くと長く感じるが、実際の体感時間はその半分以下くらいだ。ここにいるのが当たり前のように思えるし、私もすっかりここの住人になったということなのだろう。
そんな事を思っていると、不意に強い潮風が吹いた。
その風は私の股下を抜け、ワンピースのスカート部分を盛大に捲り上げてしまう。
「……うわっ!?」
結城は慌てて前側を押さえたが、それだけではあまり意味がなく、逆に背中部分が大きくめくれてしまった。
胸のすぐ下の位置に帯状のリボンがあるので何とかそこで押し留まっているものの、間違いなく下半身は丸見え状態だった。
どうすることもできず、困り果ててあたふたし始めたその瞬間、諒一が腰のあたりを押さえてくれた。それでスカート部分は再び私の下半身を隠す位置まで戻り、何とか風のいたずらを鎮めることができた。
当たり前のように諒一には見られてしまったが、それは全く問題ない。
しかし、諒一は腰を押さえたまま手を離さず、両手で私の腰回りを測り始めた。
「案外細いんだな、腰。」
「なっ、何して……!!」
至極真面目に言う諒一に対して文句を言おうとすると、近くに人の姿を見つけた。
人がいないからここまで来たというのに、なぜこうもタイミングよく現れるのか……。
とにかく、こんな場面を見られては恥ずかしいと思い、結城は諒一の腕を掴んで腰から離した。
それとほぼ同時に丁寧な口調の挨拶がその人物から発せられる。
「こんにちは、ミス・タカノ。……いや、その様子だとミセスになるのは近いかもしれませんな。」
「ローランドさん!?」
冗談交じりに話しかけてきたのはローランドさんだった。
フライトジャケットが恐ろしいほどよく似合っているローランドさんは、背後に手を回した状態で悠々と歩いてくる。
邪魔されたような、助けられたような、複雑な感情を胸に抱きつつ結城は先ほどのセリフに関してコメントする。
「ミセスだなんて、誂わないでくださいよ……」
スカートが捲れてからの一連のやり取りを見られていたのだろう。そう思うと急に恥ずかしくなってきた。
私に遅れて諒一もローランドさんに挨拶する。
「こんにちは。こんな端にまで来て、何か用ですか?」
諒一は特に動揺することなくローランドさんに用件を伺う。すると、ローランドさんの口から意外な言葉が発せられた。
「……実は、タカノユウキにお別れを言いに来たんですよ。」
「お別れ……?」
全く予想だにしていなかったセリフに、私だけでなく諒一も驚いたようだ。私と同じように固まったままローランドさんに顔を向けていた。
ローランドさんは会話するにしては少し遠い場所で足を止め、続けてその理由を説明し始める。
「ようやくボリスとエルマーの開発が再開されるみたいですから、国に帰って本格的にテストパイロットをする予定です。また戦闘機に乗れるかと思うとワクワクしますよ。」
随分あっさりとした理由だった。
スカイアクセラは元々戦闘データを収集するために作られたチームなので、その役目を終えたということなのだろうか。
「やっぱり、VFランナーにはならないんですか……。」
このままパイロットを捨ててVFランナーに転職して欲しい気持ちもあったが、無理なのは分かりきっている。
なぜなら、ローランドさんは戦闘機を愛しているからだ。
「なかなか楽しかったですが、やはり私には向いてません。……それではお達者で。活躍期待していますよ。」
それだけ言うとローランドさんは踵を返し、中央に向けて帰っていった。
わざわざ私なんかに報告した理由が分からなかったが、私に引き止めて欲しいというわけでもないだろう。
「……結城、十分時間は取れたし、そろそろ戻ろう。」
ローランドさんの行動をきっかけにして、諒一もこちらの手を引いて式典会場に移動し始める。
「うん、わかった。」
結城は短く返事をして、諒一の言葉に従うことにした。
――式典会場に戻り、結城たちはランベルトと鹿住がいるテーブルに返ってきた。
テーブルの上の料理はほとんど無くなっており、2人がずっとテーブルに張り付いていたことがうかがい知れた。
私と諒一が近寄るとようやく存在に気がついたのか、口をモゴモゴさせながらランベルトが質問してきた。
「さっき騒ぎがあったみたいだけど何だったんだ?」
「ちょっとした喧嘩です。七宮が殴られましたが、もう収まりました。」
諒一が簡潔に説明すると、それに対して口元をハンカチで拭いながら鹿住さんが反応する。
「そうでしたか。やはり七宮さんはどこでもトラブルの種になるんですね。困った人です。」
軽い口調で発言している間も鹿住さんはテーブルの上にある料理から目を逸らすことはない。その揺るぎのない言動に呆れつつ、結城は質問を返す。
「……で、2人は何してたんだ。まさかずっとここで料理を食べてたのか?」
「そのまさかだ。別にやることもねぇし、別に料理食べててもいいだろ。」
「やはり、お日様の下で食べるのはいいものですね。結城君もどうですか。」
鹿住さんはそう言ってテーブルの上の料理を差し出してきた。
結城は差し出された料理から一旦視線を外し、テーブルを見る。
上品なテーブルクロスの上には、数は少ないものの一口サイズのフルーツや簡素な肉料理が並べられていて、どれも美味しそうだった。
「そこまで言うなら……。」
結城は鹿住が差し出したお皿を受け取り、そこに載っていたフルーツを指でつまんで口に運ぶ。
「ん!!」
(美味しいぞこれ……。)
太陽の熱に晒されていたというのにまだひんやりとして美味しい。甘味も強くてみずみずしい。いくらでも食べられるかもしれない。
ツルカも食べているんだろうか、ふとそう思い、結城は口の中の物を咀嚼しながら視線を周囲に向ける。
しかし、ツルカの姿は見当たらなかった。
さっきまでこの近くにいたと思っていたのだが別の場所に移動したのだろうか。
「ねぇ、ツルカ知らない?」
その場にいる3人に訊いてみると、すぐに鹿住さんが答えてくれた。
「それでしたら、先程オルネラさんと一緒にハンガーに行くと言っていました。」
こんな時にハンガーに用事があるだろうか……いや、ない。
となると、ツルカがハンガーに行く理由は一つしかなかった。
「施設内部の下見か……。」
内装工事は済んでいないが、やはりランナーとして自チームのハンガーは見ておきたいのかもしれない。
鹿住さんも私の意見に同意してくれた。
「そうみたいですね。単にこの場所に飽きたのかもしれませんが……。」
「あ、やっぱりそっちの方が納得できるな。ツルカってこういう場所は苦手みたいだし。」
私ですら退屈なのだから、ツルカにとってこの式典はかなり詰まらないイベントだと簡単に予想できる。最近身長も伸びてきて顔つきもちょっと変わったと思っていたが、まだまだ子供みたいだ。
……と思っていると不意に地面が揺れた。
(なんだ……?)
それは付近全体に及んだらしく、他の人達も何が起こったか理解できずに周囲に目を向けていた。
揺れはすぐに収まったものの、それからしばらくしてリフトの駆動音が聞こえてきて、アリーナにVFが出現した。
一体誰がこんな事をしているのか……。考えるまでもない。
「あぁ……ハンガーに行ったのはこれのためか……。」
ゆっくりと床の下から出てきたのはファスナだった。もちろん操作しているのはツルカに違いない。
ファスナは胸元まで出てくると、リフトが上昇し切る前にその場で跳び上がり、豪快にアリーナに着地した。
その時の衝撃は先程よりも強く、テーブルの上に乗っていたグラスが倒れて溢れてしまう。
ランベルトと鹿住さんはテーブル上の料理を死守しており、諒一は両手いっぱいにグラスを持って揺れに耐えていた。
それからファスナはアリーナ上をふらふらと歩行し始める。
そんなファスナの外部スピーカーから聞こえてきたのはツルカの呑気な声だった。
「あはは、ひろーい。」
その声の後、ツルカは遠慮無くファスナを操作してアリーナを自由に走り回り出した。
わざとやっているのか、それとも私たちの存在に気付いていないのか、ファスナは一つでも操作を間違えれば人を踏み潰してしまいそうなくらい近い距離を走り抜けていく。
それを見てランベルトが私に無理な命令を下した。
「おい嬢ちゃん、早くあいつを止めてこい。このままだといつか踏み潰されちまうぞ……。」
「止めるって言ったって、何であんな事してるか原因が分からないと……」
ツルカに限って悪意を持ってやっているわけがないと思ったが、テーブルの上に乗っているシャンパンを見て嫌な予感がした。もしかしてツルカは……
「……酔ってるんじゃないか?」
それ以外にツルカがこんな無茶なことをする理由が思い浮かばない。
アルコールに酔っていると考えるのが自然であった。
「くそ、ツルカの奴間違えて酒飲みやがったか……。」
私の考えに合点がいったのか、ランベルトはファスナを強制的に止めるべく行動を開始する。
「おいカズミ、リョーイチ、ジェネレーターを止めに行くぞ!!」
ランベルトはエンジニア2人の名を呼んで走り出したが、呼ばれた2人はその場から一歩も動かなかった。
「ジェネレーターを止めたって無理ですよ。あれは廃止されてVFの動力源は全てバッテリーに移行しましたからね。……でもリーグが始まれば緊急停止装置も組み込まれますし、問題ありません。」
堂々と言い放つ鹿住さんに対し、結城はすかさずつっこみを入れる。
「鹿住さん、つまりそれって……」
「今は止める方法がありません。ここから逃げましょう。」
「やっぱり……。」
――その後、会場にいた人々は蜘蛛の子を散らすようにアリーナ上から施設内に避難し、完成式典は散々に終わってしまった。
5
「チェックできたか、結城。」
「うん。」
海上アリーナ内、アール・ブラン専用のハンガー、アカネスミレのコックピットで結城は最終システムチェックを行なっていた。本来ならばスタッフが行うところだが、直接操作に関わるところなのでランナー自らやっているわけである。
このチェック作業も手慣れたものだ。だが、特に今日は入念に行なっていた。なぜなら今日は新生VFBの初試合の日だからだ。一つの不具合もあってはならない。
しかも組み合わせは私達アール・ブランとキルヒアイゼンというトップチーム同士だ。記念すべき初試合にこんな組みあわせになるとは……。対戦表を作成した人間には感謝しておこう。
「諒一、こっちはいいけどそっちはOKなのか?」
結城は本日5度目の確認の言葉を諒一に送る。
コックピットから覗いてみると、諒一はアカネスミレの足元で工具を広げて作業していた。もうすぐ試合だというのに今更何をしているのだろうか。
再び声を掛けようとすると、それと同時に別の場所からも諒一に話し掛ける声が聞こえてきた。
「リョーイチ、そっちのチェック終わったのか?」
そう言ったのはピアスだらけの男子学生……いや、今はピアス控えめの新人エンジニアのニコライだった。
彼は卒業後はダグラスで働く予定だったのだが、そのダグラスが潰れてしまったので諒一の紹介でここに来た訳だ。やっぱり顔見知りがいてくれるとこちらとしても安心できる。
ニコライの質問に対して諒一は作業しながら対応する。
「何度も言うが完璧だ。各部位のチェックももうすぐ終わる。……それより『ディアンサス』は?」
諒一が言葉を返すと、今度は筋骨隆々の新人エンジニアがそれに受け答える。
「ディアンサスはカズミさんが最終チェックしてくれてる。それに、俺達がいなくても一人で全部やってしまうだろうさ。」
「そうだった。心配する必要もないか。」
大きいサイズの作業服をきつそうに着ているのはジクスだ。
彼は帰郷して地元のVFBチームで働いていたらしいのだが、向こうでも規制が強くなってしまって結局戻ってきたらしい。今はニコライと一緒に新しいVF『ディアンサス』のメンテナンスを担当してくれている。
(ディアンサス……鹿住さん、たった1年で新しいVF作っちゃうんだもんな……。)
遠隔操作用に最適化されたVF、それがディアンサスだ。
基本的な外見はアカネスミレとさほど変わりないが、ランナーの安全を気にしなくていいので、余計に兵装を搭載している。また、コックピットも存在しないので軽量化できるし、鹿住さんはディアンサスに無茶苦茶に機能を詰め込んでいるのだ。言わばやりたい放題である。
安全確保という前提条件が無いので、気楽に開発できたに違いない。
……そして、そのディアンサスに乗るのは槻矢くんだ。
団体戦になって新しいランナーを雇うことになったわけだが、その時にこちらの条件を満たしたのが槻矢くんしかいなかったのだ。というか、槻矢くんしかアール・ブランの条件を飲んでくれなかった。
ランベルトは暫くは見習いということで様子見すると言っていたが、力量からしてこのままアール・ブランのランナーになるのは間違いない。槻矢くんもそれを望んでいる。
私としても変に気取ったプロのランナーよりもずっと付き合いやすいので大歓迎だ。
ちなみに、もう一体のドローンは今は保留状態である。どのチームも優秀なランナーを取り合っているのでなかなか見つからないらしい。
優勝チームなので黙っていても向こうから来てくれるだろう、と高を括っていたのが駄目だったのかもしれない。ファンはともかく、プロのランナーの殆どはアール・ブランが優勝したのはまぐれだと思っている。それに、金欠なことで有名なチームに誰がこぞって入りたがるものか。
安い給料で納得してくれた槻矢くんに感謝していると、本人が視界に入ってきた。
私と違って槻矢くんは遠隔操作するだけなので、ランナースーツ姿ではなく、Tシャツに膝下までのミドルパンツという楽な恰好をしている。パッと見ではハンガーに迷い込んできたVFBファンの少年にしか見えない。
槻矢くんは慌ただしく走ってくると、こちらに来ていたニコライとジクスに向けて伝達する。
「2人ともこっちに来てください。どうやらチェック中にミスが見つかったみたいで、鹿住さんが呼んでます。」
「マジか……今行く。」
ニコライとジクスは急に真面目な表情になり、3人は連れ立ってディアンサスの固定ケージに駆け足で向かって行った。
コックピットからディアンサスがある場所に目を向けると、慌ただしく動く鹿住さんの姿が見えた。やはり機能を詰め込んでいる分だけ複雑になっているのだろう。
試合までに修復が間に合えばいいのだが……。
「無人機は色々と勝手が違うみたいだな。」
何気なく言うと、諒一から言葉が返ってきた。
「……それに、人が乗らないからチェックも甘くなってしまうんだろう。」
なるほどそれも一理ある。
ランナーの事を考慮しなくていいということは、戦闘のためにVFを極限までカスタムできるということでもある。
そう考えると、急にディアンサスが素晴らしいVFのように思えてきた。
「あっちも操作してみたいな……。」
思わず本心が口から漏れてしまった。すると、すぐに否定の言葉が近くから発せられた。
「無理無理、ツキヤが慣れるまで暫く嬢ちゃんはアカネスミレにしか乗れねーぞ。」
それはランベルトだった。
ランベルトは工具を持って登場すると、そのまま自然に諒一と一緒にチェック作業をし始める。しかし、ほんの数秒足らずで私に世間話を持ちかけてきた。
「そうだ、こっちのハンガーに来る前に旧スタジアムを覗いてみたんだが、前より観客の数が多かったな。1年間宣伝して回った甲斐があったってわけだ。」
結城は見事にその話に食いついてしまう。
「そんなに多かったのか?」
今回から、基本的にファンは旧スタジアムで巨大モニターを見ながら観戦することになっている。映像を見るだけなら別にスタジアムに集まらなくていいと思うのだが、やはり同じ空間でみんなで観戦するというのが重要みたいだ。
そんな観客の多さに関して、諒一が淡々と説明する。
「今まで世界各地でやってた2NDリーグと1STリーグ、上位リーグが全部ここに集まったんだ。全体数が多少減ったとはいえ、ファンが集中するとこうなるのは当たり前だ。」
「じゃあ、みんなわざわざここまで来てくれたってことか……。」
ファンの数と同じく、全体的なチーム数も減少している。だが、新設リーグの参加チーム数は増加しているし、それと似たような現象と言っていいだろう。
それに、小さなチーム同士がくっついたり、スポンサーが同じようなチームも合併したりして、賑やかさは以前に増しているはずだ。
「あ、言い忘れてた……。本当にドローンはツキヤ一人だけでいいのか? ルールだと2体までいいんだぞ?」
ランベルトは作業を止めてこちらに顔を向けてきた。
そんな今更過ぎる質問に結城は当たり前のように答える。
「うん、向こうのドローンもイクセル一人みたいだし、こっちも1体でいいだろ。」
「え? もしかしてツキヤにイクセルの相手をさせるのか!?」
「そのつもりだけど、駄目なのか?」
話は槻矢くんの操る無人機の采配の仕方に移行していく。
「駄目というか、ルール的には2人で一緒にリーダー機のツルカを狙うのがいいに決まってるだろ。」
「タッグバトルも面白いけど、連携は向こうのほうが圧倒的に練習積んでると思う。だからマンツーマンにしたほうが勝率は上がる。」
結城はランベルトの意見を否定し、更に説明し続ける。
「それに、イクセル相手に1体も2体も変わらないって。……そもそも、こっちには2体目のドローンどころか、肝心のランナーもいないし。」
「そう言えばそうだな……」
ランベルトが納得の言葉を呟くと、ほぼ同時にハンガー内のリフトが動き始めた。
リフトにはディアンサスが乗っていて、アリーナに向けて上昇していく。
ミスがあったと聞いたのに、あっという間に修正できたみたいだ。
「っと、もうこんな時間か……。」
ランベルトはディアンサスを見ると腕時計を確認し、工具を置いたままハンガーの出口に向けて歩き始める。
「じゃあ俺は先に司令室に行くから、早めにアリーナに上がっとけよ。」
「うん、リフトが戻ってきたらすぐに上がる。」
「……新生リーグでも優勝狙ってくからな。頼むぞ嬢ちゃん。」
最後にそう言い捨てて、ランベルトはハンガーから出ていった。
「言われなくてもそのつもりだって……。」
ハンガーの出口を見ながら呟くと、ランベルトと入れ替わるように鹿住さんがその場に現れた。ディアンサスに付き添って海上アリーナまで行ったかと思ったが、そこまでするつもりはないみたいだ。
「お疲れ様です鹿住さん。」
「そんなに疲れていませんよ。」
鹿住さんは先ほどの会話を耳にしていたのか、早速ドローンについて話しだす。
「やっぱりドローンは槻矢君だけですか……。『無人機はイクセルしか操作しない』と宣言したキルヒアイゼンもよっぽどですが、結城君も変な所にこだわりますよね。相変わらずです。」
褒められているのか、呆れられているのか、鹿住さんの表情からは読み取れなかったが、批判しているようには思えなかった。
鹿住さんが来ると、諒一も会話に参加してきた。
「どちらにしても今からもう一体準備するのは無理だと思います。……それより鹿住さん、一応アカネスミレもチェックお願いしていいですか?」
「諒一君がやったのなら心配ないですよ。」
諒一の頼みを断ると、鹿住さんもランベルトと同じようにハンガーの出口に向かう。私達に声を掛けたのも外に出るついでだったのだろう。
歩いて行く鹿住さんを目で追うと、鹿住さんは自身の行き先を教えてくれた。
「私は遠隔操作用の部屋に行って槻矢君をサポートします。かなり緊張しているみたいでしたからね。操作を間違えると大変ですから。」
それを聞き、結城は咄嗟に槻矢に言伝を頼む。
「あの鹿住さん、槻矢くんに気楽に対戦するように伝えといてくれませんか?」
「ええ、むしろ盛大に壊してくれたほうが修復とメンテナンスの訓練になりますし、当たって砕けろとでも言っておきます。」
そこまで言わなくてもいいのだが……、まぁ鹿住さんに任せておこう。
「何かあったらすぐに通信機に連絡を下さい。それではまた後で。」
鹿住さんはその言葉を最後に会話を終わらせ、ハンガーから姿を消した。
(槻矢くんもスタンバイしてるってことは、もうすぐ試合か……。)
――ハンガー内で2人きりになり、私はぼんやりと諒一を眺める。
諒一はまだチェックを続けていて、手元にあるコンソールを忙しなく操作していた。
(よく働くなぁ……。)
私と諒一の関係は今まで通りで、あまりこれといった変化はない。諒一は相変わらず私の事をよく見てくれているし、私も諒一の好意に甘えている。
もともと家族というか、兄妹か姉弟のように接していたので、これ以上の理想の付き合い方はないのだが、何と言うか……もっと恋愛してみたい気はする。
(私がアプローチしないと諒一は何にもしてくれないからなぁ……。)
諒一から迫って来るという経験は未だにない。あの事故の時に私がキスしなければ未来永劫昔どおりの付き合いしか出来なかっただろう。
この1年間私も結構頑張ったのに、私が何もしなければ諒一の反応は昔のままだ。
……もしかして、諒一は私の事を恋人として捉えてないのではないだろうか?
人工呼吸の後は大好きだとか愛してるだとか言ってくれたが、あれ以降は一回もそんな言葉を言っていない。考えてみれば、あの時の言葉も聞き間違いだったのかもしれない。
急に不安になり、結城は作業中の諒一に話しかける。
「なぁ諒一、試合前のこんな時で悪いんだけどさ。……私達って恋人同士だよな?」
「急にどうした。」
恋人という言葉に反応し、諒一は作業の手を止めて顔をこちらに向けてきた。
その無表情な顔面を見ながら結城は続けて言う。
「いや、なんか結局ラボでしか会えてないし、デートとかも全然してないし、そりゃあ、鹿住さんから教えてもらうことがいっぱいあるから時間がないのは仕方ないけどさ……。これだと前とあんまり変わってないな、とか思ってさ。」
「……。」
「諒一も私のこと恋人だって思ってくれてるんだよな?」
諒一は眉ひとつ動かすことなく私の言葉を聞いていた。……が、私が話し終えると無言でコックピットまで登ってきた。
一体何をするつもりなのだろうか、不安半分期待半分で待機していると、諒一はコックピット内にある通信機に宣言し始める。
「俺と結城は恋人同士です。――結婚を前提に付き合ってます。」
「え……諒一、あの……。」
不意打ちに等しいセリフを告げられ、結城はどう反応していいかわからなくなってしまう。
もちろんその言葉は通信機を通してチームメンバー全員に届いており、間を置くことなくメンバーから返事が返ってきた。
「今更なんだ? くだらねーことで通信すんな。どうせ嬢ちゃんに無理矢理言わされたんだろ……。嫌だったら断っていいんだぞリョーイチ。」
「どうしたリョーイチ、通信テストなら大丈夫だ。ちゃんとアリーナにも届いてる。」
「ジクスに同じくこっちも感度良好。……って、試合前にノロケてんじゃねーよ。」
「え、あの、諒一さん結城さんおめでとうございます。けけ、結婚っていうのは、その……」
「急にどうしたんですか諒一君。ただでさえ試合前で緊張しているのに、さっきの通信のせいで槻矢君が混乱しかかってますよ。……と言いますか、改めて当たり前のことを言わなくても……」
みんなには“私と諒一が付き合っている”という事が“地球は丸くて青い”と同じくらい当たり前に認識されていたらしい。
悟られないようにしていたつもりだったが、全く意味がなかったみたいだ。
メンバーからの返事が来ると、諒一は通信を切って私に語りかけてきた。
「こういうことだ。誰がどう見ても間違いなく恋人同士だ。こんな事で悩むなんて結城らしくない。」
「こんな事って言うけどさ。諒一、全然変わってないし……。」
メンバーが私達をどう思っていようと関係ない。問題は私と諒一2人の思いなのだ。
私は諒一の気持ちが知りたいのだ。
そう思いつつ、間近にある諒一の顔を見つめていると、諒一の口が小さく動いた。
「……変わってないわけがない。」
そう聞こえたかと思うと諒一は笑みを浮かべ、顔をこちらに寄せてくる。
そして、私が反応する暇もなくおでこに軽くキスしてきた。
「っ……!!」
生まれてから一度もそんな事を諒一からされてなかった結城は、あまりの出来事に言葉も出せないほど驚いてしまう。例えそれがおでこだったとしても、驚きに変わりはなかった。
諒一のキスは長い間続き、そのまま呆然と受け入れていると、ハンガー内にリフトが戻ってきた。
その到着音に反応し、諒一は私のおでこから唇を離す。
「そろそろ試合が始まる。頑張って。」
諒一も流石に恥ずかしかったのか、無表情ながらも頬が赤らんでおり、それを見られないようにするかのごとく、こちらの頭を押してコックピットのハッチ閉めようとした。
しかし、結城は咄嗟に諒一の頭を掴んで引き寄せ、今度は唇にキスを返す。
勢い良く掴んだせいで諒一の首からグキリという音が聞こえた気もするが、キスを止めることはなかった。
結城のキスは諒一とは違ってほんの3秒で済み、結城は諒一に目を合わせることなく短く返事をした。
「……うん、頑張る。」
そして、結城は真っ赤になった顔を隠すためにHMDを素早くかぶり、そのままコックピットのハッチを閉じてアカネスミレを起動させる。
HMDには未チェックの項目が点滅していたが、もう2度も全体チェックを済ませているし、問題無いだろう。
諒一をアカネスミレのアイカメラで見ると、なにか言いたげな表情を浮かべていた。
だが、それを聞くのは試合の後だ。
(勝てるといいな……)
結城はすぐに諒一から視線を外し、リフトに向けて移動を開始した。
6
<皆さん一年ぶりです。さあ、ルールも新たに改変され、記念すべき新生VFBの幕開けです。>
海上アリーナに上がってまず聞こえてきたのは実況者の威勢のいい声だった。この声は2NDリーグ時代に聞いていた声で、多分テッドの物だろう。
そんな懐かしい声を耳にしつつ、結城は広いフィールドに目を向ける。
海上アリーナの向かい側に見えるのは2体のファスナだ。どちらも同じデザインで、外見からはメインVFとドローンの区別がつかない。
こちらの近くには先にリフトで上がっていたディアンサスがいる。すでにディアンサスは槻矢くんに操作されているらしく、私がアリーナに出ると小走りで近付いてきた。
ディアンサスが近くまで来ると、それに遅れて槻矢くんの声が通信機から聞こえてくる。
「結城さん、どっちがイクセルのVFなんですか?」
槻矢くんも私と同じ疑問を抱いていたらしい。
だが、今どちらに誰が乗っているかを知るのは意味のないことだ。
結城はすぐに槻矢に答える。
「すぐに分かるから大丈夫、槻矢君に攻撃してくるほうがイクセルだから。」
「そんな適当な……」
<それではチームとランナーの紹介をいたしましょう。>
槻矢くんの言葉の途中で実況者が試合を次の段階へ進めていく。
その実況者の声に反応し、槻矢くんも喋るのを止めてしまった。
<まずはチーム『キルヒアイゼン』!! メインVF、ドローンVF共に機体はファスナです。そしてメインVFにはツルカ選手が、ドローンにはイクセル選手が搭乗しています!!>
今頃遠くの旧スタジアムでは喝采が沸き起こっていることだろう。
2体のファスナはアリーナの周囲に設置されたカメラに向けて手を振っていた。
<続いてはチーム『アール・ブラン』!! メインVFは……>
実況者の紹介を聞き流しつつ、結城は物思いに耽る。
――きっかけは単純だった。
その時は夢が叶うなんて思ってもいなかった。
多くの人に支えられたからこそ、こんな私でもVFランナーになれて、しかもVFBで優勝できたのだ。
だけど、そんな事よりも今は楽しい。これから起こること、これからやれることを想像するだけで胸の高鳴りが抑えられない。
きっと今の私は世界で一番の幸せものだ。
最愛の人に支えられて、最高の舞台で、心ゆくまで最後まで対戦することができる。
これから先、いつまで試合できるかわからない。しかし、その時が来るまで毎回の試合を最大限に楽しむつもりだった。
いつの間にか紹介が終わったのか、実況者はルールについて話し始める。
<ルールは事前に説明した通り、相手チームのメインVFを機能停止させた方の勝ちです。今回からバッテリーの搭載が解禁されましたので、エネルギー管理も重要になってくるでしょう。また、ドローンに関しては……>
説明はいいから早く試合を始めたい。
ツルカやイクセルも同じ事を感じているのか、この時点で既にファスナは腕を回したり足踏みしたりと闘志を露わにしていた。
それに応じるように私もグレイシャフトを手の中でくるりと回す。
……やがて説明も終わり、実況者の真面目な声がアリーナに響く。
<両チームとも準備が整ったようです……。>
きっとこの先、私は素晴らしい試合を何回も何十回も何百回も経験することだろう。
今日がその一回目になることを結城は強く願っていた。
<それでは……試合開始です!!>
――実況者の掛け声の後、試合開始のブザーが鳴り響いた。
終わり
ここまで読んで下さり誠にありがとうございます。
無事に完結させることができました。
この後、VFBは衰退の一途をたどり、その規模もどんどん縮小していきます。技術が革新するに連れて、現実世界でのVFBに代わり、シミュレーションゲーム内でのイベントが人気を博すようになります。
現実世界でのVFは兵器として扱われ、仮想世界でのVFが今までのエンターテイメントの部分を担うことになるわけです。
また続きを書く機会があれば、次はそんな世界を描いてみたいと思っています。
これまで読んで下さった方、本当にありがとうございました。
2012/11/20追記
続編である『焉蒼のヴァイキャリアス』のURLを記載しておきます。http://ncode.syosetu.com/n6205bi/
同じキャラクターは登場せず、世界観だけを引き継いでいます。
是非ともこちらもよろしくお願いします。