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耀紅のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
与えられた者
23/51

【与えられた者】第三章

前の話のあらすじ

昇格リーグに出場することになり、結城はファンやメディアから大きな注目を浴びた。

おかげで、女子寮から学校に行くのにも一苦労し、授業中も取材陣が押しかけてきた。

帰宅も同じように大変かと思われたが、諒一の助けにより、変装して野次馬たちの目を欺くことにした。

その帰路で結城は諒一とはぐれてしまい、その後すぐにドギィと出会う。

結城はそのままドギィに連れられ、賭け試合が行われているフロートに移動する。

その賭け試合というものは、結城にとって衝撃的なものだった。

そしてその試合を過去に行っていたというドギィの本音を聞くこととなる。

『殺すつもりで戦え』と言うドギィの要求に対し、結城は『飽くまでランナーとして全力を尽くす』と返事をした。

第3章


  1


 ツルカの宣言したとおり、3日とまではいかなかったものの、1週間しないうちに騒ぎはおさまった。

 事態を重く見た学校側が、女子学生寮の門付近に警備員が配備したおかげで、取材陣は2日目にして早々に退却したのだ。

 3日目になると一気に数が減り、野次馬も順調にその数を減らしていった。

 5日目を過ぎるとその警備員もいなくなり、6日目……すなわち今日は門前に人影は見当たらない。

 門付近はいつも通りの景色を取り戻していた。

 結城が徹底的に姿を見せなかったのに加え、住んでいる場所が女子学生寮であったことが功を奏したとも言える。敷地内に侵入すれば即通報できるからだ。

 その抑制効果は抜群だったようだで、実際、侵入を試みようとする輩は一人もいなかった。

 あっという間に元通りになり、結城は“今後自分はどうなるのだろう”と真剣に悩んでいた自分を恥ずかしく思う。

 人生が“どうにかなる”ためには、1STリーグで優勝くらいしてみせないと駄目なのかもしれない。

(もしくは犯罪者になるか……だな。)

 それこそ人生が変わるどころか、終わってしまう。

 “どうにかなる”ということに変わり無いが、それはちょっと違う気がする。というか、だいぶ違う。

 結城が今朝の寮の門付近の様相を思い返していると、元気のいい声が聞こえてきた。

「今回は運が良かったな、嬢ちゃん。」

「ん?」

 ぼーっとしていた結城に気さくに話しかけてきたのはランベルトだった。

 ……時刻は昼過ぎ。現在、結城はアール・ブランのラボにいる。

 そしてひんやりとした作業台に体を預けてだらだらとしていた。

 地下にあることもあって、この場所はかなり涼しい。難点を挙げるとすれば、少しオイル臭いことくらいだろうか。

 初めは匂いがつかないか心配していたが、今はもう気にしていない。

 ランベルトもこちらと同じように椅子に座り、持っていた雑誌を作業台の上に置いた。

 あまり気が進まなかったが、結城は向かいの席に座ってきたランベルトに返事をしてやることにする。

「……運がどうしたって?」

 かなり遅れて仕方なく返事をするも、ランベルトは普段の気楽な調子で話す。

「学生寮の騒ぎがすぐに収まった理由がわかったんだよ。……教えて欲しいだろ?」

「……。」

 別にいいと言っても喋るんだろうな、と結城は思っていた。

 すると、ランベルトはこちらの予想通り、嬉々としてその理由とやらを話し始めた。

「仕方ないなぁ、教えてやるよ。……今朝知ったんだが、『ダークガルム』のランナーが来シーズンのはじめに正体を明かすらしい。それで、みんなの目がそっちにいってるってわけだ。」

「へぇ……」

 結城にとっては、正体を明かそうが明かさまいが関係ない。

 もっと言えばそんなことに興味はない。

 しかし、ファンにとっては注目すべき事件らしい。自らマスクを剥ぐ覆面レスラーのようなものだろうか。

 結城自身は全くプロレスを観ないのでよく分からないが、例えとしては、かなりかけ離れているような気がした。

 もし、注意がダークガルムに逸れていなければ、あの騒ぎはもっと長引いていたかもしれない。

 ダークガルムのランナーに感謝しつつ、結城はランベルトに不満をぶつける。

「……あの時、ランベルトがきっちりとメディアに対応してくれてたら、もっともっと早く騒ぎは收まったと思うんだけど?」

「確かにそうだが……慣れてなかったんだし仕方ないだろ。」

 ランベルトはそう言うと、バツが悪そうに目を逸らした。一応反省はしているらしいので、結城はそれ以上ランベルトを責めるようなことはしなかった。

「それにしても、ダークガルムかぁ……。」

 結城は自分と因縁が深いそのチームのことを考える。

 ダークガルム……イベントにかこつけて、無理矢理私をゲームを通じて、キルヒアイゼンと戦わせたチームだ。

 結局あれから何もなかったが、今思い出すと恐ろしいことをさせられたものだ。

 VFランナーになるきっかけを作ってくれた、と言えば聞こえはいいが、声を大にしてそれを言ってしまうと即アウトである。……つまり、悪い意味で注目され、ランナー人生が終了するということだ。

 こちらがいろいろ考えていると、ランベルトは雑誌を音読して、ダークガルムのランナーについての情報を大雑把に伝える。

「えーとだな……そのランナーってのが日本人の男らしい。」

(日本人か……珍しいな。)

 かなり前に授業で習ったが、日本はVFに関しては後進国だ。

 正しい名称は忘れてしまったが、とにかく、『武器輸出入なんとか規制』の項目にVF用の武器が引っ掛かっているということだ。

 そのためレギュレーションがかなり厳しく、日本では3RDリーグまでしか開催できない。

 そんな地域から1STリーグで活躍するランナーが輩出されるのはとても珍しいことなのだ。……多分、日本を出て海外で活動していたに違いない。

 そんなことを勝手に想像しながら、結城は次の言葉を待つ。

「結構わかってるんだな……。他に情報は?」

 しかし、ランベルトは雑誌を閉じて首を横に振った。

「今のところ、情報はそれだけだ。こんな情報だけで騒がれるほど、ダークガルムは注目されてるってことだな。」

「そうか……。」

 その日本人男性がランナーをしていたかどうか怪しく思えた。

 私でもイクセルに勝てたのだから、VFBにおいて遠隔操作というのはかなり有利に働くと考えていい。ということは、今でもダークガルムは、自分と同じようにゲーマーを無理矢理戦わせているのではないだろうか。

 セブンなんかが操作すれば軽々と1STリーグを制覇しかねない。

(私よりVF持ちが良いし、武器もほとんど刀剣類だけだから、経済的だろうなぁ……。)

 ……仮に、これまでの試合が遠隔操作によって行われたものだったとしよう。

 例えそうだったとしても、今回はこれだけ騒がれているのだから、正体を明かすVFランナーも一応それ相応の実力者なのだろうと結城は予想する。

 そのランナーについて考えていると、ランベルトが挑発するようにからかってきた。

「なんだ嬢ちゃん、そいつに人気を奪われて悔しいのか?」

 全く悔しくないし、むしろ、逆に感謝したいくらいだ。

 結城は心からそう思っていたため、ランベルトが望むような悔しい表情が出ることはなかった。

「人気なんか全然気にしてない。……それより、ダークガルムは今シーズン何位だったんだ?」

 ランベルトはこちらの問いに対し、すぐに返事をした。

「それくらい自分で調べろ。仮にもVFランナーだろ。」

 それは明らかに答えを知っている口ぶりだった。

 一言言えば済む話なのに、本当にランベルトは大人気ない。

 結城はもう一度ランベルトに同じ事を訊く。

「いいから教えろよ。」

 ランベルトはこれ以上押し問答する気力がないのか、だらしなく答える。

「1位のキルヒアイゼンに次いで2位だ。……だから注目されてるってわけだ。」

(2位か……それにしても、やっぱりキルヒアイゼンは強いな。)

 キルヒアイゼンのVFランナーであるイクセルが、自分のことを『最強』だと言うのも理解できる。それは誇大表現でも過剰な宣伝でもない、イクセルは正真正銘の最強ランナーなのだ。

「……ダークガルムは1STリーグに登場してすぐにキルヒアイゼンに勝ちましたし、注目度はかなり高いですね。……っと。」

 いきなり話に割り込んできたのは鹿住だった。

 鹿住は枕くらいの大きさの箱を両手で抱えており、結城たちが座っている作業台まで来ると、その箱を卓上に置いた。

 鹿住の息は乱れており、運ぶのに相当苦労した様子だった。

 そんなに重かったのかと思い、結城はその箱を眺める。

(中身は……蓋があって見えないな。)

 詳しくは分からなかったが、置いた瞬間に箱からガシャリという音がしたため、中にはメカメカしい物が入っていると判断できる。しかし、その音は重量物が放つ音としては軽すぎるように思えた。

 あと、箱もそんなに大きくないので、そこまで重いように見えない。

 鹿住はそのまま椅子に座り、先ほどの話を続ける。

「……それに、キルヒアイゼンから白星を奪えたのはダークガルムだけでした。かなり腕がいいランナーなのでしょう。」

 そう言いながら、鹿住は両腕の肘から手首あたりの筋肉を手で揉んでマッサージしていた。

(勝ったのは私だけだったのか……。)

 遠隔操作でズルをしていたとはいえ、鹿住に“腕のいいランナー”だと褒められて結城は嬉しくなった。

 この間も仮眠室で褒められたばかりだが、今回、鹿住さんはあの時アルザキルを操作していたのが私だということを知らない。

(あれはお世辞で言ったんじゃなかったんだな……。)

 思わぬ形で鹿住の本心からの評価を聞くことができて、結城は満足していた。

「ところで、何の話をしていたんですか?」

 鹿住は腕をマッサージしながらランベルトに顔を向け、話しかける。

「いやなに、ダークガルムが何位だったか嬢ちゃんに教えてやってただけだ。」

 雑誌に目を落としながらそれに答えた。

「そうでしたか……。結城君も一応ランナーなんですから、そのくらいは把握していて欲しいものです。」

 ランベルトと同じようなセリフを鹿住にも言われてしまい、結城は萎縮してしまう。

「ごめん鹿住さん。……今後は気をつける。」

 結城がしおらしくこのセリフを言うと、すぐにランベルトが反応を見せた。

「おい嬢ちゃん、何だそれは……。俺の時とぜんぜん違うじゃねえか……。」

 つい数十秒ほど前、結城に対して鹿住と同じ内容の事を注意したはずなのに、そのあまりにもひどい対応の差に納得いかないようだった。

 ランベルトは差別だと言わんばかりに、台の上に身を乗り出し、こちらを指差す。

 その際、雑誌上においた手に力が入ったらしく、ページをぐしゃぐしゃにしていた。

「どうしたんですか? ランベルトさん。」

 全く状況がわからない鹿住は、目を丸くしてきょとんとしていた。

 そんな鹿住を見て我に返ったのか、ランベルトは悟ったような表情をして腰を椅子に戻した。

「……いや、なんでもない。」

 落ち着いたものの、ランベルトは釈然としない表情を見せていた。

 鹿住は話し終えると、腕を揉むのをやめて再び立ち上がる。そして台の上に置いていた箱に手をかけた。

「それでは、私は作業に戻ります。」

 そう言って鹿住は腕に力を込める。

 ……しかし、箱は持ち上がらない。

「あれ……。」

 鹿住はへっぴり腰のまま何度か箱を持ち上げようと試行したが、中身がガチャガチャと言うだけで持ち上がる気配はなかった。

 このままでは駄目だと思ったのか、鹿住は一度箱から手を離し、腕を組んで箱を眺める。

「……!!」

 しばらくすると何かを思いついたらしく、今度は箱を引きずって作業台の端っこギリギリまで移動させた。

「これでなんとか……」

 鹿住はそのまま箱を手前にずらしていき、その重量を徐々に作業台から自らの両腕に移行させていく。

 しかし、箱の底面が4分の3ほど作業台を離れた所で、鹿住は停止してしまった。

「おも……い……。」

 いよいよ、それを見かねた結城が椅子から立ち上がる。

「鹿住さん、それ私が持つよ。」

 結城は鹿住に駆け寄り、作業台から飛び出た箱を横から持ち上げる。

 鹿住はこちらに箱を預けると、すぐ椅子に座りこんだ。

「……助かります。」

 鹿住から荷物を受け取った結城だったが、先ほど予想した通り、そこまで重くはなかった。

 ……多分10キロあるかないかくらいだろう。持ち手がないので持ちにくいのかもしれないが、それにしたってこれを持ちあげられないというのは……。

(体の構造に問題があるんじゃないよな……?)

 以前、水着姿を見た時、鹿住さんは普通の体型……もとい、素晴らしい体型をしていた。怪我もないようだし、単に筋力が足りてないだけのようだ。

 ちょっと外を散歩しただけで息切れするくらいなので、あまり体力はないのだろうなと思っていたが、ここまで力がないと逆に不安になる。

「ふぅ……。」

 結城の目の前で、鹿住は両手を抱えてもみもみしていた。

 そんな非力で可憐な鹿住を見て結城は思う。

 もし自分が男だったら“あぁ、守ってあげたいなぁ”と考えるに違いないと。

「結城君、それをそのままこちらの腕に乗せてくれませんか?」

 両腕を前に差し出し、懸命に働こうとする鹿住を制止し、結城は箱をしっかりと持ち直す。

「鹿住さんは休んでて。……後の細かい荷物は諒一とランベルトが運んでくれるから。」

「俺も!?」

「当たり前だ。……はいコレ。」

 結城は作業台に沿って反対側まで移動し、持っていた箱をランベルトに渡した。

 力仕事は男が……というのは時代錯誤な考えかもしれないが、少なくとも、ランベルトが鹿住よりも力仕事に向いているのは確か。

 ランベルトは渋々椅子から立ち、その箱を受け取った。

「じゃあ嬢ちゃんも最後まで手伝えよ。」

「は? 私は何もしないぞ。」

「それはねーだろ……嬢ちゃん……。」

「仕方ないだろ……。だって、諒一にそう言われてるんだから。」

 一人しかいないランナーに怪我をされたら困る、ということで、結城は作業に参加しないように諒一から指示されていた。

 先日あれだけ迷惑をかけたこともあり、罪悪感からか、結城は素直に諒一の指示に従っていた。

「そういう事なら……まぁ、しょうがないな。」

 ランベルトは妙に納得した表情を見せ、箱の運搬作業を開始した。

 さすが長年ラボで働いていることもあり、箱を運ぶその姿はなかなか様になっていた。

 ランベルトを見送ると、結城はランベルトが座っていた椅子に座り、鹿住のほうに顔を向ける。

 鹿住はというと、腕を揉んだまま視線を遠くに向けていた。

「……にしてもツルカ君は運ぶのが上手いですね。」

 鹿住の言葉を受けて、結城も同じ方向に顔を向ける。

 ……視線の先には、ラボ内を忙しなく移動しているアカネスミレの姿があった。

 アームにはかなり大きいコンテナが握られていて、それを慎重に運んでいた。

「さすがに私も、あそこまで細かい作業はできないかもしれないな……。」

 先ほど鹿住さんが言った通り、今あのアカネスミレを操っているのはツルカだ。

 アカネスミレは絶妙な力加減で整備用の機材を掴み、輸送用のトレーラーの荷台に移し変えている。機材を載せる度、その重みのせいでトレーラーの車高が段々と低くなり、結城はその現象を珍しそうに見ていた。

 ――現在、アール・ブランのラボ内では、整備用機材を外に運び出す作業が行われている。

 これには理由があった。

 昇格リーグは1STリーグ専用のバトルフロートユニットで行われる。その上、3日続けて試合が行われるので試合の間隔が短く、試合後にいちいちラボにVFを運ぶ時間がないのだ。

 つまり、バトルフロートのハンガー内に、整備に必要な最低限の機材を運び込まなければならないというわけだ。

 言うなれば、ちょっとした遠征のようなものである。

 特にアカネスミレは、他のVFとは違うフレームを使用しているため、ハンガー備え付けの整備機器では対応できない。なので、尚更のことラボの機材を直接持ち込む必要がある。

(こういう時、替えのある既製品だと楽なんだろうなぁ……。)

 アカネスミレは自分専用のメンテナンス機材を自らの手で運んでいる。

 結城にはその構図がとても不思議なものに見えた。

 鹿住と共に結城がアカネスミレを眺めていると、視界の隅に荷物を運び終えたランベルトが写った。

 ランベルトはこちらに帰ってきながら、アカネスミレに向けて叫ぶ。

「おいツルカ、フックで頭こするんじゃねーぞ。」

 フックというのは天井クレーンから伸びているあのフックことだ。大人が両手を広げたくらいの大きさがあり、重量もあるが、あの程度でアカネスミレがダメージを受ける心配はない。

 むしろ、頭上ではなく足下に注意するべきではないだろうかと結城は思う。

 ……頭部パーツを擦るくらいなら修理すれば済むが、下にいるスタッフを踏むとかなりまずい。確実に病院行き……いや、そのまま棺桶に直行する可能性のほうが高い。

 こちらの心配もよそに、すぐにアカネスミレの外部スピーカーから、拡張されたツルカの声が聞こえてきた。

「わかってるわかってるー。」

 その声はラボ内部に反響し、作業していたスタッフのほとんどがアカネスミレに視線を向けた。

 大半はトレーラー付近で荷物の整理をしているので、踏まれる心配はないのかもしれない。

「やっぱVFって便利だな。元は作業用ロボットだっただけのことはある。」

 作業台に戻ってきたランベルトは、アカネスミレの働きっぷりを満足気に眺めていた。

 結城は“作業用ロボット”ときいて、諒一から聞いたうんちく話を思い出す。

「そう言えば、海上都市の建設の時にも大活躍したらしいな。」

「よく覚えてたな、結城。」

「!?」

 急に近くから声がして、驚いた結城は椅子から飛び退いた。

 そして距離をとってから、改めて作業台周辺の様子を見る。

 ――いつの間にか結城の隣の椅子に諒一が座っていた。

(気付かなかった……。)

 それに気付いていなかったのは自分だけだったらしく、ランベルトや鹿住さんは、こちらの過剰な反応に驚いていた。

「どしたんだ、嬢ちゃん?」

「……。」

 結城は黙って椅子に座り直す。

 諒一は制服ではなく、ランベルトと同じようなつなぎを着ていた。汚れることを予想していたのだ。その証拠にそのつなぎの所々に油汚れが付着していた。

 諒一は作業用手袋の甲の部分で汗をぬぐいながら、誰も頼んでない説明を開始する。

「……海上だと建設用の大型重機を準備するだけで3日以上掛かったらしいです。その点、VFはジェネレーターを設置すればすぐに動けます。汎用性にも優れていたし、かなり重宝したみたいです。……今でも、たまに極地の作業に投入されることがあるとかないとか。」

 諒一の説明に気になる点があったのか、鹿住がその説明に食いついた。

「確かにVFは便利でしたが、値段は大型重機の何倍もしたと聞いています……。しかし、建設期間が大幅に縮んだことを考えれば、そのくらいのコストは何ともないですね。」

 鹿住は言っている途中で自己解決してしまい、諒一もそれに同意する。

「そういうことです。やっぱりVFは偉大だ……。」

 そのセリフと共に、諒一は席を離れ、床に置いていた物を鹿住に差し出した。

 それは手押し式の台車だった。

 重いものを運ぶ作業を楽にするために、平たい板の下に車輪を幾つも付けている、あの台車だ。……それは、VFに負けずとも劣らない、偉大な発明品である。

 鹿住の大変そうな様子を見て用意したのか、そもそも諒一がここに来たのもそれが目的だったのかもしれない。

 脈略もなく、いきなり台車を渡された鹿住は、戸惑いながらもお礼を言う。

「あ、ありがとうございます。諒一君。」

 台車を渡し終えると、諒一はそのままどこかに行ってしまった。

 鹿住はというと台車のハンドルを握ったままその場に立ち尽くしていた。

 戸惑い6割うれしさ4割といった表情を見せており、それは半笑いしているようにも見えた。

 ほとんど諒一に説明されてしまったランベルトだったが、話をVFに戻す。

「ともかく、VFを発明したツルカのご先祖様に感謝だな。」

(ツルカの……?)

 何故ここでツルカの名前が出てくるのだろうか。結城は、ランベルトが間違えたのかと考えた。

 しかし、ツルカの先祖がダグラスで働いていた可能性もある。

 ……結城は確認するようにランベルトに質問する。

「VFってダグラスが開発したんじゃ……?」

「あー、一般的にはそう言われてるが……一番最初にプロトタイプを仕上げたのはキルヒアイゼンの開発部門だ。」

 結城はその言葉を受けて、鹿住の意見を伺うべく顔色を窺う。

 鹿住はランベルトの話を聞いてうんうんと頷いていた。どうやら嘘ではないらしい。

「キルヒアイゼンが『VFの生みの親』なら、ダグラスは『VFの育ての親』って感じだな。」

「へぇ……。」

 さすがキルヒアイゼンで働いていただけのことはある。キルヒアイゼンについてはかなり詳しい情報を持っているのだろう。

 それに、『生みの親』なら、キルヒアイゼンがあそこまでVFBで活躍しているのも納得できる。

 ダグラス企業学校ではそういう話は聞いたことがなかったので、結城にとってその話は新鮮だった。

「いい勉強になったろ……っておい、片手で持つな!! 両手で優しく運べ!! それ、いくらすると思ってるんだ!?」

 再びランベルトはツルカに向けて大声で注意する。

「怒鳴ることないだろ。……そんなに気になるんなら自分で操作しろよ。」

 ツルカはランベルトの指示を無視してそのまま片手で機材を運び続ける。

「というかさっきの話、まだボクのお爺ちゃんは死んでないんだから、“ご先祖様”とか言うな。」

 スピーカーからツルカの不満そうな声がして、再びそれがラボ内に響く。

 それに負けじとランベルトも言い返す。

「ご先祖で間違ってねぇだろうが!!」

(聞いてたのか……。)

 自分の家のことが話題になっていたのだ。気になるのも仕方のないことだ。

 頑張って手伝ってくれているわけだし、結城はツルカを擁護することにした。

「まぁまぁランベルト、ツルカは十分丁寧に運んでくれてるし、持ち方くらいどうでもいいじゃないか。」

「それは……そうだけどよ……。」

 ツルカは一度も目立ったミスはしていない。それでいて作業スピードが早いのだから文句など一つもないはずだ。

 結城の説得に続き、鹿住も追い打ちをかける。

「……そもそも、競技用の大事な大事なアカネスミレに雑用じみたことをさせるチーム責任者に問題があると思うのですが。」

 鹿住に痛いところを突かれ、ランベルトは完全に勢いを失ってしまう。

「……リフトでちまちまやってたら明日の試合に間に合わないんだから、大目に見てくれよ。」

 そう、試合は明日だ。

 前日にこんな作業をしているチームなんてここ以外無い。

 遠くから来たチームですら、もう既に準備万端状態である。目と鼻の先に試合会場があるアール・ブランが準備できてないが異常なのだ。

「なんで前日になって……前の試合から1週間あったじゃないか。」

 結城が文句を言うと、すぐにランベルトは言い訳し始める。

「それはカズミに言ってくれ。アカネスミレの整備で機材を運ぼうにも運べなかったんだ。」

 責任転嫁された鹿住は台車のハンドルを強く握り、反論する。

「2位決定戦が終わってすぐに言ってくれれば、向こうのハンガーで整備してましたよ。」

 あの日は酒が入ったこともあり、ランベルトは通達したつもりでいたか、もしくは通達を忘れていた可能性がある。日時はともかく、開催場所くらいはしっかり伝えておいて欲しい。

 ランベルトは2人に責められ、諦めたように謝る。

「悪かったよ……。」

 だが、謝られた所で準備が早く進むわけでもない。

(間にあうかなぁ……)

 朝早くから始めて、今は昼過ぎ。

 ラボ内の必要な機材はほとんどトレーラーに載せ、そのトレーラーもターミナルで待機している。

 あとはそのコンテナを船で運ぶだけ……だといいのだが、まだ向こうでも設置作業が残っている。運びだすくらいなら手伝えるのだが、機材の設置となると、知識のない結城が手伝えることは少ないように思えた。

 ちなみに、輸送船はリオネルの目を盗んでリュリュが準備してくれた。身をかくまう見返りとしては、少々大袈裟な気がする。

「リュリュが大型輸送船を手配してくれたんだ。それだけでもありがたいと思わないとな。」

 何となくそのことを口にしてみると、ランベルトが今気づいたかのように周囲を見渡す。

「……で、そのリュリュは今どこにいるんだ?」

 ラボ内にはいないし、輸送船にいるのだろうかと結城は思ったが、どうやら違うようだった。

 場所を知っている鹿住がその問いにすぐに答える。

「私の部屋で寝ています。体調が優れないようで……。」

「悪いなカズミ。結局お前のところに預けてしまって。」

「別に構いません。寝る時にしか部屋に帰ってませんから。」

 結城はあまり知らないが、リュリュはラボ内ではなく、鹿住の部屋に寝泊まりしている状態らしい。鹿住がどんな所に住んでいるのか気になる結城だったが、今はそれを聞く暇はなかった。

 鹿住は諒一から受け取った台車を押し、もう少なくなってきた荷物の山に向けて移動し始める。

「……と、口ばっか動かしてないであれも運んでおいて下さい。」

 鹿住に指示されたランベルトは、急に腰を押さえてわざとらしく痛がってみせる。

「いたた……今日はちょっと腰の調子が……」

「そんなこと言ってないで運んで下さい。間に合わなかったらどうするんですか。……諒一君を見習って下さい。何も言わずに働いてくれてますよ。」

 そう言って鹿住は諒一を指さす。

 諒一は機材に接続されているケーブル類を丁寧に外し、それが垂れたりしないよう、綺麗にまとめていた。

「……はい、わかりましたよ。」

 それを見たランベルトはすぐに仮病をやめて、諒一目指して歩き出した。

 結城は一人寂しく、みんなが働くのを作業台から眺めていた。


  2


 1STリーグフロートユニット。

 海上都市郡から少し離れた場所にあるこの浮島は、島全体がVFBのためのアリーナとなっている。

 いつも試合をしている2NDスタジアムとは違い、壁に囲まれていないためとても開放感がある。

 ……開放感があるのはいいのだが、何の境もなくすぐ外側に海があるのが少し不安だ。

 試合中に海に落ちたらどうなるのだろうか。……やっぱり場外負けになるのだろうか。

 ちなみに、シミュレーションゲームでは海は背景扱いされている。そのため、落ちる前に見えない壁に弾き返されてしまうのだ。

 試合映像もいくつか見ているが、海にVFが落ちるような試合映像を見たことはない。

 こういう時、公式ルールを熟読しておけば良かったと思うのだが、毎度毎度忘れてしまう。

 人間、必要のない記憶はすぐに忘れるというし、私にとってルールというものは不必要なものなのだろう。

 ……などと、輸送船からの眺めを思い出しながらいろいろ考えていると、ランベルトの困った声が前方から聞こえてきた。

「どこだ……ウチのチームのハンガーは。」

 時刻は夕刻前。

 結城、諒一、ランベルトの3名は、1STリーグフロート内の施設にいた。

 そして現在、3人は施設内の通路を歩いており、アール・ブランに割り当てられたハンガーを探している。

「この辺りなのは確かです。もう少し探しましょう。」

 諒一は動揺する様子も見せず通路をずんずん進んでいく。

 どこからこの自信が湧いてくるのだろうか。

 しかし今はそれが頼もしく思えた。

(何か……同じところぐるぐる回ってる気がする……。)

 結城たちは輸送船から降りてすぐに、ハンガーの様子を確認するためにここまで歩いてきた。が、初めての場所とあって、どこにどんな部屋があるのか全くわからない。

 2人のうちどちらかは中の構造を知っているだろうと、高を括っていたのがいけなかった。

 おかげで今は半分迷子のような状態になっている。

(……素直に、運営スタッフに場所聞けばよかったな。)

 ハンガー付近はチームスタッフ以外立入禁止なため、大会運営スタッフの姿は全く見られない。

 かといって、今更、道を聞くためだけに入口付近まで戻るつもりもなかった。

「ランベルトさん、ここだと思います。」

 施設案内の簡易地図を見ながら歩いていたランベルトは、諒一の言葉を聞いてその場で立ち止まる。結城も歩くのを止め、近くにある扉に目を向けた。

 ランベルトは扉に書かれた番号を読み上げる。

「『C-2』……確かにここで合ってるみたいだな。」

 さすが諒一だ。頼りにならない場面が想像できないほど頼りになる。

 ランベルトの確認の声を聞いて、結城はすぐに扉を開ける。鍵はかかっておらず、少し力を加えると、ドアは自動で開いていった。

 扉が開くと同時に照明が点き、広い空間が結城を出迎える。

 あまりの広さに、結城はまるで自分が小人になったかのような錯覚に陥った。

「ランベルト、入っていいのか?」

「ちょっと待ってろ、間違ってないかもう一度確認してみる。」

 ランベルトは手元にある案内用紙とハンガーの扉に書かれてある番号を交互に見ていた。

(こういう時だけはしっかり確認するんだな……)

 結城は早く中に入りたい一心でそわそわしていた。

「……。」

 そして、とうとう我慢できなくなったのか、もたついているランベルトを尻目に、結城は一足先にハンガー内に入ってしまった。

「わぁ……広いな。」 

 心なしか……というか確実に2NDリーグスタジアムのハンガーより広い。邪魔なモノがないので、そのぶん余計に広く感じられる。

 自分の声が反響するのが面白く、結城は「あー」などと無駄に声を出して遊んでいた。

 ハンガーを含め、各種施設はアリーナの地下……ではなく海面下にある。密閉されているのは当然のことで、音がよく響くのも当然のことである。

 結城がハンガー内に入って数十秒後、静かだったハンガーにいきなりブザーが鳴り始めた。

「何だ何だ? 変なスイッチ押したんじゃないだろうな?」

 遅れてハンガーに入ってきたランベルトが結城に疑いの目を向ける。

 慌てて結城は両腕を挙げ、どこにも触ってないことをアピールした。

「な、何もしてない。私はただ叫んでただけで……。」

 ブザーが鳴り始めてしばらくすると、奥に設置されているリフトに動きがあった。

「なんだ……リフトが起動してるのか?」

 ランベルトは入口付近にあるコンソールを見て、それを確認しているようだった。

 リフトのレールは天井を貫いて上まで続いており、その穴の大きさからリフトの大きさが予想できた。……穴は一般的な競技用のプールくらいの大きさがあり、リフトを移動させるガイドレールも半端なく太い。

 このくらい大きければ、難なく外部から機材を運ぶことができるだろう。

「こっち側にリフトの本体がないから……今は見えないけど、上から降りてきているみたいです。」

 諒一の言うとおり、すぐにリフトの本体が天井から顔をのぞかせた。

 しかし、まだブザーは鳴り響いており、言い得ぬ不安と緊張が結城を襲っていた。

(何が来ているんだ……?)

 本体に続いて、そのリフトに載っている物の姿も明らかになっていく。

 まず見えたのはVFの脚部分だった。

 ……それは見覚えのある脚で、その脚の持ち主がアカネスミレだということがすぐにわかった。

 ランベルトと諒一も、それがわかるとほっとした表情を見せた。

「驚かせるんじゃねーよ。ここに運び込むんなら連絡くらいよこせっての……。」

 正体がわかり安心した所で、結城たちはリフトのある場所まで歩いて移動する。

 リフトにはアカネスミレの他にもコンテナが載せられていた。

 完全にリフトが到着し、ブザーが鳴り止むと、アカネスミレはコンテナを持ってリフトから降りた。しかし、2つあるコンテナを両脇に抱えたまま、置き場所を探して右往左往していた。

 それを見たランベルトは大きな声で指示を出す。

「そこらへんに置いててくれ!!」

 その指示が聞こえたのか、すぐにアカネスミレはコンテナを床においた。

 せめて壁側に置いたほうがいいのではないかと思った結城は、ランベルトに訊いてみる。

「あんなに適当な場所でいいのか。」

 ランベルトは自らの坊主頭を掻きながらこちらの問いに答える。

「どうせここには3日しかいないんだ。すぐに運び出せたほうが帰りが楽だろう?」

「なるほど……。」

 結城はその合理的な考えに感心し、ついでに、ランベルトが3日目まで勝ち進むつもりでいることにも気がついた。3日目……つまり私が決勝まで進めると信じてくれているのだ。

 そんな、あたり前のように掛けられている期待を嬉しく思いつつ、結城はそれを隠すように話題を巨大なリフトに戻す。

「……にしても、ハンガーに専用のリフトがあるなんて……豪華なんだな……。」

「そんなことはないぞ。」

 その声と共に、アカネスミレのコックピットからツルカが飛び出してきた。

 ツルカは結城の目の前に見事に着地し、HMDを脱いでこちらに押し付ける。

「VFをアリーナまで運ばなきゃならないんだぞ。……これでも小さいくらいだ。」

 それだけ言うと、ツルカはリフトの操作パネルがある場所まで走っていった。そして、慣れた手つきでパネルを操作し、何も載っていないリフトを上に上げる。

 何度かここのハンガーを使ったことがあるのだろう。

 ツルカはキルヒアイゼンに所属しているので、そういう機会がそこそこあったに違いない。

 結城はツルカの後を追い、リフトに接近する。

(……ん?)

 改めてツルカを見ると、ツルカは普通の服ではない、伸縮性に優れた薄い生地のスーツを着用していた。

(黒いシャツか何かだと思ってたんだけど……。)

 スポーツジムなどでよく見られるスパッツなどに質感はよく似ているが、素材は全く違う。

 これは本来ランナースーツの下に着るものなのだ。

 ツルカは普段から制服の下にも着込んでおり、下着替わりにしているのを知っていたので、すぐにそれが分かった。

(やけに身体のラインが見えたのはこのせいか。)

 多分、ランナースーツに着替えようとして、面倒になって今の格好のままコックピットに乗り込んだのだろう。

 ツルカは腰部分に制服の上着を巻きつけ、袖を帯のようにしておへそあたりで結び、スカート替わりにしていた。

 インナースーツだけだったら注意するつもりだったが、取り敢えず何かしら身につけているようなので、結城は特に何も言わないことにした。

 リフトの真下まで移動すると、結城はツルカから目を離して上に目を向ける。

 入口付近からは見えなかったが、真下から上を見上げると、リフトが行き来する竪穴をよく観察することができた。

 結城は遠のいていくリフトを見ながら呟く。

「これってどこにつながってるんだろう……。」

 独り言のつもりだったが、すぐにツルカから答えが返ってきた。

「もちろん、このままターミナルを経由してアリーナに直通してる。」

(アリーナに直通か……。)

 結城は一度だけそのリフト内での光景を見たことがある。

 それはイクセルとの試合の時、ゲーム内で見たものだった。

 あの時の光景は今でもはっきりと記憶に残っている。それをまた見られるかと思うと感慨深い。

 ――リフトが見えなくなると、結城は視線を元に戻した。

 同時にツルカもリフトの操作を終え、こちらに歩み寄ってくる。

 そして、そのままこちらの手からHMDを取って、再び頭に被った。

「じゃあ、またアカネスミレ借りるけど、……いいよな?」

 例えそれが運搬作業でも、ツルカにとってVFを操作するのはとても楽しいことらしい。

 多分、今もHMDの向こう側でニコニコとしていることであろう。

 そんなツルカに対し、結城は首を縦に振る。

「うん。もちろん。」

 キルヒアイゼンを離れてから、ほとんど全く本物のVFを操作してないみたいだし、一日くらい好きにさせても誰も怒らないはずだ。

 何より鹿住さんの許可が出ているので、私がどうこういうこともない。

 こちらの返答を聞いて、ツルカは再びアカネスミレに乗り込んだ。

 そのまま起動するかと思われたが、その前にランベルトがアカネスミレの足下まで近づき、コックピットに向けて登るツルカに向けて叫んだ。

「残りのコンテナはどのくらいだ? あと何回で運べそうか分からねーか?」

 ツルカはHMDの側面をコツコツと指先で叩いてしばし考える。

「2回で……いや、次の1回で全部運び込めると思うぞ。」

 端的に答えると、ツルカはコックピットを閉じて、アカネスミレを起動させる。 

 ランベルトは、リフトに向かってのしのしと歩くアカネスミレと逆方向に体を向け、ハンガーの出口に移動し始めた。

 こちらから離れていくランベルトに、結城は声をかける。

「どこ行くんだ、ランベルト?」

「目処もついたし、俺は運営スタッフに報告しに行く。嬢ちゃん達はここでテキトーに待っててくれ。」

「あ、ランベルト……」

 また道に迷わないだろうか。そうならないように、諒一に付いて行ってもらったほうがいいんじゃないだろうか。

 しかし、結城がそれを提案する暇もなく、ランベルトはハンガーの外へと消えていった。

(今からでも遅くない、諒一に後を追いかけさせれば……)

 結城はランベルトの後を追うように諒一に命令しようとしたが、先程までいた場所に諒一の姿は見当たらない。

 もうコンテナの開封作業をしているのかと思い、コンテナ付近を見渡すも、そこにも誰もいない。

 そんなこんなで諒一を探していると、ツルカの声が聞こえてきた。

「リョーイチ、リフトのコンソールを確認してー」

 その諒一に向けられた言葉を頼りに、結城はリフトの操作パネルのある付近に目を向ける。

 諒一は操作パネルの前に立っており、そのパネルに触れていた。

「もう積み終わったみたいだ。すぐにこっちに降ろすらしい。」

 諒一のその報告の後、すぐにリフトの下降を知らせるブザーが鳴り出した。

 騒音が鳴り響く中、結城は諒一に向けて叫ぶ。

「諒一!! ランベルトの後を……」

 しかし、そこまで言いかけて結城は言葉を中断させた。こちらの呼びかけに対し、諒一が何の反応もみせなかったからだ。

(これは……聞こえてないな……)

 やはり、ブザーのせいでこちらの声は諒一まで届かないようだ。

 止む無く、結城は、諒一に声が届く範囲まで移動するべく足を前に動かす。

 しかし、こちらに気づいていない諒一は、リフトのコンソールのある場所から、コンテナがある場所に向けて歩き出す。

(あぁ、もう……。)

 結城は途中で進路を変更し、諒一と同じくコンテナが積まれている場所につま先を向けた。

 一足先に到着した諒一は、早速コンテナを展開させ、中身を取り出していた。

「とり敢えずこれだけあれば、VFのシステムチェックが……。」

 10秒ほど遅れて到着した結城は、ぶつぶつと独り言を喋る諒一の背後に立つ。

「諒一、ランベルトがまた迷わないように付いて行ってあげたら?」

 結城は諒一の背中をポンポン叩きながら言った。

 これは、単にランベルトを助けるために提案したのではない。

 また道に迷って時間を無駄にすれば作業が遅れてしまう、と思っての提案したのだ。

「ランベルトさんは大丈夫、……それよりも機材を設置する方が先だ。」

 にもかかわらず、諒一はこちらの提案を拒否して、コンテナから色々と取り出していた。

 結城も作業をすすめることには賛成していた。だが、結城と諒一とツルカだけでその作業ができるとは思えない。

 結城はそれを諒一に伝える。

「私も、早く設置したほうがいいと思うけど、ランベルトがいないと設置しようにも設置が……」

「結城。」

 諒一は背後に立つ幼馴染の名を呼び、ゆっくりと振り返った。

 そしてこちらの言葉を遮って話し始める。

「……アカネスミレの整備用機材は鹿住さんがいないと設置できない。でも、それ以外のものはランベルトさん抜きでも設置できる。……そういうことだ。」

 それだけ言うと、諒一は再び自分の作業に戻った。

「……もう、ランベルトいらないな。」

 諒一は学校でVFの整備技術を学び、ラボでそれらを実践していることもあってか、腕前はかなり上がってきているようだ。ランベルトの指示なしで作業ができるのなら、もう一人前と言ってもいいのではないだろうか。

(諒一も頑張ってるんだなぁ。)

 この間『オリジナルのVFを作るのが夢』だと言っていたが、この分だと、案外その夢もすぐに叶うような気がする。

 とにかく、作業の進行に問題ないのなら、ランベルトを心配する必要もないだろう。

(あとは、鹿住さんがいれば……あれ。)

 と、ここでようやく結城は、この場に鹿住がいないことに思い至った。

「鹿住さんは? 輸送船の中でも見かけなかったけど……」

「ラボで戸締り中だ。データのロックを念密にやるらしい。……これ持っててくれ。」

「あ、うん。」

 盗まれるようなものも無いだろうに、几帳面な人だ。

 そう思いながら、言葉と共に差し出された何かのパーツを結城は受け取った。

 諒一はコンテナの中に腕をつっこみながら、素っ気ない風にこちらに話しかけてきた。

「ところで結城、あの後『ドギィ』ってランナーからコンタクトはあったのか?」

(まだ気にしてたのか……まぁ、それが普通か。)

 いきなりドギィの話題を振られ、不意を突かれた結城だったが、諒一が心配するようなことは何もなかった。結城はそのことを短く報告する。

「今のところ、連絡は一度も無い。」

「そうか、ならいい。……さっきの返してくれ。」

「はい。」

 結城は後ろ手に差し出された諒一の手のひらに先ほどのパーツをのせる。

 諒一はそれを使ってコンテナの中から、大きな機材を引きずりだした。

 そんな諒一の作業風景を背後からぼんやりと眺めながら、結城はドギィのことを考える。

 ……変装した結城を人混みの中から発見できるくらいだ。

 向こうが会おうと思えばいつでも会えるに違いない。

 しかし、ドギィは仲のいい人とは戦いたくないと言っていたし、あれ以上馴れ合うつもりはないのだろう。

 結城としては、もう少し話して情報を聞き出したかった所だが、向こうが会いたくないのなら仕方がない。

 腕を組んで考えていると、いきなり上方から大きな手が出現した。

「!!」

 驚いた結城は反射的に体をビクリとさせてしまったが、正体がわかると胸をなで下ろす。

(なんだ、ツルカか……。)

 それはアカネスミレのアームだった。

 そのままアームは下降していき、コンテナの中に指を入れた。

 そして先ほど諒一が頑張って引きずりだしたのと同じような種類の機材を、いとも簡単にコンテナの中から取り出した。

 さすがVF、細かい作業もなんのそのである。

 それを慎重に床の上に置くと、今度は背後からツルカの声が聞こえてきた。

「何の話をしてたんだ? ボクにも教えてよ。」

 振り返ってみると、荷降ろしの作業が終了したのか、アカネスミレの周辺に新たに運び込まれたコンテナが大量に積まれていた。

 ツルカはというと、HMD片手にアカネスミレから降りて、こちらに向かってきていた。

 ツルカがこちらに来てしまう前に、結城は小声で諒一に耳打ちする。

「ドギィのこと、ツルカにも話したほうがいいかな?」

 間もなく、諒一から返事が返ってくる。

「……なにか知ってるかもしれないし、問題ないだろう。」

 諒一の了解を得た結城は、諒一に続いてツルカにも、ドギィについての詳しい顛末を話すことにした。



 ――すべて話し終えると、ツルカは満足気な表情をしていた。

 ツルカは始終、こちらの話を興味深そうに聞いており、特に“賭け試合”の話は食い入るように聞いていた。

「……へぇ、そんなことが……。どうりで帰って来るのが遅かったわけだ。」

「すまんツルカ、聞かれたらちゃんと話すつもりだったんだ。……な、諒一。」

 結城は諒一に同意を求めたが、またしても、声が聞こえる範囲に諒一の姿はなかった。

 結城とツルカは床に座って話していたため、視界があまり良くない。

 なので、結城は諒一の姿を探すべく立ち上がった。すると、すぐに諒一を発見することができた。

(諒一、あんな所に……。)

 こちらが話している間、一人でコンテナと格闘していたらしい。作業はそこそこ捗っているようで、ハンガー内にはラボで見慣れた機械類がズラリと並んでいた。

 慌てて諒一を探すこちらの姿を、ツルカはニタニタとした表情で見ていた。

「なんだそういうことか。……あの日は帰ってくるのがあんまり遅いもんだから、2人でよろしくやってたのかと思ってたぞ。」

(諒一、やっぱりずっと捜し回ってくれてたんだな……)

 結城はそんなことを思いつつ、下品なセリフを吐いたツルカの頭に軽いチョップを入れる。

「ていやっ。」

「イテッ。」

 ツルカはわざとらしく頭を押さえ、可愛らしく痛がってみせた。

 そして何を思ったか、チョップされた部分を中心に大袈裟に髪をかき回す。が、今度は髪が絡まって痛かったのか、本気で痛い素振りを見せた。

「痛っ、イテテ……。」

 すぐにツルカはかき回すのを止め、すぐに手櫛で長い銀色の髪を整え始める。……しかし、なかなか元通りにならず、ツルカは手櫛で梳くスピードを上げた。

(何やってるんだか……。)

 見かねた結城も、グシャグシャになったツルカの髪を整えるのを手伝うことにした。

 お陰で、ツルカの髪は元の形を取り戻し始める。

 手の感触でそれがわかったのか、余裕が出たツルカは賭け試合について話題を振っていきた。

「それにしても賭け試合か……一度でいいからやってみたいな。」

「……。」

 ツルカと向かい合う形で髪を梳きつつ、結城はツルカに確認する。

「もちろん冗談だよな……?」

 それを言った途端、ツルカの表情が曇り、口元がニマリと釣り上がる。

「……いや、合法的にイクセルを抹殺できるかと思って……。」

「そ、そうか。」

 ツルカにとっては冗談のつもりなのだろうが、日頃のイクセルに対する言動を見ていると、ツルカがそれを本気で考えていても不思議ではない。

 結城は、ツルカがいつか本当にイクセルを抹殺しそうで怖かった。

「ま、半殺しくらいで許してあげなくもないけど……。」

(それでも半殺しにはするんだな……。)

 雀の涙ほどもないツルカの情けに、イクセルの身の安全を心配していると、結城はツルカの腕に珍しい形のブレスレットを発見した。

 そのブレスレットの色は黒く、形も珍しい……というよりは独特だ。

「そう言えばそのブレスレット、最近よくつけてるような……」

「ユウキ、もしかして今気がついたのか?」

「うん?」

 こちらの返事を聞き、ツルカは若干「信じられない」といった風にこちらを見る。

 そして、驚愕の事実をこちらに告げた。

「これ、2ヶ月くらい前からずっとつけてたんだけど……」

「2ヶ月前から!?」

(き、気付かなかった……。)

 最近、チラチラとは見かけていたのだが、それが2ヶ月も前から付けられていたのは知らなかった。……いや、手首につけていて、それなりに目立っているのだから、気が付かないわけがない。

 ともすれば、毎日視界に映っていた可能性もある。

 それなのに、そのブレスレットを見ていたことを忘れていたのだ。

「……。」

 結城は自分の忘れっぽっさに愕然とする。……もしかして海馬あたりに何か悪い虫でも住み着いているのではないだろうか。

 結城は苦笑いしつつ、ブレスレットについて詳しく聞くことにした。

「で、それはどこで買ったんだ? ……それともプレゼント?」

 こちらがそう訊いた途端、ツルカの顔は怪訝そうな表情から一変して、幸せそうな表情にシフトする。

 結城はそれを見ただけで、誰から送られたものか容易に判断することができた。

「へへ……お姉ちゃんからのプレゼント。」

(やっぱりなぁ……。)

 時期的に見てクリスマスプレゼントだろう。

 黒い上にユニークな形をしているブレスレットをプレゼントするとは……オルネラさんもなかなか渋いものをチョイスしたものだ。

「よかったじゃないか。でもVFに乗ってる時は危ないから外したほうがいいかもな。」

 外すのを強制するつもりなどなく、何となく注意した結城だったが、ツルカはそれを真剣に受け止めてしまったようで、咄嗟にブレスレットを胸元に引き寄せた。

「……。」

 よほど外したくないのか、ツルカは手首につけたままのブレスレットを手で弄りながら回転させる。その表情はどこか不安げだ。

(ツルカもこんな顔するんだな……。)

 結城が見守る中、ツルカはブレスレットを手首の周りで2,3周させると、意を決したように言う。

「その時は……ユウキに預けることにする。」

 “私なんかより、金庫にでもしまったほうが安全だぞ?”などとは言えず、結城は素直にそれを了承した。

「うん、わかった。」

 快く返事をすると、ツルカはブレスレットから手を離し、こちらに屈託の無い笑顔を見せた。

 ――そうこうしているとハンガーにランベルト帰ってきた。

 ランベルトは何故か上機嫌そうで、鼻歌交じりに歩いており、あまつさえ、よく分からないステップを踏んでいた。

 ふと時計を見ると、ランベルトが出発してからかなりの時間が経っていた。スタッフに報告しに行っただけにしては、やや時間が掛かり過ぎている。

 ……やはり迷子になったのだろうか。

「どうだ、作業進んでるか?」

 しかし、ランベルトからはそのような雰囲気は感じられない。大方、別の用事でもしていたのだろう。

 ランベルトの問いに、遅れて諒一が応える。

「大体終わりました。後は鹿住さんが来ればすぐに終わると思います。」

「よし、そうか……。」

 ランベルトは満足気に頷き、顔を上げると同時に声高々に宣言する。

「それじゃあ、今から皆でメシ食いに行くぞ!!」

 結城は改めて時計に目を向ける。

(もう5時過ぎか……。)

 夕飯時にはまだ早い気もするが、輸送船内で食べた昼食が少なかったので、妥当かもしれない。

 ランベルトの提案に、ツルカが早速食いつく。

「もしかして、施設内の食堂に行くのか?」

「そのとおりだ。出場チームのスタッフはタダで何でも食べられるからな。」

 結城は、その『タダ』という単語を聞き、ランベルトが妙にうれしそうにしていた理由がわかった気がした。

 常に金欠チームだったので、ランベルトにとって無料という言葉はとてもありがたいのだ。

(……さすがは1STリーグだな。)

 この巨大なハンガーも含め、明らかに2NDリーグのスタジアムよりも設備が整っている。これだけ広い施設なので、他にも色々な設備がありそうだ。

「ほら、早く準備しろー。」

 ランベルトはこちらを急かすように手を叩く。

 ツルカは慌てて腰に巻いていた制服を外し、それをインナースーツの上に直接着た。そして、何処からともなく制服とおそろい柄のプリーツスカートを取り出し、腰に巻くようにして装着する。

 そそくさと準備を進めるツルカとは違い、結城はあまり食事に行きたい気分ではなかった。

「嬢ちゃんも、ぼーっとしてないで準備したらどうだ。」

「……。」

 結城は行きたくない理由をランベルトに話す。

「なあランベルト、……鹿住さんが来るまで待たないか?」

 結城は先程からずっと鹿住のことが気にかかっていた。

 鹿住一人に戸締りを任せているのだから、せめて夕食くらい待つべきだと、結城は思っていたのだ。

 対するランベルトは全くそんなことは気にしていない様子だった。

「いいのいいの。カズミは平気で徹夜するようなヤツだからな……。この調子だとかなり遅くなるだろうし、もしかすると、明日になるかもしれないぞ? 待つだけ時間の無駄だ。」

 日を跨ぐことは無いだろうが、日が沈みきってからこちらに到着する可能性は捨て切れない。

 ランベルトの言い分を否定しきれず、結城は止む無くランベルトに同意する。

「確かにそうだけど、……あ。」

 と、ここで結城は食堂に行けない決定的な理由があることを思い出した。

「……私、試合前日は諒一のメニュー通りの物しか食べられないんだった……。だから夕食はパスだ。」

 結城は、試合本番で最高の実力を発揮できるよう、常日頃から諒一に食事管理されている。

 試合前日の夕食ともなれば、食堂で自由に食事をするというのは絶対に許されないだろう。

 ランベルトもそれが分かってか、食い下がることなく素直に了承した。

「え? あぁ、そうだったな……。それなら仕方ないか。」

「そういうことだから、私はここで鹿住さん待ってる。」

 結城は正当な理由を獲得し、上げかけていた腰を落ち着けた。

 ランベルトは気を取り直して、再び諒一とツルカに声をかける。

「じゃ、3人だけで行くか。……嬢ちゃんはカズミが来たら、俺らが食堂にいるって伝えてくれ。」

「わかった。」

 こちらの返事を聞いた後、ランベルトは残りの2人を引き連れてハンガーの外に出ようとした。

 ……が、その後について行く人間はいなかった。

 諒一はコンテナ付近に留まっており、ツルカも着替え終わっているにもかかわらず結城の傍から離れようとしなかった。

 結城はランベルトを代弁してツルカに訳を聞いてみる。

「どしたんだ、ツルカ?」

「……ユウキが行かないんだったら、ボクもパスしようかな。」

 なんとも単純な理由だった。

 しかし、単純ゆえに気持ちを変えさせるのは難しい。

「なんだよ……まぁ好きにすりゃいいさ。」

 ランベルトはツルカを諦め、最後の一人である諒一に声をかける。

「おいリョーイチ、男2人で晩飯楽しもうぜ。」

 諒一は間を置くことなく、ランベルトに謝る。

「すみませんランベルトさん。やっぱりコンテナの中身が心配なので、鹿住さんに引き継ぐまで、ここで待機してます。」

「そ、そうか……。」

 当然、ついて来るだろうと思っていたらしい諒一にも断られ、ランベルトの表情が一気に曇る。

「ふぅ……。」

 なにか諦めたようにため息を付き、ランベルトは懐を探りながら、近くにある空のコンテナの上に腰掛けた。

 続いて懐からタバコを取り出し、口に咥える。

「……やっぱりカズミが来るまで待つか。」

 そうボソリと呟くと、タバコの先をライターで炙って火をつけた。

 結城は、そんなランベルトの姿を見て、若干、同情の念を抱く。

(一人で食堂に行くのは寂しいんだな……。)

 ツルカも諒一もそれぞれ目的があって誘いを断ったのだろうが、結城は“チームプレイ”というものを体験した気分になっていた。

 ……それと同時に、チーム責任者の苦労を垣間見た気がした。


  3


 結城たちがハンガーでランベルトを落ち込ませていた頃、アール・ブランのラボでは鹿住が一人で黙々と作業を進めていた。

 約半分ほどの機材が持ち出され、照明も鹿住がいる場所以外の部分は消えており、ラボの中はかなり寂しい状況になっている。

 それに加え、作業している人間は鹿住1人だけなので、余計に寂しい。

 しかし、鹿住自身はこの状況を寂しいと感じていなかった。

(静かですね……お陰で作業が捗ります……。)

 鹿住の視線はモニターに固定されており、顔も難しそうな表情で固まっていた。

 まるで睨めっこのような状態だったが、そんな顔面とは対照的に、指先はコンソールの上を軽やかに動いていた。

「あとはデータを消去して……と」

 現在消去しているのはアカネスミレのフレームに関するデータだ。

 最近になって、『バリアブルフレーム』と命名したこのフレームは、かなり特殊なフレームで、今のところ世界に一つしか無い。

 つまり、鹿住が作ったワンオフのフレームパーツであり、アカネスミレの大事な構成要素である。

 このフレームには、特に目新しい技術を盛り込んでいるわけでも、アッと驚くような機構があるわけでもない。しかし、気が狂いそうなほどの細密な出力調整・バランス調整のための演算が、ミリ秒単位以下で何万回も行われている。それがこのバリアブルフレームの特徴であり、強さの秘密だった。

 実の所、以前結城君に説明したリーチの強化や一時的な出力上昇は副次的な産物だ。

(まぁ、一応は『新しい技術』と言えなくもないですね……。)

 このフレームに関するデータは厳重にロックされているのだが、ロックを解除される可能性はゼロではない。

 その点、データごと消してしまえば盗まれる心配はない。可能性はゼロだ。

(心配しすぎでしょうか……。)

 過剰な対応かもしれないが、開発にかけた時間や金額や労力を鑑みれば、当然の対応だとも考えられる。

 それほど、このバリアブルフレームには価値があるのだ。

 ……そう思い直し、鹿住は止まりかけていた指を再び動かし始める。

 詳しい説明は省くが、このフレームはあらゆる状況において常に最高のパフォーマンスを実現でき、それを維持することが可能だ。

 実戦データもかなり蓄積されており、演算の精度は日々向上している。同時に、フィードバックする度に出力が安定し、応答速度も早くなり、着々と最適化されつつあった。

 この分だと『最強のフレーム』とまでは行かずとも『最良のフレーム』には成り得るだろう。

 完成したバリアブルフレームがどれほどの実力を発揮するのだろうか……考えるだけで鳥肌が立つ。

(これに結城君の操作技術が加算されれば……)

 過剰な表現かもしれないが『向かう所敵なし』だ。

 そんな優れたバリアブルフレームだが、それに見合うだけのデメリットもある。

 『コスト』と『メンテナンス』に要する時間が、他のフレームの比にならない程『高く』て『長く掛かる』のだ。

 コストに関しては今後改善の余地はあるが、メンテナンスや改良に掛ける時間はどうしても短縮化できそうになかった。

(まぁ、その時間が唯一の楽しみでもあるのですが……。)

 最後の操作を終え、鹿住はコンソール画面から顔を離す。

「……これで、消去完了ですね。」

 これで心置きなく1STリーグのフロートユニットに向かえるというものだ。

(さて、部屋に戻って着替えを……ついでにリュリュ君の様子も見ておきますか。)

 まずはラボから出るべく、鹿住がコンソールの電源を落とそうとした矢先、思いもよらぬ所から声をかけられた。

「あれ、データ消しちゃっていいのかい?」

「はい、バックアップは完璧ですから別に問題は……って七宮さん!?」

 鹿住の前方、コンソールの上から顔をのぞかせて喋ったのは七宮だった。

 若干、ノリツッコミ気味に返事をした鹿住は、全く予想していなかった事態に戸惑う。

 七宮はコンソールの上面に顎を乗っけたまま、呑気な口調で話す。

「バックアップか……そう言えばそうだったね。研究データも僕の所で管理してるんだったよ。……にしても、ちょっと留守にするだけなのに大袈裟だなぁ。」

 下顎が固定されているせいで、喋る度に頭のほうが上下に動いている。

 七宮はサングラスを掛けており、申し訳程度に変装しているようだった。それにしたってどういう神経をしていればこんな場所にまで足を運ぶ気になるのだろうか。

 この間のいきなりの電話といい、神出鬼没とはまさにこの事を言うのだろう。

(そう言えば……海上都市に来てから、この人とまともに会った記憶がありませんね……。)

 ――どう考えても、私は七宮さんにおちょくられている。

 鹿住は先程の七宮の言葉に対し、少し強気な口調で言い返す。

「大袈裟じゃありません、これが普通です。それと……」

 鹿住は口の形を『と』で固定し、語尾を伸ばしながらラボ内を見渡す。

 そして誰もいないことを再度確認すると、声のトーンを下げて言葉を続ける。

「……ここに来るのなら事前に連絡くらいして下さい。」

 そう要求すると七宮は仕方なさげに頷いた。しかし、その仕草は飄々としており、全く聞き入れるつもりは無いようだった。

 注意を促すべく、鹿住は休むことなく口を動かせる。

「七宮さん、最近大胆になってきていませんか?」

「そうかい? そんな派手な服を着てるとは思わないんだけど。」

「そっちじゃなくてですね……。」

 鹿住は、ジーンズの中に入れた白いシャツの裾を引っ張る七宮の姿を見て、どう注意したものか必死に考える。

 鹿住の苦悩をよそに、七宮はジーンズのポケットから端末を取り出す。

「……それより、今後について話をしよう。」

 そして取り出した端末をいきなりこちらに投げた。

「!!」

 鹿住は咄嗟に立ち上がり、胸元付近でそれをしっかりとキャッチする。

 わざわざ投げずに手渡せばいいのに、と思ったが、注意してもきりがないため、取り敢えず今日はこれ以上無駄なことを喋るのはやめた。

 こちらが口を閉じて聞く体勢になると、七宮は報告し始める。

「下調べしてみたんだけど、外部からあのネットワークに侵入するのは不可能だね。」

「やはりそうでしたか……。」

 あのネットワークというのは、トライアローのネットワークのことだ。

 端末には、トライアローに対するあらゆるアプローチのログが記載されていたが、どれも最後は“失敗”を意味する単語で終わっていた。

(ここまで厳重でしたか……確かにこれは不可能ですね……。)

 鹿住自身もあまり気が進まなかったので、この結果を見て七宮が諦めてくれることを望んでいた。

 だが、その望みはあっさりと砕かれることとなる。

「……仕方ない、内部から直接お願いするよ。」

「内部ですか!?」

 鹿住が驚きの声を上げても、七宮が態度を変えることはなかった。

 そんな悠々とした七宮の姿を見て、鹿住は内部から侵入することのリスクを伝えようとする。

「内部ネットワークなんて……それこそ痕跡が残りますよ。」

「あぁ、そういう意味じゃなくてね、鹿住君が直接トライアローのハンガーに侵入を……」

「ちょっと待ってください……」

 七宮の言葉を遮り、鹿住はしばしの間冷静になって考えてみる。

 どうやら、私が考えていた以上ことを、この人は私にやらせるつもりらしい。

 内部ネットワークなどという生ぬるい手段ではなく、直接トライアローの機器に手を触れて操作しろということなのだろう。……ハンガーに侵入するのだから、当然そうなる。

「……って、そんなの無理に決まってるじゃないですか!!」

 本音を言うと、鹿住は、七宮が侵入に適していると思っていた。しかし残念なことに、VF管理システムにはあまり詳しくない。……なので、どちらにせよ鹿住がやらねばならないのだ。

 七宮は呆れたように首を左右に振って言う。

「そうやって、やる前からできないと決め付けるのはよくないな。」

「決め付けるのなにも……どう考えたって無理です!!」

 昇格リーグ期間中、あのトライアローがハンガーを留守にするなんてことは起こりえない。

 隙をうかがって侵入したとしても、VFのシステムに関わるような重要な機器を誰も監視していないわけがない。

 それに加え、私は動きが鈍い。

 逆に自慢できるほどスパイの素質に恵まれていない私が、ハンガーに直接侵入するのは不可能なのだ。

「そんな頭ごなしに否定しなくてもいいだろう……。ちゃんとそのための作戦は考えてあるから。」

「作戦……ですか。」

 どんな作戦だろうか、鹿住は想像しながら七宮の言葉を待つ。

「こっちで囮を用意するから、鹿住君にはその隙にハンガーに行ってもらう。……これで構わないだろう?」

(囮……七宮さんがやるつもりなのでしょうか……。)

 かなり単純な作戦だったが、どちらにせよ鹿住は七宮の指示に従うしかない。

 何もせずに勝てるのが一番なのだが、今のアール・ブランでは、トライアローに敵いそうにない。

 一か八か、結城の潜在能力に頼るのもアリかもしれない。しかし、次のステップに確実に進むためには、同じく、確実な勝利が必要なのだ。

 未だに納得できないものの、鹿住は深く頷く。

「……分かりました。なんとかやってみます。」

「頼むよ、鹿住君。」

 話がつくと、七宮は早々にラボから出ていった。

 七宮の姿が見えなくなると、鹿住は荷物をまとめ始める。

(さて、私もここを離れますか……)

「はぁ……。」

 鹿住はこれからやらねばならぬことを憂い、自然とため息を吐いてしまう。

 そして、チームメンバーがいる1STリーグのフロートユニットに向かうべく、まずは自分の部屋に戻って準備することにした。


  4


 翌日、ついに1STリーグへの昇格リーグが始まった。

 昇格リーグには、世界に4箇所ある2NDリーグチームから、上位2チームが出場する。つまり、合計8チームが争うことになる。

 試合はトーナメント形式で行われ、そこで優勝したチームが1STリーグへのチケットを手にすることができるのだ。

 とは言っても、結果など最初から決まっているようなものだ、とドギィは考える。

『トライアローが優勝し、そして昇格を辞退する。』

(でも、今回はそうならないかもしれないです……。)

 ドギィは1STリーグフロートユニットの海面下にある施設にいて、その通路を歩きながら、色々と考えを巡らせていた。

(トライアローは強いし、自分もランナーとしてはかなり強いです。でも、今回は少し勝手が違うというか、辞退できるような立場になれないかもしれないです。)

 ドギィがそう思う理由は一つ、……結城の存在である。

 フォシュタルさんはこう言っていた。

『ユウキに勝てば今のままでいい。ユウキに負ければ正式なメンバーになってもらう』と。

 ……今にして思えば、無茶苦茶な提案だ。なぜ承諾したのか自分でも理解に苦しむ。

(フォシュタルさんにそんな提案をさせるくらいです。ユウキタカノは自分の予想以上に強いランナーなのかもしれないです。) 

 今まで試合を見た感じでは、ユウキタカノの実力は自分に遠く及ばない。

 しかし、その距離は他のランナーに比べれば割と近い。本気を出してくれれば、もしかしたら、もしかすると、自分に勝てるかもしれない。自分を負かしてくれるかもしれない。

 ドギィ自身も、結城の言葉で表せないような、そこ知れぬ強さに惹かれていた。だからこそ、あんなふうに無理矢理接触を試みたのだ。

(本当ならユウキタカノには本気を出してほしくはないです。ユウキタカノに勝って、今まで通り、誰にも知られず生きていきたいです……。なのに何であんな挑発するような事を言ってしまったのか……分からないです……。)

 ドギィはフォシュタルの指示により、3回の試合すべてに出る予定だ。3回戦目の決勝ではユウキタカノと戦うことになるだろう。

 ドギィはそれが不安であり、同時に楽しみでもあった。

「すみません。止まって下さい。」

 気付かないうちに立ち入り禁止区域に到着していたらしい。

 ドギィは2人の警備員に声をかけられ、素直に指示に従った。

 ピタっと立ち止まると、片方の警備員が近付き、何かを読み取るような機械をこちらに向けて掲げた。

「スタッフIDか入場許可証を提示していただきたいのですが。」

 フォシュタルさんからスタッフIDは貰っている。あの時はこのまま正式に登録されてしまうのではないかと警戒したものだが、受け取っておいてよかった。

「はい、これです。」

 ドギィが首に掛けていたIDカードを提示すると、警備員が手に持っていた機械をカードに押し付けた。読み取った瞬間に機械のランプが緑色に点滅し、問題ないことを示した。

 今ごろ、警備員の手元では『臨時スタッフ』という文字が表示されていることだろう。

「……確認できました。お手数掛けて申し訳ありませんでした。」

「お仕事ご苦労さまです。」

 適当に挨拶をし、ドギィがその場を通りすぎようとすると、今度はもう片方の警備員が近寄ってきた。

 何事かと思い目を向けると、警備員は小声で話しかけてきた。

「それ、トライアローのマークですよね……試合頑張ってください。トライアローのこと応援してます。」

 さすが老舗チーム。至るところにファンがいる。

 別に正式なメンバーではないが、フォシュタルさんを応援してくれている人がいるということを、ドギィは嬉しく思っていた。

 嬉しさのあまり、ドギィは警備員をからかってみる。

「運営サイドのスタッフがそんな事言ってもいいんですか?」

「え、あの……」

 冗談めかして言ったにも関わらず、警備員は戸惑いの表情を浮かべていた。

 ドギィは慌ててそれが冗談だということを伝える。

「冗談です。あなたの応援は後でちゃんとランナーに伝えておきます。きっと喜ぶはずです。」

 警備員のほっとした笑顔を確認すると、ドギィは再びトライアローのハンガーに向けて歩き出した。

 そこからハンガーまではすぐだった。

(ここか……なんか緊張する……。)

 大きな扉の前でドギィは立ち止まる。中にはスタッフが大勢いるらしく、多くの人の気配を感じた。

 いつまでも扉の前で経っているわけにも行かず、ドギィは扉に手をかけた。

 意を決してハンガー内に入ると、聞いた通りの広い空間がそこにはあった。

 試合を直前に控えているというのに中はかなり静かで、準備が完全に終了していることがわかった。メンバーも落ち着き払っている。

 さすがベテランチーム。メンバーの質も高い水準にあるようだ。

 ハンガー中央にはトライアローのVF『ヘクトメイル』が鎮座しており、すぐ隣にはヘクトメイルの使用しているロングソードが予備含めて3本、並んで立てかけられていた。

挿絵(By みてみん)


 メイルシリーズはどれも似通ったデザインなのだが、特にヘクトメイルは体全体のバランスがいい。派手すぎず、地味すぎず、それでいて他のVFにはない存在感がある。

 機構や装甲は古めかしく、デザインも一昔前のものだ。しかし、見た目に似合わずその機能性は高く、操作におけるリスポンスも早いのでとても操作しやすい。

 メイルシリーズを一言で表すのならば『老兵』という言葉がぴったりだ。

 ずっと中世から、時計をはじめとする様々な精密機械を作り続けているトライアローのイメージにも合う。

 ヘクトメイルはメンテナンス用の、体勢を固定する大型機械に座っており、ドギィにはそれが、まるで王座に座る王か、陣中で構える司令官のように見えた。

 入り口でその光景を眺めていると、本物の司令官が……フォシュタルさんが声をかけてきた。

「遅かったなドギィ。着いてすぐで悪いが、場所を変えるぞ。」

「こんにちは、フォシュタルさん。」

「挨拶もあとでいい、早くいくぞ。」

 そのままフォシュタルに連れられ、ドギィはすぐ近くの更衣室へ入っていった。

 更衣室の中には誰もおらず、無数のロッカーが二人を出迎えた。

 フォシュタルは部屋のドアに鍵をかけ、早速話しかけてきた。

「仕事はどうだ。」

「えーと……」

 仕事というのはフォシュタルさんが紹介してくれた、農業プラントでの雑務作業のことだ。

 特に問題もないので、ドギィは思ったままのことを報告する。

「順調です。単純作業は好きですから問題ないです。」

「そうか、ならランナーをやめても生活に困ることはないな……。」

「フォシュタルさん?」

 何か様子がおかしい。フォシュタルは思いつめたような表情をしていた。

 心配して顔を覗き込むと、フォシュタルさんは何でもないという風に手を振った。

「一人になっても大丈夫か、ちょっと確認しただけだ。」

 なぜそんなことを確認する必要があるのだろうか。

 ドギィは逆に同じ事を質問してみる。

「フォシュタルさんこそ、一人になっても大丈夫ですか?」

「安心しろ。もう既に独り身だ。」

 触れてはならない話に触れてしまったようで、ドギィは先ほど言ったことを後悔した。

 フォシュタルさんから、いつものような覇気が感じられない。それどころかとても悲しそうだ。それは歳相応の雰囲気だと言えなくもないが、フォシュタルさんにそんな雰囲気は似合わない。

 ドギィは元気づける意味で色々と話しかけてみる。

「……負けたとしてもトライアローから離れるつもりはないです。一生死ぬまでフォシュタルさんの傍にいますから安心してください。」

 言った途端、フォシュタルさんから乾いた笑いが発せられた。

「ハハ、別れた妻もお前くらい誠実な奴だったらなぁ……。」

 しばらく笑った後、フォシュタルさんはいつもの調子に戻っていた。

「いや、今はこんな事話してる場合じゃないな。早く着替えてVFに乗り込め。」

「了解です。」

 色々と考える所があったのだろう。

 あまり深く物事を考えない自分には想像できないような悩みがたくさんあるに違いない。

 その悩みの中の一つに自分も含まれているのも自覚しているので、ドギィは何か複雑な気分だった。

 ランナースーツを渡され、早速着替えようとしたドギィだったが、スーツを手にした所であることを思い出す。

「あ、今日の試合はいつもより長くなりそうなので、先にトイレに行ってきてもいいですか? 久しぶりなので慣れるまでに時間がかかりそうです。なにせ、前の試合から1月以上あいてますから。」

 そう言って、ドギィはフォシュタルに顔を向ける。

「……。」

 フォシュタルさんは黙ったままだった。

 それを了承のサインだと解釈したドギィはそそくさと手洗いに向かう。

 また一つ、フォシュタルの悩みを増やしたことには気付かないドギィであった。



「準備はできたか?」

「はい、フォシュタルさん。このままアリーナまで上げても大丈夫です。」

 完璧に準備を済ませたドギィは、ヘクトメイルのコックピット内にいた。

 そのヘクトメイルはリフトの上に立っており、すぐにでもアリーナで戦える状態にあった。

 ……あの後、トイレを済ませたドギィはすぐにランナースーツに着替え、HMDを被り、ハンガーへと戻った。HMDは顔全体を覆い隠してくれるので、スタッフにばれる心配はなく、ドギィは安心してコックピットに乗り込むことができていたというわけだ。

「よし……じゃあこれ以降は通信を切るぞ。……気楽にやれよ、ドギィ。」

「はい、楽しんできます。」

 こちらが返事してすぐに、通信機はオフラインになった。

 通信機を切る理由は一つ、自分の声をスタッフの人たちに知られないようにするためだ。

 ヘクトメイルの頭部カメラでフォシュタルさんの姿を見ていると、すぐにリフトが上昇し始めた。

 ドギィは慣れない感覚に戸惑いつつ、視線を上へと向ける。

(あれ、出口が見えない……。)

 どうやら途中で角度が緩くなっている箇所があるようだ。

 上を見ていても仕方が無いので、ドギィは視線を真正面に戻す。ゆるゆると上から下に通りすぎていくライトを見つめていると、急に『彼』が話しかけてきた。

「今日の相手、寝ながらでも勝てそうだな。」

 『彼』とは友達であり、自分の一部だ。

 実在しない彼だが、たまにこうやって会話している。

 先ほど通信も切ったばかりだし、今は彼と話しても問題ないだろう。聞かれたとしてもただの独り言だ。

 そう思い、くだけた口調でドギィは言葉を返す。

「一応は他の地域で優勝してるんだし、さすがに寝てたら勝てないよ。」

「……冗談だってわからないのか?」

 冗談だということは重々承知している。

 それを踏まえた上で、ドギィは彼に切り返す。

「でも、目を瞑るだけなら勝てると思う。」

「よく言うよ……。」

 呆れたように彼は言った。

 そのセリフを聞き、ドギィの脳裏に過去の記憶が一瞬だけ思い浮かぶ。

(この会話……実際にあった会話……。)

 自分の想像上の人物とはいえ、彼にはモデルが存在する。

 そのモデルとなった人との会話で、こんなふうに喋ったことがある。確かにある。

 ドギィはそれを思い出すべくHMDを脱いで、目元を手で覆う。

「……。」

 そうすると、だんだんと記憶の底から何かが這い上がってくる。

 それは、モデルとなった人の声であり、顔であり、そして匂いだ。

 これを思い出せば、彼をもっと正確に再現できるかもしれない。

「“よく言うよ……”」

 もう一度同じセリフを繰り返し言葉にしてみる。

 その言葉は閉じられたままの記憶のドアをノックする。

 あと何回かノックすれば、そのドアは開きそうな気がする。

「また思い出しているのか。」

 彼の声が聞こえる。

 ドギィは本格的に思い出に浸るため、HMDを被り直してカメラのスイッチを切った。

 これで視界は真っ暗になり、余計な音も聞こえなくなる。

「なぁ、もう昔を思い出すのはやめないか? もうすぐ試合だろう?」

 彼は必死で回想するのを止めさせようとしている。

 自分としても、あまり思い出したくはない過去だが、『彼』を思い出すためには仕方がない。避けては通れない。通らなければ思い出せない。

(……HMDを被る度に思い出す。……あの地獄のような日々を。)

 いつの間にか、彼の声も聞こえなくなっていた。


  5


 覚えている一番古い記憶は、僕が7歳の時に親に売られたという記憶だ。

 それより昔は覚えていない。

 親の顔すら覚えていない。

 住んでいた場所も思い出せない。

 今考えると、あれは親ではなかったのかもしれない。もし親ならば息子をこんな危険な場所に売り飛ばすわけがないからだ。

 ……いや、危険だからこそ高く売れたのかもしれない。

 僕を買ったのは中年と老人の間くらいの年齢の男だった。

 お腹が出ていて、歩き方がぎこちなかったのが印象的だった。それ以降、僕は買い主が歩くシーンをあまり見ていない。いつも椅子に座って、小さいコップでお酒を飲んでいたように思う。

 とにかく、僕は買われてすぐに狭い場所に押し込まれ、ヘルメットのようなものを被せられた。その時は逃げないようにそうさせられたのかと思ったが、今ならはっきりと分かる。

 あれはVFのコックピットだった。そして被せられたのはHMDだ。

 そして、VFに乗せられた僕は、無理矢理対戦させられた。

 戦わされていると分かったのは、HMD越しに、ロボットがこちらを殴りつけてくるのが見えたからだ。あと、周囲にいる人達が興奮して叫んでいるのも見えた。

 それで僕は、今乗せられている場所が、ロボットの操作室だと理解したのだ。

 最初に触れたのが起動スイッチで、次に触れたのがAI制御のスイッチだったのが幸いしたのかもしれない。

 その2つのスイッチは目立つ場所にあり、ついでに大きく押しやすかった。

 それだけを押して、僕は自分を守るために身を丸め、衝撃に耐えた。

 このコンソール設計をした人には感謝してもしきれない。

 ……なぜなら、そのお陰で僕は死なずに済んだからだ。

 戦いが終わると僕はコックピットから引き摺り出され、今度こそ、逃亡防止の狭い場所に押し込まれた。

 部屋はとても硬い壁に囲まれていて、窓はなかった。

 ドアは鉄格子のようなもので、そこからは暗い廊下しか見えなかった。

 ドアを閉められた時に言われた「運が良かったな」の意味が未だにわからない。

 その男に買われたことが運が良かったのか、死なずに済んだのが運が良かったのか、どれにせよ、あの時の相手のVFが途中で止まったのは運が良かったのかもしれない。

 ……あの日の夜はとても痛かった。体中が痛かった。

 身を丸めていたので胸やお腹は平気だったが、何度も打ち付けられた背中は一晩中ヒリヒリしていた。血で張り付いたシャツを脱ぐ時が最も痛かったことを覚えている。

 ――そんな痛みが毎週、ひどい時は毎日続いた。

 最初に渡されたくしゃくしゃのマニュアルには図解説明が載っていたので、文字がわからなくても、大まかのことはなんとか理解することができた。

 一つの本をあれだけ真剣に、長い間読むことは今後無いだろう。

 そのせいか、文字を覚えるのよりVFの操作を習得する方が早かった。

 何ヶ月か経つとひと通りの操作を覚え、あまり怪我をしなくなった。

 体で覚えろとはよく言ったものだ。死なないようにするため必死で考え、操作も何度も試行錯誤したのだろう。

 どのくらい勝ったか、どのくらい負けたかは分からない。

 ただ、相手が動かなくなれば、僕はコックピットを降りることを許されていた。

 相手をどうやって動かないようにさせたかは記憶にない。

 しかし今こうやって生きているのだから、僕はかなり勝ったのだろう。

 ……そんな感じで操作方法を覚えたとしても、それは最低限の操作だけで、それ以上の詳しい機能はわからなかった。

 だからあの日、僕は買い主にマニュアルを読んでもらおうと思ったのだ。

 その日のことはよく覚えている。

 何となくその状況を受け入れていた僕が、絶望の底に突き落とされた日だ。

 ……その日、僕は部屋の前を通り過ぎた買い主に声をかけた。

「ここ、なんて書いてあるんですか?」

 そう言って僕は格子の隙間からマニュアルを差し出した。

 それを乱暴に受け取り、すぐに買い主は笑った。

「ハハハ!! ……おい、こんなのも読めないのか?」

「読めないです。」

 正直に言うと、買い主は驚いた風に言った。

「マニュアルも読まずにVFに乗ってたのか。スゲェなお前。」

 それだけ言うと、買い主は僕にマニュアルを投げつけた。マニュアルは鉄格子に阻まれ、廊下側に落下した。

 あてにならないと思った僕は、文字を覚えるためにとんでもないことを提案した。

「……学校に行かせて下さい。」

「学校だぁ?」

 こう言った時の買い主の反応は今でも夢に見る。

 こちらを見て小馬鹿にしたような、それでいて怒っているような……そんな反応だった。

 続けて言われたことも一文一句正確に覚えている。

「お前は犬だ。犬が学校に通えるか? 無理に決まってるだろ。……いいから、ご主人様のためにせっせと働け。餌がほしいんだろ?」

 これを聞いて僕は何かを言い返したはずだ。

 だが、言った後に後悔したらしい。だから覚えてない。

「なんだその目は……犬は嬉しそうに尻尾振ってりゃいいんだよ。」

 鉄格子が開かれ、僕は買い主に首元を掴まれた。そして乱暴に廊下の壁に押し付けられた。

「早く行けクソ犬。勝たないとメシ抜きだ。……ま、負けたらメシを食う意味も無いんだけどな。」

「それはどういう……」

 苦し紛れに僕が訊くと、買い主はニタリと笑って僕の耳元で囁いた。

「死体に餌やっても意味が無いってことだよ。……早く行け!!」 

 この時、男は僕の『買い主』であり、同時に『飼い主』だということを理解した。

 そして僕はこの飼い主の忠実な犬というわけだ。

「はい……。」

 正直、この時はVFに乗って戦わされることを僕はありがたく思った。なぜなら、一時的ではあるが、飼い主から解放されるからだ。

 コックピットにいた方がまだマシに思えるほど、あのアルコール臭い部屋は僕にとって苦痛だった。

 ……他にも僕と同じような『犬』はたくさんいた。

 暗い廊下には同じような部屋が並んでおり、夜にはすすり泣く声がよく聞こえていた。そう言えば、女の子の声も聞こえていたように思う。

 その中に『彼』のモデルがいたのかもしれない。部屋の廊下側は鉄格子だったので、大きな声を出さずとも、会話できたはずだ。

 ……だが、やはり思い出せない。

 誰かと会話した記憶はある。しかし、誰だったかが思い出せない。

 でもそれでもいいと僕は思う。なぜならば、その誰かが彼であるとは限らないからだ。

 その場にいなかったということは、彼は僕と同じような犬ではなかったはずだ。今もどこかで自由に生きているかもしれない。

 逆に、その場にいたとすれば、もうとっくの昔に死んでいるだろう。 

 それほど『犬』はすぐに死んでいった。

 実際に死んだかどうかは判断できないが、小屋からいなくなり、代わりに別の子供が部屋にいたのだから、死んでいたに違いない。

 みんなが死んでしまった理由は簡単だ。

 ――殺し合いに負けたからだ。

 そんな中で、僕がずっとそこにいられた理由も簡単だ。

 ――1度も殺し合いに負けなかったからだ。

 来る日も来る日も、生き延びるために僕はVFに乗っていた。

 戦う相手の顔は知らない。

 男か女か、子供か大人か、人間であるかどうかすら分からない。

 ただ、幸いにも、僕がそこにいた6年間は、僕より強い人間は現れなかった。

 危ないことも何度かあったが、大きな怪我もなくほぼ毎日相手を破壊し続けた。

 不思議と、逃げ出そうという気にはならなかった。今思うと、VFに乗るのが楽しくなっていたのかもしれない。

 勝つ度に、ご主人様は喜んでいた。その時の口癖は「いい拾いものをした」だった。

 毎日その口癖を聞いていたように思う。

 ……僕の待遇も日に日に良くなった。

 5年を過ぎた頃には、ほぼ毎日3食与えられ、定期的にサイズにあった服も与えられた。

 あと、ボロボロだったが、VFの専門用語集らしき本も与えられた。お陰でマニュアル内の大抵の文字も読めるようになった。

 この頃になると飼い主は僕を送り迎えしなくなり、僕は一人でその場所に行き、一人でVFに乗り、一人で戦い、一人で賞金をもらい、一人で家の部屋に帰っていた。

 拘束されていることに何も疑問をもつことなく、僕はずっと単調な日々を過ごしていた。

 ――しかし、その日は違った。

 いつものように戦いが終わり家に帰ると、僕の飼い主は難しい顔をして、一人の男と話していた。

 その男はとても上品なコートを着ていて、鈍い光を放つ、金属製の重そうな腕時計をつけていた。

 男は声を荒げて飼い主に何かを問い詰めていた。

「試合の運営に関わっているとは聞いていたが、まさかあんな試合だったとは。 ……いつからだ、いつからあんな殺し合いに手を貸している!? 」

 声は雄々しく、威厳に満ちている。さらに声を荒げていることもあってか、その時、飼い主は何時もは見せないような弱気な表情を見せていた。

 ……飼い主をすくみ上がらせたその男こそ、フォシュタルさんだった。

「さぁ、いつからだったか……そんなのは忘れちまったな……。」

「く……とぼけるつもりか。」

 2人が言い合うのを耳にしつつ、僕は自分の部屋に帰るつもりだった。

 あの時、そのまま部屋に戻っていたら、今も僕はあの場所で殺し合いを続けていただろう。

 しかし、僕は部屋に戻らなかった。戻ろうとした僕をフォシュタルさんが引き止めたからだ。

「おい、そこの君、名前は?」

「……ドギィです。」

 犬(doggy)と呼ばれ続けていたため、既にそれが僕の名前になっていた。

 今でもひどい名前だと思っている。だが、そうそう名前を変えられるものではない。

 僕の名前が解ると、フォシュタルさんは更に質問してきた。

「ドギィ君か……で、いつからここに? 毎日つらいだろう?」

「わからないです。でも……『アレ』に乗るのは平気です。むしろ楽しいです。」

 飼い主に、後からとやかく言われたくなかったので、心配させるようなセリフを言わないように注意したのだが、『アレ』に『乗る』という表現がまずかったらしい。

 僕がそれを言った途端に、フォシュタルさんは恐ろしい顔で飼い主を睨んだ。

「まさか貴様……大人ならまだしもこんな子供を……。落ちるところまで落ちたな、この外道め……。」

 フォシュタルさんは声を震わせていた。

 飼い主もいい加減頭に来たらしく、開き直ったように大声を上げた。

「しかたねえだろ、あの時の怪我のせいで俺はもうVFを動かせないんだ。それにこいつら喜んでやってるぞ。……やらせて何が悪い。」

「何寝ぼけたことを言ってるんだ? いつからこの子にあんな危険な試合をやらせている!? ……これは違法だ。いや、犯罪だぞ!!」

「犯罪だからなんだ? 博識なお前のことだ、ここの警察が役に立たないことくらい知ってるだろう。……俺が買ってやらなきゃ、きっと俺以上のゲス共に殺されてたぜ?」

「ろくでなしめ……言いたいことはそれだけか?」

 フォシュタルさんはそう言って僕の手をつかんだ。

 その時、何故か僕は手を振りほどこうとしなかった。なぜなら、その手は大きく、暖かく、僕に安心感を与えてくれたからだ。

「ついてきなさい。ここから逃げよう。」

「でも……」

 僕はフォシュタルさんに手を握られたまま、飼い主の目を見る。が、すぐにフォシュタルさんに視界を遮られてしまった。

「もうあいつの言うことは聞かなくていい。一緒に来れば自由な生活ができる。……君にはまっとうな人生を歩む権利があるんだ。」

「自由……?」

 僕が戸惑っていると、飼い主の声が聞こえてきた。

「お前はそれで満足かもしれないな。だがコイツはどうにもならねぇよ。」

 顔は見えず、飼い主の声だけが耳に届いていた。

 しかし、喋り方から、飼い主がその時どんな顔をしていたか容易にわかっていた。

「どういうことだ?」

 フォシュタルさんが聞き返すと、飼い主は嬉しそうに話し始めた。

「……聞いて驚くなよ? ……コイツは既に賭け試合で500人以上に怪我を追わせ、そのうちの半分以上を再起不能にしてる……つまりコイツは『殺人者』なんだよ!! とびっきりのな!!」

「な……!?」

 フォシュタルさんはとても驚いていた。

 飼い主は更に追い詰めるように言い続ける。

「何をどうすればこの『人殺し』がまともな人生を歩めるんだ? ん? 言ってみろ!!」

 フォシュタルさんは僕を信じられないような目で見てきた。

 とっさに僕は目を逸らす。

 僕の反応は、ただ単に頷くよりも説得力があったみたいだ。

「その話が本当なら、この子は試合に負けることなく勝ち続けたということだな?」

「もちろんそうだ。ここらじゃコイツの名前を知らない奴はいねぇよ。」

 それからフォシュタルさんはしばらく黙っていた。

 その間も僕はずっと手を握られていた。

 フォシュタルさんはこちらをちらりと見て、再び口を開けた。

「よし、この子は俺が預かる。……この子の才能は天から与えられたものだ。普通の人生は無理でも、せめて普通のランナーに育てる。」

 そのままフォシュタルさんは僕を連れだそうとしたが、飼い主がそれを止めた。

「おっと、そうはいかねぇよ。……そいつは俺の犬の中でも優秀な稼ぎ頭だ。それ相応の額を出してもらわないとな。」

「クズが……。」

 フォシュタルさんは懐から紙切れ一枚を出してそれを飼い主に投げつけた。

「へへ……」

 飼い主はその小さな紙をうれしそうに受け取っていた。

 僕の値段は紙幣1枚なのか、とあの時は何となく思ったが、今思うとあれは小切手だったのかもしれない。書かれた金額が気になるところだ。

「さぁ行こう。」

 フォシュタルさんについて行くことに抵抗はなかった。

 飼い主が変わっただけだ、と思っていたからだ。

 僕が家を出た時、フォシュタルさんは屋内に向けて言い放った。

「いいか、これはランナーの引き抜きであって、人身売買じゃない。この子が嫌だといえば自由にするし、助けを求められれば全力で手助けする。貴様のように無理矢理試合に出させはしない。……それだけははっきりと、今ここで明言しておく。」

「変わりゃしないさ。そいつはVFに乗ること以外何も出来ない。俺がそう躾たからな。」

「……あの時から変わらないな……この負け犬め、一生ここで這いつくばっていろ。」

「くっ……。」

 フォシュタルさんの言葉を聞いて悔しそうな表情を浮かべる飼い主。

 それが、その場所での最後の記憶だ。

 あそこがどこだったか、未だに僕にはわからない。フォシュタルさんに聞いても教えてくれないだろう。

 ただ、空気は汚く、酷い臭いがしていたことだけは覚えている。

 ……そこでドギィは回想するのをやめた。

 その後、ドギィはすぐにこの海上都市で暮らすこととなり、それから2年で必要最低限の一般教養を身につけた。

 そして今に至る。

 自由になったかどうかは判断しかねるが、いろんな場所に出向けるようになったことは嬉しく思っている。

 これからもしばらくは、働きながら色々と勉強するつもりだ。

(フォシュタルさんには感謝の気持ちでいっぱいです。いつか恩返ししないと……)

 ……ドギィはこう思っていたのだ。

 正式メンバーになり、日常的に試合をするようになれば、昔のように知らない間に人を殺してしまうのではないだろうか、と。

 VFを殺人の道具にしてしまわないか、と……。

 また、自分の過去を周囲に知られるのも恐怖だった。

 フォシュタルさんは「問題ない」と言うが、問題なのは、それによってフォシュタルさんの評判が悪くなることだ。

 すなわちそれはトライアローの崩壊を意味する。

 今のまま、秘密裏にランナーとして試合するだけでいいのなら、それに越したことはない。トライアローに被害が及ぶようなら、その時は自分が静かに去ればいいだけの話だ。

<それでは試合開始ですッ!!>

 急に聞こえたアナウンスに反応し、ドギィは閉じていた目を開く。

 自分が回想していた間に、準備やら何やらが済んでいたらしい。

 慌ててHMDを起動させると、まず海が見えた。観客席はなく、聞こえてくるのはアナウンスの声と波の音だけだ。

 アリーナには硬いハニカム構造の灰色の床が広がっていた。その規則的な模様を辿っていくと、遠くに対戦相手のVFを確認した。

 そんな感じで状況を確認していると、すぐに彼が心配そうに話しかけてきた。

「おい大丈夫か?」

 今のところ何事も無く大丈夫だった。

 ……結局、『彼』のことを思い出すことは出来なかった。

 この件は後で考えることにして、とにかく、ドギィは一言で今の状態を彼に伝える。

「大丈夫。」

 相手を見ると、こちらのVFが動かないのに配慮しているらしく、棒立ちで待機していた。

 わざわざ待つ必要もないのに生真面目な対戦相手だ。そんな行為が許されるほどのぬるい世界で戦っていたらしい。

 ……もし今の対戦相手があの地獄にいれば、3秒と経たずに死んでいただろう。

 それを再現するべく、ドギィはヘクトメイルのロングソードをしっかりと握りしめた。

 



ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます。

この章では、ドギィの暗い過去が明らかになりました。ドギィが自分の過去を話していれば、結城の対応も違ったものになっていたかもしれません。しかし、今後、結城がそれを知る機会は訪れないでしょう。

次の章でアール・ブランとトライアローの決着がつきます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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