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最高峰のメイド、見つけましたわ!

皆様、ごきげんよう!

本日、ついにお嬢様に相応しいメイドさんが登場いたします。

彼女の可憐な(?)舞い、ぜひご覧ください。





 VRMMO『ワールド・オブ・カラピーヌ』の王都は、かつてない熱気に包まれていた。

 広場に集まったプレイヤーたちが、巨大な掲示板を見上げながら口々に騒いでいる。


『聞いたか? 次の公式イベント、タッグ制のサバイバルだってよ!』

『報酬に激レアの『空間魔法の書』があるらしいぜ。これさえあれば、重量制限なんておさらばだ!』


 そんな喧騒を、セシリアは、愛用のガトリング砲を日傘のように肩に担ぎながら、優雅に眺めていた。


「あら。何やら皆さん、お行儀が悪くていらっしゃいますわね。そんなに慌てなくても、ゴミ(敵)ならいくらでもわたくしが片付けて差し上げますのに」


 セシリアが微笑みながら通り過ぎようとすると、先ほどまで熱く語っていたプレイヤーたちが、氷を投げつけられたかのように一瞬で静まり返った。


 それどころか、『ひいっ!セシリア(天災)だ!』『目を合わせるな、金の暴力が来るぞ!』などと失礼なことを呟きながら、クモの子を散らすように道を開けていく。


「ふふ、皆様、わたくしの放つ高貴なオーラに気圧されて言葉を失っていらっしゃるようですわね。……困りましたわ、淑女として、これ以上存在感を抑える方法など存じませんのに」


 セシリア本人は周囲の恐怖を「敬意」と脳内変換していた。まぁ、それはそれとして、掲示板の内容には興味を引かれた。

 公式イベント『ペア・サバイバル』。どうやら二人一組で挑まなければならないルールのようだ。

 セシリア一人でも殲滅は可能だが、ルールとあれば仕方がない。

 しかし、適当な人物を相棒に選ぶわけにもいかなかった。


「ペア……。そうですわ、わたくしの傍に立つのですから、わたくしに相応しい給仕をしてくださるメイドが必要ですわね」


 戦場は過酷だ。

 お掃除(殲滅)の合間に、優雅に紅茶を淹れ、美味しいパンを差し出してくれる。

 そんなプロフェッショナルがいれば、日々の活動もより一層はかどるというものだ。


「決まりましたわ。まずは一億ゴールドのパンの欠片を拾うに相応しい、気品ある給仕係メイドを『お買い上げ』しに参りましょう!」


 セシリアは逃げ惑う一般プレイヤーたちには目もくれず、可憐なメイドが落ちていそうな(?)高レベルフィールドへと、軽やかな足取りで踏み出した。





 王都から少し離れた高レベル帯フィールド『静寂の廃都』。

 そこは強力なモンスターが徘徊する危険地帯だが、その一角にある崩れた岩陰に、一人の少女が潜んでいた。


「はぅ……今日も誰にも見つからず、平和に過ごせそうです……」


 彼女の名前はモカ・マリーノ。

 極度の引っ込み思案である彼女は、誰の目にも触れたくないという一心で隠密スキルを磨き続け、いつの間にか最高峰プレイヤーにまで登り詰めてしまった少女だ。

 

 彼女が発動させているパッシブスキル【鉄壁の隠密】は、自身の防御力を隠密性に変換する。装備をガチガチに固めた彼女の存在は、今やシステム上「そこには誰もいない」も同然のレベルにまで消えていた。


 モカは膝を抱え、ガクガクと震えながら、人がいなくなるのを待つ。

 だが、その静寂は、場違いな金属音と優雅な足音によって破られた。


「あら。このあたりは、少し空気が淀んでいらっしゃいますわね。お掃除のしがいがありますわ」


 ガシャリ、とガトリング砲を杖代わりに突き立て、一人の少女が廃墟に降り立つ。

 そう、セシリアだ。

 彼女は周囲を警戒する様子もなく、まるで自分の庭を散歩するかのように悠然と歩いていた。


(な、何……? あの人、隠れる気もゼロだし、あんな大きな武器を持って……。だ、ダメですよ、そんなに目立ったらモンスターに囲まれちゃう……!)


 モカは岩陰から息を殺して見守る。

 本来なら、隠密中のモカを視認できるプレイヤーなどこのサーバーには存在しない。

 だが、セシリアがふと足を止め、モカの隠れている岩の方へ顔を向けた。


「……あら? まぁ、まぁ! あんなところに、とっても素敵なメイドさんが落ちていますわ!」


 セシリアはぱぁっと顔を輝かせ、一直線にモカへと歩み寄る。


(えっ!? !? な、なぜ見つかったんですかぁぁ!? 私、スキル全開ですよ!? 防御力も隠密性も最大のはずなのに!?)


 驚愕に目を見開くモカを余所に、セシリアは至近距離まで詰め寄ると、満足げに頷いた。


「その片目を隠した慎ましやかな佇まい……まさに、わたくしの傍に控えるに相応しい逸材ですわね!」


 システム上の隠密判定など、セシリアの「メイド服への執着心」の前では無力に等しかった。

 こうして、世界最高の隠密ひきこもりは、世界最悪の天災(お嬢様)に、物理的に補足されてしまったのである。


「ひ、ひぃっ……!? ご、ごめんなさい、ごめんなさい! 見逃してくださいぃ……っ!」


 モカは半泣きになりながら、全速力でその場から離脱しようとした。トップランカーである彼女の移動速度は、本来なら他者の追随を許さない。

 しかし、逃げようとした彼女の細い肩を、白く柔らかな、けれど万力のような力がガシッと掴み取った。


「まぁ、そんなに照れなくてよろしくてよ。わたくし、逃げる方を追いかけるのも嫌いではありませんわ」


 その言葉が耳に届いた瞬間、モカの思考が不自然なほど静まった。

 震えは止まらない。けれど、視界だけが冴え渡る。

 地面のひび割れ。

 崩れた塔の影。

 巡回中のモンスターの足音の間隔。

 風向き。


(……三手で、振り切れます)


 肩を掴む指の力が、ほんのわずかに緩む刹那。

 モカの姿が、すっと揺らいだ。

 地面を蹴る音はない。砂埃も立たない。

 掴まれていたはずの身体は、煙のようにその場から消え、数メートル先の瓦礫の影へと滑り込む。

 トップランカーの名に相応しい、教科書通りの隠密機動。

 ――上位勢にも通用するだろう。……だが相手はあのお嬢様だ。


「まぁ、すごいですわね」


 楽しげな声が、すぐ真横から響く。

 ガトリング砲の銃身が、逃走ルートの先を優雅に塞いでいた。


「逃げる瞬間の呼吸の乱れ、確かに聞き届けましたわ。わたくしのガトリングが奏でる重低音に比べれば、あまりに可愛らしい合図ですこと」

「う、嘘……」


 お嬢様には見えていない、音も立てていない。

 システム上、自分は存在しないはずなのに。

 それでもこのお嬢様は、迷いなく最短距離に立っている。


「決まりましたわ。貴女、とってもいい反応をなさいますのね。わたくしのメイド(ペア)として合格ですわ!」

「……えっ、あ、あの……ペア!? 私、そんな……ひっ!?」


 セシリアはモカの言い分を一切聞くことなく、その細い手首を掴むと、まるでぬいぐるみでも運ぶかのような軽やかさで彼女を引きずり始めた。


「さあ、まずは実践へと参りましょう。相性が悪ければタッグなど組めませんもの」

「ところで、お名前は?」

「も、モカ・マリーノです! わ、私、同意してませんよぉ……!」


 こうして、一人の引っ込み思案な少女が、天災お嬢様の手によって強引に表舞台へと連れ出されていくのであった。





 お嬢様に手首を掴まれたまま連行された先は、フィールドの門番たる巨大なゴーレムが居座る難所だった。

 並のプレイヤーなら数人がかりで挑むボスを前に、セシリアは楽しげに鼻歌を歌いながらガトリング砲を水平に構える。


「あら、ちょうどいいところに大きなゴミが落ちていますわね。モカさん、まずはわたくしがお手本を見せて差し上げますわ」

「えっ、あ、あの、無理ですよぉ! あんな大きな相手、逃げるしかありませんって!」


 モカが震えながら制止しようとするが、セシリアの人差し指はすでに引き金にかかっていた。

 直後、静寂の廃都に地響きのような轟音が鳴り響く。

 毎分六千発。放たれた弾丸の嵐は、ゴーレムの重装甲を紙細工のように削り取り、周囲一帯を爆風と衝撃波の海へと変えていく。


「ひ、ひゃああああああっ!?」


 お嬢様のすぐ背後にいたモカは、立つだけで精一杯だ。


「今ですわモカ! やっておしまい!」

「無茶言わないでくださいよぉ……!」


 爆風に煽られながら、モカは反射的にしゃがみ込む。

 視界の端で、ゴーレムのコアが露出しているのが見えた。

 分厚い装甲が削れ、胸部中央に淡く脈動する光。


(む、無理です……あんなところまで近づいたら――)


 ゴーレムの腕が振り上がる。

 衝撃波が一直線に走る。

 その時、モカの足が勝手に動いた。

 地面を蹴り、瓦礫の影へ。

 恐怖で涙目のまま、身体だけが最適解を選び続ける。


(ち、違います……私、逃げてるだけで――)


 次の一歩で、ゴーレムの懐に入り込んでいた。

 モカは震える手で短剣を握る。


「ひぃぃ……ご、ごめんなさい……!」


 謝りながら、突き出す。

 コアの中心、わずかな亀裂に刃が正確に吸い込まれた。

 次の瞬間、光が内側から弾ける。

 ゴーレムの巨体が、音を立てて崩れ落ちた。


 瓦礫の上にへたり込んだモカは、まだ目をぎゅっと閉じたままだ。


「……あれ?」


 恐る恐る目を開ける。

 目の前には、完全に停止したボスの残骸。

 システムログには【討伐成功】の文字。


「わ、私……何もしてませんよね……?」

「まぁ!」


 セシリアが心底楽しそうに拍手する。


「最後の一突き、実にお見事でしたわ! わたくしのガトリングでさえ、あと三秒は余計に弾丸(ゴールド)を浪費するところでしたわ」

「え、ええええええっ!?」


 そう驚くモカに、セシリアがさらに畳み掛ける。


「早速受付に行きますわよモカ!」

「な、何がなんでも展開が早すぎませんか……?!」

「思い立ったが吉日――いいえ、淑女の直感は、運命すら待たせませんわ!」

「なんなんですかぁ、それ……」



 王都の広場にあるイベント受付所は、ペアを組む相手を探すプレイヤーたちでごった返していた。

 そこへ、すすだらけで涙目のメイドを引きずりながら、黄金のガトリング砲を担いだセシリアが颯爽と現れた。


「あら、皆様、わたくしのために道を開けてくださるなんて。お気遣い痛み入りますわ」


 彼女は優雅に会釈しながら受付カウンターへ歩み寄る。


「受付の方。この方と、わたくし――セシリア・フォン・ローゼンブルクをペアとして登録なさい」

『は、はい……っ、かしこまりましたぁ!』


 受付のNPCすら、セシリアの圧に引きつった笑顔で手続きを開始する。

 一方で、カウンターに突っ伏してプルプルと震えているモカに、周囲のプレイヤーたちがひそひそと囁き合った。


『おい、見ろよ……あのトッププレイヤーの『隠密のモカ』だろ? なんで捕まってんだ?』

『しかもボロボロじゃないか……。あのお嬢様、あのモカを無理やり見つけて捕獲したのかよ……バケモノすぎるだろ……』


 そんな外野の評価など、セシリアの耳には一文字も入らない。

 手続きが進む中、システムウィンドウが二人の前に表示された。


【ペア登録を完了しますか? ※期間中の変更はできません】

「あ、あの……お嬢様……本当に私でいいんですかぁ? 私、逃げることしかできませんよぉ……っ」


 消え入りそうな声で最後の抵抗を試みるモカに対し、セシリアは彼女の肩に優しく(物理的には重厚に)手を置いた。


「何を仰るのかしら。わたくしの背後でお掃除をサポートする。これほど名誉なことはありませんわよ? さあ、早く『はい』を押してご覧なさいな」


 セシリアの笑顔の背後に、巨大な札束(の幻影)とガトリングの銃口が見えた気がして、モカは絶望しながらも承認ボタンを押した。


【ペア登録が完了しました! チーム名:【ローゼンブルクお掃除隊】】

「お、お掃除隊……。私の平和な隠居生活がぁ……っ」

「ふふ、決まりましたわね! さあモカさん、まずはその煤けた服を着替えに参りましょう。わたくしに相応しい、最高級のメイド服を新調して差し上げますわ!」

「えっ、そ、それはちょっと嬉しいかも……あぅ、でも、絶対その後に酷い目に遭わされますよねぇぇ!」


 お嬢様の高笑いと、メイドの悲痛な叫びを乗せて、王都の空にシステムメッセージのファンファーレが鳴り響いた。





ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。

モカさん、強くて可愛いですね。

次回「お嬢様とメイド、イベントの準備をする」

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