4 ぼくがいなくなれば、喧嘩は終わる
※第3話の続きです。
一時保護の判断により、龍斗は児童相談所の一時保護所へ移送されています。
知らない場所だった。
目を開けたとき、最初に思ったのはそれだった。
天井は白くて、部屋は静かで、
家みたいに、物が置いてない。
「ここ、どこ?」
声に出してみても、誰もいなかった。
体を起こす。
ベッドの上だった。
ふかふかしていて、少しだけ沈む。
家の布団とは、全然違う。
「……っパパ!」
急に、大きな声が出た。
でも、誰も来ない。
静かだった。
いつもなら、音がする。
テレビの音とか、
パパの声とか、
外から聞こえるバイクの音とか。
でも、ここには何もない。
どうしたらいいのか、分からない。
そのとき、外から大きな音がした。
「龍斗くん!」
なんで名前を知ってるんだろう。
誰だろう。
さっきのことを、思い出す。
ドンドンドン、とドアを叩く音。
パパが、怒っていた。
「うるせえな!なんだよ!」
ドアが開く。
知らない大人が立っていた。
女の人が、ゆっくり話していた。
何を言っているのかは、よく分からなかったけど、
声は落ち着いていた。
でも、パパの声は大きかった。
どんどん、大きくなっていく。
なんで怒ってるんだろう。
ぼく、何か悪いことしたのかな。
ふと、大人たちの方を見る。
一人だけ、違う人がいた。
怖い顔の人。
怒っているみたいなのに、
それだけじゃない気がした。
こっちを見ていた。
なんて言えばいいのか分からないけど、
少しだけ、目をそらしたくなるような顔だった。
その人は、パパに何か言ったあと、外に出ていった。
そのあとも、女の人が話していた。
パパは怒ったまま、追い出した。
「パパ……どうしたの?」
「いや……なんでもない」
「悪かったな……大きな声出して」
首を横に振る。
それしか、できなかった。
そのまま、パパは寝てしまった。
ぼく、どうしたらいいんだろう。
パパ、なんで怒ってたんだろう。
しばらく、ルービックキューブをしていた。
すると、またドアの音がした。
さっきより、うるさい。
パパはまた怒って、玄関にいった。
知らない男の人の声と、
パパが喧嘩している声が聞こえる。
ボクは、見ないようにした。
ルービックキューブを、ずっと回していた。
でも、なんか気配を感じる。
あれ、知ってる人だ。
「お姉さんたち、また来たの?」
また喧嘩しに来たのかな。
「どうしたの?」
そのとき、パパがまた大声を出した。
さっきより、強い声だった。
周りの大人たちも、怖い顔をしている。
「ちょっと外行こうか」
さっきの人だ。
怖い顔なのに、
さっきより怖くなかった。
気づいたら、外にいた。
そのまま、車に乗せられた。
「喧嘩じゃない」
その人は、そう言っていた。
「守るためだ」
何を守るつもりなんだろう。
でも。
ぼくがいなくなれば、喧嘩は終わる。
そう思った。
だから車に乗る。
パパは、来ない。
「パパ来るの?」
返事はなかった。
「こんにちは、龍斗くん」
「ここで、少しだけ一緒に過ごそう」
第4話、子ども視点の回でした。
同じ出来事でも、大人と子どもでは見え方がまったく違います。
竹井の「守る」という言葉が、龍斗にはどう届いているのか。
そのズレも含めて描いていきたいと思っています。
次回は再び竹井視点に戻り、父親との対峙に進みます。




