表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

聖域再開発プロジェクト(強制)

皆様、ごきげんよう!

本日は、お嬢様とメイドが歴史ある大聖堂をお掃除(大破壊)する話です。

ゆるーく見ていってください。



 古都の廃墟の最奥。

 かつては人々の信仰を集めたであろう『聖母の大聖堂』が月光を浴び、そびえ立っていた。

 その入り口を塞いでいるのは、数メートルもの高さを誇る頑丈な扉。それは、本来なら特定の鍵か、あるいはパーティ全員で力を合わせなければ開かないはずの「ギミック」だ。


「……あら。この扉、立て付けが悪すぎましてよ? 引いても押しても、一ミリも動きませんわ」


 セシリアは、日傘を肩に預けたまま、眉をひそめて扉を見上げた。


「お嬢様ぁ! 当たり前ですよぉ! ここ、攻略サイトには「レベル50以上の前衛三人がかりで30秒押す」って書いてあるんですってぇ! 私には、そんなの無理ですってばぁ!」


 モカが、半泣きでツッコミを入れる。

 だが、セシリアは扇子を広げるような優雅さで、そっとドレスの裾を持ち上げた。


「時間をかけるのは、淑女の美学に反しますわ。……少しばかり、風通しを良くして差し上げましょうか」


 セシリアが、最高級のシルクで作られた靴で華麗に回る。

 ――そう、回し蹴りだ。


 ――ドォォォォォン!!


 次の瞬間、大聖堂を揺るがす爆音と共に、数トンはあるはずの扉が、まるで蹴飛ばされた空き缶のようにひしゃげて後方へと消し飛んだ。

 飛んでいった扉は、内部の礼拝堂の柱を三本ほど粉砕し、最奥の祭壇近くにまで突き刺さる。 


【警告:エリアオブジェクト『聖域の門』が破壊されました】

【警告:大聖堂の耐久値が大幅に減少しています】


 視界に流れる赤いシステムメッセージを、セシリアは優雅に手で払った。


「あら、意外と軽かったですわね。……さあ、モカさん。中が埃っぽくて嫌ですけれど、お掃除を終わらせてしまいましょう」


 瓦礫の山となった元・入り口を通り、セシリアは内部へ足を踏み入れる。

 天井まで届く巨大な円柱はへし折れ、歴史ある大理石の床にはお嬢様のヒールが刻む「資産の重み」で点々とクレーターが並んでいく。


「あ、あぁっ……! 文化財がぁ! 一撃で粗大ゴミにするなんてぇ……お嬢様、人の心はどこに置いてきたんですかぁ!」

「しかもここ、冒険者ギルドの皆さんが「歴史的建造物に登録する予定だ」って言ってたとこですよぉ!」


 モカは崩れた柱へと走る。

 ……彼女が動くたびに、全身に散りばめられた一兆ゴールド相当のダイヤモンドが、大聖堂に差し込む月光を反射しているのは知らないのだろう。

 反射した光は、キラキラどころではない。もはやギラギラと、サーチライトさながらの光線が暗い礼拝堂の隅々までを照らし出している。

 これではもう人力(不本意)ミラーボールだ。 


「あら、モカさん。それは後になさい。そんなに激しく光っていては、お掃除の邪魔ですわよ?」

「お、お嬢様のせいですよぉ! そもそも、こんなミラーボールみたいな格好で隠密行動ができるわけないんですってぇ!  私の居場所、運営の監視衛星からでも丸見えですよぉ……っ!」


 絶望に打ちひしがれるモカの叫びが、壁の消えかけた大聖堂に虚しく響き渡る。

 しかし、その光り輝く隠密()の騒がしさは、大聖堂の奥に眠る『主』を呼び起こすには十分すぎる刺激だった。


『……何奴だ。我が静寂を乱し、聖域を蹂躙する不心得者は……』


 祭壇の奥から、重苦しい声が響く。

 地面が震え、崩れた瓦礫がカタカタと音を立てる。そこには、この大聖堂を根城にするエリアボスが、巨大な影を現そうとしていた。

 ボスの放つ威圧感に、周囲の空気が凍り付く。


 本来ならここで、プレイヤーたちは身構える場面だが……。


「あら。静寂を乱した? 心外ですわ。わたくし、ただの通りすがりの清掃員ですのよ」


 セシリアは扇子をパチンと閉じ、ゴミを見るような冷ややかな視線をボスに向けた。


「…… 出ましたぁ! レベル80の超重量級ボスですぅ! お嬢様、清掃員だなんて冗談言ってる場合じゃありませんわ! あれ、物理防御力がカンストしてるって噂の……っ!」


 モカは、ダイヤモンドの反射光で自分の位置を盛大にアピールしながら、柱の影でガタガタと震える。


『不遜な。清掃だと? この私を、汚れ物とでも言うつもりか……!』

「ええ、その通りですわ。よくお分かりになりましたわね」


 セシリアは、一切の躊躇なくボスの甲冑を指差した。


「見てご覧なさい、その古めかしい鎧。所々錆び付いて、おまけに埃まで被っていますわ。……そんな『粗大ゴミ』が祭壇の真ん中に居座っているなんて、風水的にも、わたくしの精神衛生的にもよろしくありませんわ。今すぐスクラップにして、リサイクル資源に回して差し上げます」

『貴様ぁぁぁ!! 死してその無礼を償うがいい!!』


 怒り狂ったボスが、巨大な大槌を振り上げ、地響きを立てて突進してくる。

 だが、セシリアは微笑みすら崩さない。


「モカさん、準備はいいですわね?」

『不遜なる侵入者めがぁぁ!!』


 大聖堂の床を粉砕しながら、守護騎士が巨大な大槌を振り下ろす。

 まともに受ければ、レベル100の重戦士でも即死。回避不能なまでの攻撃範囲。

 だが、セシリアは一歩も動かず、空中に指を滑らせた。


「モカさん、しっかり隠れていなさい。……お掃除の風圧で、飛んでいってしまいますわよ」

「ひ、ひえぇぇぇ! 隠れるって言われても、この格好じゃどこにいても目立つんですぅぅ! もう勝手にしてくださぁぁい!!」


 モカが頭を抱えてしゃがみ込んだ瞬間、セシリアの周囲に数千枚の黄金色のウィンドウが展開された。


【警告:指定エリアでの高エネルギー決済が検知されました】

【一億ゴールド一括決済、承認されました】


「あらあら。……少しばかり、頑丈すぎるゴミですわね。ならば、わたくしの『資産の重み』、直接その身に刻んで差し上げますわ」


 セシリアが手にしたガトリング砲が黄金の光に包まれた。

 銃身が、装甲が、超高速で組み換わり、圧縮され、一本の巨大な剣へと姿を変える。

 全長およそ三メートル。黄金の刀身には、お嬢様の所持金の桁数が刻まれた、超重量大剣――重断大剣(モード・キャリバー)


【パッシブスキル起動:淑女の防壁。防御力が毎秒1%上昇(現在上昇率:10,000%)】

【パッシブスキル起動:エコロジー・オブ・レディ。攻撃力が毎秒1%上昇(現在上昇率:10,000%)】


『……はぁ? なんだ、そのふざけたスキルは……!?』


 ボスの大槌が、セシリアの頭上に迫る。

 だが、セシリアはその大槌を、大剣の腹で蚊を払うように軽く受け止めた。


 ――ガァァァァァン!!


 轟音と共に、ボスの大槌が、お嬢様の防御力に弾かれて粉砕された。


『バ、バカな……! 我が、渾身の一撃が……ッ!?』

「お掃除の邪魔ですわ。……皆様、ごきげんよう!」


 セシリアが、大剣を片手で優雅に振り上げた。

 その瞬間、大聖堂の空気が爆ぜた。一兆ゴールドという総所持金に比例した圧倒的な「質量」が、大剣という形をとってボスへと振り下ろされる。


 ――ドォォォォォォォォォォォン!!


 その瞬間、大聖堂の奥深くで核爆発でも起きたかのような閃光が走った。

 ボスの自慢の重装甲? 物理防御力? そんなものは「一兆ゴールドの重さ」の前には飴細工。

 大剣がボスの脳天を捉えた瞬間、その巨体は抵抗することすら許されず、大聖堂の床、基盤、そしてその下の地下墓地ごと更地へと押し潰された。


『バ、バカな……! 我が、無敵の装甲が……ただの、鉄板に……ッ!?』

「ゴミはゴミ箱へ、ですわよ!」


 お嬢様のダメ押しの一蹴り。

 ペチャンコになったボスは、大剣の一撃で穿たれた巨大なクレーターの底へと、そのまま光の粒子となって消滅していった。


 静寂が、大聖堂を支配した。

 ……いや、正確には「大聖堂だった場所」なのだが。


 お嬢様の一振りが引き起こした衝撃波によって、分厚い石壁は消し飛び、荘厳な天井は粉々に砕けて夜空を剥き出しにしていた。


「ふう……。少しばかり、体を動かしてしまいましたわね。おかげで、ちょうど良く喉が渇きましたわ」


 セシリアは、数瞬前までボスを地面ごと陥没させていた黄金の大剣を、羽毛のように軽々とインベントリへ放り込んだ。

 そして、まだ硝煙と石灰の粉が舞うクレーターの真ん中で、パチンと指を鳴らす。


【VIP専用・瞬間設置:最高級ガーデンセット(一千万ゴールド)を展開します】


 虚空から現れたのは、真っ白なレースが施されたティーテーブルと、猫脚の椅子。

 セシリアは、光の粒一つ付いていないドレスの裾を整えると、そこが戦場であったことなど忘れたかのように、ゆったりと腰を下ろした。


「お、お嬢様……。あの、これ、大聖堂ですよね? 冒険者ギルドが歴史的建造物に登録しようとしていたやつ、ですよね?」


 モカが、柱の残骸からおずおずと顔を出して、周囲を見渡した。

 そこには、磨き上げられた大理石の床も、祈りを捧げる祭壇もない。あるのは、お嬢様を囲むようにして綺麗に平らになった更地だけだ。


「あら、モカさん。何を仰っていますの? 見てご覧なさい、この見晴らしの良さ。月光が直接差し込んで、以前よりもずっと幻想的で、清潔だと思いませんこと?」

「いや、物理的に壁も屋根も消し飛ばしたら、そりゃ見晴らしはいいですけど! 清潔っていうか、もはや何も残ってないだけじゃないですかぁ! ギルドの皆さんに怒られますよ、これ絶対に賠償金とかヤバいですよぉ!」

「賠償? チップのことかしら。……ふふ、構いませんわよ。ギルドの方々には、この『リフォーム費用』として、後で一億ゴールドほど寄付しておきなさいな」


 セシリアは、自動で注がれた琥珀色の紅茶――『神霊樹の雫』を優雅に一口含んだ。


「……あら、少しばかり、鉄の香りが混じっていますわね。まぁ、お掃除の後のスパイスとしては悪くありませんわ」


 夜空を見上げ、満足げに微笑むお嬢様。

 その背後では、システムメッセージが、虚しく宙に浮いていた。


【警告:エリア『聖母の休息大聖堂』の地形データが80%消失しました】

「は、80%!? お嬢様ぁ! やっぱりこれやばいですってぇ!」


 モカの叫びが、夜空(屋根がない更地)に、どこまでも高く響き渡っていった。




ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。大聖堂の風通しが良くなりすぎましたね。

次回「お嬢様とメイド、一次予選を突破する」

面白いと思っていただけたら、星やレビューで応援してくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ