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2 関係を切らないという正義

第2話です。


児童相談所の現場では、「正しいこと」よりも「関係を切られないこと」が優先される場面があります。


主人公の価値観と、現場の判断が少しずつズレ始めます。

十五分ほど経ち、高田が玄関から出てきた。


表情は浮かない。


「……で、どうなった」


睨むように聞く。


高田は一瞬だけこちらを見て、ため息をついた。


「どうなった、じゃないでしょ」


「まず、謝るのが先」


「……は?」


思わず声が漏れる。


何を言われているのか分からない。


高田は視線を外し、淡々と言う。


「あなたの言い方、完全に逆効果だった」


間を置く。


「子どもも、お父さんも、完全に警戒してる」


胸の奥がざわつく。


「……あれでいいわけねえだろ」


低く返す。


高田は小さく息を吐いた。


「いいか悪いかじゃない」


「今は“関係を切られないこと”の方が大事なの」


沈黙。


「……とりあえず」


高田が背を向ける。


「一回、所に戻りましょ」


車内では沈黙が続いた。


エンジン音だけがやけに耳につく。


(……それで守れるのか)


窓の外に目をやる。


答えは出ないまま、車は児相へと戻った。


高田は戻るなり、自席に向かった。


無言でパソコンを立ち上げる。


キーボードを叩く音だけが響く。


五分ほどして、ふいに立ち上がった。


そのまま打ち合わせスペースへ向かう。


「所内協議、お願いします」


所内に通る声だった。


所長、相談課長、係長――手の空いている職員が集まってくる。


竹井は少し遅れて、その輪に入った。


「先ほど家庭訪問をしてきました、吉田さんのケースです」


高田は淡々と話し始めた。


家の状況。

子どもの様子。

父親の言動。


感情を挟まず、事実だけを積み上げていく。


「以上のことから」


一瞬、間を置く。


「一時保護が適当と判断しましたが、いかがでしょうか」


「……一時保護?」


竹井が小さくつぶやく。


「子どもを引き離すってことか……」


その間にも、周囲から質問が飛ぶ。


「ライフラインは?」

「学校の状況は?」

「父親の収入は把握できてる?」


高田は一つひとつ答えていく。


やがて、所長が口を開いた。


「……一時保護でいこう」


空気が決まる。


「高田さん、至急係長と家庭へ戻ってください」


「米山さんは警察へ協力要請」


「川上さん、移送対応お願いします」


一気に指示が飛ぶ。


所内が動き出す。


椅子が引かれる音。

電話のコール音。

足音。


その中で――


竹井だけが、動けなかった。


取り残されたように、立ち尽くす。


(……引き離す、だと)


拳を握る。


「……違うだろ」


誰にも聞こえない声が漏れる。


(あいつは、親父が必要なはずだ)


視線を上げる。


慌ただしく動く職員たち。


「……とりあえず」


小さく吐き出す。


「俺も現場に行くしかねえな」


そして、低く続ける。


「……あの親父を、俺が変えてみせる」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


児童相談所では、「正しいこと」よりも「関係を切られないこと」を優先する判断が求められる場面があります。


主人公の考える“正しさ”と、現場の支援はまだ大きく食い違っています。


次話では、一時保護の現場に入ります。


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