隠れた?なら土地ごとおさらばですわ!
皆様、ごきげんよう!
本日は、いよいよイベント予選開始ですわ。
隠密やら索敵やら、そんな面倒な手間を、お嬢様がガトリング一気に解決して行きます。
ゆるーく見ていってください。
視界が真っ白な光に包まれ、次の瞬間、鼻腔をくすぐったのは古いレンガと砂埃の匂いだった。
公式イベント『ペア・サバイバル』。その一次予選の舞台は、かつて繁栄した王都を模したという広大な『古都の廃墟』。
転送された直後のプレイヤーたちは、遮蔽物に身を隠し、息を潜めて周囲を窺う。このようなイベントにおいて、隠密と索敵を行うのが定石なのだが――
だが、その鉄則は「お金持ち(お嬢様)」という名の暴力によって粉砕されることとなる。
「あら、素敵なロケーションですわね!少し埃っぽいですけれど、お掃除し甲斐がありそうですわ!」
「ひ、ひぃぃ……お嬢様ぁ、せめて自力で歩かせてください……この服、一歩歩くたびに防御結界がパリンパリン鳴ってて怖いんですぅ!」
「何を仰いますの、モカさん。その音は『富の鼓動』ですわよ。貴女が歩くたびに、わたくしの資産が魔力に変換されて、世界を浄化しているのですわ。光栄に思いなさいな」
セシリアは、総重量一トンを超えるモカを、羽毛のように軽々と引きずっていく。
廃墟の石畳が、モカのダイヤモンド刺繍のスカートに擦れて火花を散らすが、傷つくのは石畳の方だった。
「ああっ! 歴史的建造物っぽい石畳が、私のエプロンで削れて粉々になってる!? これ、物損公害ですよぉ!」
「あら、古臭い石畳を最新のダイヤモンド研磨で磨き上げて差し上げているのですわ。感謝こそされ、文句を言われる筋合いはございませんわね」
廃墟の広場中央。
そこには、遮蔽物も使わず堂々と立つセシリアと、その横で「終わった……」と、半ば諦めの姿勢を取っているモカの姿があった。
セシリアが担ぐ黄金のガトリングは、曇天の空の下でさえ自ら光を放ち。
モカのメイド服に散りばめられた一兆ゴールド分のダイヤモンドは、周囲の瓦礫をディスコのミラーボールのように照らし出している。
――このお嬢様、隠れる気無さそうだ。
それどころか、「ここにいますわよ!」という全力の自己主張。
『おい、見ろよ……あんなに目立つ奴らがいるぞ』
『カモだ! あの輝き、相当なレア装備持ってるぜ!』
周囲の崩れた建物から、殺気立ったペアたちが次々と姿を現す。
弓矢、魔法、長剣。あらゆる凶器の矛先が、広場の中央の二人へと集中した。
「お、お嬢様ぁ! 全方位から狙われてます! 私、もう穴あきチーズになっちゃいますぅ!」
「あら、モカさん。淑女は注目されてこそ華ですわ。……それに見てごらんなさい、あちらこちらに『不燃ゴミ』が落ちていますわよ?」
セシリアは優雅に周囲を見回した。
茂みの陰、屋根の上、物陰。
武器を構えて飛び出そうとするプレイヤーたちを、彼女は慈愛に満ちた(と本人は思っている)瞳で、ゴミを見るように見つめ返した。
「お、お嬢様ぁぁ! あそこの瓦礫の影にも、木の上にも、天井にも! 殺気全開のプレイヤーがびっしりですぅぅぅ! 私達、目立ちすぎてエリア中のプレイヤーが集まってきちゃいましたってぇ!」
モカは半泣きで、自身の光り輝くダイヤモンドの袖を必死に隠そうとした。だが、彼女が動くたびに周囲の廃墟にはミラーボールのような光の乱反射が走り、かえって敵へ居場所をバラしてしまっている。
「ひ、ひぃぃ……! ハイレベルな暗殺者ペアまで……あそこ、透明化してるつもりでしょうけど、私の服の反射光が当たって、面白いぐらいシルエットが丸見えですぅ!」
「あら、それは便利ですわね。わたくしの輝きが、隠れた不浄なものまで暴き出す……まさに聖女の如き振る舞いですわ」
セシリアは優雅に、ガシャリと重厚な音を立てて、肩に担いだ黄金のガトリング砲を下ろした。
その瞬間、耐えかねた刺客たちが一斉に飛び出してきた。
屋根の上にいた二人の暗殺者が、音もなく黒い短剣を振りかざして急降下する。
『死ねッ、成金女ァ!』
『そのレア装備、一つ残らずいただいていくぜ!』
だが、セシリアは眉一つ動かさない。
扇子で口元を隠し、鈴を転がすような笑い声を上げた。
「おーっほっほ! あらあら、ゴミが自ら塵取りの中に飛び込んでくるなんて、感心なことですわ。お掃除の手間が省けて助かりますわね?」
セシリアの指が、トリガーにかけられる。
その瞬間、ガトリングの六本の銃身が、超高速で回転を始めた。
「さあ、ゴミ出しの時間ですわよ! 弾丸の雨に打たれて、清らかな心でリスポーン(再出撃)なさい!」
――ガガガガガガガガガガガガッ!!!
銃身が回転を速めるごとに、ガトリングの側面にある『残高表示パネル』の数字が、凄まじい勢いでカウントダウンされていく。
一発撃つごとに、一般的なプレイヤーの月収分が火薬となって弾け、黄金の軌跡を描いて廃墟を蹂躙する。
「ああっ、一秒で一軒家が! 三秒で豪華客船が空に溶けていくぅぅぅ!」
「おーっほっほ! 安いものですわ! わたくしのストレス解消代としては、むしろお釣りが来るくらいですわよ!」
ガトリング砲の銃口から放たれたのは、鉄の弾丸でもなければ、青白い魔力の光でもない。
それは、セシリアが湯水のように注ぎ込んだ純金を触媒として、超高圧縮された黄金の弾丸だった。
「ひ、ひゃああああっ! 弾丸の一発一発から、金貨が溶けるような音がしますぅーっ! 一発撃つたびに、私の年収が空に消えていくぅぅ!」
「あら、景気が良くてよろしいではありませんか! 一発につき一万ゴールドの特注弾ですのよ! その輝きも最高ですわ! 見てごらんなさい、モカさん。あの放物線を描く黄金の光……まるでお金の河が空を流れているようですわね!」
黄金の豪雨が、空中の暗殺者ペアを呑み込んだ。
彼らが必死に展開した【絶対回避】も【物理無効結界】も、お嬢様の「資本力」の前では紙切れ同然。
『な、なんだこの威力は……ぐわあああああッ!?』
直撃した暗殺者たちは、叫ぶ暇もなく光の粒子となって消滅した。
それだけではない。弾丸が着弾した背後の崩れ掛けの時計塔は、バターを熱したナイフで切るかのようにドロドロに融解し、さらにその先の街並みごと、地平線の彼方まで一直線に更地と化した。
「ふぅ……。少し、引き金が軽すぎましたかしら? 十秒ほどで、一億ゴールドほど消費してしまいましたわ。モカさん、わたくしの家計簿に『お掃除用洗剤代』として計上しておいてくださる?」
「一億ゴールドの洗剤ってなんですかぁ! 世界をまるごと洗濯できちゃいますよぉ……っ!」
静寂が戻った広場には、倒されたプレイヤーが落とした「数十ゴールド」の銅貨が、寂しく転がっている。
セシリアはふぅ、と銃口に溜まった金の蒸気を優雅に扇子で仰ぐと、足元のコインを蔑むように一瞥した。
「あら。わたくしの弾丸一発分(一万ゴールド)にも満たないドロップ品ですの? これでは塵取りを出す価値もありませんわね。……モカさん、あんな汚い鉄屑、拾う必要はありませんわよ。不潔ですわ」
「ひ、拾わせてくださいよぉ! この弾丸代一発で私の実家の村が買えるレベルなんですけどぉ!? あぁっ、ダイヤのフリルが、落ちてる銅貨に触れて『不浄なものに触れました(デバフ)』って警告を出してますぅ……! 私の服、プライド高すぎますよぉ!」
モカは地面に這いつくばりながら、お嬢様が「ゴミ」と切り捨てた小銭を涙ながらに集め始めた。
物陰で息を潜めていた他のペアたちは、その異常な光景を前に、戦う意志を完全に喪失していた。
『……逃げろ。あいつら、人間じゃねえ』
『あんなの、ただの更地じゃねえか!』
クモの子を散らすように逃げ去っていくプレイヤーたちの背中を、セシリアは一瞥だにしない。
彼女が視線を向けたのは、古都の最奥。天を突くほど巨大な、石像の巨人が座す大聖堂だった。
「あら、皆様。わたくしの輝きに気圧されて、掃除場所を譲ってくださるなんて……。やはり礼儀正しさは大切ですわね」
セシリアはふぅ、と満足げに息を吐くと、ガシャリと黄金のガトリングを再び肩に担ぎ直した。
その銃口からは、まだ溶けた金貨の熱気が陽炎のように揺らめいている。
「さあモカさん! あちらの大聖堂に、ひときわ大きな『粗大ゴミ』が鎮座していらっしゃいますわ。あんな埃まみれの巨像が王都にあるなんて、わたくしの美意識が許しません。……さっさと粉砕して、この街を更地にして差し上げますわよ!」
「もう……もう寝てたいですぅ……」
モカは、地面に落ちていたゴミ(一発一万ゴールドの弾薬殻)を泣きながら拾い集め、よろよろと主人の後に続いた。
一歩歩くごとに、ガトリング砲が「カシャン、カシャン」と、不敵な財力の音を響かせる。
――成金お嬢様と、不憫なつよつよメイド。
古都の廃墟を恐怖と黄金で塗り替える「お掃除隊」の進撃は、まだ始まったばかりだ。
ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。地形が変わってしまいましたが、お嬢様の弾丸代の方が高いので問題ありませんね。
次回「大聖堂の粗大ゴミ(ボス)をお掃除しに行きますわ!」
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