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耀紅のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
終焉を越えて
45/51

【終焉を越えて】序章

 前の話のあらすじ

 1STリーグの最終試合、アール・ブランの優勝が決定してすぐに海上アリーナに4体のVFが出現し、サマルと共に暴走し始めた。結城たちは為す術もなかった。

 その一方で鹿住は七宮の真の目的を知り、それを阻止するべく諒一と共に動き出す。

 海上都市は運命の日を迎えていた。

序章


 1


 ある特定の状況――地震や火事、その他の自然災害や人的災害など……。

 そのような極限状態・非常事態に面した時にこそ、人の本性や本質といったものが現れるという。

 普段は強気で威張り散らしている人が、揺れが始まった途端に机の下に隠れて怯えてたり。いつも無口で弱気な人が、サイレンが鳴った途端に率先して避難誘導したりと、そんな例はよくある。

 しかし、結城の場合はそれに当てはまらなかった。

 いや、変化が見られなかったと言ったほうがいいだろう。

 結城は海上アリーナでVFが破壊行為を行うという異常事態に面しても、全く臆することはなく、むしろ果敢な行動に出ていた。

 その行動とは、暴走しているVFにアカネスミレで立ち向かうという、危険極まりないものだった。

「やめろ嬢ちゃん!! 救援が来るまでハンガーで大人しくしてりゃいいんだ!!」

 そう言って、アカネスミレに乗り込もうとする私の手を掴んだのはランベルトだ。

 5体も相手にして戦えないとでも思っているのだろう。実際に複数を相手にするのは難しいが、このハンガーで何もしないで怯えているのは性に合わない。それに、なるべく早く安心感を得たいという思いもある。

 もっと言うと、この異常事態に少なからず興奮していた。

 そんな事もあってか、私はその手を振りほどいてランベルトに言い返す。

「大丈夫だって、ちょっとアカネスミレに乗って様子見てくるだけだから。」

「それが危ないって言ってるんだろうが!!」

 あわよくば暴れているVF達を倒してヒーローになろうと考えていたのだが、ランベルトは私がそんな無茶をしでかすと予想しているらしい。実際にそう考えているのだから反論のしようもない。

(それにしても、この警報うるさいなぁ……。)

 施設内に警報が鳴り始めてから既に数分経っている。一体いつになったらこの警報は鳴り止むのだろうか。危険が排除されるまで鳴り続けるとするなら、かなり時間がかかることだろう。

 不安に感じていたサイレンの音も、慣れてしまえば不快な音にしか聞こえない。……が、これ以上聞き続けるのは我慢出来ない。

 外の状況を知ろうにも情報を得る手立ては何もなく、かと言っておとなしくじっとしてはいられない。

 上の階層に移動しようかとも考えたのだが、警報が鳴り止むまで隔壁シャッターが解除されることはないらしい。通路ではセキュリティスタッフが慌ただしく巡回しているし、簡単にこの階層から出ることはできない。

 つまり、この状況で私ができることは、このまま騒ぎが収まるのを大人しく待っているか、自らアリーナに出て暴走したVFを制圧するかの2択である。

 もちろん結城は後者を選択し、アカネスミレに乗って海上アリーナまでリフトを使って移動して、それから暴れているVFを制圧するつもりだった。

 しかし、アカネスミレを起動した所でランベルトに止められているというわけである。

 結城はアカネスミレの足元でランベルトを説得し続ける。

「全然危なくないって。それにほら、私は1STリーグで優勝したランナーなんだし。」

「……だからなんだ、上のアリーナにはサマルも合わせて5体のVFがいるんだぞ!? いくら嬢ちゃんでも5体相手にまともに戦えないだろ……。」

 戦うとは一言も言ってないはずなのだが、やはりランベルトには全てお見通しらしい。

 今更戦うつもりはないと嘘を付くのも面倒なので、無理やり持論を押し通すことにした。

「でも早く誰かが止めないと駄目だと思うぞ。このままだとここも危なくなるかもしれないし。」

「駄目だ。トラブルは大会委員会側に任せておけ。嬢ちゃんが行った所で状況が複雑になるだけだ。」

 ランベルトは本気で言っているらしい。こちらの腕を掴む手にも力が入っていた。

(どうしたらランベルトを納得させられるか……。)

 納得させずとも実力行使でアカネスミレに乗り込むことはできる。しかしそれだとせっかく心配してくれているランベルトに悪い気がする。

 なるべくなら納得して欲しい所だが、いつまでも押し問答しているわけにもいかないし、暴力に訴えるのは最後の手段にしておきたい。

 そんな事を考えていると、不意にランベルトがため息混じりにつぶやいた。

「あぁ……こんな時にリョーイチがいれば……。」

「!!」

 ランベルトのその言葉を聞き、結城は今さらながら諒一のことを思い出す。

(そう言えば諒一、今どこでなにしてるんだろ……。)

 遅れて来ると言っていたが、試合が始まっても来る気配はなかったし、何かトラブルに巻き込まれたのだろうか。そのトラブルが今海上アリーナで起こっている騒ぎでなければいいのだが……。

 諒一と話すのが恥ずかしいなんて言っていられない。一応確認を取っていおいたほうがいいだろう。

 そうと決まると結城はアカネスミレに背を向け、携帯端末を取り出して操作する。そして、手早く諒一のナンバーを呼び出し、間髪入れず通話ボタンを押した。 

「……。」

 しかし、スピーカーからは何も聞こえて来ない。

「あれ? 電話が繋がらない……。もしかして諒一、さっきの騒ぎで……」

 結城は再びナンバーを打ち込んでリダイヤルしようと試みたが、それもランベルトに止められてしまう。

 ランベルトは私の携帯端末を取り上げ、画面をまじまじと見ていた。

「いきなり何だ!! 返せよ!!」

 諒一と連絡がつかないせいで結城は若干焦りを感じていたが、ランベルトの言葉がそれを簡単におさめる。

「落ち着けよ嬢ちゃん。……単に電波が届いてないだけだろ?」

 その言葉と共にランベルトは携帯端末の画面をこちらに見せる。すると、画面の隅に通信不能……すなわち通信圏外であることを知らせるアイコンが点滅していた。 

「あ、ホントだ。」

 だからと言って諒一の無事が確認できたわけでもないが、それを見て少しだけ気持ちが落ち着いた。

 ランベルトはそんな私を見て安心したのか、携帯端末をこちらの手のひらの上に載せて返してくれた。

「さっき塔ごと中継アンテナを壊されたみたいだな。適当な端末で衛星回線使えばすぐに連絡がつくだろ。」

「諒一……。」

 結城は携帯端末を両手で握りしめ、そのままうつむいて短くため息を吐く。

 ……こんな事になるならあの時諒一を船から降ろすんじゃなかった。

 だが後悔した所で遅い。諒一の安否を確認するためにも、早くアリーナの騒ぎを止めなくてはならない。向こうだって私の事を心配しているはずだし、アカネスミレが動いている所を見せれば自分の無事を知らせることができるはずだ。

 もはや結城はアカネスミレに乗ること以外何も考えていなかった。

「やっぱりアカネスミレで上にいる奴らを止めてくる。」

「だ・か・ら、駄目だって言ってるだろ。同じ事を言わせるな。」

「何が駄目なんだよ。ランベルトは臆病者だなぁ。」

「冷静で慎重なだけだ。嬢ちゃんも冷静になって考えてみろ、躊躇も警告もなく塔を破壊する奴らがランナーの命を考慮すると思うか?」

「それは……」

 結城は言葉に詰まってしまう。

 コックピットは頑丈な装甲で守られているが、その硬さにも限界がある。それに、これは試合でも何でもないので、ランナーを守るルールも全く機能していない。なので、ダメージを連続して与えても審判が戦闘を中断させることもないし、そうなればコックピットくらい簡単に破壊されてしまうだろう。

 そんなこんなでランベルトの言葉への返答に困っていると、何の予兆もなくハンガーの扉が開き、そこからオルネラさんが中に入ってきた。

(あ、オルネラさんだ……。)

 ハンガー内に入ってきたオルネラさんはしばらく視線を部屋の中で漂わせていたが、すぐに私と目が合い、かなり困っている風な表情をこちらに向けてきた。

 そして、その表情のまま私のすぐ近くにまで接近してきて、あることをお願いしてきた。

「すみませんユウキさん、急いでこちらのハンガーまで来てくれませんか?」

 オルネラさんはかなり慌てた様子で喋り、ここのハンガーまで走って移動してきたのか、多少ではあるが息も上がっていた。

「オルネラさん、どうしたんですか? ……ツルカは?」

 そう受け答えつつ結城はオルネラの周囲にツルカの姿を探す。

 サメに張り付くコバンザメのようにオルネラさんの側を離れないツルカが、この緊急時にオルネラさんの近くにいないのはおかしい。

 警報が鳴り始めてすぐにツルカはキルヒアイゼンのハンガーへ向かったはずだし、何かあったのだろうか。

 となると、オルネラさんの要求はツルカに関係しているに違いない。

 いや、どうせツルカのことだろう……と思っていると、こちらの予想通りにツルカの名前がオルネラさんの口から発せられた。

「ツルカちゃんが海上アリーナの騒ぎの様子を見に行くって聞かなくて、とうとうファスナに乗ってしまったんです。……それでユウキさん、何とかしてやめるようにツルカちゃんを説得して欲しいんです。」

(先を越されたか……。)

 流石ツルカ、私と同じようなことを考えていたようだ。

 多分『お姉ちゃんに被害が及ぶ前にさっさと倒してしまおう』とでも考えているのだろう。

 オルネラさんの頼みを聞きたい所だが、私もツルカと同じく『アリーナの連中をさっさと倒してしまおう』と考えているわけで、あまり説得できそうにはなかった。

 だからと言ってオルネラさんの頼みを無碍にするわけにもいかず、首を縦に振った。

「はい、わかりまし……」

 返事をした途端、またしても扉から誰かが入ってきた。それはキルヒアイゼンのスタッフで、そのスタッフはすぐにオルネラさんに報告し始める。

「大変ですオーナー、……ツルカさんがファスナに乗ってリフトを登っていってしまいました。」

 その声はこちらにまで聞こえてきた。

 報告を受けたオルネラさんはかなりのショックを受けたようで、目を見開いていた。

「そんな……」

 オルネラさんは今にも気を失ってしまいそうなか弱い声で返事をし、重いため息をつく。

 それに反応してキルヒアイゼンのスタッフは謝りだす。

「すみません。あっという間の出来事で……ツルカさんの動きが速くて誰も止められませんでした。」

(まぁ、ツルカなら当然だよなぁ。)

 ああ見えてツルカはイクセルと生身で喧嘩できていた少女だ。そんな少女がただのエンジニアスタッフに止められるはずがない。

 オルネラさんにとってはショックで不安にさせられる出来事だろうが、そのツルカの行動は私にとって有利に働いた。

「――私も海上アリーナに上がりましょうか?」

 控えめな感じでそう提案すると、オルネラさんとランベルトの視線がこちらに向けられた。

 その視線に応じるように結城は自らの発現の理由を説明する。

「だってほら、ツルカ一人で行かせるよりも私と2人のほうが安全だろ? 危なくなったらすぐに連れ戻すから。……な?」

 首を斜めに傾けて同意を得るように言ったものの、ランベルトは否定の姿勢を崩すことはない。

「『……な?』じゃねーよ。早くキルヒアイゼンのハンガーに行ってリフトを止めるのが先だろうが。ほら、おおごとになる前にツルカを説得して……。」

 その台詞の途中、申し訳なさ気なスタッフの声が割って入ってきた。

「あの、リフトはすぐに停止させたんです。停止させたはずなんですが、ファスナはそのままリフトの内壁をよじ登って行ってしまって……。」

「え……?」

 アリーナとハンガーを結ぶ縦穴は意外と角度がついているし、よじ登るのもそう難しいことではない。こうなってしまうともう引き戻す手段はないと言っていい。

「……。」

 そのとんでもない話を聞いてランベルトは絶句していた。ツルカもよくやるものだ。

 オルネラさんはそのスタッフの報告を受けて、すぐに私の手を握り改めて懇願してきた。

「ユウキさん、お願いします。」

 余程ツルカの事が心配らしい。ぶっちゃけあんまり心配いらないと楽観視している私が異常なのだろうか……。

 それはともかく、結城にオルネラの頼みを断る理由はなく、快く承諾した。

「はい、任せてください。」

 そう力強く答えるとランベルトもとうとう参ったのか、しぶしぶアカネスミレの前から離れてくれた。

 それを了解と受け取った結城は、ランベルトの気が変わってしまう前にさっさとアカネスミレのコックピットに乗り込む。

 制服のままコックピットに入るのは違和感があったが、こうしている間にもツルカは海上アリーナに向けて竪穴を登っているのだ。今からランナースーツに着替えている暇などない。

 手元や足元の裾が邪魔して操作に影響が出るかもしれないが仕方ない。

 ……ここに来て改めてランナースーツの利便さを思い知る結城であった。

(よし、さっき起動させたから、もうそろそろ準備できるはず……)

 コックピットハッチを開けたままアカネスミレの起動を待っていると、ランベルトの声が聞こえてきた。

「とりあえず緊急用のバッテリーパックを装備するから、作業が終わるまでちょっと待ってろよ。」

 すぐにでもリフトに乗りたいのだが、ランベルトはバッテリーを装備させたいらしい。

 その意図が理解できず、結城はすぐに質問を投げかける。

「バッテリー? なんでだ?」

 コックピットの中から大声で言いつつ、結城はメガネを外してHMDを頭にかぶる。

 すると質問に対する答えが通信機から聞こえてきた。

「警報が鳴ってるってことはジェネレーターも機能停止させられてるはずだ。だからエネルギーは受信不可能。この状況でVFを動かすにはバッテリーが必要不可欠ってわけだ。……というか、ジェネレーターが設置されてた塔も破壊されてたしな。」

「なるほど……。」

 あまりにも当たり前すぎて忘れかけていたが、VFはアリーナに設置されているジェネレーターからエネルギーを受信して動いている。そのジェネレーターが壊れているのだから、それに換わるエネルギーを、つまりバッテリーを搭載する必要があるわけだ。

 それがどんなものか、形状が知りたくて結城はアカネスミレのヘッドカメラでランベルトの後を追う。

 すると、ランベルトの行き先にそれらしきものが見えた。

(あれがバッテリー……?)

 それはまるで乾電池のような円柱状の形をしていた。市販の電池を縦に2つ連ねているようにも見える。ただ、その大きさはランベルトの身長を軽く超えていた。

 ランベルトはそれをハンガー内のクレーンに固定すると、そのままアカネスミレの真上まで持ってきて、再び私に指示してきた。

「嬢ちゃん、頸部装甲を緩めてフレームを剥き出しにしてくれねーか。」

「え? 何?」

 いきなりそんな事を言われても何をどうすればいいか分からない。

 とりあえず、コックピット内部にあるメンテナンス用の小さな端末を引っ張り出してみたものの、どこをどう操作すれば頸部装甲が緩むか分からない。

 どうしたものか、端末を持ったままオロオロしていると、オルネラさんが救いの手を差し伸べてくれた。

「私がやります。結城さんは何も触らないでください。」

「あ、はい。」

 こちらが返事するとオルネラさんはアカネスミレの足元まで来て、くるぶし辺りに何かコードのようなものを差し込んだ。アカネスミレのヘッドカメラでは詳しくは見えないが、HMDには外部からの接続を示す警告文が表示されていた。

 そんな表示から数秒もしないうちにオルネラさんは作業を終えたようで、すぐにコックピットの上の方から内部機構が動く機械音が聞こえてきた。

 円柱状のバッテリーはVFの背骨に沿うような形で内部に挿入されていき、呆れるほどスムーズに機体の中に収納された。

「これでいいですね。」

 バッテリーが装着されるとオルネラさんはアカネスミレの足元から離れ、頸部装甲も元通りの形状を取り戻した。

(これでセットされたのか……。)

 てっきり頭部に何かケーブルのような物を差し込んで、バッテリー自体は背負うものかと思っていたのだが、フレーム内にバッテリー専用のスペースが元々備わっていたようだ。

 バッテリーを入れてしばらくすると、アカネスミレの出力が上昇し始める。予備の内蔵バッテリーとは比べ物にならないほどのエネルギーが蓄えられているようだ。これならいつも通りに戦うことができるだろう。

 おまけに、頭部レシーバーが破壊されても機能が停止することもないはずだ。

「緊急用だから容量は小さいが、それだけでも15分弱は持つ。だから、その時間以内に済ませろよ。」

「うん、わかった。」

 結城は通信機に向けて返事をし、周囲の安全を確認すると武器になりそうなものを探す。

 しかし、今日はアカネスミレは操作系のソフトを更新するためにハンガーに運ばれたので、武装類は何も持ってきていない。おまけにその操作系のソフトも、先ほどの騒ぎのせいで更新されず仕舞いになっている。

「なぁランベルト、武器ないか?」

「武器? そこにあるぞ。」

 ランベルトに言われて、改めてハンガー内をよく見ると、目立たぬ場所に3本の剣が無造作に置かれていた。

 多分、この間のスカイアクセラとの試合のときにアリーナから回収して、そのままハンガーに放置していたのだろう。多少傷が目立つものの十分に使えそうだ。

 今日ばかりはランベルトのいい加減さには目を瞑ることにしよう。

(とりあえず全部持っとこ……。)

 鞘が無いので携帯はできないが、持っておいて損はない。結城はアカネスミレを操作して長短二振りの超音波振動ブレードとネクストリッパーをリフトの上に置き、それに続いて自身もリフトの上に乗った。

 するとすぐにランベルトがリフトを操作し、私を乗せたアカネスミレは海上アリーナに向けて上昇し始める。

「多分ハンガーの中からでも十分通信できると思うから、何かあったら随時知らせるんだぞ、いいな?」

 そんなランベルトの言葉に対し、私は言葉ではなくアカネスミレの手をグッドサインの形にして応じてみせた。

 するとハンガー内にいたランベルトも同じサインを返し、オルネラさんも不安げな表情を浮かべつつも手を振ってくれた。

 リフトはどんどん上昇していき、竪穴の内壁に遮られる形でそのグッドサインもすぐに見えなくなる……。

 結城は手の形をもとに戻すと、リフトの床に置かれたロングブレードを拾い、それを右アームで構えた。タイマンならネクストリッパーを選ぶ所だが、多数相手になるとネクストリッパーの特性を十分に活かすことができない。

 それにバッテリーが持つのは15分だけなので、わざわざ振動数を計測している暇もない。

(多分ツルカもあの5体のVFと闘る気満々だろうし、力を合わせればすぐに倒せるよな……。)

 なるべく早くこの場をおさめて安全を確保することが重要だ。そうすれば落ち着いて諒一の無事を確認できるだろうし、逆に自分の無事を諒一に伝えることもできる。

 結城はなるべく万全の態勢で臨むべく、超音波振動ブレードを試しに起動させてみる。そのまま刃をリフトの落下防止の手すりに触れさせると、金属製の手すりは簡単に分断された。

 目立ったエラーも無いし、特に問題はないようだ。

 そんな事をしていると、リフトの上方から何やら規則的な音が聞こえてきた。

 それはリフトの内壁と何かが衝突するような鈍い音で、密閉されている空間ということもあってか、かなり響いている。

 結城はその音の発生源が気になりアカネスミレのカメラを上に向ける。すると巨大な人影が見えた。

 その人影というのは明らかにVFであり、もちろんそのVFはキルヒアイゼンのファスナであった。

「あ、ツルカか。」

 ファスナはリフトの穴に身を乗り出して、片方の手で竪穴の内側の壁をバンバン叩いて、もう片方でこちらに手を振っていた。

 確かあの辺りはリフトの中継地点で、輸送船を停めるためのスペースがあるはずだ。そのスペースを利用してハンガー内にVFやらパーツやら物資やらを運ぶわけだが、ツルカはどうやらその場所で立ち往生しているらしい。

 よくこの短時間であそこまで自力で登れたものだ。

(あそこからは流石に登れないみたいだな……。)

 中継地点で待っているのは、そこを境にリフトの竪穴がほぼ垂直になっているからだろう。流石にファスナでも垂直の内壁をよじ登るのは難しいらしい。

 ファスナの姿を確認でき、とりあえずツルカと会話したかった結城は、早速ランベルトにその方法を聞いてみることにした。

「なぁ、なんとかしてツルカと通信できないか?」

「はい、今準備しているところです。」

 通信機から聞こえてきたのはランベルトではなくオルネラさんの声だった。

 結城は慌てて口調を正してオルネラに謝る。

「す、すみません。ランベルトかと思って……。」

「別に気にしてませんから……。それじゃあファスナと回線を繋ぎます。」

 その言葉を最後に通信機からオルネラさんの声どころか、ハンガー内に響いていたサイレン音まで聞こえなくなってしまった。そのかわりに聞こえてきたのは聞き覚えのある少女の息遣いの音だった。どうやら無事にファスナの通信機と繋がったようだ。

「あーあー、ツルカ、聞こえるか?」

 試しに通信機に向けて呟く。すると、そんな適当な言葉だけでこちら側の状況がわかったらしい、すぐにツルカから言葉が返ってきた。

「やっぱりユウキか……。こっちの通信装置と繋がったってことは、お姉ちゃん、アール・ブランのハンガーにいるんだな。」

 ツルカの声には安堵のような、そして後悔の念が込められているような気がした。

 キルヒアイゼンのスタッフたちの制止の声を無視してファスナに乗ったことを多少なりとも反省しているみたいだ。

「オルネラさん、心配してたぞ?」

 通信機越しにそう告げると、リフトの上方にいるファスナは竪穴から身を離し、こちらから見えなくなってしまった。

 しかし、ツルカの声だけは通信機から聞こえていた。

「お姉ちゃんが心配してるのは分かってる。……でも、どこにも連絡できないんだし、助けが来るのを待つよりボクがアイツらを倒したほうが手っ取り早い。」

 その言葉を聞いているとやがてリフトが広いスペースに到着し、待ち構えていたかのようにファスナがこちらのリフトの中に割り込んできた。

 その際、ファスナの頭部から伸びる、まるで髪のような靭やかで長い薄い金属板がアカネスミレのボディに触れた。

 改めて考えると、動いているファスナとここまで接近できる機会もそうそう無い。

 もちろん、試合中には嫌というほど接近されたが、その時の私の視線はファスナの手足に釘付けだった。なので、こんなにじっくりとファスナのボディを眺められるのは珍しいことだ。

「……。」

 結城はなんとなくファスナの金属板状の髪をアカネスミレの手で触ってみる。

 感触こそわからないが、その光沢のある薄い金属板はファスナを操作しているツルカ本人の長い銀髪を連想させた。

 ツルカはそんなこちらの動きに気づくこと無く、また、断りなくリフトに同乗してきたことにも触れないまま言葉を続ける。

「とにかく、何が起こってるかはわからないけど、あのVFを止めたほうがいいのは確かだ。あのまま暴れ続けたらかなり危ないし。」

「同感だな。」

 結城はファスナの金属板を手放し、短い言葉でツルカに同意する。

 なぜ戦うのか、そんな事をごちゃごちゃと話し合う必要はない。そんなのはアリーナを制圧してから考えればいい。

 ただ単に邪魔だから黙らせる。それだけで十分だ。

「もうすぐアリーナに着くな……。」

 そんなツルカの声を受けて、結城はファスナから目を離して上を向く。

 アカネスミレとファスナを載せたリフトは止まること無くアリーナに向けて上昇しており、上に開いている穴の大きさもだんだん大きくなってきていた。

「……待ち構えてたらどうしようか。」

 ふと最悪の展開が頭をよぎる。

 リフトの駆動音に気づかれて待ち構えられていてもまずいし、この逃げ場のないリフトの竪穴に向けて銃を乱射されでもしたら、それこそ一瞬で終わってしまう。

(まぁ、大丈夫かな。)

 不安に思っていてもどうしようもない。ツルカも私以上にこの事態を楽観視していた。

「テロリストか何だか知らないけれど、さっきの映像を見てもそこまで操作がうまくないし、すぐに倒せるだろ。」

「……だといいんだけど。」

 ツルカも私も試合の時ほど緊張しておらず、頭の中にあるのは邪魔なものを排除するという単純明快な思考、それだけであった。


 ――やがてリフトがアリーナまで昇り切ると、アカネスミレとファスナは同時にアリーナ上に降り立ち、左右に展開する。

 まず見えたのは黒煙をあげてアリーナに転がっている輸送ヘリ、そして、中程から綺麗に折れている塔だった。どちらとも多くの銃弾の跡があり、それと同じ数だけの大量の薬莢がアリーナの床の上に散らばっている。

 そして私達が出てきたリフトの近くには、こちらに背を向けているダグラスの新発表VFが立っていた。

 今の状況を考えると頭を破壊しただけでは機能停止させられない。なので、バッテリーが搭載されている背骨部分を破壊すればいいだろう。ネクストリッパーならまだしも、ロングブレードにはコックピットを貫通するほどの切れ味は無いので、安心して思い切り斬撃を放てるというものだ。

「そいつは任せたぞ、ユウキ。」

「言われなくても……ッ!!」

 ツルカに返事をしながら結城はロングブレードを暴走VFの股下にあてがい、刃を上に向ける。そして間髪入れず、背骨を縦に切るように思い切り獲物を上に振り抜いた。

 外装甲はフレームごと切り裂かれ、暴走VFは呆気無く俯せになって倒れた。

 ……その時に発生した破砕音は、残りのVF達の注意を引き付けてしまい、すぐに3つのアサルトライフルの銃口がこちらに向けられ、射撃が始まった。

「うわっ」

 銃弾は容赦なくアカネスミレを襲い、結城はそれを回避しながらまだ煙を上げているヘリコプターの影に隠れる。

(弾丸の威力は高いみたいだけど、撃ってるランナーが下手だと意味がないな。)

 とにかく、これでVF達の注意を惹くことができ、敵はあまり強くないという事も分かった。隙を見て各個撃破すればすぐにこの事態を収めることができるだろう。

 そう思っていると、通信機からツルカの掛け声が聞こえてきた。

「こっちだ!!」

 そして、その威勢のいい声に続いて何かが潰れる音がアリーナに響く。

 ヘリの影から頭部を覗かせて見ると、ファスナが暴走VFの死角から頭部にかかと落としを食らわせているシーンが見え、敵の頭部パーツは無残にもひしゃげていた。

 更にファスナは続けざまに暴走VFの背中に手を突っ込み、何かを引きぬく。……その手には円柱状のバッテリーが握られていた。

 ただの貫手で背中の装甲を貫通させるとは、量産型のVF相手とは言え恐ろしい破壊力だ。

 残りの2体もあれよあれよという間にファスナにバッテリーを引きぬかれ、私が何もする暇もなくアリーナは静寂を取り戻した。

 が、静かになったというのは銃声が止んだというだけのことで、まだアリーナにはサマルという強敵が残っていた。

 サマルはリフトから離れた位置にいたせいでこちらに気づくのが遅れたらしい。しかし、臆することなくファスナに襲いかかってくる。……その攻撃に迷いは見られない。

 走りながら繰り出された2本の槍はファスナのボディの中心を捉えていたが、ファスナはそれをすれ違うようにして回避し、サマルに向けてダッシュしていく。

 お互いが接近したお陰ですぐにファスナはサマルに接触し、先にファスナがサマルの頭部に向けて鋭い蹴りを放った。

 しかしそのキックはサマルの太い腕によってガードされ、ファスナはその脚を掴まれてしまった。やはり、サマルの太い2本の腕は強力だ。

(……って眺めてる場合じゃないな。)

 結城はヘリコプターの影から飛び出て、ツルカを援護するべく急いでサマルの元へ向かう。

 そして結城はそのままサマルの背後から斬りかかったが、その攻撃はいつの間にか戻ってきた2本の槍に弾かれて全く通じなかった。だが、そのお陰で隙ができ、ファスナはサマルの拘束から離脱することに成功した。

 同時にツルカの愚痴が通信機から発せられる。

「……やっぱり予備用のバッテリーパックじゃ出力が低すぎてまともに戦えないぞ。」

 元々この緊急用のバッテリーは戦闘を前提にされたものではない。飽くまで電力が得られない時にハンガーの外まで自力で移動するために用意されたものだ。

 なので、コスト削減の対象になりやすく、結果として粗悪品に等しい性能しか出せていないのだ。

 ランベルトからは15分と教えられているが、この調子だとあと3分も持ちそうにない。

「どうする? このままだとバッテリーが切れるかもしれないし……。」

 つい先程ツルカが暴走VFから引き摺り出したバッテリーと交換する……なんて手も思いついたが、サマルがそんな事をさせてくれるわけがない。

(こうなったら海に突き落として……でも、そんなに簡単にいく訳もないし……。)

 どうしたものかと困っていると、どこからか飛行機のローター音が聞こえてきた。

「……なんだ?」

 その音は瞬く間に大きくなり、結城は思わずサマルから目を離して上空に注意を向ける。

 すると、かなり近くの空に大きな飛行機の姿が見えた。いや、飛行機といっていいのだろうか、両翼には上に向いたプロペラがあり、ヘリコプターとよく似た騒音を周囲に轟かせていた。

 私の記憶が正しければ、あれはティルトローター機と言う飛行機だ。プロペラの角度を自由に変えられる便利な飛行機だったと記憶している。

 そのティルトローター機の胴体はかなり太くその後部ハッチが大きく開いていた。

(なんだ? もしかして新手か?)

 そのハッチから敵が出現するかもしてないと感じた結城は、近くに落ちていた暴走VFのアサルトライフルを手に取り、それをティルトローター機に向ける。しかし、その時その飛行機から警告の声が浴びせられた。

「待て!! 撃つな。」

 そんな言葉が聞こえたかと思うと、飛行機の中から何かが滑り出てきて、そのままアリーナに向けて落下してきた。

 かなり低空から落とされたのでその姿をしっかりと見ることができ、結城はそれがすぐにVF……クライトマンのクリュントスだと判断することができた。

 クリュントスはそのままサマル目掛けて急降下していき、着地と同時に巨大なランスでサマルを攻撃した。

 そのまま串刺しにされたかと思ったが、ランスはサマルの太い腕に阻まれたらしく、その腕をバラバラに破壊しただけで終わっていた。だが、それだけでもこちらとしては十分すぎる援護だった。

(よし、あの腕さえなくなれば……!!)

 これでなんとか戦える……と思っていると、なぜかサマルは固まったように動かなくなり、更にクリュントスがランスで軽く押すと仰向けになって倒れてしまった。

 サマルが動かなくなったのを確認すると、ティルトローター機はゆっくりと高度を下げ、すぐにアリーナ上に着陸した。

 そして、クリュントスからキザったらしい声が聞こえてきた。

「フッ……他愛もない。オレ様に掛かればあのサマルも一撃だ……。」

(リオネル!?)

 やっぱりリオネルが乗っているらしい。西洋甲冑を纏ったようなクリュントスの姿は相変わらずだったが、その手には見たこともないような巨大なランスが握られていた。元々持っていた超音波振動ランスも結構な大きさだったが、今持っているのはその倍は大きい。

 リオネルはそんなランスを格好良く振り回しながら外部スピーカーで話し続ける。

「助けに来てやったぞ。……乗っているのは貴様か? ユウキ。」

 外部スピーカーに切り替えるのが面倒だった結城は、アカネスミレの頭を上下に動かして応じる。

 リオネルはそんな私の行動を無視して、急にツルカに向けて声を荒げ始めた。

「まてイクセル!! それ以上何もする必要はない。もうサマルは機能停止状態だ。」

 慌てたリオネルの声に反応してファスナの姿を探すと、ファスナはサマルの頭部パーツに脚を載せており、今にも踏み抜かんとしている所だった。

 ツルカはリオネルにそう言われて動きを止めたものの、ファスナの脚をサマルから離すことはなかった。

 そして数秒後、ファスナから外部スピーカーを通してツルカの不満気な声が聞こえてきた。

「完璧に頭部を壊してバッテリーも抜いとかないと駄目だろ……。それにボクはリオネルじゃないぞ。ツルカだ。」

「ああそうだったな。すっかり忘れていた……。」

 リオネルがファスナのランナーを間違えたのは、単にイクセルが引退したことを忘れていたからだけではないだろう。それだけツルカの動作がイクセルに似ていたということだ。

「とにかくそれ以上の破壊は無駄だ。放っておけ。」

 リオネルは尚も、その意見を曲げることなく主張する。

 安全を考えれば二度と行動できないようにするのが当然だと思うのだが、なぜリオネルは自信を持ってそう言えるのだろうか。

「何でそう言い切れるんだよ。」

 ツルカも私と同じような疑問をリオネルに投げかける。すると、リオネルは巨大なランスをこれぞとばかりにファスナに向けて見せびらかした。

「いいかよく聞け。このランスには局所的に電磁パルスを発生させる特殊装置が内蔵されている。だから、このランスの攻撃を受けると、それがどこであれ内部の電子装置が全部使い物にならなくなる。つまり、サマルはもう立ち上がらないどころか、スクラップ行き決定というわけだ。……分かったか?」

 詳しく説明され、結城、ツルカ共に納得せざるを得なかった。

 よくわからないが、あのランスで攻撃されると内部の電子機器を全部ダメにされるらしい。まさに反則級の武器である。

「大会委員会に武器として認められず長い間倉庫に眠っていたが、いざ使うとかなり強力だな。我ながら滅茶苦茶な武器を作らせたものだ。」

 リオネル自身もそのランスの性能に驚いているのか、クリュントスでそのランスを持ち上げてまじまじと観察していた。

「それはいいから、早くセルトレイを引っ張り出すぞ。」

 ツルカはそう言うと誰にも許可を得ることなくサマルのコックピットを手掴みし、ハッチを無理やり引き剥がそうとする。

 だが、ツルカのその行動もリオネルは制止する。

「いやまて、セルトレイが銃を持っている可能性もあるし、安全が確認できるまでコックピット内に閉じ込めておこう。」

 例え銃を持っていてもこちらがVFの中にいればどうということもないと思うのだが……。

 ツルカもそんな事を思っているのか、リオネルの言葉を無言で無視し、ファスナの指先を器用に操りあっという間にサマルのコックピットハッチをこじ開けてしまった。

 さらにツルカはファスナから降り、アームをつたってサマルのコックピットに向けて移動していく。

「オイ待て!! オレ様の言うことを聞け!!」

 リオネルは声を荒げてツルカを注意していたが、その時、結城はセルトレイが安全である一つの理由を思い出した。

 それを伝えるべく、結城も外部スピーカーを用いて声を発する。

「大丈夫だリオネル、セルトレイなら心配いらない。」

 私がいきなり発言すると、それに反応してクリュントスのアイカメラがこちらに向けられた。

「なぜだ、……オレ様が納得できる理由があるんだろうな?」

 リオネルのいらついた口調に、結城はもったいぶることなくその理由を告げる。

「……セルトレイは目が見えないんだ。何もできやしないさ。」

「!!」

 クリュントスの微妙な動きを通してリオネルの動揺が伝わってきた。盲目のランナーがあれほど活躍していたとなれば驚くのも当然だ。

「ユウキ!! 早く医療スタッフ呼んできてくれ。」

 リオネルとそんなやり取りをしていると、通信機からツルカの声が聞こえてきた。

 ツルカの訴えは更に続く。

「セルトレイが頭から血を流してる。それから……目が2つとも無くなってる!!」

 セルトレイの目について、ツルカには話したような気もするが、こちらの勘違いだったらしい。もしかして、セルトレイが危険かどうかも分からずにコックピットハッチを開けたのか……。だとしたら危険極まりない行為だ。

 とにかく今はツルカが驚いているようだったので、結城はすぐに事情を説明することにした。

「目がないのは元からだ。セルトレイは普段は義眼をつけてるんだ。……でも、血が出てるなら医療スタッフを呼んだほうがいいな。」

 サマルが倒れた時にどこかに頭をぶつけたのだろう。あんな高い場所からクリュントスに突進されれば気を失っても仕方が無い。

 早速結城は通信機を使い、オルネラに医療スタッフをアリーナに寄越すようにお願いをする。

「あの、アリーナの暴走VFは全部制圧しました。それで、セルトレイさんが怪我をしているので、医療スタッフをこっちに向かわせてくれませんか?」

「おお、やったか嬢ちゃん。案外早かったな。」

 オルネラさんかと思いきや、通信機で受け答えをしたのはランベルトだった。

「なんだランベルトか……。とにかく医療スタッフ、頼んだぞ。」

 先程と打って変わって適当な口調で命令すると、ランベルトは「へいへい」と答えた。

 安全が確認できたとなれば、スタッフもすぐにアリーナまで来てくれることだろう。

(……セルトレイが怪我してるってことは、残りの4体のランナーも……)

 アリーナでめちゃくちゃに暴れたのだから同情はできないが、私やツルカの攻撃のせいで死なれてしまっては寝覚めが悪い。VFの機能を停止させられてもコックピットから出てくる気配はないし、セルトレイと同じように気を失っているのではないだろうか。

「……。」

 一応安否だけでも確認したほうがいいのではないかと思い、結城は近くで倒れている4体のうちの1体に近づこうとする。しかし、少し移動した所でリオネルがアカネスミレの肩を掴んで動きを制限してきた。

「他の4体のコックピットは安全が確認できるまでは開けない。……いいな?」

 やはりまだ警戒しているようだ。リオネルの外部スピーカーから発せられたその口調は真剣そのものだった。

「……うん、わかった。」

 こちらが了解すると、クリュントスの手はアカネスミレの肩から離れた。

 その時、クリュントスの背後に今まですっかり忘れていたVFの姿が目に映った。

 それは漆黒のVF『リアトリス』であり、試合中にサマルに撥ね落とされた首はどこかに消えてなくなっていた。

 首なしのリアトリスはアリーナの端っこの目立たない場所で座り込んでいて、流れ弾が当たったのか、装甲に弾痕のようなものも見られた。

「あ、そう言えばリアトリス……。まだ中に七宮がいるんじゃないか?」

 呟くように言うとリオネルもそれで気付いたのか、すぐにリアトリスに向けて歩き始める。

「あれはオレが見てこよう。女子学生2人はセルトレイの様子を見ておいてやれ。」

 ついさっき“安全が確認できるまでコックピットを開けるな”と言ったのにそれはないだろう、と思い何か文句の一つでも言ってやろうかと考えていると、やがて救急医療スタッフがアリーナに現れた。

(これで一安心か……。)

 結局それらのスタッフに気を取られ、結城はリオネルの言った通りセルトレイの面倒をみるべくアカネスミレから降りた。そして、最終的にはツルカやスタッフと共に施設内部に戻ることになった。


  2 


 1STリーグ海上アリーナ、その海面下にある施設内。

 既に危険を知らせるサイレンの音は消えており、施設は静けさを取り戻していた。

 暴走したVFのせいで塔への被害は甚大で、修復も簡単にできそうになかった。が、幸いにもアリーナの真下に位置するこの施設は全く問題なかった。

 30分という短い時間の出来事だったので、施設内のスタッフも一時的には混乱していたものの、今は普段通りに働いているように思える。

 特に医療スタッフの動きは素晴らしく、コックピットから運び出されたセルトレイはあっという間に応急処置を受け、今はメディカルルームのベッドの上で寝ていた。

 外傷は頭部だけだったらしく、点滴の管や心拍数を測定する機器に繋がれているでもなく、頭に包帯が巻かれているだけで済んでいる。

 私とツルカはセルトレイに付き添ってここまで来たものの、特に何もすることなく、治療の終わった今もセルトレイの様子を見ていた。

 目が無い上に痩せ型なのでまるでミイラを見ているような感覚に襲われるが、息もしているし生きている人間に間違いない。

 事態が落ち着いた所で結城はこの事件の事を改めて考えてみる。

(いきなり銃を乱射して……ここを占拠するつもりだったのか……?)

 占拠するにしてはあまりにもずさん過ぎる。大体、強いランナーがいるこの場所を簡単に占拠できると思っていたのだろうか。

 確かに、サマルがいれば成功率は上がるだろうが、それにしたって無理がある。実際、私やツルカに簡単に阻止されてしまったわけだし、また何か別の目的でもあったのだろうか。

(……。)

 しかし、いくら考えてもなぜこんな事をしたのか、全く意味がわからなかった。

 そうこう考えていると、ベッドの上で寝ているセルトレイさんに変化が見られた。

 セルトレイさんは唸り始めたかと思うと枕から頭を離し、上半身を起こす。

「う……。何が起こったんだ……?」

 意外と早く意識を取り戻したようだ。

 早速セルトレイさんに事情を訊こうと話しかけようとすると、それよりも先にツルカが行動し、大胆にもセルトレイの上に乗りかかった。

「おい!! よくもお姉ちゃんを危ない目に遭わせたな……冗談じゃ済まないぞ!!」

「う……。」

 ツルカはセルトレイの体を激しく揺さぶり、それに合わせて包帯の巻かれた頭が前後に揺れていた。

「ちょっとツルカ選手!! 怪我人なんですよ!?」

 それを見て、慌てて医療スタッフがツルカをセルトレイから剥がし始める。

 私もツルカの背後から抱きついて動けないようにきつく拘束した。

 しかしそれでもツルカの興奮は収まらず、私の腕の中で呼吸を荒らげていた。

 目覚めてすぐに暴力を受けたセルトレイさんは片手で頭を押さえながら、言い訳し始める。

「待ってくれ、私が何かしたのか? ……試合が終わってからの記憶がないんだ。何があったか教えて欲しい。」

「何惚けたこと言ってるんだ!? 大体何で試合前からバッテリーを装備してたんだよ。何も覚えてないとか、そんな嘘はボクには通用しないからな!!」

 ツルカの言い分に間違った点はない。どう考えてもバッテリーを積んでいる時点でセルトレイさんは怪しい。だがしかし、彼が嘘をついているとも思えなかった。

 そんな短い問答をしていると、タイミングよくリオネルがメディカルルームに現れた。

 リオネルは純白のコートを翻しながらキザったらしい表情でその場を制する。

「苦しい言い訳だな……と言いたい所だが、彼は本当に何も覚えてないんだろう。あの暴走も彼の意に反して起こった可能性が高い。」

 その意見にツルカが噛み付く。

「いきなり来てなんだよ、証拠でもあるのか?」

 ツルカの質問に対し、リオネルは大袈裟に首を左右に振る。

「証拠はない。だが、HMDも被っていなかった彼がああもアリーナで暴れられると思うか? ……それだけで彼の言い分を信じる証拠になるだろう。」

「む……。」

 セルトレイさんが気を失っていたのは確かだし、そもそも試合に勝てたセルトレイさんが暴れる理由がわからない。他の4体のVFに乗っているランナーの話を聞くまでは何とも言えないが、セルトレイさんの言っていることは本当なように思える。

 もちろん言い訳をしているとも考えられるが、子供でも思いつくような言い訳をするだろうか。ちょっと惚けたくらいで追求を免れないのは分かりきっていることだし、言い訳をするならもっと上手い言い訳を準備するはずだ。

 ツルカはリオネルの言葉を受けて少し納得したのか、すぐに大人しくなった。

「分かった。……どうせVFを詳しく調べれば何もかも分かるんだ。それまではお前の言う事は信じてやる。」

 それでもツルカはセルトレイのことを疑っているようだった。やはり、番組で泣かされたこともあるし、恨みというものはそう簡単に消えるものではないみたいだ。

「とりあえず信じてもらえればそれでいいです。……あ、すみません。」

 セルトレイさんがそう返事した所で医療スタッフから義眼が受け渡され、セルトレイさんはそれを眼窩にセットしていく。

 それで視力は回復したようだが、相変わらずその長い前髪によって義眼自体を見ることができなかった。

「大丈夫でしたかセルトレイさん。」

 暴走VFの件やツルカの暴力など、いろんな意味を込めて調子を伺うと、セルトレイさんはこちらに顔を向けてきた。

「やはりその声はタカノユウキでしたか……。ええ、平気です。」

 そう言いつつセルトレイさんは自らの腕や胴、そして脚を満遍なく観察していく。

 そんな様子を見て医療スタッフが声を掛ける。

「目立った怪我は頭の切り傷だけで、あとは軽い打撲だけです。治療も終わりましたので安心して下さい。」

「そうですか。」

 怪我の箇所を告げられたセルトレイさんは、自らの頭を触りながら呟く。

「リアトリスを倒したらすぐに目が見えなくなって……。かと思ったら上下左右にコックピット内でシェイクされたんです。ランナースーツが無かったら頭の裂傷だけでは済まなかったでしょうね。」

 セルトレイからリアトリスという言葉が出て、結城は七宮のことを思い出す。

 リアトリスの様子はリオネルが見に行ったはずだ。

 結城はそれも思い出し、すぐにリオネルに問いかける。

「……ところで七宮は?」

 質問を受けたリオネルはわざわざ指をパチンと鳴らしてから、間を置いて答える。

「ハッチが歪んでいて開けるのが難しかったから、そのままハンガーに運ばせた。通信では“どこも怪我していない”と言っていたし、七宮自体は大丈夫だろう。……まぁ、今は海上都市が大変な状況だからな。余計な問題を起こされないよう、コックピットで大人しくしていてもらおう。」

 確かに、この騒ぎに便乗して何かをされると面倒な事になる。

 リオネルの意見には概ね同意だったが、そのセリフの中に気になる言葉があった。

「ん? 『大変な状況』って……?」

 リオネルの言葉を借りて訊いてみると、リオネルは「なんだ知らないのか?」と、呆れ口調で言い、続けてその大変な状況をこちらに教えてくれた。

「ついさっきダグラス社の工場で事故があって……現在、100体以上のVFが暴走し、ダグラス本社フロートで破壊行為を働いている。多分さっき海上アリーナで暴れていたVFもその内の4体だ。」

「え……?」

 いきなり信じられないような話を聞いて、結城のみならずツルカやセルトレイも驚きの声をあげていた。

 私達が海上アリーナでてんやわんわしている間に、海上都市ではそんな大事件が発生していたらしい。

 ……たったの4体が暴れただけであの有様だ。

 あれと同じVFが百体も暴れたとなると、その被害は甚大である。今頃ダグラス本社ビルがあるフロートは阿鼻叫喚状態になっているに違いない。

 セルトレイさんを睨み続けていたツルカも、上ずった声でリオネルにその話を確認する。

「そんなに? じゃあ100人以上のランナーが暴れまわってるっていうのか?」

 リオネルは落ち着いた態度で受け答える。

「それはありえない。どうやっているかは知らないが、このアリーナでの事件を踏まえると、戦闘補助AIを意図的に暴走させているのかもしれないな……。どちらにしても海上都市建設以来の大事件だ。」

「なるほど、補助AIのエラーか……。」

 AIが勝手にVFを操作したとなれば、セルトレイさんの言い分も納得できる。それが偶然起こった事故なのか、何者かによって引き起こされたのか……どちらにしても早く原因を突き止めて止めなければならない。

 そんな深刻な事態に慄いていると、メディカルルーム内に間の抜けた緊張感のない声が響いた。

「皆さん、こっちに来て欲しいです。みんなクライトサンから事情を聞きたいみたいです。」

 声に反応して振り返ると、そこには色白の不健康そうな青年、ドギィの姿があった。

「クライトサンじゃない。クライトマンだ。いい加減覚えろ。」

 リオネルは素早くツッコミを入れ、ドギィを指差す。するとドギィは「すみません」と律儀に謝っていた。

 どうしてドギィがこの海上アリーナにいるのか疑問だったが、ドギィは「こっちです」と言って、すぐにメディカルルームから退出してしまった。

「そう言えばこの施設内にいたランナーを呼び出したんだったな……。貴様らも早く集まれ。」

 リオネルは有無をいわさずこちらに命令し、再びコートを翻して部屋から出ていってしまった。

(ランナーって……何かするつもりなのか?)

 結城は不思議に思いながらツルカを顔を見合わせる。

 ツルカも眉を潜めており、頭上にはてなマークを乗せると似合いそうな表情を浮かべていた。

 ……とにかくここで看病をしていてもどうしようもないと考え、結城とツルカは医療スタッフにセルトレイを任せ、リオネルの後を追うことにした。

 


 ――ドギィの先導によって到着した場所は、いつも勝利者インタビューが開かれているかなり広めの部屋だった。

 しかし、いつもとは違って記者の姿はなく、広い部屋は余計に広く感じられる。

「お姉ちゃん!!」

 部屋に入った途端、ツルカが室内に向けて駈け出した。その先にはオルネラさんがいて、パイプ椅子に座ってくつろいでいた。

 隣にはランベルトの姿があり、ランベルトのパイプ椅子のすぐ近くの床には灰皿が置かれていた。

 ツルカに遅れて結城、リオネル、ドギィも椅子が置かれている場所へ向かっていく。

「昇格リーグの下見を、と思って観戦がてら来たんです。」

 脈略もなくドギィに話しかけられ、結城は対応が遅れてしまう。

「……そうだったのか。災難だったな。」

「そうですね。でも、怪我がなくてよかったです。いえ、サマルのランナーは怪我をしたんでした。……あ、それはともかく優勝おめでとうございます、ユウキタカノ。」

「あ、ありがと。」

 ドギィは無邪気な笑みを浮かべてニコニコしている。私の優勝を祝ってくれているのは確かだが、こんな状況だと素直に喜ぶことができなかった。

 そんなドギィのセリフを受けて、リオネルも私に声を掛けてきた。

「そういえばそうだった。結局、中継映像はリアトリスの頭部パーツが破壊された所で急に切れてしまったからな……。そっちの結果をすっかり忘れていた。」

「途中で切れた……?」

「そうだ。しかもそれからすぐにフロートユニット全域に避難警報……。リュリュの調査結果から推測してここにすっ飛んで来た訳だが、アテが外れたというわけだ。」

 そのアテが外れたお陰でサマルを倒せたのだからいいのではないだろうか……。

 しかし、海上都市の事を考えると、まっさきにダグラス本社フロートに向かったほうが良かったのかもしれない。

 とにかく、私が知らない間にリオネルは独自に色々と調べていたらしい。

「調査って……どんな情報なんだ?」

「それも含めてこれから話すつもりだ。……おいトライアローの、早く全員集めろ。」

 リオネルはそう言ってドギィに命令し、ドギィも素直に頷いた。

(集めるって、他にもランナーがいるのか……?)

 オルネラ達が座っている場所まで移動して、結城は改めて室内を見渡す。

 室内には私達以外に人はいないと思われたが、ふと部屋の隅に目を向けると、壁際に見知った顔があった。

 その人物は壁に背を預けて腕を組んでおり、微動だにしていなかった。

(あ、アザムさんだ……。)

 人を2ケタくらい殺めていそうな鋭い眼光は未だ健在で、今は特に機嫌が悪いのか、不穏な空気まで漂わせている。そのせいかアザムさんにはあまり近づきたくはなかった。というか出来れば目線を向けたくもない。

 ただ、ドギィは文字通りそんな空気が読めないらしい。壁際までてくてくと歩いて行ったかと思うと、アザムに対して馴れ馴れしく話しかける。

「アザムアイマン、今から話し合いをするらしいので集まってください。」

 ドギィは返事を待っているのか、アザムの正面に立って動かない。

 するとやがてアザムさんが壁から背中を離した。

「……そうか。」

 アザムさんは短く答えると、ドギィの真横をすり抜けてこちらに向けて歩いてきて、話し合いの輪の中に加わってきた。

 これで、現在部屋の中にいるランナーは私を含めて5名、『キルヒアイゼン』のツルカと『クライトマン』のリオネルと『ラスラファン』のアザムに『トライアロー』のドギィ、そして『アール・ブラン』の高野結城、すなわち私である。

 1STリーグの最終試合なのに、海上アリーナまで観戦しにきたランナーが2NDリーグ所属のランナーのほうが多いとは、なんか変な感じである。

 しかし、2NDリーグで対戦したランナーに会うのは結構久しいので、意外と嬉しくもあった。

 もちろんランナーの他にもランベルトやオルネラさんも集まっていたが、一番期待していた諒一の姿は見られなかった。騒ぎが収まってもここに来ていないということは、やっぱり海上アリーナ付近にはいなかったみたいだ。

 今頃どこかのフロートユニットのターミナルで船を待っているのかもしれない。

 やがて全員が一箇所に集まると、それと同じタイミングで新たに部屋内に一人の少女が加わってきた。 

「お兄様、幸い死傷者は出なかったようです。」

 幼い割にしっかりとした口調、頭のリボンが目立つ彼女はリュリュ・クライトマンだ。

 彼女はリオネルの妹であり、同時にリオネルのマネージャーを務めている優秀な女の子だ。あと、リオネルの試合相手のVFを事前に破壊してしまうほどの極度のブラコンでもある。

「塔は派手に壊されしまいましたけど、事前の警告のお陰でスムーズに退避できたようです。」

 リュリュはリオネルに向けて報告しながら歩いてきて、特に挨拶もなく合流してきた。

 リオネルはそのリュリュを捕まえると自らの前に立たせて短く命令する。

「いいところに来た。一体どうなっているか説明してやれ。」

 リュリュは一瞬きょとんとしていたが、すぐに事態を把握したのか、手元にあった電子ボードを操作し始める。

「えー、今現在、ダグラス本社は組立工場から出てきた暴走VFによって混乱状態にあり、自動防衛システムが起動しています。ですが、全く役に立っていません。……暴走の原因を探るために工場内の情報を調べたのですが、その際に怪しいログを発見しました。それで、ダグラスの組立工場内のVFにネット経由で何か細工をした形跡が認められました。これが根本的な原因だと思われます。」

 リュリュの説明の後、リオネルは自慢げに話す。

「まぁ、前々から怪しい動きはあったからな。……いつでも対処できるように待機しておいたオレ様に感謝しろ。」

 あの短時間で海上アリーナまで飛んできたのだし、礼くらいは言ってもバチは当たらない。

 ……それはともかく、リュリュの話からすると、何者かがダグラスの工場のシステムをハッキングして組み立て終えたばかりのVFを意図的に暴走させているとのことだ。

 ダグラス本社の被害は甚大らしいが、VFは海を渡れないので被害もそこだけで済むだろう。そう考えると少しだけ気が楽になった。

 しかし、続いてのリュリュの言葉がその安堵を打ち砕くことになる。

「それで、ここからが本題なのですが……工場内の輸送船が勝手に動いて、それらのVFをフロート内部に向けて輸送しています。これはかなりの非常事態だと判断できます。」

「つまり何だ? 他にも被害が及ぶかもしれねぇってことか。」

 ランベルトがそう口に出して言うと、アザムさんも苛立った口調で喋る。

「クソ、面倒な事を起こしやがって……ダグラスのセキュリティはどうなってやがる。」

 結城も他のフロートが危険に晒されていることを知り、気が気ではなかった。

 試合の流れ弾のことを考慮して建てられた塔ですらあの有様なのだ。普通のビルなど一瞬で消し飛んでしまう。そうなると被害者の数は想像できないくらい多くなるはずだ。

 諒一だって危ない。

(夢じゃないよな、これ……。)

 海上都市群がダグラスのVFのせいでとてつもなく危険な状況にある……。そんな信じられない話を聞いて、結城はかなり動揺していた。

「……で、その暴走VFを載せた輸送船は何隻で、どこに向かってますか。」

 私とは違い、ドギィはリュリュの話に動揺することなく、必要な情報を得るべく淡々と質問していた。

 その言葉を聞いて結城も気を取り直し、リュリュの返答に注意を向けることにした。

 リュリュは電子ボードを操作しながら的確に返答していく。

「それに関する詳しい情報は、つい先程工場内のサーバーから入手できました。――ダグラスの機能停止信号を受け付けていないのが160体あります。それらは輸送船5隻にそれぞれバラけています。……これを見てください。」

 言葉だけでは説明できないと判断したのか、リュリュはおもむろに電子ボードの画面をこちらに向け、そこにデータを表示させる。それは工場から直接抜き取った物らしく、よく分からない数字や記号が書き連ねてあった。

 オルネラさんはそれを素早く読み取る。

「……1STリーグフロートに32体、2NDリーグフロートに32体、中央フロートユニット32体、洋上発電施設に32体。……なるほど、綺麗にバラけているようです。」

 どこも、この海上都市群の機能を削ぎ落とすには的確な場所であった。

 そんなオルネラさんの台詞を受けて、ツルカも話し合いに参加してきた。

「早く何とかしないと、ここと同じように暴走されたら死人が出るぞ!?」

「その点は心配要りません。」

 リュリュは落ち着いた口調でツルカの指摘を否定する。

「異常を見つけた時点で地下シェルターへの避難指示を出したので、人の安全は確保されているはずです。多少の混乱はあるでしょうが、死人は絶対に出ないはずです。」

 リュリュの手回しの良さには感心する。

「それでも建物やら施設は破壊されるだろうな……。特に発電施設は危ないし、何とかできねーのか?」

 ランベルトが発電施設の話に触れたことで、場の空気がより深刻なものへ変化する。

 核融合発電施設は海水から重水素を取り出して、それを燃料として直接電気を生み出す場所だ。厳重に警備されているとは言え、ここが破壊されるとなるとかなり危険だ。

 放射能が漏れたとしても原子力発電施設よりも数万倍安全ではあるが、それでも危険であることに変わりない。他のフロートはともかく、ここだけは破壊されないようにせねばならないだろう。

 暫く誰も喋ることなく黙っていたが、アザムさんがあることを提案した。

「……そうだな、とりあえずどっかの軍の基地に連絡して救援を要請して、輸送船ごと破壊するしかねェだろ。」

 しかしそれはリュリュによって呆気無く却下されてしまう。

「それは無理だと思います。そう簡単に駐留部隊が動いてくれるとは思えませんし、そんなことしている間に暴走VFが乗った輸送船が目的の場所に着いてしまいます。」

 こうなるともう打つ手はないように思えたが、ただ一人、リオネルだけは不敵な笑みを浮かべていた。

「フフ……オレ様がここにランナーを集めた意味が分かってないようだな。こんなに詳しい事情を貴様らに話したというだけで、オレの云わんとしていることが分かると思うんだが?」

(あ……。)

 結城はその言葉を聞き、すぐにリオネルの考えを理解してしまった。

 そして気付くとその事を声に出していた。

「つまり……私達で止めればいいってことか。」

 単純なことだ。

 今まですっかり頭から抜け落ちていたが、私たちの操作するVFにはそれを成し得るだけの力が備わっている。

 結城はそのことも踏まえて更に言葉を続ける。

「この海上都市でVFに対抗できるのは、同じくVFを操作できるランナーだけ……それに私たちは上位リーグで活躍してるプロのランナーなんだ。手遅れになる前に暴走VFを制圧しないと……!!」

 我ながら出すぎた行為かもしれない。

 こういう危険が絡むトラブルは軍隊や治安維持部隊に任せたほうがいいのかもしれない。

 でも、アカネスミレがあれば、そして他のランナーがいれば何とかなるのではないかと思っていた。

「オレ様のセリフを取るな……。」

 私の言葉の後、リオネルは若干呆れが混ざった口調で告げる。

 しかし、そんな言葉とは裏腹にリオネルは満足気な笑みを浮かべており、こちらの言葉を引き継ぐようにして話を進めていく。

「ユウキの言う通り、現時点でオレ達が一番現場に近いし、暴走VF共を止めるだけの戦力もある。それに、既に他のランナーには知らせて、各フロートで防衛をするように連絡も入れている。この場は施設のスタッフに任せて、暴走VFを鎮圧するぞ。」

 リオネルの提案に対して反対するものはおらず、誰もが黙ったまま首を縦に振っていた。

 次の行動が決まった所で、早速リオネルは作戦を立て始める。

「となるとすぐにでもVFを取りに行ったほうがいいが、問題は移動手段だな。……今あるのはオレ様のVTOL(垂直離着陸機)と暴走VFを運んできた輸送ヘリが1機だけか……。」

 暴走VFの乱射のせいで他のヘリは既に使いものにならないほど穴ぼこ状態である。むしろ、無事なヘリがあるだけでもラッキーだと言えよう。

 それで何体のVFが運べるのか考えていると、どこからか通信機の呼び出し音が聞こえてきた。それはリュリュが持っている通信機から発せられており、リュリュは数回鳴ったところで通信機のスイッチを押して受け答えはじめた。

 その連絡もすぐに終わり、リュリュがリオネルに報告する。

「お兄様、大容量の高性能バッテリーの用意ができたようです。」

 それを聞き、リオネルは熟考する事なくリュリュに指示を返す。

「よし、すぐにアカネスミレとファスナに組み込め。準備ができ次第その2体をダグラス本社ビルの防衛に向かわせる。防衛システムだけで暴走VFに対処するのは難しいだろうからな。」

 なぜかダグラス本社に向かわされることになり、結城は咄嗟にリオネルに声を掛ける。

「ちょっ、勝手に決めるなよ。私は……」

 ――出来ればアール・ブランのラボがある旧1STリーグフロートに向かいたい。

 諒一がいるとするならそこである可能性が高いからだ。それに、たとえ発見できなくても、動くアカネスミレの姿を見れば自分の無事を知らせることができる。

 私はダグラス本社ビルに向かうのは反対だったが、ツルカはそれを受け入れているのか、別のことについてリュリュに質問をしていた。

「そのバッテリーだとどのくらい動けるんだ?」

「お兄様のクリュントスにも入っているグレードの高いバッテリーです。差し替えるだけで十分な出力を得られるはずですし、数時間は十分に戦えると思います。」

「なるほど、それなら心配いらないな。」

 そんな感じで呑気に会話をしているツルカに対し、結城は小さな声で話しかける。

「ツルカ、リオネルの言う通りダグラス本社に行くつもりか?」

 ツルカだって心臓を患っているイクセルのことが気になっているはずだ。となれば、当然チームビルが集まっている1STリーグフロートに行きたいはず……。

 そう思っていたのだが、ツルカからはリオネルと同じ言葉が返ってきた。

「ボクはダグラス本社ビルに行くぞ。……ユウキは嫌なのか?」

「嫌ってわけじゃないけど、できれば1STリーグフロートユニットに行きたい、多分そこに諒一がいるし、イクセルだって……」

 イクセルのことを言おうとすると、その瞬間にツルカに腕を軽く掴まれてしまった。

 ツルカの手は私の左手首にある黒いブレスレット触れており、ツルカは黙ったままブレスレットを見つめていた。

(ツルカ……。)

 このブレスレットは元はイクセルがツルカにプレゼントしたものだ。

 ツルカもイクセルの事を心配はしているが、それを表に出さないように努めているのだろう。そんな気持ちが手を通して伝わり、結城はそれ以上何も言わなかった。

 数秒ほどでツルカは腕を放し、こちらを説得するように囁く。

「ユウキ、アカネスミレとファスナはもうバッテリーパックを交換するだけで動けるし、今は1秒でもはやくダグラス社と近くにある工場の被害を最小限に抑えないと。……だろ?」

「うん、そうだな。」

 海上都市のことを、住民の安全を考えればリオネルの指示に従うのが最も理にかなっている。それに、諒一が簡単に死ぬわけもない。シェルターに入っている限り安全は保証されている。

 そう考えるとぐっと気が楽になった。

 だが、すぐに気が気でない人の声が聞こえてきた。

「駄目よツルカちゃん。これは単なる試合じゃないんだし、何が起こるかわからないのよ? ……暴走しているVFだって、バッテリーが切れれば動かなくなるし、すぐに騒ぎも収まると思うの。だからわざわざ危険な場所に行かなくても……。」

 それはオルネラさんだった。

 オルネラさんはパイプ椅子から立ち上がり、ツルカを背後から抱きしめる。そのせいでツルカは私とオルネラさんに挟まれるような形になっていた。

 ツルカは私に体を向けたまま、首だけ振り返ってオルネラさんに言葉を返す。

「危険だろうけど、ユウキと一緒に行けば大丈夫だ。それにボクだってプロのランナーなんだ。できることだったら……ボクの力で誰かを助けられるなら、役に立ちたいんだ。」

 何故だかわからないが、ツルカは使命感に燃えているようだった。

 そんなツルカの意思を尊重すべく、結城も加勢する。

「ツルカのことは任せてくださいオルネラさん。危なくなったらすぐに逃げますから。」

 こちらがオルネラさんの目をまっすぐ見て言うと、オルネラさんは「……はい」と応え、ツルカからゆっくりと身を引いた。そして再びパイプ椅子に座る。

 すると、今まで黙っていたアザムさんが「話は終わったか?」と確認を取るように言い、自ら行く場所を申告し始める。

「俺は1STリーグフロートに行く。そこならクーディンのジンと合流できる。あいつとは知り合いだし、互いの癖も分かってる。30体程度ならジンと2人だけで問題ねェ。」

 自信を持っていうアザムさんに対し、リオネルは呆気無く要求を受け入れた。

「確かに2人組で行動するのには賛成だな。……なら1STリーグフロートはアザムに任せよう。」

 勝手にリオネルが取りまとめていることに疑問を感じる結城であったが、アザムに任せれば1STリーグフロートは安全だろうと考えていた。また、雷公のランナーとアザムさんが知り合いだったことにも驚いていた。

 私とツルカとアザムの行き先が決まると、続いてリオネル本人も向かう先を宣言してきた。

「オレはこのまま2NDリーグフロートユニットに戻って、そこで防衛する。このランスと同じ電磁パルス(EMP)兵器があるから、それを使えば暴走VFも簡単に機能停止させられるだろう。」

 電磁パルス兵器……サマルを一撃で行動不能にした反則級の武器のことだ。確かにあれがあれば敵が何十体いても恐るるに足らない。

 大方のランナーの行き先が決まると、ここでようやくドギィが話に参加してくる。

「それじゃあ自分はメインフロートユニットに向かいます。メイルシリーズの3体を動かせれば大抵の状況には対応できるはずですから。」

 ドギィに関しては全く心配していない。ああ見えて賭け試合で命のやり取りをしていた男だ。ルール無用となれば彼の独壇場であることは明らかであった。

 この決定に異論はなく、すぐにリオネルは簡単な予定を口頭で説明していく。

「……よし。まずVTOLを2NDリーグフロートに向かわせて、クリュントスを降ろす。そこでドギィとアザムはVFをVTOLに搬入しろ。……その後、メインフロートユニットでドギィを降ろし、最後にアザムを1STリーグフロートに送り届ければいいな。」

「よし、じゃあ私とツルカはアリーナに……」

 目処が付き、早速行動に移ろうとした結城だったが、その時にランベルトが重要なことを思い出させてくれた。

「待て、発電施設はどうするんだ?」

(そうだった……。)

 ランベルトの言葉に一同は頭を抱えることになった。

 しかし今度はすぐに解決策が提示される。

「七宮はどうなんだ? あいつがいればかなり有利になるだろう。」

 そう言ったのはアザムさんだった。その意見は最もで、七宮の実力を考えれば発電所という重要な施設に向かわせるのも納得できた。

 ただこちらの心情としては、七宮に怪しい行動をされては堪らないし、このままじっとしていてくれたほうが安心できる気がしていた。

 そんな事を思っていると、またしてもリュリュの通信機に連絡が入ってきた。

 それは今話題に上がっている七宮からで、発信元はリアトリスのコックピットからであった。

「――話は聞かせてもらったよ。……でもすまない、コックピットハッチが変形して外に出られないんだ。だから今すぐには無理だけど、簡易修理が終わり次第助けに行くよ。それじゃ。」

 急に七宮の声がしたかと思うと、一方的に通信は切れてしまった。

 その瞬間嫌なムードが部屋の中を包んだが、ドギィは構うことなく提案し続ける。

「シチノミヤは無理みたいですね。こうなれば自分が単独で向いましょうか。輸送船に直接降下させてもらえれば船ごと沈めます。もし無理でも発電施設を緊急停止すれば最悪の事態は免れると思います。」

 そんなドギィの献身的な提案は有難いのだが、聞く限りでは確実性に欠ける気がする。

(こうなったら、どこかを見捨てて発電施設に戦力を回すしか……)

 素人なりに色々と考えていると、不意に体が揺れた。

「……?」

 疲れたせいでフラフラしてしまったのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 ツルカやリオネルも部屋の中を見渡しており、その反応を見て部屋全体が揺れていることに気が付いた。

「地震か……?」

 海の上なのに地震が起こるわけがない。的はずれなセリフを吐いたランベルトはタバコを咥えたままパイプ椅子に座って、周囲を見ていた。

 それから揺れが大きくなることはなく、あっという間に収まった。

 施設内で何か起こったのだろうか、また暴走VFが出現したのだろうか……。しかし、それにしては若干揺れが小さかったようにも思える。

 色々と不安に思っていると、急にリュリュが声を張って揺れの原因を教えてくれた。

「問題ありません。つい先程E4のヴァルジウスが洋上発電施設近海で輸送船を一隻、電磁レールガンで沈めたようです。」

 そう言うリュリュの手にはごつい系状の携帯端末が握られていて、視線はその画面に向けられていた。どうやらメッセージを読み上げているようだ。

 リュリュの報告は更に続く。

「しかし、砲撃の余波衝撃のせいで発電施設が緊急停止。……工業団地フロートへの電力供給がストップしたようです。」

「やっぱり凄いな、電磁レールガンは……。」

 流石ミリアストラさんだ。この調子で他の輸送船も撃沈してくれると嬉しいが、もしものことを考えて防衛に向かったほうがいいことには変わりない。

 思いがけず一番の問題が解決したところで、リオネルは私に指示を出してきた。

「とにかく時間がない、女子学生どもはさっさと残ってるヘリを使ってダグラス本社に急げ。」

 追い立てるように言われ、ツルカはリオネルに疑問を投げかける。

「でも、ヘリのパイロットは?」

「VFの操作システムを介してVF側から操縦できるようになってる。何も問題ない。」

 リオネルは事も無げに言ったが、練習も何もなしでヘリを操作できる気がしない。途中で操縦をミスして海に墜落してしまった日には目も当てられないだろう。

 結城は恐る恐るその事を自己申告する。

「……私操縦したことないんだけど。」

 すると、ツルカも同じようなセリフをリオネルに投げかけた。

「そんなのボクもやったことないし、そっちのVTOLに乗せてくれないか?」

 遠回りになるが、そっちの方が安全だ。

 しかし、リオネルは全くこちらの要望など聞き入れてくれなかった。

「一刻を争う時に馬鹿を言うな。……操縦ならユウキにさせればいい。ぶっつけ本番でオレ様を倒すような奴だから、ヘリの操縦くらい問題ないだろう。」

「そんな……。」

 無茶苦茶な論理に結城は困り果ててしまう。が、ここでうだうだしている間にも暴走VFを載せた輸送船は各フロートに接近しているのだ。

(ここでもたついてる場合じゃないか……。)

 結城はそう思い、ヘリの操縦を頑張ってみることにした。要は行きたい方向に傾ければいいだけなのだ。VFの操作の複雑さを考えれば簡単だ。

「……よし、じゃあ行ってくる。行こうツルカ。」

 意を決した結城は、再び海上アリーナに戻るべく部屋の出口へ急ぐ。

 すると最後にリュリュがこちらにアドバイスをしてきた。

「ダグラス本社フロートにいる暴走VFの数は今だ不明ですが、防衛に向かったランナーからの情報によりますと数十体はいるようです。装備も、すぐ近くにあるダグラスの倉庫から好き勝手に装備しているようですから、それだけは気をつけて下さい。」

 既に何名かのランナーがダグラス本社を守るべく複数のVFと戦っているみたいだ。それなら尚更のこと急いで行く必要がある。

 そこまで言うとリュリュは言葉を区切り、軽く会釈した。

「頑張ってください、タカノ様。」

 丁寧に送り出され、結城は他の人にも目を向けてみる。すると、オルネラさんもツルカに何かを喋っていた。パッと見激励しているのかと思ったが、聞こえてきたのは謝罪に近い言葉だった。

「ごめんね、ツルカちゃん……。まさかこんな事になるなんて……。」

「……?」

 ツルカは何故そんな事を言われているのか分からないようで、目をぱちくりさせていた。

 それだけ言うとオルネラさんは俯いたまま黙ってしまい、特にこれ以上部屋に留まる理由もなかったので、私とツルカは一緒に部屋を後にした。


  3


 そのサイレンの音がゲームセンター内に聞こえてきたのは、ダークガルムとダグラスの試合が終わってからすぐの事だった。

 ダークガルムがあんな間抜けな負け方をしたことにも驚愕したが、あのサイレンの音はその驚きさえも消し飛ばすほど騒々しく、あまりの大音量さにモニターの前で観戦していたファンの動きが止まるほどだった。

 槻矢もその中の一人であった。

 とにかく、試合が終わったのと同時にゲームセンター内に緊急避難を告げるアナウンスが流れ始め、ファンの人達はゲームセンターの外へと移動を開始。一階のモニター前にいた僕はあっけないほど簡単に人の波に飲まれ、そのまま海中にあるシェルターへと移動させられてしまったのである。

(みんな、動きが早かったなぁ……。)

 槻矢はそのシェルターの中で避難時の事を思い返していた。

 これも日頃の避難訓練のおかげだろう。特に混乱もなく迅速にシェルターへと移動した住民の動きに、槻矢は素直に感心していた。

 もちろんゲームセンターにいたファンの他にも、このフロートユニットの住民や観光客なども避難していて、シェルター内は結構騒がしかった。

 ――海中シェルター

 ここは災害時や有事に備えて建設された場所であり、外から見ると海底に向けて伸びるただの棒のように見える。

 普段、この海底に伸びるシェルターはフロートユニットを安定させるスタビライザーの役目も果たしていて、合計で8つほどある。

 ただ、普通の建造物とは違って窓はなく、おまけに壁も厚い。また、収容人数を増やすため、天井はかなり低くなっている。しかも移動には階段か梯子を使うしか無い。

 一応エレベーターもあるが、工事現場で使うような簡易的なもので、緊急時以外の使用は禁止されているらしい。

 要するに移動が不便だということだ。

 しかし、食料の備蓄は2週間分あるし、水は海水を淡水化した物をいくらでも使えるので、水まわりの不便は無い。いくらでも水は飲めるし、潮流・海洋温度差発電のお陰で熱いシャワーだって浴びられる。

 それに、今日は1STリーグの最終試合なのでVFBミュージアムに観戦しに行っている人が多く、かなり空間に余裕があるので快適と言われれば快適かもしれない。……逆に、1STリーグフロートのシェルター内は悲惨な状態になっていることだろう。

 しかし、この場所に2週間も閉じ込められることだけは願い下げだった。

「ようジクス、何があったって?」

 ひんやりとした床に座ってぼんやりと考え事をしていると、近くからニコライさんの声が聞こえてきた。

 僕と同じように座っているニコライさんの目線は上に向けられており、その先にはジクスさんの姿があった。ジクスさんは「何が原因なのか訊いてくる」と言ったきり30分ほど姿を見せなかったが、ようやく情報を手に入れたようだ。

 ジクスさんは僕達がいる場所まで来ると同じように床に座って、話し始める。

「ダグラスのVFが暴走してるんだとよ。まったく、何をどうミスればこんな事故を起こせるんだ……ってニコライ、ここまで来てゲームするこた無いだろ。」

 ジクスさんは話の途中でニコライさんに文句を言う。

 せっかく手に入れた情報を伝えているのに、ゲームをしながら聞かれたのでは文句の一つも言いたくなる。

 指摘されたニコライさんは手に持っていたゲーム機をひらひらとさせて反論する。

「いや、今はゲームイベントを観戦してるだけだっての。」

 そしてそれだけ言うと再びゲーム画面に集中し始めた。

 ちなみに、VFBのシミュレーションゲームは基本的にどんな端末でもプレイ可能だ。操作の割り当てをして細かい動作をAIに任せれば、最悪、移動のためのスティックと攻撃のためのボタンひとつだけで対戦することができる。もっと言うと、相手との距離によって攻撃パターンなどを設定すれば操作しなくても対戦可能だ。

 イベントの途中でこんな場所に閉じ込められたのだ。もしこのシェルターが通信圏外だったらニコライさんはひどく落胆していたに違いない。

 なので、あまりゲームをしないほうがいいと指摘できないでいた。

 そんなニコライさんに代わり、槻矢はジクスの話を詳しく聞いてみることにした。

「ジクスさん、単なる暴走で避難指示が出るわけ無いと思うんですけど、そんなに危ないんでしょうか?」

 それらしい質問をしてみると、ジクスさんはすぐに返答してくれた。

「さぁ、そこまでは俺にも分からない。ただ、ダグラスの組立工場で事故があったのは確かだ。……でも、それだとツキヤの言う通り、メインフロートユニットの住民まで非難させることは無いな。」

 何かもっと良からぬことでも起きているのだろうか……。

 それとも海上都市側がリスクを極力減らすために、わざわざ非難させているのか……。

 シェルターにいて何もわからない状態なので、予測しようにもそれらしい予測もできないでいた。

「あ、プレイヤーがスゲーやられた。ヴァルジウスの電磁レールガンかぁ……。結構辛そうだな。」

 ニコライさんは相変わらずイベントの観戦に夢中だ。

 僕もそう気張らずに気楽に構えて警戒体制が解除されるのを待っていたほうがいいのかもしれない。

「お、居住エリアにエルマーだ。」

 ニコライの口からエルマーの名前が出て、槻矢は思わずニコライのゲーム機に目を向けてしまう。やはりイベントにあまり興味はないが、エルマーそれ自体には興味がある。

 槻矢はニコライに身を寄せ、ゲーム画面を覗き込む。

「ちょっと見せてもらってもいいですか?」

「おう、どうせ後数時間はここで待機してなきゃいけないし、一緒に見て暇つぶしでも……」

 ニコライから許可を得ると、早速槻矢はゲーム機を持つニコライの腕に寄りかかり、なるべく正面にゲーム画面を捉える。

 すると、自分がゲームでよく使っていたVFが映し出されていた。

「本当にエルマーだ……。」

 しかも、そのエルマーは空を飛んでいた。こんな光景はゲーム以外で見ることはできない。

 エルマーはそのまま飛行し、やがてゲーム内フィールドの居住エリアにある中央ビルに陣取った。一番高い場所に陣取るとは……やはり飛行能力があるだけでかなり有利だ。

 プレイヤーはまだ戦闘エリアに到着していないので、いい位置から迎え撃つつもりなのだろう。AIの思考としては何とも模範的な位置取りだ。

「なんかスゲー武器装備してるな。こんなのあったか?」

 ニコライさんの声がかなり近い位置から発せられた。ちょっと近付き過ぎたかもしれない。

 そう思い、槻矢は少しだけゲーム画面から距離を取る。……が、目はエルマーの持っている武器に釘付けだった。

「ロングバレル40mm機関砲……。」

 それはおよそ携帯できるような大きさの火器ではなかった。しかし、携帯できないのは普通の軍隊での話であって、VFという機械の巨人にかかれば全く問題にならない。

「なんだツキヤ知ってたのか……。これ、隠し武器か?」

 エルマーが携えている機関砲、それは銃身が長いだけの、なんとも無骨な重火器だった。

 機関部と銃身を合わせた長さはエルマーの全長ほどもあり、砲それ自体が鈍器と思えるほど太くもあった。

 槻矢はそれを見ながら機関砲について説明する。

「いえ、これはエルマーがVFB参戦当時に使った武器で、通常兵器をVF用に無理やり改造したものです。毎分540発発射可能なチェーンガンなんですが、僕の知る限りでは、実際の試合では一回しか使われてません。」

 何故一度しか使用されなかったのかは当時の試合の様子を見ればすぐに分かる。

 ……とにかく重いのだ。

 動きに支障をきたすほど重いというわけではない。ちゃんと持ち運びはできるし、狙った場所を自由に撃つこともできる。しかし、高速機動のエルマーとの相性が最悪なのだ。

 ゲームイベントとは言え、そんな最低の武器を使わざるを得ないのも、この広い対戦エリアのせいに違いない。中央ビルの上からなら機関砲のメリットを最大限に生かせるわけだ。

「へぇ、流石イベント戦だ。この日のためだけに武器データを作るなんてな。」

 ニコライさんは僕の説明に納得したようで、エルマーから観戦カメラを引いた。すると、とたんにエルマーの姿が小さくなり、ビルの周辺まで見えるようになった。

 中央ビルのてっぺんにいるエルマーは機関砲を持ち上げると、それを中央ビルの屋上の縁に叩きつけた。その結果、機関砲の重さに耐えきれなくなった落下防止用の金属柵は砲の形状に沿うように変形し、即席の砲固定装置が出来上がる。

「……。」

 槻矢はそのエルマーの仕草に違和感を覚える。

 ……何かおかしい。

 AIの挙動・行動パターンなんてたかが知れてる。だが、このエルマーは砲の固定にビルの落下防止柵を使うなんて高度な行動をしている。

 たかがAIがこんな小技を使うだろうか。いや、それ以前に落下防止用の柵の変形具合がゲームにしては妙にリアルな気がする。

 このシミュレーションゲームはリアルな物理演算も売りの一つだ。高度な物理エンジンを使っているに違いない。しかし、それにしたってあの重量感のある動作を再現できるだろうか。

 それに、このVFの動かし方は人間じゃないと有り得ない。

 実際にVFに乗るようになったからこそ、この微妙なモーションの違和感を感じ取ることができる。……何百回とAIのエルマーと対戦してきた僕が言うのだから間違いない。これはAIの動きではないと断言できる。

(AIじゃないとすると……)

 もしかしてエルマーのランナー、ローランド本人が操作しているのだろうか。イベントだから有り得ない話ではないが、それでも納得できそうにない。

(……まさか!!)

 槻矢の脳裏にある可能性が思い浮かぶ。

 槻矢はそれを確かめるべく、ニコライからゲーム端末を奪い、観戦カメラをエルマーではなくエリア内にコンピューターグラフィックで再現されている男子学生寮に向けた。

 流石はダッグゲームズ、男子学生寮は本物と見紛うほどの出来である。

 そのできに感心しつつ、槻矢はその中でも自分の部屋のベランダにカメラを寄せる。すると、あってはならないものがそこに映し出されていた。

 それは、今朝自分が干した真っ白なシーツだった。

(間違いなくこれは……)

 見間違いではない。ゲーム端末の画面には風で揺らめくシーツが映っている。

 そしてそれはある可能性を示唆していた。

「現実だ……。」

 この画面に映し出されているのは現実で起こっていることだ。

 何をどうやってゲームと現実の映像をリンクさせているのかは分からないが、これはゲームではなく現実世界で行われている。

 衛星からの画像を再処理してゲーム上のデータと重ねあわせているのだろうか。

 それとも、高高度から偵察機を飛ばして、そのカメラから詳細な映像を得ているのか……。

 ……とすると、特殊なアルゴリズムを用いて動体だけを検出し、それをゲーム上の映像に表示させている……? シーツは風で動いていたからゲーム上にも再現された……?

 かなり難しい気がするが、そう仮定すると、シーツ以外の物がゲーム内に表示されていないことに説明が付く。

(いや、考えすぎなのかも……)

 もし、仮にこれが実際に起こっている出来事だとしよう。すると暴走VFというのは他ならぬ、イベントに参加しているVFということになる。

 出発地点もダグラス社の工場だったし、これは今の状況にがっちり合致している。

 でも実際そんな事が起こり得るだろうか。ただの偶然なのではないだろうか。

 でもそれだとシーツの件が説明できない。

「……。」

「どうしたツキヤ、なにか言ったか?」

 確かめる必要がある。

 今から外に出て、中央ビルのてっぺんにエルマーの姿を確認できれば僕の仮説が仮説でないことを証明できる。しかし、商業エリアからだと上の様子は全く見えないので上の居住エリアまで登らねばならない。

 エレベーターが使えればいいが、非常事態の今、エレベーターが使えるかどうか怪しい。

 それに、証明したからといってどうなる訳でもない。もしこの海上都市メインフロートユニットに暴走VFが来るとなれば危険になるのは明らかだし、どちらにしてもシェルターの中にいるのが安全だ。

(……でも、やっぱり確かめたい。)

 気付いてしまった以上、それを自分の目で確認したくなるのは仕方がない欲求だ。

 その欲求に従い、槻矢はニコライのゲーム機を持ったまま立ち上がる。

「おいツキヤ……?」

「……。」

 もはや槻矢にニコライやジクスの呼びかけは届いていない。

 とうとう槻矢は踵をシェルターの上下を結ぶ階段へ向け、一人で歩き始める。もちろん外に出るためだ。

 しかしその階段に足をかける寸前で、槻矢はジクスに止められてしまった。

「どうしたんだよツキヤ。冗談にしてはキツイぞ。」

「……あ。」

 ジクスに体を掴まれ、その時やっと槻矢は自分が呼ばれていたことに気づいた。

 そして矢継ぎ早に自分の導き出した可能性を2人の上級生に伝える。

「大変です。このイベント……現実で起こってるかもしれないんです。」

「……はぁ?」

「んん?」

 自分の考えを端的に言うと、ジクスさんとニコライさんは怪訝な表情をこちらに向けた。

 まあ、そんな反応をされて当然だ。

 槻矢はより理解してもらうために、自分の推理を余すところ無く2人に説明することにした。


 ――5分後。

 全て話し終えると、2人の反応には大きな違いがあった。

 ニコライさんは説明し始めてから1分と経たずに興味をなくしたみたいで、ゲーム画面を眺めている。

 それに対してジクスさんは自分でも驚くほどこの話に食いついてくれた。

 普段も結構VFBに関する裏話とかを話してくれるし、こういう類の話は好きなのだろう。

「……つまりなんだ。暴走しているVFを操作してるのはプレイヤーってことか?」

「そうです。」

 色々と自分の考えを話すと、ジクスさんは僕の胴ほどあるごつい腕を組んで、目線を泳がせる。僕の話の真偽を判定しているみたいだ。

 そして数秒後、ジクスさんは「うーん」と唸ったかと思うと結論を僕に告げてきた。

「確かに、確かめるだけの価値はありそうだな。ちょっくら外の様子でも見てみるか。」

 有り得ない、と言われると思っていたので、その反応はかなり嬉しかった。

「ジクスさん、信じてくれるんですか?」

「ツキヤがここまで本気で言ってるんだ。それに、こんな狭い場所でじっとしてるより面白そうじゃないか。」

 ジクスさんはニカっと笑って言った。

 この分だと僕の話がいい暇つぶしの種だと思われたのかもしれない。でも、協力してくれるなら有難いに越したことはない。

 その後、ニコライさんもジクスさんが説得してくれて、3人でシェルターの外に出るための計画を練り始めた。


  4


 2NDリーグフロートユニット、そのスタジアム内。

 アリーナの中央にはVTOLが着陸しており、その格納部分にラスラファンのVF、パルシュラムが運び込まれていた。いや、自ら動いているので乗り込んでいると言ったほうがいいのかもしれない。

(意外に結構運べそうです。これなら予備のパーツも……いや、そんな猶予は残されてないのでした……。)

 ドギィはヘクトメイルを操作しており、VTOLに乗り込む順番を待っていた。

 ヘクトメイルは攻守のバランスがとれた優れたVFであり、古めかしいデザインと大きな両手持ちのロングソードが特徴的だ。

 また、ヘクトメイルは自分が生まれる前からVFBで活躍している、言わば完成されたVFでもあると言えるだろう。

 そのヘクトメイルのコックピット内で、ドギィはつい先程のことを思い返していた。

 ……海上アリーナでクライトマンのVTOLに乗り込んでから、2NDリーグフロートユニットに到着するまで数分と掛からなかった。

 出発する時、海上アリーナにアカネスミレとファスナの姿は既になかった。距離もだいたい同じくらいだし、今頃自分と同じように目的地に到着しているに違いない。

 そんな風に結城のことを気に掛けつつ、ドギィはヘクトメイルを操作してVTOLの格納部分に乗り込ませる。背中から膝を抱えるような姿勢で格納部分に乗り込むわけだが、これがなかなか難しい。

 格納部分にはガイドレールもあるし、中で方向を変えるための仕組みもあるので、出る時は困らないだろうが、入るのはやっぱり面倒みたいだ。

 つい先程はクライトマンのクリュントスが降りて、そのまま2NDリーグのフロートユニットの防衛に向かった。クリュントスは試合では絶対に使えないようなかなり強力なランスを持っているようだし、問題ないだろう。

 後は自分が中央フロートユニットに降りて、そのままVTOLはアザムアイマンを1STリーグフロートユニットに送り届ける。これで海上都市群を防衛できるかどうかは置いておいて、バランスよく戦力を配置できるはずだ。

 ドギィはなんとかヘクトメイルをVTOLに格納すると、通信機に向けて挨拶をする。

「フォシュタルさん、行ってきます。」

 自分のチームのオーナーに別れを告げると、すぐに返事が返ってきた。

「まさかこんな事になるとはな……お前のことだ、死ぬことはないと思うが、無理はするなよ。」

「はい。わかりました。」

 フォシュタルさんはリオネルクライトマンから連絡を受け、いつでも動けるようにVFを準備していてくれた。そのお陰で格納作業は驚くほどスムーズに行えたのだ。

 バッテリーも取り付けたし、予備のロングブレードも運び込めたし、準備万端である。 

「アクトメイルとオクトメイルも準備はいいか?」

 通信機越しにフォシュタルさんの指示する声が聞こえる。すると、それに応じるように男の声が聞こえてきた。

「準備万端です、オーナー。」

「こちらも問題ありません。」

 現在アクトメイルとオクトメイルに乗っている2人ともがトライアローのランナーだ。

 両者ともトライアローのトレーニングルームにあるシミュレーターの中に居たせいで避難警報に気づけなかったらしい。運がいいのか悪いのか、協力してくれるのだから協力してもらおう。

「じゃあ行って来い。」

 フォシュタルさんが命令すると、すぐに近くからヘリのローター音が聞こえてきた。

 VTOLの中にいるせいで周囲の状況はわからないが、アクトメイルとオクトメイルを載せた輸送ヘリが飛び立つ音だろう。この輸送ヘリはトライアローが所持しているもので、VTOLの負担を減らすためにフォシュタルさんが用意してくれた。

 そんな物があったなんて初耳だ。とにかく、自分がこちらに到着した時には既に取付作業を行なっていたのだし、無理にVTOLに載せることもない。

 ヘリの音はどんどん大きくなったが、やがてその音は上空へと消えていった。先に中央フロートユニットへ向かったようだ。

 続いてVTOLのエンジンも始動し、ヘクトメイルにもその振動が伝わってきた。

 すると、フォシュタルさんが通信機越しに話しかけてきた。

「それにしてもドギィ、何でわざわざ中央フロートユニットへ……。」

 それは、2NDリーグフロートユニットを守ればいいのに、と言っているように聞こえた。

 フォシュタルさんは、クライトマンのVFだけに任せるのは心許ないと思っているのかもしれない。

 その言葉を受け、ドギィは簡単に答える。

「中央フロートは一番広いフロートですから、一番強いトライアローが守ったほうがいいはずです。」

「……そうか。」

 フォシュタルさんは釈然としていないのか、喋り方も不自然だった。

 本当のことを言うと、自分はどこに行って防衛しても構わないと考えている。それは投げやりな考えから来るものではない。どんな状況でも暴走VFを破壊することができると確信しているからだ。

(案外フォシュタルさんも心配性ですね。意外です。)

 いつもは毅然としているフォシュタルの隠れた一面を知ることができて、ドギィは何故だか不思議な気持ちになっていた。

「離陸します……。」

 最後にフォシュタルさんに何か言おうと考えていると、不意に通信機からVTOLのパイロットの声がして、すぐにVTOLが上昇し始める。

 すると、外からスピーカーで拡張されたリオネルの声が聞こえてきた。

「おいフォシュタル、見送りもそのくらいにしろ。……それよりも早くシェルターに避難するんだな。オレ様はそこらの建物に気を回せるほど器用な男じゃない。」

 クライトマンだけでなくフォシュタルさんも近くにいるみたいだ。フォシュタルさんの安全をリオネルクライトマンに預けるのは不安だ。

 これは絶対にありえないことだが、もしフォシュタルさんが死んだりでもしたらその怒りは全てリオネルクライトマンにぶつけることにしよう。

 そんな事を思っている間にVTOLは急上昇し、すぐに水平飛行に移行した。

 通信機の接続も切られたみたいで、そこからフォシュタルさんの声が聞こえてくることはない。……が、通信機から別の声が話しかけてきた。

「よォ、直接話すのは初めてだな。」

 それはアザムアイマンの声だった。

 その声でドギィは彼の存在を思い出し、ヘクトメイルを操作して視線を横に向ける。すると、ヘクトメイルの横にパルシュラムの姿があった。

 ドギィは声を掛けられたので、一応応じることにした。

「話すのは初めてじゃないです。ついさっき部屋の中で話したはずです、覚えてませんか?」

「そういう事を言ってるんじゃねぇよ……。」

 通信機からため息が聞こえてきた。

 そんな声を聞きつつドギィはパルシュラムを観察する。

 骸骨のようなVFパルシュラムは、黄土色のマントを羽織っていて、スクラップと言われれば違和感がないくらい貧相な印象を受けた。

 これがかなりの戦闘力を発揮するのだから不思議だ。

 特に透明の剣は厄介で、初めて試合した時などはかなりの手傷を負ってしまった。

 もちろん今シーズンでも勝利したが、意外に手こずる相手だったと記憶している。

「とにかくよォ、サシで話すのは初めてだろ?」

「そうです。それは間違いないです。」

 特に話すこともないので適当に返事をすると、アザムアイマンは何を勘違いしたか、しつこく話しかけてきた。

「おいガキ、緊張してるのか? わざわざ無理して防衛戦なんてやらなくてもいいんだぜ?」

 無理をしているつもりはないけれど、何かを言わないと余計に話しかけられるかもしれない。

 そう考え、思っていることを簡単に述べることにした。

「ユウキタカノが戦っているのに、自分が戦わない訳にはいかないです。」

「ああそうか……。」

 アザムアイマンは急に興味を失ったかのように小さな声で返事をした。

 そんなボリュームの変化が気になり、ドギィは通信機越しにさっき受けた質問をそっくり返してみる。

「あなたも別に戦わなくてもいいはずです。何か理由でもあるんですか?」

 単なる興味で試しに聞き返してみると、途端に通信機からアザムアイマンの感慨深い声が耳に届いてきた。

「……理由かァ。」

 そう言ってから更に時間を置き、10秒ほど経った頃通信機からアザムアイマンのため息混じりの答えが返ってきた。

「そうだな……、大してお前と変わらないかもしれねェな。」

 女子学生であるユウキタカノが戦うのに、プロのランナーが尻込みしていたら情けないということなのだろうか。……ああ見えてアザムアイマンも結構いい人なのかもしれない。

 その考えが全く理解出来ないということはないが、少なくともユウキタカノが言った『私たちで止めればいい』というセリフに影響されたに違いない。

 危険があるのに、ああも簡単に自らの力で止めようという発想ができるのが凄い。

 無謀な性格の若いランナーと言ってしまえば簡単だが、あの場面でのユウキタカノのセリフは誰も予想していなかっただろう。

 ユウキタカノのセリフに感化されて防衛する気になったとすると説明しやすい。しかしそれ以上に、自分がそんなユウキタカノの魅力に惹かれているのも事実であった。

「――目的地に到着。」

 まだ少ししか会話をしていないのに、あっという間に目的地に着いてしまったらしい。VTOLパイロットのアナウンスが聞こえた。

 それを耳にしてドギィはあっさりと会話を断ち切り、ヘクトメイルを格納部分の後部に移動させる。

 そのままハッチを手で開けると、VTOLはホバリング状態にあり、ゆっくりと中央タワーのヘリポートに向けて降りていっていた。

 着陸できるのがそこくらいしか無いので仕方ないが、明らかに大きさが足りていない。

 こんな場所で事故でも起こされたらたまらないとドギィは考え、ある判断を下した。

「着陸は必要ないです。ここから飛び降ります。」

「え、あの、降下装備もないのにそんな……」

 ドギィはパイロットの警告を無視してヘクトメイルを操作し、VTOLの後部ハッチの縁に立たせる。

 ここから着陸地点まで30メートルちょっとと言ったところだろう。中央ビルの屋上は頑丈そうだし、着地の衝撃も問題ないはずだ。

「じゃあ飛び降ります。運んでくれてありがとうございました。」

 その言葉を最後に、ドギィは予備のロングソードを引っ掴んでVTOLから飛び降りる。

 空に身を投げた途端にヘクトメイルを襲ったのは空気の壁だ。空から落下するのは初めてで、姿勢の制御が難しい。

 しかし、ドギィはヘクトメイルを目的の場所に着地させることに成功した。

 着地の瞬間の衝撃はかなりの物だったが、このトライアローが作り出した傑作VF、ヘクトメイルにとっては大したことはない。

 着地の無事を知らせるため、ドギィは衝撃を吸収するために曲げたヘクトメイルの膝をすぐに伸ばし、上に向けて軽く手を振ってみせる。

 VTOLは上空で待機していたが、こちらの見事な着地を確認すると、すぐに1STリーグフロートに向けて飛び去っていった。

 それから遅れてアクトメイルとオクトメイルを載せた輸送ヘリがヘリポートに着陸し、無事にメイルシリーズは3体とも中央フロートユニットに降り立つことに成功した。

(ここが海上都市群の中で最も高い場所ですか……。)

 厳密に言えば、これより上にも階はある。しかし、VFが登れる場所で最も高いのは今いるヘリポートであることは確かだった。

 中央タワーのヘリポートからの眺めは最高だった。

 景観はもちろんのこと、360度目下の様子がよく観察できる。あと、監視にも適している。一部、居住エリアが邪魔になっていて、商業エリアのエレベータがある部分付近は見えなくなっているが、それを除けばターミナルの様子もよく見えるし、狙撃するなら最適の場所かもしれない。

 そんな事を考えていると、不意に近くから男の声が聞こえてきた。

「これはこれは、トライアローのメイルシリーズがお揃いで。」

 その言葉の後、屋上の縁からVFがよじ登ってきた。

 ドギィは急に出現したそのVFに見覚えがあり、その名を外部スピーカーを使って確認する。

「スカイアクセラのエルマー……もう到着していたんですか。」

 リオネルクライトマンの連絡を受けて先に来ていたのだろう。エルマーはのっそりとよじ登ると、屋上の床に重々しい銃を置いてから返事をしてきた。

「急に連絡を受けましてね、文字通りここまで飛んできましたよ。いきなりVTOLが飛んできたものですから、安全が確認できるまでビルの壁面に張り付いて隠れていたんですが……驚きましたかな?」

 エルマーは重々しい銃を再び持ち上げると、落下防止柵の上にそれを固定し、狙撃の体制に入る。高速機動に特化されたエルマーには似合わない姿勢だった。

「輸送船は順調にこのフロートに向かってきています。あなた方がいると心強いですよ。」

 エルマーの銃口の先を見てみると、海上に輸送船の姿が見えた。まだ結構距離もあり、意外と時間に余裕がありそうだ。

 エルマーのランナーは更に言葉を続ける。

「地下シェルターへの守りは完璧ですし、敵の数も少ないと聞いています。余裕で撃退できるでしょう。」

 丁寧な物言いな割に、どこかこの事態を軽く見ているような気がして、ドギィは再び外部スピーカーを用いて言葉を返すことにした。

「暴走VFのスペックもわからないのに、やけに自信満々ですね。」

 慎重に臨んでもいいのではないかという警告を込めた言葉だったが、すぐにエルマーのランナーに返されてしまう。 

「ええ、自信満々です。敵がどんなスペックであれ、仮にも戦闘兵器のエルマーがただのスポーツマシンに負けるわけがありませんから。」

 そう言って、エルマーは重々しい銃を構え直す。

 戦闘兵器と言ったこともあってか、ドギィはその銃のことが少しだけ気になった。

「まさかそのロングライフル……実戦用のものですか? 結構重そうですね。」

「ライフルというか機関砲なんですが……重さはたったの1トンです。むしろ弾薬のほうが重いくらいですよ。」

 その銃身の長い機関砲の機構部分にはこれまた重苦しい箱型の弾倉が装着されていて、ちょっとした隙間からそこそこ大きな銃弾がのぞいていた。

「せっかくですし、弾薬を少し軽量化しておきます。」 

 そんな声が聞こえたかと思うと、いきなりエルマーの機関砲から重低音の爆音が発生し、銃口が光った。その重低音は断続的に発生し、ものすごい勢いで空薬莢が機関砲から排出されていく。

 同時に海に目を向けると、輸送船の周囲の海面に水柱が発生しており、輸送船からも着弾を知らせる火花のような光がチラチラと見えた。

 どうやら何十発かが輸送船に命中したらしい。

 しかし、輸送船に穴が開くわけでもなく、輸送船の形が変形するわけでもなく、あまり効果はないみたいだった。距離もあるし、命中させるのが難しいのかもしれない。

 エルマーの持つ機関砲からは弾薬を装填する際に発生する機械音がまだ聞こえていたが、数秒もするとその音も聞こえなくなり、代わりにエルマーのランナーの独り言が聞こえてきた。

「……馬鹿みたいに硬い船ですね。流石ダグラスの輸送船です。」

「ちょっと、人が乗ってたらどうするつもりですか。」

 撃つのを見ておきながら今更な話だが、一応注意をしてみる。するとエルマーからすぐに返答があった。

「大丈夫ですよ、どうせ遠隔操……遠距離の射撃だと空気の抵抗で弾丸の威力がかなり減衰しますから。」

 当たってもダメージはないから大丈夫、と言う問題ではない。

 人命に関わるので更に注意しておこうかと考えていると、エルマーのランナーがこちらを無視して何やら喋り始める。

「しかし、こうなるとどうしようもありません、相手が上陸して船から出るのを待ちましょう。」

「……。」

 エルマのランナーは一方的にそう言うと、機関砲の銃口を少しだけ下に傾けた。 

 すると同時に遠くから複数の銃声の音がしてきた。どうやら輸送船から暴走VF達が反撃をしているようだ。ろくに当たりもしないだろうに、熱心なことだ。

 そんな暴走VFの対応に、ドギィは何か言葉では説明できない違和感を覚える。そして、思い浮かんだ疑問を口に出していた。

「ふと思ったんですが、あの暴走VFは何のためにここに来るのか、わかります?」

 エルマーは一瞬だけこちらに首を向けたが、すぐにそっぽを向いてしまう。

「さぁ、私にはさっぱり。VFを暴走させた本人に聞かない限りは何とも言えませんが、我々を攻撃しているのだから、ここは余計なことは考えず、素直に反撃しませんか。」

 このランナーの言う通り、あまり深く考えても意味はないし、自分が考えたところで何がどうなるわけでもない。そういうのは後で解決すればいいし、他の人間に任せるのがいい。

「……それもそうでした。じゃあ敵の上陸と同時に自分が輸送船に突っ込みますから、適当に援護してください。今撃ってきている射撃精度で大体の敵の力量は分かってます。すぐに済みます。」

 適当に作戦を提案すると、意外なほど簡単にエルマーのランナーは了承してくれた。

「わかりましたよ。こちらで防衛ラインを設定して、漏れたVFだけ狙い撃つことにしましょう。前衛はメイルシリーズの皆さんに任せることにします。」

 あっさりと方向性が決まったところで、ドギィはどうやってこのビルから降りるか考える。その時、お互いに名乗っていない事にも気がついた。

「自己紹介がまだでした。トライアローのドギィです。」

 簡単に言うと、向こうも簡単に返してくれた。

「スカイアクセラのローランド・キャニングフィールドです。」

 名乗り終えると同時にローランドは機関砲で牽制射撃を開始する。

「……ではドギィさん、早く終わらせましょうか。」

 接敵を目前にして、エルマーの外部スピーカーから聞こえてくるその声は恐ろしく冷静であった。


  5


「――どこに降りますか?」

「さぁ……。言っとくが俺はドギィみたいに空中降下するつもりはねェぞ。」

 パイロットの質問に答えつつ、アザムは格納部分のハッチから目下の様子を眺めていた。

 今現在VTOLは1STリーグフロートユニットの上空をゆっくりと飛んで、着陸地点を探している。

 できれば旧1STリーグのスタジアムのような広い場所に降りたいのだが、生憎ミュージアム付近では未だに避難中の人の姿が見えるので、降りられそうにない。

 限界まで高度を下げれば降りられないこともないが、限界までフレーム強度を削っているパルシュラムが着地の衝撃に耐えられるか、微妙な所であった。

「あそこはどうです? 海岸付近にスペースがあるように見えますが。」

 パイロットの言葉に従い、アザムは海岸付近に目を向ける。すると、海に面している小規模な公園を発見できた。あのくらい開けた場所ならなんとか着陸させられそうだ。

「よし、あそこに降ろせ。」

「了解しました。」

 パイロットの返事が聞こえると、すぐにVTOLは公園目掛けて降下していく。

 すると、その公園に近づくに連れて2体のVFの姿が見えてきた。また、そのVFの片方は大きな弓を手に持っていた。

(あれは……ジンの雷公か。)

 更に近づくと、クーディンの雷公の姿の他にも熊のようなずんぐりむっくりのVF、ラインツハーもいた。

 そこまで接近すると向こうもこちらの存在に気が付いたらしい、雷公は上を向いてアームをブンブン振っていた。

(馬鹿みたいに手を振りやがって……)

 雷公の動作に早速苛立ちを覚えていると、やがてVTOLは公園内に着陸した。

 アザムはパルシュラムを操作して格納部分から降り、公園の地面を踏む。その際、VTOLのティルトローターが発していた風によって、パルシュラムの黄土のマントが激しくはためいた。

 この黄土のマントは特殊装甲布と言って、敵の攻撃に合わせて形状を変化させる、布でありながらかなりの防御力を有しているマントだ。熱に弱いため連続して防げないが、それなりに便利な道具である。

 風ではためくそのマントを押さえていると、早速ジンから通信が入ってきた。

「センパ……アザムさん、来てくれたんですね。」

 とても嬉しげな声に、アザムは怒声を返す。

「てめぇ、こんな公園で何やってんだ!? ……迎撃準備はできてんのか?」

「もちろんですよ。ほら。」

 そんなこちらの怒声をものともせず、ジンの乗る雷公は自慢げにある方向を指差す。

 その先には大量の箱詰めの矢が積まれてあった。

 まぁ、これだけあれば輸送船に直接攻撃できるだろう。というか、むしろ敵が海上にいるうちに輸送船に直接乗り込んだ方が良かったのではないだろうか。

 そうすれば被害を最小限に抑えられるし、最悪船の機関部を破壊してしまえばどうとでもなる。

(今更だな……。)

 そんなリスクの高い方法を直ぐ様却下し、アザムはラインツハーに向きあう。 

 このぬいぐるみのような外見をしたVFは、チームグラクソルフのVFだ。

「……で、こいつに乗ってるのは?」

 通信機の先にいるジンに訊くと、すぐに答えが返ってきた。

「イアン。1STリーグのランナーですよ。」

 聞いたこともない名前だ。そこまで強くはないだろう。

 グラクソルフ自体も1STリーグ最下位のチームだし、確か今シーズンで降格する予定だったはずだ。

「ま、いないよりはマシか。」

 全く期待はしていない。だが盾くらいにはなる。

 そう思っての発言だったが、どうやらイアン本人に聞かれていたらしい、通信機からジンとは別の男の声が聞こえてきた。

「ちょっと……いくら何でも聞き捨てなりませんね。2NDリーグのランナーにそんな事を言われる筋合いは……。」

「うるせぇなァ……。」

 ごちゃごちゃ文句を言ってくるイアンを無視し、アザムは海に目を向ける。すると近海にダグラスの輸送船の姿が見えた。

 なるほど、沿岸部の公園で待機していたのにも理由があったらしい。

 同じくジンも輸送船を見つけたのか、早速弓に矢を番え始める。

 それを見てイアンも話を中断して大きな鎚を体の前に構える。……やっぱりどこか頼りない構え方だ。

「おい、邪魔だけはするなよ。」

 アザムはイアンに短く告げると、自分も硬化性透過流動体をアームのタンクから出して、ブレードの形状へ変化させる。

 この透明なブレードこそパルシュラムの武器であり、暗器の傑作でもあった。

 その不可視の剣を両腕に形成すると同時に雷公の弓から矢が放たれ、それを合図に防衛戦が開始された。


  6


 海上都市群のとある海域。そこにE4の実験フロートの姿があった。

 実験フロートはE4が所有している、戦艦のような形状をした言わば巨大な船であり、海上ならば自由に移動することができる。内部には発電設備もあり、E4の研究者はここで生活している。

 ミリアストラもこの中で寝泊まりしており、E4のVFであるヴァルジウスもたまに性能実験のために運び込まれることがある。

 そんな実験フロートの甲板には競技用の電磁レールガンを構えたヴァルジウスがいて、それに乗るミリアストラは水面に浮かぶVFを一体ずつ狙い撃ちにしていた。

 近くには洋上発電施設が見え、そのすぐ近くには炎を上げて沈んでいく輸送船があった。

 今狙っているのはあれから脱出してきたVFたちだ。

 数分もすればVFは揚力を失って海の底へと沈んでいくだろうが、それだと退屈なので、電磁レールガンでその手助けをしているというわけだ。

 因みに、輸送船自体はE4の実験用巨大レールガンで撃沈しており、もはや船と判断できぬほど無残な形に変形している。

 その他にも黒焦げになったVFや、手足のちぎれたVFが散乱していた。しかし、形があるだけマシである。レールガンから射出された飛翔体とまともにに衝突していればバラバラに砕け散っていたはずだ。

 それだけ実験用巨大レールガンは強力な兵器であるのだが、使い勝手はかなり悪い。

 とにかく不便なのだ。

 まず、これはE4の実験フロートに取り付けられた、いわば砲台のようなものなので自由に持ち運べない。大きくて長い上に重いのだ。

 あまりにも大きいのでヴァルジウス程度の出力で持ち上げられるわけもないし、これは仕方ないとしよう。

 次に、1発撃つのに多大な電力を食うということだ。今アタシがいるE4実験フロートに大容量の発電設備があるからいいものの、VFのバッテリーを発射のエネルギーに回したら1発撃っただけですっからかんになってしまう。

 そして最後に、連続して撃てないということだ。もともと実験用に作られた兵器なので連射できないのには目を瞑るとして、普段なら10分かそこらでチャージが完了する。……しかし、今日は半ば強奪するように実験フロートを出港させたので、船員の数がかなり少ない。その為、次弾装填までの時間が余計にかかっているのだ。

 船員というか、従業員の数は普段の3分の1しかおらず、単純計算で少なくとも30分は掛かる計算だ。いや、「暴走したVFを鎮圧するために出動する」と言ったので、みんなが精一杯働いてくれることを考えると25分くらいになるかもしれない。

 だが、やっぱりそれでも遅い。というか10分でも遅い。せめて30秒くらいにまで短縮できないだろうか。

 これが実用化された本物の兵器であれば全ての作業がオートで行われるので、コンデンサへのチャージの時間を考慮しても1分以内に次弾を発射できるだろう。だが、飽くまでここにあるのは実験用の、デモンストレーション用の半分飾り物のようなレールガンだ。多少の不便は我慢するより他ない。

 それにぶっちゃけ、今使用している出力強化された競技用の電磁レールガンの方が使い勝手がいい。胸部のアンカーボルトと連結すれば安定性も増すし、エネルーギーラインは実験フロートから引いているのでエネルギーの心配をしなくていいし、これならそこそこ連射も効く。暴走VFを適度に間引くのにはこれで十分だ。

(さて、このくらいでいいわよね……。)

 海に動くものが見えなくなり、ミリアストラは競技用電磁レールガンを甲板の上に置き、一息つく。

 これが本当の防衛戦であればこのまま近くにあるフロートユニットの味方機を援護射撃しているところだ。

 この位置からなら、2NDリーグフロートユニットであればビルの影になっている場所以外は援護可能だ。それくらいの性能がこの競技用電磁レールガンにはある。

 しかし、そんな事は七宮の指示には含まれていなかったし、アタシが援護しなくても暴走VF程度なら余裕で撃退できるはずだ。

 よって、次の段階に移るまで休憩させてもらおう。

(あー、疲れた。)

 ミリアストラはヴァルジウスのコックピット内で手足を伸ばし、疲れを吐き出すように大きく深呼吸する。

 ……それにしても実験用の巨大レールガンで輸送船をぶち抜いた時は興奮した。

 あれだけの巨大な船が一瞬で分断される光景なんてもう見ることはできないだろう。着弾の衝撃で海面が振動したほどだ、近くに居た小魚などは衝撃で死んでいるかもしれない。

(次に撃つ時は……いや、もう使わないわね。)

 これをVF同士の戦闘で使ったりしたら多分ランナーごと砕け散る。

 無駄に人を殺すつもりはないし、使うとしても出力を抑えて使用することになるだろう。

 とにかくこれで第1段階の仕事は済んだ。事が済むまではここからのんびり観戦でもしていよう。

 そう決めたミリアストラは呑気に欠伸をすると、足を組んで両手を頭の後ろに回した。


  7


 2NDリーグフロートユニット。

 ここではリオネルがクリュントス1体だけで防衛する予定だった。しかし、その場所にはなぜかVFが2体存在していた。

 一方はもちろん西洋の甲冑のような外見をしたクリュントスである。そして、もう一方はダグラスのハイエンドモデルVFだった。これは暴走しているVFとは違う、古いタイプのモデルで、その手には特殊な形状をした鞭が握られていた。

 その鞭には各所にヤスリのような小さな刃が取り付けられており、リオネルはその武器の使い手のランナーをよく知っていた。

 それは、チームスエファネッツに所属しているアイドルランナーであった。

「アオト・ネクティレル……。なぜ貴様がここにいる。」

 リオネルは外部スピーカーを使ってそのハイエンドVFに話しかける。すると、すぐにハイエンドVFから反応が返ってきた。

「そんな言い方をするなよ。わざわざ1STリーグフロートユニットから来てやったんだ。」

「いつオレ様が援護を頼んだ? 邪魔になるだけだから今すぐVFから降りろ。」

 1体よりも2体のほうが戦いが有利になる……というのは足し算しかできない子供の考えだ。EMP兵器を持っているリオネルにとって今のアオトは邪魔にしかならない。

 アオトごと他の暴走VFを機能停止させればいいだけの話なのだが、ダグラスのVFが暴走している状況において、ダグラス純正のハイエンドモデルに乗るのはかなりリスクが高いように思える。

 サマルの戦闘AIにエラーがあったと仮定するなら、アオトの操るVFだって暴走するかもしれないのだ。そんないつ暴走するか分からないVFを近くにいさせる訳にはいかなかった。

 しかし、アオトはこちらの考えも知らないで、くだらない事情を語り始める。

「クーディンのランナーにこっちで防衛したらいいんじゃないかって提案されたんだが、言う事を聞いて正解だったな。リオネル、お前だけでこの広いフロートを守れるわけがないだろうからな。」

「……。」

 今すぐ張り倒してやりたい気分だったが、その気持ちを抑えて何かいい方法は無いか考える。そうやって色々と思考している間もアオトは無駄話を続ける。

「俺が普段乗ってるのはダグラスのハイエンドタイプだし、VFごと輸送しなくてもここで調達できたからな。移動も手早くて済んだ。それにしてもあのジンってランナー……小麦色の肌がなかなかそそる……。」

「そんな事をわざわざオレに話すな。」

 リュリュの情報によれば、アオトはアール・ブランの男子学生を気に入っていると聞いたのだが、気移りしやすい奴だ。

 確かジン・ウェイシンと言ったか、あのランナーは……

(ん……?)

 ダグラスの輸送船の行き先が判明したのはかなり後だ。それより前には『ダグラスの組み立て工場から暴走VFを載せた輸送船が出た』とだけしか伝えていない。

 そもそもどうやって暴走VFが2NDリーグフロートに向かうことを知ったのだろうか。

 そんな状況でアオト一人をここへ向かわせたのはおかしい。ただの当てずっぽうにしては正確過ぎる。

(怪しいな……。)

 ジンというランナーに対し、不信感を得たリオネルはすぐにアオトに質問を投げかける。

「おいアオト、そいつは暴走VFがどのフロートに向かっているのかを知っていたのか?」

「さぁ、そこまでは知らないね。」

 おおよそ面倒なことを考えるつもりはないのだろう。アオトの答えは全く当てにならないものだった。

「……とにかくこのフロートを守るんだろう。お前と一緒に戦うのは嫌だが、今はそんな事を言ってる場合でもないしな。……さっさと沿岸部に行くぞ。」

 アオトはそう言い捨てて話を中断し、沿岸部に向けて移動していく。 

「ま、そうだな……。」

 まずは2NDリーグフロートユニット、この場所を守るのが先決だ。怪しいと思ったことを今考えている暇はないし、全て終わった後で考えればいいだけのことだ。

 海上アリーナのように銃を乱射されると被害は甚大になる。できれば長引かせたくない。

 リオネルはEMP装置が組み込まれたランスを握り直すと、アオトの後を追った。


  8


 他の場所と打って変わり、ダグラス本社があるフロートユニットはひどい有様だった。

 高層ビルの壁面には無数の穴があり、地面の道路にはビルの構成物やその他の瓦礫が散乱している。

 所々で黒煙が上がっており、銃声の音や何か金属同士がぶつかる音も響いていた。

 迎撃システムは暴走VFたちに既に制圧されたらしく、暴走VFによる一方的な破壊行為が横行しているようだった。

 まさに阿鼻叫喚である。

 結城はそんな光景を上空から眺めていた。

「……やっと着いたけど、酷いな。」

 現在、結城はアカネスミレのコックピット内から間接的に輸送ヘリを操作している。

 慣れれば簡単なものだ。

 アカネスミレの他にも輸送ヘリはファスナも吊り下げており、すぐにでも降下できる状態にあった。

「ホントにひどいな……シェルターは無事なのか……?」

 ツルカもこの有様に驚いているようだ。

 とにかく早く暴走VFを停止させなければならない。

 結城はそう思い、急いで騒ぎの中心へ向かおうとしたが、すぐにツルカが話しかけてきた。

「なあユウキ、ここらへんで降りないか? あっち行くと狙い撃ちにされそうだし。」

 ツルカの言う通り、空にいると隠れられないし、ヘリだと簡単に避けられそうにない。

 ここはまずフロートユニットの端に降りて、ビルの合間をぬって接近したほうがいいだろう。

「オッケー、わかった。」

 結城はすぐに了解し、ヘリをフロートの端、ターミナル付近にある広場へ降下させていく。

 ここは全く被害がなく、安全な場所のようだった。ここならヘリを置いていても破壊されずに済むはずだ。

 ゆっくりとヘリの高度を下げていくと、しばらくしてツルカの声が聞こえてきた。

「よし、先に降りるぞ。」

 ツルカはそう宣言するとヘリが着地する直前にファスナを操作し、私が乗っているアカネスミレを抱えてヘリから降り、着地地点から距離をとって待機した。

 それを確認すると、結城はヘリを遠隔操作してゆっくりと地面に着地させ、すぐにエンジンを停止させる。

 初めてのランディングだったが、これも問題なくできたようだ。他にも何か手順があるのだろうが、地面にヘリの足を付かせたのだからこれで十分だ。

 止まったところで結城は操作を切り替えてアカネスミレのコントロールを得る。そして、すぐにヘリに載せていた超音波振動ロングブレードを手にとった。

 武器はこれしか持ってきていないので大事に扱わねばならない。それに、試合とは違ってジェネレーターからエネルギーを受信し続けることはできないので、なるべく長時間使用しないように気をつけよう。

 こちらがロングブレードを取り出している間、ツルカは騒ぎの大きな方向を見ていたようで、通信機から状況確認のセリフが聞こえてきた。

「……誰か戦ってるみたいだ。」

「戦ってる……?」

 結城はツルカに訊き返し、すぐにツルカと同じ方向へ目を向ける。

 上空からは煙のせいで見えなかったが、視線の先、ビルの隙間からVF同士が向き合っている様子が微かに見える。リュリュも先に防衛に行ったランナーのことを言っていたし、その人がまだ戦っているのかもしれない。

「だったら助けに行かないと!!」

 結城はすぐさまその場から離れ、フロートの中央へ向けて走りだす。道路をVFで走るのも初めての体験だが、今はそんな事を考えている場合ではない。

 走り出すとすぐにツルカも後を追ってきた。

 ツルカの操るファスナの歩幅は大きく、足を踏み出す度に道路に綺麗な足型が残されていた。それだけでもファスナの尋常ではない脚力を窺い知ることができた。

 暫くすると道路上に瓦礫が出現し始め、銃声の音が大きくなり、煙も濃くなってきた。 

「もうすぐ見えるはずだ。狙うのは頭じゃなくて背中だぞ、分かってるか?」

「分かってるって、バッテリーを狙うんだろ。」

 ツルカからのアドバイスに返事をすると、すぐに暴走VFの姿を捉えることができた。

 暴走VFは数体いて、全部がこちらに側面を見せながらどこかに向けて走っている。

(なんだ……?)

 そのVF達の目線の先を見てみると、暴走VFとは違うVFが見えた。

「あれは、アルザキルか……?」

 ツルカは私よりも先にその姿を確認したらしい。VFの名前が通信機から聞こえてきた。

 ツルカの言う通り、それは狼を連想させるボディを見にまとったVF、ダークガルムが昨シーズン使用していたVFのアルザキルであった。

 アルザキルは既に防衛戦の最終段階にあり、ダグラス本社ビルを背にして敵から奪ったであろうアサルトライフルを乱射していた。

 肩に装備されたスラッグガンからも絶え間なく散弾が発射されており、かなり追い詰められている状況にあるのが一目でわかった。

 結城とツルカは同時に状況を把握し、それぞれが最適な行動を取る。

 結城はロングブレードを構えて敵の真横から突っ込み、数体のVFの背中を次々に斬りつけていく。

 ツルカは真っ先にアルザキルの元へ向かい、接近してきていた暴走VFたちを蹴り飛ばす。そして、体勢が崩れた所で背中のバッテリーを貫手で破壊してしまった。

 あっという間に数体のVFを片付け、体勢を立て直した所で結城とツルカはアルザキルを庇うように密集し、改めて周囲を索敵する。

 しかし、先ほどの攻撃で近くに居た敵は殲滅できたらしく、付近に動くものは確認できなかった。

 とりあえず状況が落ち着くとアルザキルはアサルトライフルの銃口を下ろし、軽く手を振ってきた。そしてすぐに女性の声が外部スピーカーから聞こえ始めた。

「あ、危ない所をありがとうございます。私はダークガルムで見習いをやらせてもらっている者です。クライトマンの人から話は聞きました。……結城さんにツルカさん、一緒にこの街を守りましょう。」

 てっきり男性のランナーが操っているのもかと思っていたため、結城は驚いてしまう。

 見習いとはいえ、私やツルカの他にも女性ランナーがいたとは……しかも見た感じ操作もそこそこ上手い。2NDリーグにいても不思議でないくらいの操作技術だ。

 声から推測するに上品そうな成人女性の姿を思い浮かべていたが、今はそんな事をじっくり想像している暇はない。

「ああ、宜しく……っと!!」

 結城は外部スピーカーで短く挨拶を返しつつ、ビルの影から襲ってきたVFの頭部を串刺しにする。そしてVFをすれ違わせてから地面に押し倒し、背中のバッテリーもロングブレードを突き刺して破壊した。

(コイツ、隠れてチャンスをうかがってたのか……。)

 ただ単に数で押してくるだけなのかと思っていたが、戦った感じどうやらそうではないらしい。ビルの死角を使って奇襲してくるとは……。

 ツルカもそんな戦法に度肝を抜かれているようだった。

「ただの戦闘AIがこんなことしてくるか? どうなってるんだ。」

 ツルカも会話方法を外部スピーカーに切り替え、アルザキルの女性ランナーがすぐにそのセリフに反応した。

「私もそう思ってたんです。……やっぱりただの暴走とは思えません。でも、これだけの人数のランナーを集めるとなるとかなり大変ですし、工場の監視システムにバレない訳がありませんし……。」

「うん、AIの動きじゃないよな……。」

 戦闘補助AIが誤作動を起こしたから暴走しているものと思い込んでいたが、彼女の言う通り、実は違うのではないだろうか。

 明らかに人が動かしている感じがするし、そうなるとやはり何かのグループが工場からVFを奪い取って、何かの目的のために破壊行為を行なっているのだろうか。

 周囲を警戒しつつも考えていると、ふと思い出したようにツルカが話しかけてきた。

「なあユウキ、これってゲームセンターのイベントと似てないか?」

「そうだな……。海上都市の戦闘フィールドで多数を相手にしてるし……。」

 今思えば一度でもあれをやったお陰でこの状況に慣れ易かったのかもしれない。

 あの時は何体相手にしたのか思い返していると、女性ランナーが思い付きで考えを話し始めた。

「まさか犯人はゲームプレイヤーなんですか!? ……でも、ゲームプレイヤーなら結構な人数いますし、この強さも頷けますね。」

 何を一人で納得しているのか、そんなわけあるはずが……

(待てよ……。)

 結城は今一度考えてみる。

 さっきからこいつらはコックピットを庇う様子すら見せないし、戦い方もあまりにも消極的だ。……これはゲームプレイヤーの戦い方の傾向と合致する。

 しかしそれだけでは判断材料に欠ける。

 そう思い結城は倒れて動かなくなっているVFのコックピットに手をかける。

「ユウキ……?」

 ツルカの不思議そうな声を聞きつつ、結城はコックピットをこじ開けていく。その開け方は乱暴であったが、結城の予想が当たっていれば、考慮する必要はなかった。

 やがてコックピットがこじ開けられる。

「やっぱり誰も乗ってない……。」

 結城が予想した通り、中にランナーの姿はなかった。

(誰かが乗っているわけでもないのに、その動きはAIのものじゃない……)

 その事実から導かれる答えはただひとつだった。

(遠隔操作……!!)

 どこかで誰かがVFを遠隔操作している。そう考えるのが自然であり、そして、遠隔操作と聞いて思い浮かぶ人物が一人いた。

(……七宮の仕業か!!)

 あいつは過去に私をゲームのイベントと偽って、無理やり1STリーグの試合に出させたことがある。前歴があることだし、あいつが直接遠隔操作していないにしても、高確率で関わっていると予想できた。

「しまった。4体のコックピットも確認しておくべきだった……。」

 海上アリーナで暴走した4体のVFを倒したあの時、無理を通してでもコックピットの中を調べるべきだったかもしれない。

 誰も乗っていなければ異変に気づけたし、それに操作系統のエラーをちょっとでも調べていれば、遠隔操作されていたという可能性にも気付けていたはずである。

「どうしたんだユウキ、ブツブツ言っててもわからないぞ。」

 ツルカの声を聞き、結城は無人のコックピットを見せ、自分が気付いてしまったことを伝える。

「ほら見ろツルカ、コックピットには誰も乗ってなかった。つまり、この騒ぎはどっかの犯罪グループとかの仕業でもなければ、単なるAIの暴走でもない……。誰かが別の場所から操作してるかもしれないんだ。あと、七宮が関係してるかもしれない。」

 ツルカは空のコックピットを見て大人しく話を聞いていたが、七宮の名前が出た途端に興奮気味の声で言葉を返してきた。

「七宮が!? ……あいつは今アリーナにいるはずだ。早く戻って止めさせるぞ!!」

「ああ。」

 結城はツルカの提案に同意したものの、気がつくと暴走VFが周囲に集まってきており、いくつかの銃口がこちらに向けられていた。

「くそ、何体いるんだ……?」

 どうするべきか悩んでいると、ツルカのファスナがそのVFの集団に向けて歩き始める。

 すぐに銃弾が飛んできたが、ファスナはそれをいとも簡単に回避した。

「ここはボクとアルザキルがやっとくから、ユウキは早く海上アリーナに戻れ。」

 そんな事を急に言われても困る。というか、七宮と会った所ですぐにこの騒ぎを収められるかどうかすら分からないのだ。

 その旨をツルカに伝えようとすると、今度はアルザキルもVFの集団に向けてアサルトライフルを撃ち、応戦し始めた。

「あの、だいぶ数も減って来ましたし大丈夫だと思います。この騒ぎを止める方法があるかもしれないんですよね? でしたら早く戻ってください。」

 ここまで言われると戻ったほうがいいのかと錯覚しそうになる。しかし結城は冷静に判断し、改めて自分の行動を決定する。 

「……いや、ここの安全を確保するのが先だ。誰も乗っていないから遠慮いらないし、さっさと片付けるぞ。」

 そう宣言すると、ツルカから掛け声のようなものが聞こえてきた。

「よし、覚悟しろよ木偶人形め!!」

「どこでそんなセリフを覚えたんだ……。」

 突っ込みを入れつつ結城はロングブレードを構え、暴走VFと対峙する。

 まあ、ツルカの言う通り木偶人形に違いないので、すぐにここら一帯の騒ぎを収めることができるだろう。

 そう考えながらも結城は暴走VFを1体撃破し、すぐに2体目へ飛び掛かった。

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

 いよいよ最終局面に突入しました。暴走VFの防衛はすぐに終わり、これからそれぞれの場所でVF同士の激しい戦いが予想されます。

 次の話では結城と七宮が再び相まみえる事になります。

 これからもよろしくお願いします。

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