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耀紅のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
秒速5キロメートル
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【秒速5キロメートル】第三章

 前の話のあらすじ

 E4を倒すための作戦会議をするも、あまりいい案は出てこなかった。

 鹿住の計らいにより結城は諒一とデートをする。そこでケンカするも、ある女性の協力により、仲直りすることに成功した。

 その女性の名は『ミリアストラ』と言い、次の対戦相手であるE4のVFランナーだったのだ。

第3章


  1


 船の移動というのは未だに慣れない。

 遅い上に、潮の香りが容赦なく髪にへばりつくからだ。

 初めのうちは海の景色を楽しめたが、今となっては日常の風景だ。

 結城は、そんな単調な景色を窓越しに眺めながら、船に揺られていた。

 船の種類は乗客船で、一つ一つのシート間に十分な間隔があるため、客船の中でも運賃の高い部類に入る船だと予想できる。

 船内には、結城の他にも大勢の乗客がいた。中には水着姿の若い女性の姿もちらほら見られる。そして、彼女らは内容こそわからないものの、何やら楽しげに会話をしていた。

 結城がぼーっと船内を見ていると、後ろの座席から何者かが声をかけてきた。

「おい嬢ちゃん、気分でも悪いのか?」 

 それはランベルトだった。

 結城は後ろを振り返ること無く答える。

「別に悪くない。朝早くてちょっと眠いだけだ。」

 それを証明するかのように、小さなあくびが口から出た。

 ランベルトはつまらなそうに言う。

「なんだよ、もっと盛り上がろうぜ?」

「盛り上がる要素なんて無いだろ。下手に騒いで注目が集まったら大変なことになるぞ。」

 結城はそう言い捨てて欠伸で出た涙を擦った。 

「……ランベルトさんは妙に楽しそうですね。」

 そう言ったのは、諒一だった。諒一は結城の隣の席に座り、携帯端末で何やら調べ物をしているようだった。

 ランベルトは諒一の言葉に反応する。

「これから遊ぶんだ。今のうちにテンション上げてかないと駄目だぞ。まぁ、心の準備体操みたいなもんだ。」

「確かに、準備体操は大事ですね。……運動不足の中年の方には特に。」

「……お前もろくに運動してないだろ、カズミ。」

 ランベルトに毒づいた鹿住は、結城の後方の席にて足を組んで座っていた。

 相変わらずフード付きの白衣を着ており、船内でもかなり目立つ格好だった。

<……長らくのご乗船、お疲れさまでした。間もなく目的地に到着いたします。くれぐれもお忘れ物のないようお願い……>

 アナウンスが流れ、前方にあるモニターに目的地の外観が映し出される。

 そこには白い砂浜、さらにその後方には豪華な建物が見えた。建物の周辺には南国風の植物が見え、建物の壁面には金色の模様が描かれていた。

「あれが、海上都市群の誇るリゾート施設、『トゥエス・エキゾチカ』だ。」

「フロートユニット全てを使用して建てられた、複合リゾート施設ですか。」

「その通り。そして、あれが……俺達の目的地だ。」

 ……海上リゾート施設『トゥエス・エキゾチカ』。海上のオアシスとして有名な所で、世界中から毎年200万人ほどの人が癒しを求めてここを訪れている。

 結城はモニターの映像を見ながら言う。

「あんな豪華な施設をタダで利用出来るなんて……見直したぞランベルト。」

「もっと褒めていいぞ。通常のユニットに組み込まれてるような、チンケな施設とは格が違うからな。」

 ランベルトは得意げに答えた。

 そして、続けて話す。

「費用は会社持ちだ。資金援助がなければこんな所に行く機会なんて無かっただろうな。」

「水をさすようですみませんが、これ、経費では落とせないと思いますよ。」

 鹿住に否定されたが、ランベルトは自分の正当性を主張する。

「チームメンバーの親睦を深め、関係を修復するという大義名分があるし、問題ない。」

「関係修復? 誰と誰の関係を修復するつもりなんです?」

「それは、嬢ちゃんとリョーイチの……」

 言葉が途絶え、不審に思った結城は後ろを振り向く。

 諒一も同じように思ったらしく、ほぼ同じタイミングで振り返った。

 それを見たランベルトは、素っ頓狂な声で2人に問いかける。

「お前ら、いつの間に仲直りしたんだ!?」

 諒一は頬をさすりながら答える。

「……昨日です。」

 鹿住は勝ち誇ったような表情をして、ランベルトに言う。

「私が仲直りのお手伝いをさせていただきました。」

「早く言えよ!! 何のためにここまで連れてきてやったと思ってるんだ……。」

「……経費じゃ落とせませんね。」

「そんな……。」

 大義名分を失い、先程まで楽しそうだったランベルトは、シートに背を預けてうなだれた。

「言っておきますが、私は一文も持って来ていません。」

 金を払う意思がないことを示すと、鹿住は喋るのをやめた。

 結城や諒一はお金は一応持って来ているものの、リゾート施設を利用するだけの金額を持ちあわせてはいなかった。

 いよいよ到着時刻が近づくと、ランベルトを心配する声が聞こえてくる。

「何ならボクが払おうか?」

 その言葉を発したのはツルカだった。

 ツルカはランベルトの目の前でキャッシュカードをちらつかせる。

 ランベルトはそれに飛びつきそうになったが、首を左右に振って我を保つ。

「お子様に金を出させるほど、俺は腐っちゃねえよ……。金のことは気にするな。」

「ケンカ中のカップルをダシに、しかも援助金を使ってリゾートで遊ぼうだなんて……。例え腐っていなくても、人間として終わってますよ。」

「だから、金は全部俺が出すって言ってるだろ!!」

 引き返せばいいとも言えず、結城はランベルトのポケットマネーで今日一日遊ぶことになった。

 間もなく船は目的のフロートエリアに到着し、結城、諒一、ランベルト、鹿住、ツルカの5名は『トゥエス・エキゾチカ』へと向かった。


  2

 

 船を降り、『トゥエス・エキゾチカ』に向かう途中、歩きながらツルカが話しかけてくる。

「本当に良かったなユウキ。」

 仲直りのことだろうと思い、結城は快く返事する。

「うん。これで試合に専念できる。」

 この事に関しては、昨晩寮の部屋でツルカに詳しく話してあった。……もちろん、諒一が自分の体調管理をし、毎日料理を作りに来るということも話していた。

「……そうなると、リョーイチと会うのにあの女子学生寮じゃ不便だな。」

「不便というか、もともと男子学生は立ち入り禁止だし……。」

「給料はアール・ブランとダグラス社からもらってるんだろ?」

「そうだけど。」

 アール・ブランの専属ランナーとなったことで、結城はそれにふさわしい報酬を得ていた。 

 ツルカはニヤニヤしながら、結城にあることを提案する。

「だったら、リョーイチと新しく部屋借りて2人暮らしすればいい。」

 要するに同棲である。

 予想の斜め上を行くことを言われ、結城はすぐにそれを否定する。

「何いってんだツルカ!! そんなの親が許さな……」

「ずっと隣同士でよく泊まっていたから、問題ないといえば問題ない。」

「諒一!?」

 話を聞いていたのか、諒一が話しに割り込んでくる。

「確かに、結城の体調管理を考えれば一緒に住むのが効率がいいな。」

 諒一の同意を得たことで、ツルカは得意げな態度をとる。

「な? ボクにしては明案だろ。」

「ムリムリ無理だって!! 」

 結城は否定し続ける。

 最近どうしてか、諒一のことになると過剰に反応してしまうのだ。

 結城はツルカに対して反撃する。

「そうなるとツルカは一人であの部屋に住むことになるぞ。それでもいいのか?」

「うっ、それは……。」

 ツルカは苦い顔をして上を向いた。

 しかし、それも一瞬のことで、先ほどとはうって変わって明るい表情で結城に話しかける。

「……広い部屋借りて3人でルームシェアするのも悪くないな……。」

「そんなの居住エリアにあったか?」

「探せばあるだろ。多分……。」

 ツルカのはっきりとしない返事に、ランベルトが反応する。

「そう安々と学生が部屋借りられる訳ないだろ。おとなしく学生寮に住んでろ。」

 ランベルトは全員を先導して歩いていたが、会話に加わるべく歩く速度を落とした。

 結城は横に並んだランベルトに素朴な疑問を投げかける。

「そういうランベルトはどこに住んでるんだ?」

「あぁ、フロート内で一番安いところで部屋借りて住んでる。」

「ちなみにボクは一等地に……。」

「金持ちは黙ってろ……それにしても、どうやって仲直りしたんだ?」

 ランベルトはまだ船内でのことを気にしているようだった。

 諒一と和解できたのは、ある一人の女性のお陰である。

(あ、ミリアストラ……。)

 結城は、ランベルトにミリアストラのことをまだ報告していなかった。

 話しておいたほうがいいと判断し、結城はおそるおそる喋り始める。

「そういえば昨日、E4のVFランナーに会ったんだけど……。」

「それ本当か!?」

 ランベルトは即座に反応を見せた。それほどランナーの情報というものは重要なものなのだろう。

「なぁ、そいつのこと詳しく話せ。」

「えっと……。」

 結城は諒一に目配せする。

 すると諒一が昨日の出来事について大まかな説明を始めた。

 ……説明ではミリアストラの外見やシューティングゲームの上手さ、そしてチケットのことが話された。

 簡単な説明を聞き、ランベルトは歩きながら俯く。

「ミリアストラか……。結局そのチケットはもらったのか。」

「うん。……って問題はそっちじゃないだろ。」

 売って金にしようと提案するも諒一に反対され、もらったチケットは部屋の棚の中に保管されている。

 あれを見るたびに諒一とのことを思い出すことを考えると、いっそのこと捨ててしまってもいいのではないかと結城は思っていた。

「嬢ちゃん的にはどんな野郎だったんだ?」

「優しそうな人だったぞ。私と同い年ぐらいだと思う。」

 結城がそう答えてからすぐ、諒一が携帯端末を取り出し説明を始める。

「ミリアストラのVFBに関する情報は全く無い。本当に初出場のようだ。あと、彼女は10年前に一度だけアリゾナ州の射撃大会に出場したことがある。記録では、その1000ヤード部門で1位に輝いたらしい。」

「いつ調べたんだ?」

「昨日のうちに調べた。」

 船の中でもミリアストラに関して調べていたのだろう。

 鹿住も端末を手に持ちながら説明する。

「従軍経験もあるようですし、VFの基本的操作の講習・訓練を受けていたと考えてもいいでしょう。結城に人気が出ることを見越して、E4が対抗馬としてスカウトしたんだと思います。」

 チームの為に情報収集していたのは諒一だけではないらしい。

 周囲がリゾートのことや食事のことを話している中、敵の情報について話すあたり、さすがアール・ブランだと結城は思っていた。

 従軍経験という言葉にランベルトが反応する。

「これ米軍のデータベースか?」

「一般人でも閲覧可能の、正式に公開されてる資料です。」

 結城も気になり、鹿住の端末を覗いてみる。

 そこには軍服を着た丸刈りの男達がリストアップされており、その中にミリアストラを発見することができた。

 ミリアストラの写真は少女時代のものらしく、かなり若く見えた。

 さらに、名前の欄には『ミリアストラ』とは似ても似つかない様な名前が書かれてあった。

(……偽名?)

 どちらが本当の名前なのだろうか、もしかすればどちらとも本当の名前でないのかもしれない。

 経歴も漠然としており、他の者と比べると怪しさ満点だった。

「詳しく書かれていないということが、逆に怪しいですね。E4がスカウトするくらいですから、それなりの実力があるということでしょうか。」

「軍人かぁ。全然そんな感じには見えなかったんだけど。」

「やはりVFBの公式記録は全く無い。操作は素人に毛が生えたレベルだと思う。」

 好き勝手に話すメンバーの話を聞き、ランベルトは結論を出す。

「となると、あの作戦を変更する気はないってことか。……射撃能力を格段に向上させるつもりなんだろう。」

 鹿住はそれに付け足すように言う。

「ともかく先手必勝ですね。銃火器によるダメージはある程度覚悟して突っ込めば勝てるでしょう。」

(先手必勝……。)

 こちらも射撃武器を用いれば先手を取れるかもしれない。

 今まで、E4は開始直後に壁際まで一気に移動して距離をとっている。しかし、こちらが無理に接近すれば蜂の巣にされてしまうのではないか。距離が短ければそれだけ相手の命中力も上がってしまうのだ。

 そんなことを考えているうちにリゾート施設の入口が見えてきた。

「やっとついたー。」

 ツルカは集団を離れ、一人で先に行ってしまった。

 鹿住は端末を懐にしまい、視線を海へと向ける。それに釣られて結城も海を見た。

 人工浜には水着姿の客が大勢いて、日光浴をしたり、泳いだり、ボールを使って遊んでいる姿が見えた。

「話はここまでにしましょう。」

「だな。」 

 鹿住の意見に反対するものはおらず、結城も精一杯遊ぶつもりで入口の門をくぐった。


  3


「試合まで数日あるとは言え、遊ぶのは程々にしておけよ。」

「ランベルトは一緒に遊ばないのか?」

「ここに入るのに一人いくらかかったと……。」

 ツルカに聞かれて、ランベルトは大きくため息を付いた。

 ……入場料を払い終え、5人はロビーのソファーでひと休みしていた。

 ロビーには1人がけのソファーが横一列に並んでおり、5人は同じ方向を向いて座っていた。

 このリゾート施設では、入場料を払えば、後は自由に施設を利用することができる。払わなければ海岸にたどり着くことも、レストランに入ることすら出来ないのだ。

 ランベルトは海岸に行けず、昼食もとれない状態に陥っていた。

 軽くなった財布を恨めしそうに見ているランベルトに、鹿住が話しかける。

「背に腹は代えられないようですね。自分一人くらいの入場料なら私が払ってあげなくもないですよ?」

 ランベルトはその提案を拒否するかのように、顔の前で手をひらひらと左右に振る。

「お前だけには借りを作りたくない。」

「あれだけの資金援助と技術提供を受けて、『借りを作りたくない』だなんて……。笑えない冗談ですね。」

 鹿住とランベルトのソファーは、それぞれ一番端に位置しており、2人は3席越しに会話していた。

 挑発され、ランベルトは口調を強めて言う。

「“経費で落とせなからカードは使うな”って言ったのはどこのどいつだった?」

「私ですけど、何か文句でもありましたか?」

 鹿住は飽くまで冷静に対応する。

 例えランベルトが責任者であっても、資金を出している団体から派遣されてきた鹿住のほうが立場は上なのだ。

「2人とも大人気ないなぁ……。」

 ぽつりと言うと、左右から鹿住とランベルトの視線がこちらに向けられた。

 2人とも責め立てるような視線でこちらを見ていたが、すぐにおとなしくなり、それ以降は言い合いをするのをやめた。

 ……ふと、ツルカが思い出したように質問を投げかける。

「そういやランベルト、今日はボクを追い出したりしないのか。」

 ランベルトは鹿住から視線を剥がし、ツルカに向ける。

「そうだな。」

「何でだ?」

「そりゃお前、イクセ……」

 言いかけたところで、結城は隣においてあった諒一のバッグをランベルトに投げた。

 バッグは諒一とツルカを飛び越えランベルトの顔面に命中し、それよりあとのセリフを封じた。

 そして結城が代わりに話す。

「ツルカもチームの一員として認めたってことだ。そうだよな? ランベルト。」

 それはなんとも苦しい言い訳だった。

 ……“イクセルにツルカの面倒を頼まれた”ということをツルカ自身に知られては、イクセルの立場がなくなってしまう。

 そのイクセルのためにも、そしてツルカのためにもこの事に関しては秘密にするべきだと結城は考えたのだ。

 その意図がわかったのだろう、ランベルトは痛みに耐えるように顔を押さえながら、ゆっくり頷く。

「……そうだ。嬢ちゃんの言ったとおりだぞ……。」

「?」

 事情を知らない諒一は不思議そうな表情でそのやり取りを見ていた。

 ツルカはその言葉を受けて、満足気な顔で声を漏らす。

「なるほどね。ボクもチームの一員かぁ……。」

 ツルカはソファーから身を乗り出し、隣の席にいる結城に向け言葉を送る。

「それじゃあボクはユウキのコーチでもやろうかな。……ということで、ボディのチェックもボクがやる。」

「いや、コーチはうれしいけど、トレーナー的なことは全部諒一に任せることにしたんだ。」

 結城が申し出を断ると、ツルカは体を180度回転させ、顔を諒一に向けた。

 こちらからはツルカの表情は見えず、おしりしか見えなかったが、多分膨れ面を諒一に向けているのだろう。

 それを証明するかのように、ツルカの不満げな声が結城の耳に届いてくる。

「女の子じゃないとわからないこともいっぱいあるぞ。リョーイチは全部カバーできるのか?」

 諒一は涼しい顔でツルカに反論する。

「そのくらいのこと、何の問題もない。結城のことなら体重、基礎代謝量、それに視力聴力握力肺活量にいたるまで完璧に把握している。」

 その言葉を聞き、ツルカより先にランベルトが反応する。

「それホントか?」

「嘘じゃありません。」

「じゃあ嬢ちゃんのスリーサイズを……」

 言いかけたところで、結城のソファに備え付けられていた白い陶器の灰皿が宙を舞い、ランベルトの顔面に命中した。

「……黙れランベルト。」

「身体検査の結果に偽りがなければ、上から7じゅ……」

「諒一も答えなくていい!!」

 ランナースーツのサイズがぴったりだったのには疑問を持っていたが、『身体検査』というちゃんとした理由があったようだ。

 部屋の掃除どころか、重要な書類の管理まで任せきりだったので、知られていても不思議ではなかった。

「しかし、すごいですね。スリーサイズを把握している仲でしたか。……今日日のカップルでも相手の正確なスリーサイズを知っていることは少ないですのに。」

 鹿住は足を組み直し、わざとらしく言った。

 結城は、鹿住が素直に感心しているのか、それともおちょくっているのか、判断しかねた。

「ちなみにボクのスリーサイズは……。」

「お子様は黙ってろ。」

 抑揚のない声で言って、ランベルトはソファーから立ち上がる。

「……さて、俺は近くで金引き下ろしてくるから、先に行っててくれ。」

「やっぱりランベルトも来るんだな。」

 ツルカは、腰に手を当て背骨をポキポキと鳴らすランベルトを見上げていた。

 ランベルトはこちらをちらりと見て仕方なさそうに話す。

「未成年が3人もいるんだ。鹿住だけに任せるわけにもいかないだろ。」

「そうですね。結城君にもしものことがあるといけませんから、男手は多いに越したことはありません。」

 鹿住のこの言葉を聞いて、結城は自分がそれなりに大事に思われていることを知り、嬉しく思った。

 何気ない一言だったが、いつも素っ気のないセリフを言う鹿住からこの言葉が出たことに、結城は少し意外性を感じていた。

 それはランベルトも同じだったようで、拍子の抜けた声で鹿住に言う。

「なんだ、珍しく素直だな。」

「……早く行ってきたらどうです? こうしてる間にも遊べる時間が無くなってますよ。」

「わかってるよ。じゃあな。」

 ランベルトはその場を離れ、ロビーから外へ出て行った。

 それを見届けると、結城はソファから立ち上がり海の方へと体を向けた。

 受付ロビーは少し高い位置にあるため、受付ロビーからは海岸の一部が良く見える。海岸は弓なりに広がり、フロートユニットの外縁部との間に楕円型の遊泳エリアを形成していた。

 海との境目に塀がある作り物の浜辺だが、遠くから見る分には本物とあまり違いはないように見える。

「先に行くって……やっぱり海?」

 気の進まなそうな結城のセリフに対し、諒一は当たり前のように答える。

「結城、ここに来て海に行かないというのは、ラーメン屋に行ってラーメン頼まないのと同じくらい勿体無いことだ。」

「いや、チャーハンやギョーザもなかなか美味しいんだぞ?」

「ユウキは海に行きたくないのか?」

「そういうわけじゃないけど……。」

 日本では内陸に住んでいたため、プールで泳いだことはあっても海で遊んだ経験は全く無い。また、不特定多数の人間に水着姿を見られるというのも、あまり気分が乗らない理由になっていた。

 結城がもじもじしていると、鹿住が立ち上がり、施設内部に向けて歩き出す。

「私が一般客用の更衣室まで案内しましょう。ついて来てください。」

 不安はあったが、“遊ぶための施設なのだからそのうち楽しくなるだろう”と前向きに考え、結城はその後について行った。


  4


 ……着替えを終えた結城はビーチの入り口で海を眺めていた。

 ロビーで見た海岸と、実際に来て見る海岸とではかなり印象が違う。

 足の裏に感じる浜辺の砂はサラサラで、まるで本物のようだった。また、水着になり肌が直接外気に触れているせいか、風もより一層強く感じられる。

 同じように、そこから見える景色も本物の海岸とそれほど差異はないように思えた。

 だが、海とフロートユニットとを隔てる壁の存在が、結城に違和感を覚えさせていた。

(初めての海水浴が人工海岸とは……。) 

 考え方を変えれば、初めての海水浴でこんなリゾート施設に来れるということは名誉なことなのかもしれない。

(にしても、賑やかだなぁ。)

 海岸では、人々の楽しげな声が波の音と入れ混じり、ゲームセンターとはまた違った娯楽空間が広がっていた。

 結城は高級リゾートと聞いて、もっと静かな場所を想像していた。そのため、がっくりとはしなかったものの、期待が外れて少し残念な気持ちになった。

 しばらく海岸の光景を観察していると、鹿住の声が聞こえてくる。

「学生3人、全員揃って学校支給の水着ですか。」

 すぐに背後から、声の主とツルカ、そして諒一が結城の視界に入ってきた。

 結城は鹿住の言った通り、学校からもらった水着……というには無骨すぎる、スイミングウェアを来ていた。

 海難事故を想定した簡易的な実習訓練の時に配られたものなのだが、その時はランナースーツを着て行なったため、一度も身につけたことのない、新品である。

 本来ならば救命ユニットを首周りに装着するのだが、それは外していた。理由は言うまでもなく付けた状態だと外見が悪いからだ。

 その水着は紺色で、スクール水着の腹部周辺をぽっかり切り取ったような形状をしている。さらに、横腹や背中には水着のパーツ同士を繋ぎあわせるバンドが、筋肉に沿うような形で配置されており、そこそこデザイン性に優れていた。

 ツルカはサイズは小さいが同じ物着ていた。それに対し、諒一は男性用の物を着ていた。体を覆う面積は女性用のと比べて小さいが、デザインが似ているので鹿住にもわかったのだろう。

 鹿住はこちらと諒一を交互に見て呟く。

「こんな場所でまでペアルックにこだわらなくても……。」

 鹿住のわざとらしく歪曲された言葉を聞き、慌てて結城はそれを修正する。

「違います!! ……ランベルトからここに行くと聞いたのが昨日だったから、水着を準備する暇がなかっただけです。」

「水着はこっちで買うと決めて、日本からは持って来てませんでしたから、すぐに用意できる水着がこれ以外に無かったんです。」

 諒一も結城を肯定するように説明した。

 すると、横からツルカが口を挟んでくる。

「カズミみたいにレンタルすれば良かったのに。」

 ツルカは屈伸をしたり、腕を回したりと体を動かしていた。

 結城はレンタル用に置かれていた水着を思い出し、歯切れが悪くなる。

「いやさすがにあれはちょっと……。際どいというか目立ちすぎるというか……。」

 水着はどれも面積が少なく、これまで“海で遊ぶ”という目的のために水着を着たことがない結城にとって、それらを身につけることは大変勇気の要ることだったのだ。

 そんな情けない理由を素直に喋れるわけもなく、結城は別の理由を適当にでっち上げる。

「私学生だし、レンタルするお金ももったいなし……。」

「ひょっとしてユウキ、恥ずかしいのか?」

 まさに図星だった。

 ツルカはそれが“理解出来ない”という怪訝な顔をこちらに向けていた。

「まさか、そんなわけない。ないって。」

 結城はこれ以上何かを言っても傷口を広げてしまうだけだと分かっていたが、自分の口から出る言葉を止めることが出来ない。

「……そう言うツルカも支給水着着てるじゃないか。」

 ツルカはそれに普通の口調で答える。

「ボクは快適に泳ぎたいからこっちを選んだだけだ。……カズミみたいな普通の水着を着てたほうがこの中では目立たずに済むと思うぞ。」

 相変わらずツルカは準備運動を続けており、泳ぐ気満々なのは嘘でないようだった。

「……目立つ?」

 ツルカの言葉を反芻するように小さく呟き、結城は周囲を見渡す。

 確かに、結城のようなシックな色の水着を着けている人は殆どいない。もっと言うと、同じようなものを着ているのは、少し歳をとったご婦人やライフセイバーくらいなものだった。

 あまり見られたくないから、家から持って来た支給水着を選んだというのに、それが逆効果だと信じたくはなかった。

 肌の露出が減っても、その分視線を集めてしまえば同じことなのではないだろうか。

「いや、確実に肌は隠れているのだから、私の選択は間違ってはいない……。」

 自分に言い聞かせるようにブツブツと言っていると、諒一が近づいてきて、比較的小さな声で耳元で囁く。

「どちらにせよ結城は目立つ。今をときめく女性ランナーだからだ。」

「え?」

 耳たぶに吐息を感じ、諒一から頭を離そうかと思ったが、まだ何か言いたげにしていたので、大人しく聞くことにする。

「……その上可愛い。」

「!?」

 諒一に接近された上、歯の浮くようなセリフを吐かれ、結城は自分の体温が急激に上昇するのを感じていた。

 しかし、次の言葉を聞き、結城は一気に冷めることになる。

「……と鹿住さんが言っていた。」

「鹿住さん!!」

 結城が鹿住に顔を向けると、鹿住は慌てた様子で海岸に目を向け、こちらと目を合わせないようにした。

「諒一に変なこと言わせないでください。」

「ごめんなさい。私が言っても効果がないと思ったものですから。」

 悪びれない様子で言い、ちらりとこちらに顔を向ける。口元が緩んでおり、自分が慌てふためくさまを面白可笑しく見ていたに違いないと判断した。

 ……改めて鹿住の水着姿を見て、結城は少しの間見惚れてしまう。

 鹿住はビキニタイプの水着を着ていて、白のパーカーを羽織っていた。そして、大人と呼ぶにふさわしい体つきをしていた。

 結城は鹿住のある部分を見て溜息と共に思っていたことを口に出してしまう。

「鹿住さん……着痩せするタイプだったのか。」

「確かに、ここ数年は運動してないし、体重が増えていても仕方ありません。」

「いえ、そういう事ではなくて。」

 結城が見ていたのは、パーカーの隙間から見える胸だった。普段は白衣を着ているため分からなかったが、結城とは違い明らかに平均以上のサイズがあると思われた。

「そういう事でないのなら、どういうことですか?」

「肉付き……いえ、スタイルがいいなと思いまして……。」

 ストレートに胸のことを言えず、結城は全体的になんとなく褒めた。

 鹿住との年齢差は5年もないはずだ。5年であそこまで胸部に脂肪を貯めることができるだろうか。いや出来ない。

 結城はバストのサイズは先天的な要因によって決まると思い込むことにした。

 コンプレックスを感じている結城に対し、鹿住も褒め返してくる。

「そういう結城君も、ランナーにしては綺麗な体ですね。」

「ランナーにしては……?」

 VFランナーは過酷な環境下で操作せねばならないため生傷が絶えない。

 他のランナーと比べて自分は怪我が少ないのだろうかと考えていると、いきなり鹿住がこちらのお腹に手を当てた。さらにそのまま、みぞおちからおへそに掛けて指を這わせる。

「ひっ!?」

 完全なる不意打ちに、結城は思わず変な声を出してしまう。

 一瞬のことだったので、こちらが反応するころには、鹿住の指は既に結城のお腹から離れていた。

「いきなりなんですか!!」 

「以前見た女性ランナーの方は、腹筋が縦と横に、それは見事に割れていましたよ。」

「……腹筋?」

 鹿住に触られた箇所……お腹まわりを見てみると、確かにうっすらと影はあるもののボディービルダーのように割れてはいなかった。

「あと、首が太くなってネックレスがきつくなったという話も聞いたことがあります。」

「……なんで今そんなことを?」

「結城君もいずれはそうなると思うと、感慨深いものがありますね。」

 鹿住の話からすると、VFランナーを続けていれば嫌でも筋肉がついてしまうということだ。

(私が……ムキムキに?)

 他人の発達した筋肉を見る分には何の問題もないが、自分の逞しい体を想像することは出来なかった。

 結城は自分の体が変化してしまうことに不安を感じ、諒一にすがりつく。

「なぁ諒一、腹筋割れてても何の問題もないよな?」

「何でこっちに聞くんだ。」

 諒一の迷惑そうな顔を見て、何気なく視線を下に落とす。

「うわ、リョーイチもなかなか……。見ないうちにこんなになっちゃって……。」

 幼少時代に一緒に風呂に入って以来、10年ぶりに見る諒一の体は人前に出しても大丈夫な程度の体つきをしていた。

「あれだけこき使われていれば、こうもなる。」

「そんなに過酷な手伝いをさせられてたのか……。ランベルトはひどいな。」

「いや、結城に……何でもない。」

 諒一は何か言いたげにしていたが、口をつぐんだ。

 結城はそれを気にすること無く、諒一の体をまじまじと観察する。 

 しかし、こちらも同じようにじっくりと見られているのではないかと思い、すぐに結城は諒一に背を向けた。

 いつも部屋でだらしのない格好を見られても何も感じていなかったが、こういう開けた場所ではこちらにもある程度の気構えがある。

 見せるための姿を幼なじみに見られるというのは、なんとも恥ずかしい気分だった。

「全員準備は整ったようだな。」

 派手な色のTシャツを着て現れたのは、ランベルトだった。首や額には既に大粒の汗が見えており、お金を引き下ろすのに奔走したことがうかがい知れた。

 ランベルトはシャツの襟元を前後に動かして、首元から空気を入れ替えていた。だが、浜辺周辺の空気は、砂が熱を吸収しているため暑く、体の熱は上昇する一方だった。

「……こんなところでお喋りしてないで早く海行くぞ。」

 いい加減暑さを感じていた4人も、その一声で海に向けて移動し始めた。


  5

 

 海に一番乗りしたのはツルカだった。

 ツルカはハードルのような波を勢い良く飛び越え、ばしゃばしゃと音を立てながら海に突入する。

 遅れてきた4人もツルカに続いて海に入ったが、その途端に全員のテンションが一気に下がった。

 呼応するようにツルカの動きに元気がなくなり、5人は海の中で輪になって集合する。

「海ぬるーい……。」

「そんな残念そうな顔するな。」

 ツルカの言った通り、水温はかなり高かった。

 海水の循環に多少の難があるようで、フロート内にある海水がひたすら太陽光によって温められているのだ。

 やっと体を冷やせると思っていた一同は、ぬるい海の中でちょっとした絶望を味わっていた。

 しばらく何もしないで立ち尽くしていたが、急にランベルトがあることを提案してくる。

「……だったら室内プールに行くか、あっちはかなり冷えてるはずだ。」

 結城はその提案を鼻で笑う。

「バカだなぁ、ランベルト。こういうのは雰囲気を楽しむものなんだ。水温がちょっと高いくらいで室内に行く必要は……あれ?」

 持論を説いていると、諒一が輪から外れて浜辺へと戻り始めた。

 結城はそれを追いかけ、すぐ後ろから諒一に声をかける。

「諒一どこ行くんだ?」

「室内プールだ。」

 諒一の言葉を聞いて、ランベルトもその後に続く。

「そうだろうそうだろう。わざわざぬるくて塩っぱい水たまりみたいな場所にいる必要はない。俺と一緒に室内プールに行こうか。」

 男2人は海から出て、来た道を逆戻りしていく。

 そのまま行ってしまうかと思われたが、途中でランベルトが振り向き、声を上げる。

「ツルカも付いて来たらどうだ。遊べるアトラクションもあるぞ。」

「ボクはいい。あっちは思い切り泳げないだろうし。」

「なら仕方ないな。……一応聞くが、カズミは来ないのか?」

 ランベルトは一応全員に聞くつもりらしく、ツルカに続いて鹿住を誘った。

「……。」

 鹿住は無言で海から出て、ランベルトの目前まで移動する。

「……若い女の子は、こちらより室内プールの方が多いでしょうね。」

「そうそう……ってそれが目的みたいに言うんじゃねえよ!!」

 そのやり取りを聞いた結城や諒一は、哀れみのこもった視線をランベルトに向けた。

 ランベルトは坊主頭を掻きながら鹿住に選択を迫る。

「結局どっちだ、お前はこのぬるい海で泳ぐつもりか?」

「……それとこれとは別の話です。私は日差しに弱いので室内プールに移動するだけです。」

 そう返事すると、鹿住はランベルトと諒一の横を通り抜けて、先に施設内へと戻っていった。

 これで海に残されたのは結城とツルカの2名だけになった。

 ランベルトは最終確認するかのごとく、こちらに呼びかけてくる。

「おい嬢ちゃん、リョーイチと一緒に来ないのか?」

「学校の訓練のおかげで暑さには慣れてるし……。」

 冷たい場所で泳ぎたい気持ちも少なからずあったが、せっかくの初海水浴なので、海で遊びたいと考えていたのだ。

 理由は他にもあった。結城はそれをランベルトに説明する。

「それに、ツルカを一人にしちゃ駄目だろ。……ツルカと一緒にこっちにいるよ。」

「そうか、悪いな。」

 ランベルトはこちらの意思を確認し終えると、諒一と共にそそくさと施設内へ戻っていき、やがて姿が見えなくなった。

 昨日の自分なら、ここで諒一を追いかけただろう。

 そんな事に気を揉む必要がなくなったことを結城は喜ばしく感じていた。

「話、終わった?」

 近くに視線を戻すと、ツルカが目の前でクロールしていた。

 四肢を大きく動かしているというのに水しぶきは立っておらず、その静かに泳ぐさまを見て、結城はサメを連想した。

 こちらがじっと見ていると、ツルカは泳ぐのをやめて周囲を見渡す。

「ユウキと2人きりか……。」

 どうやら誰がいなくなったかを確認していたらしい。2人きりになったのが嬉しいのか、ツルカは無垢な笑みを結城に向けた。

「……沖の方まで泳いでみないか?」

 沖の方向へ目を向けると、ゴムボートに乗っている人が2,3組見られた。しかし、泳いでいる人は一人もいない。

「危ない気がするんだけど……。」

「平気だって。」

 ……プールでは50メートル進むごとにターンしなければならず、窮屈な思いをしていたため、遠泳に興味がないわけではなかった。

 結城はツルカの提案を快く受け入れる。

「……よし、行こうか。」

 海底から足を離し、腕と足を真っ直ぐに伸ばす。後ろにまとめた髪が濡れて重くなるのを感じつつ、結城は沖に向けて泳ぎ始めた。

 


 泳いでいる間、結城は無心になって手足を動かす。息継ぎする度に、海とフロートユニットとを隔てる壁が見えた。

 結城が近付くにつれ、それはどんどん大きくなっていく。また、水温も心なしか下がってきているように感じられた。

 ……壁に到達するとその出っ張りにしがみつき、バタ足で疲れた足を休ませる。

(結構時間かかったな……。)

 時計も何も身につけていないので正確な時間は判らない。しかし、歩くスピードの半分も出ていなかったのは確かだ。

 ツルカが来るのを待っていると、すぐ近くから声が聞こえてくる。

「ユウキ、泳ぐのおそいなぁ。」

 ツルカは既に到着していたらしく、仰向けになって波に身を任せていた。

「なんだ、先にゴールしてたんだな。」

「ユウキが来るまで暇だったんだぞ……。幾ら何でも遅すぎやしないか?」

 団子状にまとめていた銀色の髪はいつの間にかほどけており、クラゲの触手のようにツルカの周りでゆらゆらと動いていた。

 結城は壁から手を離すとツルカの元まで移動し、仰向けになったお腹の上に頭を乗せてみる。しかし、ツルカが抵抗することはなかった。

「私が遅いんじゃない。ツルカが速過ぎるだけだ。」

 喋るたびに顎が動き、ツルカのお腹を刺激する。それがくすぐったかったのか、ツルカは結城から離れ、仰向けから立泳ぎの姿勢に移行した。

 ツルカも先ほどの結城と同じように壁に手をつき、そのまま壁をコンコンと軽く叩く。

「……にしても、この壁邪魔だな。もっと泳ぎたかったのに……。」

「これ以上先に行くと、航行中の船に巻き込まれて危険だし、無理矢理救助されてしまうかもしれない。」

「それは分かってる。」

 危険だと説明するも、ツルカは納得のいっていない歯がゆい表情をしていた。

 壁を見上げながらツルカはぶつぶつと喋る。

「……おかしいな、昔はもっと沖まで泳げてた気がするんだけど……。」

「記憶違いじゃないか? ここができた当初から、安全のためにこの壁はあったらしいし。それに真っ直ぐ泳がなくても、ぐるぐる回れば長い距離泳ぐこともできるだろ。」

 結城の言葉はツルカの耳に入っていないようで、ツルカはその場から動かず、何やら考え事をしていた。

 ……見かねた結城は、思いついた可能性をツルカに言ってみる。

「もしかして、この施設じゃなかったんじゃないか?」

 結城の言葉を吟味するように、ツルカは壁をじっと見ていた。

「……たしかにそうだったかも。いや、そうだよ!!」

 ツルカは急に声を張り上げ言った。そして、砂浜に体を向けて泳ぎだそうとする。

「待ったツルカ!! もう戻るのか?」

 慌てて結城はそれを引き止めた。しかし、ツルカは言うことを聞かず、どんどん壁から離れていく。

「昔、いつも行ってた場所を思い出したんだ。そこならもっと遠くまで泳げるはずだ。……ユウキも付いて来るか?」

 ツルカを見守ると宣言した以上、付いて行かないわけにはいかない。

「……行くから、スピード落として泳いでくれ。」

「わかったわかった。」

 そう言いながらもツルカはぐんぐんと泳ぐ速さを増していく。

「だから待てって!!」

 どこに行くつもりなのか、その行き先を聞けないまま結城はツルカの後を追った。


 6 


 鹿住はプールサイドに設置されている椅子で休んでいた。椅子は背もたれの角度が大きい物で、鹿住は足を伸ばし、ゆったりとした体勢で座っていた。

 胸の上においている紙袋からフライドポテトを取り出し、それをかじりながら、鹿住は心のなかで呟く。

(……なぜ私はこんな場所にいるのだろう。)

 本当はこんな場所にも来たくはなかった。移動するだけでもしんどいのに、その上暑いときた。……高い金を払ってまで肌を直射日光で痛めつけている連中の気が知れない。

 冷房の効いたラボでモニターとにらめっこしている方が、体力的にも精神的にも幾分かマシだ。しかし、七宮さんに言われた以上、結城君の監視を怠ることは出来ない。

 ……その肝心の結城君は、現在プールではなく海の方にいる。ここからは見ることが出来ないし、もはや見るつもりもない。

 てっきり室内プールに付いて来るものと思っていた鹿住は、いまさら暑い浜辺に戻る気もなく、自分の犯した失態を悔やんでいた。

「鹿住さん、気分でも悪いのですか?」

 男性に声をかけられ鹿住はふと我に返り、声のした方に顔を向ける。

 そこには無表情な面があり、話しかけてきたのが旗谷諒一であるということが分かった。

 ……一人で寂しくポテトをかじっている自分を気にかけてくれているのだろうか。そんな心遣いは不必要だと思いつつ、鹿住は丁寧に返事する。

「ええ、少しだけ。じきに良くなると思いますから気にしなくてもいいですよ。」

「そうですか、それを聞いて安心しました。……せっかく来たのに災難ですね。」

(全く、その通りですよ……。)

 心ではそう思いつつ、鹿住はそれを悟られないような落ち着いた雰囲気で喋る。

「外出することが少ないので、たまにはこういう場所に来るのも悪く無いです。体調が悪くなってもこれはこれでいい経験になります。」

「なかなか前向きな考え方ですね。……ちょっと失礼します。」

 何を思ったか、諒一は短い断りを入れると、鹿住の隣りの椅子に腰を下ろした。

 諒一は背もたれに背を預けることなく、横向きに座りこちらに体の正面を向けていた。

 隣りに座られ不快に感じ、諒一を追い払うべく鹿住は先程よりも少しだけ口調を強める。

「私のことは気にしないで遊んできたらどうです? せっかく入場料を払ったんですし。」

「そっちこそ気にせず休んでいてください。こっちも昨日の疲れが溜まっていて、遊べるだけの体力が残ってないんです。」

 それは白々しいセリフだった。

(……嘘ですか。)

 フライドポテトをかじり終え、鹿住は紙袋に視線を落とす。ポテトはだいぶ冷えてきており、数も少なくなっていた。軽くなった紙袋は、鹿住の胸の上で不安定に揺れる。

 諒一の突き刺すような視線を感じつつ、鹿住は腕を引き寄せるように折りまげ、手先を胸元に持っていった。そして、紙袋の内側に触れないように注意しつつ、手首から先だけを突っ込むと、新しい一本を器用に取り出した。

 ……ポテトをリスのようにかじり、諒一に言われた通り気にせず休んでいると、それを言った本人が話しかけてきた。

「そういえば鹿住さんはどの県に住んでいたんですか?」

 ポテトから口を離し、鹿住はその質問を質問で返す。

「聞いてどうするつもりです?」

「会話のきっかけにしようと思っただけです。言いたくないのなら別に答えなくても構いません。」

「諒一君とはまともに会話をしたことがありませんでしたね……。それでは、オーソドックスに趣味の話でもしましょうか?」

「いえ、鹿住さん。あなたが所属していた団体、『日本VF事業連合会』について教えてください。」

 ずいぶんと単刀直入に聞かれ、鹿住は呆気に取られた。そのせいで、持っていたポテトを胸元に落としてしまった。

 気を取り直してポテトを口に入れると、諒一の問いに対し率直に答える。

「私から情報を得たところでどうにもならないと思いますよ。……変な勘ぐりをするのは止めておいたほうがいい、それがチームのためです。」

 七宮から指示されていなくとも、その情報について教えるわけがなかった。鹿住はさらに言葉を続ける。

「資金を打ち切られ、アカネスミレも無くなれば、雀の涙以下のスポンサー収入だけでどうやって運営していくつもりです? 間違いなくチームは消滅しますよ。」

 ……ふと、顎を引いてプールに視線を向けると、若い女性に声をかけているランベルトの姿を確認することができた。“2NDリーグ出場チームの責任者”という肩書きがあるにも関わらず、ナンパは箸にも棒にもかからない状態のようだった。

 責任者があの様では、チームの消滅も尚更のことである。

 視線を戻すと、小さな声で諒一が話しかけてくる。

「結城も『お金は貰えているし、気にしなくていい』と、鹿住さんと同じようなことを言ってました。でも、実在しない団体から資金を受け取るというのは……。」

 諒一の声からやりきれない思いが伝わってきた。

 その気持ちはわからないでもない。現代において、これほど気前よく援助をしてくれる組織はそうそういないからだ。いるとしても、その大半は複雑な理由があるものだ。

 今回のように『同じ日本人』という単純な理由だけで大金を援助する団体がある確率はゼロに等しいだろう。

 そう思っていると、気付かぬうちに口が勝手に動いていた。

「……正体を隠しているだけで、怪しい団体ではない。とだけ言っておきましょう。」

 言えるのはこれくらいのことだった。これが現在自分にできる最大限の譲歩だ。

 鹿住の返事を聞いた諒一は、さらに質問してくる。

「鹿住さんは……試合に出る前から結城の事を知っていたんですか?」

「いえ、結城君のことを知ったのは試合の後です。技術提供が決まった後でしたから。」

 諒一の質問が止むことはない。

「ここに来る前はダークガルムに所属していたんですよね。」

「良く調べていますね。前も言った通り、そこでVFの設計をしていました。」

「その親会社の『ダッグゲームズ』……。例のシミュレーションゲームを運営している企業です。」

「それは知ってます。ゲームの収益は重要な資金源になっていましたし。」

 ちなみに、鹿住が行っていた研究開発の資金は、全て七宮が用意した物だった。そのため七宮に頭が上がらないというわけなのだ。

 不意に諒一が予想だにしないことを口にする。

「……ゲームを介して結城をイクセルと戦わせたのはあなたですか?」

 それは質問というよりは自らの考えを確かめるような言い方だった。

 鹿住は諒一の勘の良さに驚いていた。そのせいで動揺し、よく考えず返事をしてしまう。

「私じゃないですよ。」

 とっさに出たのは否定の言葉だった。

(……しまった。)

 鹿住はそれが過ちだったということにすぐに気付く。

(ここは、『何の話ですか?』と惚けるべきでした……。)

 しかし、時既に遅し。諒一は腰を上げてこちらに迫り、低い声で問い詰めてくる。

「『私じゃない』……ということは、この事自体は知ってたんですね。」

「……。」

「どうやってこの事を知ったんです? ……やはりあなたは……」

 このまま沈黙していれば、自分が関与していたことを肯定してしまうことになる。

 ポテトを淀みなく口に運びながら、鹿住は考えを巡らせる。しかし、これを回避する策が早々簡単に思い浮かぶはずもない。

 ……どうしようかと考えていると、いきなり体全体に冷たい感触が走った。これが悪寒というものかと思ったが、すぐに柑橘系の香りと共にアルコールが匂ってきた。

 そして、横から女性の謝罪の声が聞こえてくる。

「あー、すみません!! 大丈夫でしたか?」

 鹿住の上半身はオレンジのカクテルでビショビショになっていたのだ。

 それをこぼした女性の手にはグラスが2つ握られており、どちらともほぼ空になっていた。

「大丈夫です。水着だから洗い流せば平気です。」

「本当にごめんなさい……。」

「いえ、ホットじゃなくてよかったです。」

 鹿住は飽くまで冷静に対応し、被害の状況を確認する。

 白いパーカーは無残にもオレンジ色に染められ、水で洗い流すだけでは汚れは落ちそうになかった。

(冷たいですね……。)

 よく見るとお腹の上には2つほど氷がのっかっていた。よく悲鳴を上げなかったものだと自分を褒めたかったが、それと同時に自らの鈍感さに呆れていた。

 服に染み込んでいたカクテルをプールサイドに垂らしながら、鹿住はゆっくりと椅子から立ち上がる。

 女性は正面に回りこみ、深く頭を下げようとしたが、こちらの水着を見て顔色を青く変化させる。

「それってレンタルの水着ですよね……。汚れたら弁償しなきゃ駄目なはずです。」

「そうでしたっけ……。」

「私、ちゃんと弁償しますから、許してください!!」

 “弁償するのは当たり前だ”と口にしそうになったが、鹿住は今の状況を再確認してその言葉を引っ込める。

 なぜなら、このアクシデントのお陰で諒一の追及から逃れられたからだ。そして、逆にこちらがお礼をしたい気分になっていた。

「とりあえずシャワールームまで案内します!!」

 その女性は諒一にグラスを押し付けると、鹿住の手を取りプールの外へ移動し始める。

「ちゃんと代わりの水着も用意しますから!!」

「そ、そうですか。」

 鹿住はその勢いに逆らいきれず、女性に連れられていく。

「……。」

 グラスを2つも押し付けられた諒一は、何か言いたげにしていたが、シャワールームまで付いて来るつもりはないようだった。



 鹿住は女性に連れられ人気のない通路を歩く。

(あれ? 確かシャワールームはさっきの角を左だったような……。)

 鹿住が異変に気づいたのは、室内プールのあるエリアから、宿泊施設のあるエリアに差し掛かってからだった。

 シャワーを浴びる前に替えの水着を借りるのだと思っていたが、貸し出しカウンターからもどんどん離れていく。

 不安を感じた鹿住は前を歩く女性にその事を伝える。

「すみません、道を間違えてませんか?」

「……。」

 女性は何も話すこと無く、鹿住の腕を掴んで狭い通路を進んでいく。

 完全に場所を把握できなくなり、鹿住の頭の中では、誘拐・拉致・暴行・人身売買・臓器密輸といった最悪のシナリオが思い浮かんでいた。

(これはヤバイのでは……?)

 不審に思った鹿住は女性の手を振りほどき、歩いてきた道を逆走する。

「……ッチ!!」

 背後から女性の舌打ちが聞こえてきた。どうやら鹿住の予感は的中していたようだ。

 先ほどカクテルをこぼしたのは、わざとだったに違いない。

(このようなリゾート施設で犯行に及ぶとは、大胆な連中ですね。)

 助けを求めれば何とかなるだろうと考え、広けた場所を目指して鹿住はひたすら走る。

 だが、鹿住が助けを呼ぶことは出来なかった。……急に前方に現れた男によって捕まえられてしまったからだ。

「あっ……。」

「おっと……作戦は上手くいったようだな。こいつで間違いない。」

 鹿住は男によって肩を掴まれた。その途端体の力が抜けて身動きが取れなくなる。

 こんな時にこそ悲鳴を上げねばならないのだが、口からは「あ……。」「え……。」などの情けのない小さい声しか出てこなかった。

 振りほどこうにも力で勝てるわけもなく、護身術の『ご』の字も知らない鹿住は抵抗するのをやめた。こういう場合では大人しく犯人に従ったほうが怪我をせずに済むのだ。

「逃げるとは思わなかったわ。早く連れていきましょ。」

「そうだな。早く終わらせて金を貰おう。」

(誰かに雇われてるみたいですね……。やっぱり誘拐でしょうか……。)

 その後、しばらく通路を歩いていると、エレベーターホールに到着した。

 それはホテルの物らしく、高そうな服を着た客や、泳ぎ終えたと思われる水着姿の一般客が、エレベーターが来るのを待っていた。ホールには扉が4つあり、それぞれの扉の前に客が列を作っていた。

 ……間もなく扉が開き、肩を掴まれたまま鹿住はエレベーターに押し込まれる。

 エレベーターは透明の円柱タイプのもので、外の景色が良く見えた。当然、隣のエレベーターも見ることができ、それはかなり速いスピードで上に登っていった。

(……誰も私が誘拐されそうになっているなんて気付きもしないのでしょうね……。)

 他の客に助けを求めようにも、体が震えて上手く口を動かせそうにない。

 鹿住は俯いたまま、これから自分の身に起こるであろう悲惨な運命を想像していた。

 エレベーターが上に向かうに連れて、客たちの数は減っていき、とうとう鹿住と犯人2人だけになってしまった。

 どこまで上がるのか、停止する階数を確認しようと上を向くと、タイミング良くエレベーターは停止した。目的の階に着いたらしい。

「ここで降りるよ。」

 女性の声に促され、男は鹿住を押してエレベーターから降りた。 

「確か部屋は……」

「一緒に聞いてたでしょ? 海に面した部屋だよ。」

 女性が先導し、インテリアで飾られた高級感あふれるフロアの廊下を進む。

 ……廊下に人影はない。

 プールから直接来た鹿住と女性は裸足だったため、男の足音だけがその空間に響いていた。

 やがて目的の部屋に到着したのか、あるドアの前で女性が立ち止まる。

「ここだったっけ?」

「そこ合っていますよ。」

 女性の疑問の言葉を肯定するような声が、鹿住の背後から聞こえてきた。

 聞き覚えのある心地良いテノールの声を耳にして、鹿住は後ろに振り返る。

「し、七宮(しちのみや)さん!?」

 今まで全く気配を感じていなかったため、いきなり出現した七宮に鹿住は心底驚いた。

 七宮はウェーブのかかった黒い髪を掻き上げ、懐から何かを取り出す。それは金属でできており、鈍い光を放っていた。

(小型ナイフ!?)

 それを持ったまま七宮はこちらに接近してくる。その気迫は凄まじく、『刺す』という意思がひしひしと伝わってきていた。

 七宮は一瞬でドアの目前まで迫ると、それを素早く前に突き出す。

 それは2人組の間をすり抜け、ドアに突き刺さった……かのように見えた。

 ……よく見ると、それはナイフではなく、もっと言うと武器ですら無かった。

 七宮はそれをドアの中腹にある鍵穴に差し込み独り言をつぶやく。

「こういうレトロチックな鍵もたまにはいいものだね。」

 七宮が手に持っていたのは只のルームキーだった。そのまま左に捻りドアを開ける。

「……さぁ、中に入ってくれ。」

 2人組も始めは面食らっていたものの、部屋に案内されてすぐに七宮に話しかける。

「シチノミヤって名前なのか……やっぱり知り合いだったんだな。」

「二人とも早かったですね……。ご苦労様。」

 部屋に入りドアが閉まると、部屋の明かりが自動で点いた。部屋はとても広く、床にはいかにも高価そうな刺繍のある絨毯が敷かれていた。

 さらに、ベランダの窓からは心地のよい風が吹いてきており、カーテンを静かに揺らしていた。

 状況を把握できないまま鹿住はフカフカのソファーに座らされ、続いて七宮と2人組も同じように座った。

 テーブルを挟んで七宮の向かい側に座った男は、肩にかけていた紙袋を七宮に渡す。

「タオルと新しい水着、買ってきました。」

「はい、どうもありがとう。大成功だったよ。」

 それは鹿住の目の前を通り、七宮へと受渡される。

 ブランド店のマークの入った紙袋を目で追いかけながら、鹿住はおずおずとした態度で七宮に説明を求める。

「七宮さん……これはいったい……」

「ホントにこれだけでいいんですか?」

 だが、その声は男の声によって遮られた。

「僕は嘘をつかない主義でね。ほら、これでもう一週間2人でバカンスを楽しむといい。」

 七宮は紙袋を脇に置くと、小さい封筒をテーブルの上に置いた。置かれた封筒を女性が取り、中身を確認する。

「わ、こんなに貰ってもいいんですか? さっきも前金とか何とかでいっぱい貰ったのに……。」

「いらないのかい?」

「いえ、あ、ありがとうございました。」

「……この事は誰にも言わないでね。」

「もちろん分かってます。……それじゃあ。」

 女性と男はソファーから立ち上がると、封筒を大事そうに持って部屋を後にした。

「……。」

 ドアが閉まると、ずっと室内に吹いていた風が止み、揺れていたカーテンも止まる。そのせいで、太陽の光が遮られて部屋の中が少しだけ暗くなった。

 それを感知した室内灯が明度を自動で上げる。それによって七宮の顔をはっきりと見ることができるようになった。

 七宮は紙袋の中身を取り出しながら話す。

「で、鹿住君、上手くやってるかい?」

「ええ、はい。……整備は完璧です。」

「そうではなくて、幼なじみ君に悪戦苦闘してたじゃないか。」

 紙袋から取り出されたタオルを渡され、鹿住は一礼してそれを受け取る。

「あぁ、諒一君のことですね。……見ていたんですか。」

「鹿住君、ピンチに見えたから思わず近くにいた金欠カップルを使って助けてしまったよ。」

「『使った』? ……そういう事でしたか。」

 それを聞いて、鹿住はようやくこれが七宮の茶番だということに気がついた。

 ……七宮が現れたときに一瞬でも「自分を助けに来てくれたのか」と考えてしまった自分が恥ずかしい。

 赤面しているのを自覚しつつ、鹿住は七宮に抗議の声を上げる。

「ふざけるのも大概にしてください。」

「なかなかスリリングだったろう?」

「冗談じゃありません。ホントに何かしらの犯罪に巻き込まれたのかと思ったじゃありませんか。」

「ずっと後ろから見てたよ。確かにあれだけ見れば誘拐にしか見えないね。……ああいうときは大声で叫ばなきゃだめだよ?」

「私が叫んでいたら、関係ないあの2人が大変なことになってましたよ。」

「……まぁ、予行演習だと思えばいいさ。」

 七宮は気まずそうな表情をした。

 叫んでいたらあの2人はどうなっていたのだろう。……考えたくはなかった。

「こういう類のイタズラは心臓に悪いので、私には今後一切しないでください。」

 鹿住の注意に対し、七宮は「覚えておこう。」と小さく頷いた。

 言いたいことを言い終えて一息つくと、鹿住は改めて感謝の言葉を述べる。

「手段はどうであれ、助けてくれてありがとうございます。……でも、何でここにいるんですか?」

「結城君から“幼なじみ君と喧嘩している”と聞いて、力になろうと思って来たけど、……杞憂に終わったようだ。」

(友好関係にまで手を出すつもりだったんですか。)

 半端のないストーカー振りに呆れる暇もなく、七宮は話を続ける。

「彼、勘がいいよね。ぐうたらな責任者とは大違いだ。」

「同意です。だから、ラボから追い出そうとしたのですが……無理でした。」

「仕方ないよ。彼は結城君にとって必要不可欠な存在らしいからね。」

「それは嫌というほど実感してます。」

 我々にとっては邪魔だが、結城君にとっては必要な人物。これから諒一という人間をどう扱えばいいのか、一度真剣に考える必要があるように思われた。

 目を閉じでそんな事を考えていると、不意に上に引っ張られるような感覚を覚えた。

 不思議に思い目を開けると、いつの間にか七宮がソファーから姿を消していた。そしてすぐに背後からささやくような声が聞こえてくる。

「いい頃合だし、情報を流すことにするよ。」

 七宮は濡れたパーカーの肩口を掴んでいた。そのまま上に引き上げ、パーカーを脱がせる。……途端にアルコールの匂いが再び周囲に広がった。

 鹿住はカクテルでびしょびしょに濡れた肌をタオルで拭きながら問いかける。

「情報と言うと、何の情報ですか?」

「結城君のことさ。……シミュレーションゲームで高ランカーだということ、キルヒアイゼンのツルカと同じ部屋に住んでいること……もちろん、イクセルと対戦したこともね。これで結城君の注目度は上がるだろう。」

 試合前にこういった情報が広がれば、観客の数も増えるだろう。スポンサーの事を考えると注目されることはいいことだ。しかし、資金のほとんどが七宮によって援助されているアールブランにとって、それはあまり関係の無いことだった。……それどころか、その試合で負ければ人気が急下降すること間違いないので、デメリットのほうが大きいだろう。

 1STリーグに出場するという目標がある今、なるべく結城にとってプレッシャーになるような事は避けるべきだと鹿住は思っていた。

 せめて試合の後にすべきだと反論しようとした時、七宮の口からそれを思いとどまらせる言葉が出てくる。

「……幼なじみ君にさっきのことを聞かれたら、ニュースで知ったとかなんとか言って誤魔化すんだ。わかってるね?」

(そうでした……。もとはといえば私の責任……。)

 諒一からの質問に対する矛盾を解消するためだけに、情報を流す事態になったのだ。そのため、鹿住は重大な責任を感じていた。

「……はい、わかりました。」

「これからは良く考えて発言してくれよ。」

 そう言うと、話は終わりとでも言わんばかりに七宮は紙袋をこちらに渡す。

 中を覗くとラッピングされた新品の水着が入っていた。

 七宮は汚れたパーカーをランドリーバッグに突っ込み、ドアノブに手をかける。

「僕はもう部屋から出るよ。だから、早くバスルームで汚れを落として新しいのに着替えるといい。……あまり長い間居なくなるとチームメンバーに心配されるだろうしね。」

 鹿住は水着に付いていたタグを見て、その値段に驚く。……このリゾート施設を3回は利用出来る金額だった。

「あの、水着代は後で……。」

「別にいいよ。ちょっとしたボーナスだと思って貰ってくれ。今後も使うことがあるかもしれないだろ?」

「そうかもしれませんが……。」

 こちらが納得の行かない顔をしていると、七宮が意地悪っぽい声で提案してくる。

「どうしてもお礼がしたいのなら、あとでその水着を返してくれたのでいいよ。もちろん洗わずに……」

「有り難く頂戴します。」

「フフッ……それでいいんですよ。」

 鹿住の素直すぎる反応を鼻で笑うと、七宮は部屋から出ていった。

 鹿住もなるべく早くプールに戻るべく、急いで部屋の隅にあるバスルームに向かった。 


  7


 外壁から浜辺まで泳いで往復した結城は、筋肉痛とまではいかないものの、体力的にかなり疲れていた。対するツルカは相変わらずピンピンしており、“いつも訪れていた場所”とやらに向けて海岸沿いを歩いていた。

 そんな元気なツルカの後ろをダラダラと歩いていると、上品そうな雰囲気の女性が2人の前に立ちふさがった。それを無視するわけにもいかず、ツルカと結城は立ち止まる。

「何? ボクたち急いでるんですけど。」

 別に急いでないから、もう少し足止めして私を休ませてくれ、と結城は思っていた。

 そんな思いが通じたのかは定かでないが、上品そうな女性はいきなりツルカの両手を掴んで興奮気味に握った手を上下左右に振り始める。

「あ、あなたはオルネラさんの……。」

「妹のツルカです。」

 ツルカの言葉を聞いた上品そうな女性は声のトーンを上げて嬉しそうに喋る。

「あー、やっぱり似てるー。……頭撫でてもいいですか?」

(そこは普通、握手とかサインだろ!?)

「いいですよ。」

(ツルカも普通に了承するなよ……。)

 ツッコむ暇もなく、すぐにツルカの頭頂部に女性の手が乗せられる。

 時間がかかるかと思われたが、それは5秒ほどで終了し、女性はツルカから身を引く。

「あなたのお姉さんのチーム応援してるからね。それじゃ。」

 満足した様子で、女性は仲間が待っている場所へと戻っていった。

 それを見送りながら結城は思ったことを口にする。

「案外あっけないな。」

「昔来てた時もこんな感じだった。ここに来れるような人は有名人に会える機会も多いから、それほど執着しないのかもしれないな。……と言うか、ここにいる人達自体に有名人が多いらしいし。」

「ほんとか?」

「ボクらが知らないだけで、さっきの人も有名な人だったかもね。」

 ツルカの言葉を受けて、もう一度女性の顔を拝見しようとする。しかし上品な女性は既に遠い場所にいて、メガネが必要なほど視力の悪い結城には確認することは叶わなかった。

 メガネを前にずらし、レンズの角度を斜めにして一時的に視力を上げても、見えるのは女性の背中だけだった。

(まぁ、いっか。)

 諦めてメガネをかけ直すと、結城はツルカの後を追うことにした。

 ……しばらく歩くと、海岸の幅がどんどん狭まっていき、ついに端にまで到達した。端には頑丈そうな金属でできた柵が設置されていて、立ち入り禁止の注意書きがあった。

 柵越しには、こちらと同じような海水浴場が見えていた。……どうやらこの柵は、こちらと隣の海水浴場とを隔てているようだ。狭い範囲しか見れなかったが、向こうにもこちらと同じようなリゾート施設があるに違いない。

 一体どこに行くつもりなのか、そろそろ詳しい行き先を聞こうと考えた矢先、ツルカの声が上から聞こえてきた。

「ユウキ、こっちこっち。」

 上を見ると、3メートル程ある柵の上にツルカが座っていた。

 結城はすぐに注意する。

「駄目だぞツルカ。立ち入り禁止って書いてあるの見えなかったのか?」

「平気平気。」 

 ツルカはニヤリと笑みを浮かべ、柵を乗り越えて向こう側に行ってしまった。

 放っておくわけにもいかず、ツルカに続いて結城も柵を登る。

(これって不法侵入だよなぁ……。)

 結城は四苦八苦しながらその柵を乗り越える。そして向こう側の地面に降りると、柵のすぐそばでツルカがこちらを待っていた。

「もうちょっとで到着すると思う。」

 もう目標が近いのか、ツルカは海岸沿いのある一点を見つめていた。

 結城は柵の反対側にも書いてある注意書きを見ながらツルカに再確認する。

「こっちに勝手に入ってよかったのか?」

「大丈夫。キルヒアイゼングループは、ここらへんのホテルにかなりの額投資してるから。」

 自信満々に言うと、ツルカは目的地目指して歩き始めた。

(さすがは金持ち……。)

 ツルカが1STリーグの強豪チームのメンバーだということを思い出し、結城はその言葉を信じることにした。それに、例え不法侵入を咎められてもツルカが権力で何とかしてくれるだろう。

 そんな根拠のない思いを胸に、結城はツルカと共に進んでいく。

 こちらの施設にはところどころに熱帯植物が植えられており、御世辞にも視界が良いとは言えなかった。進むに連れて植物の量が増え、歩くたびに結城の足や腕に柔らかい葉っぱが当たるようになる。その感触は言葉では言い表せないが、気持ち良いか悪いかで言うと圧倒的に後者だった。

 ツルカはそんな素振りを見せること無く、慣れた手つきで葉っぱをかき分け進んでいく。以前ここに来たことがあるというのは嘘ではないのだろう。

 ……体にまとわりつく熱帯植物たちと格闘すること5分。2人はとうとう開けた場所に出た。

 そこは綺麗な砂浜で、静かに打ち寄せる波が白く輝く砂を濡らしていた。

 不快な空間から解放され、安堵感に胸をなで下ろしていると、何処からともなく男の声が聞こえてきた。

「誰だ貴様は。」

 結城は声がした方向に顔を向ける。今まで海ばかり見ていて気付かなかったが、そこには立派なコテージがあった。そして、少し高い場所に若い男性の姿を確認することができた。

 男性はパラソル付きのリクライニングチェアーに座っていたが、パラソルの影に隠れて人相はあまり分からなかった。

 事情を説明するため、結城は男性がいるコテージに謝りながら近づいていく。

「いきなり変なところから出てきてごめんなさい……。」

 近付くにつれ男性の姿が顕になってくる。……男性はブロンドの長髪で、顔には大きなサングラスをかけていた。

 また、コテージのベランダにはフリル付きの水着を着た女の子もいて、男性の隣で行儀よく立っていた。

 男性の目前にまで来ると、結城はベランダのウッドフェンス越しに謝罪の言葉を述べる。

「すみません。ほんの出来心で……あ。」

 結城は目の前にいる女の子に見覚えがあった。そして、そのリボンが似合う女の子の名前を口にする。

「……リュリュ?」

 名を呼ばれ、女の子は結城に対して軽く会釈する。

 『リュリュ』は2NDリーグの人気チームである『クライトマン』のスタッフだ。そして、つい一ヶ月前、試合直前にこちらのVFを破壊するという暴挙に出た人物でもある。見た目がほぼ子供なので、発育が悪い大人なのか、大人びた態度をとっている子供なのか、判断に困る女の子だった。

「……ということはもしかしてこっちは、リオネル?」

 確信を持ってその名前を呼ぶと、男性はサングラスを外す。その顔は、まさしくリオネルのものだった。

 『リオネル』は女性ファンが大勢いる、言わばアイドルランナーだ。その人気の大半は甘いマスクによって得たものだが、人気に恥じぬほどの実力も持っている。キザでナルシストなVFランナーで、結城が初めて公式戦で戦った相手でもある。

「……ん? アール・ブランの素人学生ランナーじゃないか。」

 リオネルはこちらの顔を凝視して言った。

 確かに自分は素人で学生でVFランナーだが、『素人学生』という呼び名に淫靡な響きを感じ、すぐさま結城は抗議する。

「おいリオネル、私は『高野結城(タカノユウキ)』だ。対戦相手の名前くらい覚えろよ。……リュリュもそう思うだろ?」

 同意を求めるも、それを無視してリュリュは冷たく言い放つ。

「呼び捨てにしないでください。」

「ごめん、リュリュさん。」

 慌てて訂正したが、リュリュは納得していないのか、首を左右に振る。

「私じゃありません。お兄様のことです。リオネル様、もしくはミスタークライトマンと……」

「リュリュ、この前はあれだけのことをしたんだ。少しの無礼は許してやれ。」

「お兄様……。」

 リュリュは甘ったれた声で返事をし、兄の言うことに素直に従った。

 そういえば、直接本人から謝罪の言葉を聞いてなかったな、などと考えていると、リオネルから質問が来る。

「それにしても何で素人学生があんな場所から?」

「お兄様、あれを。」

 結城が答える前に、リュリュがツルカを指さした。

「……何だ、そういう事か。」

 結城がここにいる理由がわかったらしい。リオネルは浜辺で頭をかかえているツルカに向けて大きな声で叫ぶ。

「おい、キルヒアイゼンのプライベートビーチはもう一つ向こう側だ!!」

(目的地はプライベートビーチだったのか……。)

 結城は謎が解けてスッキリした。そして改めて、ツルカのセレブっぷりに驚いた。

 ……リオネルの声に反応したツルカは、結城の隣まで走って来て、挨拶もなしにリオネルに話しかける。

「あれ、隣だったか? ……おかしいな、昔ここで遊んだ記憶が……。」

「貴様は覚えていないだろうが、よくここに来ては勝手に飲み食いしていたんだ。」

「なるほど、だから記憶にはこっちの場所が残っていたんだな。」

 問題が解決したところで、ツルカは隣のビーチに移動し始める。

「失礼しましたー。」

 結城もそれに続こうとしたが、リオネルに引き止められてしまう。

「待て、せっかくだ。少し話をしないか。」

「いえ、結構です。」

 試合前にまた何かされては堪らないので、結城はリオネルの誘いを断った。

「お兄様のお誘いを断るなんて……、いや、お兄様、何でこんな女を誘うのですか?」

 なぜ誘われたのか、こっちが聞きたいくらいだった。

 背を向けて隣のビーチに向かおうとすると、再び背後からリオネルの声がする。

「E4の情報、欲しくはないか?」

 それは、先程までの結城の態度を真逆にさせた。ツルカも興味があったのか、すぐに足を止める。

 結城はウッドフェンスを飛び越えてリオネルに切迫する。

「どんな情報だ? ……というか何で情報を教えてくれるんだ?」

「オレ様のチームも次はE4と当たる。貴様らのチームが勝てばクライトマンにとっても有利になる。そういうことだ。」

 戦い終えた弱いチームに手を貸すのは、どちらにとってもメリットがある。アールブランは既に2敗しているため、リオネルにとって敵ではないということなのだろう。

 リオネルは話を続ける。

「それに、敵に塩を送るのはルール違反ではない。」

 何としても勝ちたい結城にとってこの提案は喜ばしいものだった。

 しかし、喜んでばかりもいられなかった。

「……代わりに、貴様とダークガルムの関係について話してもらおうか。」

「ふぇ?」

 リオネルの口から既に忘れかけていた単語が出てきて、結城は一気に背筋が寒くなるのを感じた。

「やっぱり気付いてたか……。なぜ、そのことを?」 

 ツルカは額に手を当て、リオネルに尋ねた。

 リオネルは指をパチンと鳴らし、腕を真横に突き出す。すると、リュリュが電子ボードをその手に渡した。

「先程から出回ってる情報だ。他のチームも、特に1STリーグの奴等は既に気付いていたんだろうな。」

 ツルカはリオネルからボードを受け取り内容をまじまじと見ていた。結城もその内容が気になったが、覗くに覗けない。

 リュリュはボードの内容を口頭で説明する。

「過去のデータと照合した結果、あなたがイクセルを倒したダークガルムのランナーだという結果が出ました。この結果は飽くまで推測の域を出ませんが、不正があったのならすぐにでも糾弾するつもりです。……ダークガルムには昨シーズンずいぶんと痛い目にあわされましたから。」

 ツルカがこの情報を知っていたのは、トレーニングルームのシミュレーターで得たパーソナルデータがあったからだ。しかし、他チームの場合、パーソナルデータの出処は、先日のクライトマンとの試合である。

 そのため、結城が『ゲームを介した遠隔操作』でアルザキルを操っていたことまでは知れていないはずだ。そもそもそれが露見したのは自分がツルカに全てを告白してしまったからで、自分が何も言わなければバレることもないだろう。

 ツルカはボードをリオネルに返却し、いつにもなく真面目な表情で話す。

「これだと物的証拠がない、あるのは状況証拠だけ……パターンが偶然一致してしまっただけだ。」

「そう軽々と偶然という言葉を使うな。……さぁ、正直に答えろ。」

 リオネルに問い詰められて、結城は考える。

 これを認めてしまえば、自分が不正にアルザキルを操っていたことが発覚してしまうのではないか。そうなれば責任を負うことになるだろう。幸いなことに、遠隔操作の事実は、まだ誰にも知られていない。

(……そういうことなら!!)

 結城はそれを逆手に取ることにした。

「……その時間、私は部屋にいた。寮の記録を見ればわかるはずだ。」

「なに?」

「嘘だと思うなら問い合せてみるといい。私はその日は外出すらしていない。……だからツルカの言う通り、データパターンが似ていたのは『偶然』だ。」

 学生寮ならではの完璧なアリバイが結城にはあった。

 これで、秘密を知る者はツルカと諒一とダークガルムの人間だけだ。ダークガルムが口を割らない限り追求されることもないだろう。

 ツルカはこちらに向けて「よくやった」と言わんばかりにウィンクをした。

 リオネルは、ツルカからボードを奪い返し、しばしそれに目を落とす。

「……まぁこの情報がデマだったことを知れてよかった。……帰って詳しく調べるぞ、リュリュ。」

「はい、お兄様。」

 リオネルがこちらの言う事を信じていないのがまるわかりだった。

 その場を去ろうとするリオネルに向けてツルカが不平の声を上げる。

「おい、ボクらに塩……じゃなくて、E4の情報を教えろよ!?」

 めんどくさそうにリオネルが返事する。

「ああ五月蝿い。ここを好きに使っていいから黙ってろ。」

「なんだそれ!! いいから約束守れよ!!」

 ツルカは、リオネルのぞんざいな扱いに腹を立てているようだった。

「あの、お兄様、いい考えが……」

 そう言ってリュリュはリオネルに耳打ちをする。

 リオネルは2、3度頷き、こちらを向いて堂々と言う。

「……後で『良い物』をプレゼントしてやるからそれで我慢しろ。」

 一方的に会話を終わらせ、リオネルとリュリュは、フロート中央にあるホテルに向けて去っていった。

「追う?」

「いや、いい。」

 結城は何処から情報がもれたのかを考えていた。

 ツルカと自分が知らない以上、残る可能性は諒一とダークガルムである。

(……ダークガルムだな。)

 ダークガルム自身が情報を流したのか、それとも情報を知った何者かがそれをリークしたのか、そこまでは判断しかねた。

 そもそも、なぜ私をイクセルと戦わせたのか、謎は深まるばかりだった。

 結城は思考の渦に嵌る前に、頭を左右に振って考えをリセットする。

「……せっかくここを使っていいって言われたんだから、思う存分遊んでやるぞ!!」

 ツルカに言って、結城は砂浜に向けて歩き出す。

 その後、2人は迷子放送で呼び出されるまで、静かな海で遠泳を楽しんだ。




 ここまで読んで下さり誠にありがとうございます。

 次の話では、E4のミリアストラ操るヴァルジウスと試合をします。まともな作戦が無いままでアールブランはどうやって立ち向かうのでしょうか。

 今後とも宜しくお願いいたします。

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