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私、大剣で殴ることにいたしましたわ

皆様、ごきげんよう!

本日は、セシリアお嬢様の「節約術」が新たなステージへと到達します。

ガトリング砲という最高級の浪費武器を手にした彼女が、その「維持費」とどう向き合うのか……。

彼女の選んだエコな解決策をご覧下さい。





 初心者用エリアに位置する『黄昏の地下迷宮』。

そこに、場違いな靴音が響いている。


 カツン、カツンと、迷宮の静寂を乱すのは、最高級の革で作られた特注のブーツ。


「……信じられませんわ。淑女がこのような湿気た場所を歩かされるなんて。運営の方々は、わたくしのドレスが汚れる可能性を考慮なさらなかったのかしら?」


 セシリアは、レースの付いたハンカチで鼻を押さえながら、深いため息をつく。

 壁からは泥が滴り、足元には不気味な苔。社交界の華たる彼女にとって、ここはあまりに不釣り合いな場所。


 シュルリ、と。

 暗闇の中から、粘着質な音を立ててスライムが飛び出します。

 さらには、血で薄汚れた短剣を手にしたゴブリンの群れが、下卑た笑い声を上げながら四方から襲いかかる。


「あら。挨拶もなしに近づくなんて、礼儀を知らない方々ですわね」


 セシリアが優雅に、けれど迅速に、愛用のガトリング砲の銃口を向ける。


 ――ガガガガガガガガガガガガ!!


 迷宮の空気を震わせる、暴力的なまでの重低音。

 放たれた無数の弾丸は、スライムを蒸発させ、ゴブリンを消滅させていく。


「ふぅ……」


 銃口から立ち上る熱い硝煙を、セシリアは扇子で仰ぐように払いましたわ。


「……それにしても、一発二ゴールド。今の十連射で二十ゴールドですわね」


 彼女は、空になった薬莢が床に落ちる音を聞きながら、真剣な面持ちで計算を始めました。


「二十ゴールドといえば、パンが二個買えますわね。……なんて恐ろしい浪費。わたくしの資産(一億ゴールドのパン基準)からすれば微々たるものですが、弾代をパン代で換算すると、胸が痛みますわね」


 けれど、セシリアはすぐに気を取り直して、再び前を向く。


「……ですが、背に腹は代えられませんわ。淑女の安全を確保するためですもの。これくらいのお掃除費用、必要経費としてくれてやりますわ」


 そう言い残し、彼女は再び優雅な足取りで、迷宮の奥へと進んでいくのだった。




 迷宮の最深部、ひときわ大きな石扉を蹴破……いえ、優雅に押し開けた先にいたのは、この階層の主である『グレイ・オウガ』。

 三メートルを超える体躯に、素人目にも凶悪と分かる巨大な棍棒。

 初心者がパーティを組んでようやく立ち向かえるはずの強敵だ。


『グォォォォォオオオン!!』


 鼓膜を揺らす咆哮。ですが、セシリアは眉ひとつ動かさない。

 ただ、汚れ一つない手袋でガトリングのグリップを握り直し、冷ややかな視線を向ける。


「……五月蝿いですわね。淑女の耳に、そのような野蛮な声を届けないでくださる?」


 オウガが棍棒を振り上げ、地を蹴った瞬間。

 セシリアの指が、引きトリガーにかけられる。


 ――ズガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


 それは、もはや銃声ではない。

 雷鳴が連続して叩きつけられるかのような、圧倒的な音の暴力。

 毎分六千発の掃射を受けるオウガの身体は、咆哮を上げる暇さえ与えられず、ただの光の粒へと変わっていく。


「あら。案外、脆いものですのね」


 銃弾が空気を切り裂き、オウガの身体を消滅させていく。

 数十秒後、射撃を止めたセシリアの前に残っていたのは、ボスのドロップアイテムと、弾丸によって蜂の巣にされた無残な迷宮の壁。


「一、二、三……。今の数秒で、パンが五十個も買えましたわ。……なんてこと!わたくし、一食分もの贅沢をこの野蛮な生き物のために費やしてしまったのですわね!」


 消え去ったボスのことよりも、失われたパン(弾薬)の数にショックを受けるお嬢様。


「……あら? あの扉、場違いな程豪華ですわね」


 彼女の視線が、ボスの背後にあった、とある扉へと向けられた。

 豪奢な装飾が施された、頑丈そうな扉。


「あら。わたくしを歓迎するかのような、立派な扉ですわね」


 セシリアが指先で軽く触れると、扉は音もなく開き、黄金の光が溢れ出しましたわ。


「案外素直に開きますのね。良かったですわ、開かなかったら蹴っ飛ばすところでしたのよ?」


 そこは、通常の攻略ルートでは見つけることのできない隠し部屋。その中央に置かれた台座の上で、一冊の古めかしい、けれど重厚な輝きを放つ古文書が浮かんでいる。


「『武装換装・覚醒の書』……? よく分かりませんけれど、なんだか由緒正しそうなものですわ」


 お嬢様がその古文書を手に取った瞬間、まばゆい光の粒子が彼女の身体、そして愛用のガトリング砲へと吸い込まれていく。


【スキル:武装換装・重断大剣モード・キャリバーを習得しました】


■発動条件:

重機関銃ガトリング』装備時のみ。

■基本効果:

ガトリングを大剣へと変形させる。

■特記

攻撃力は『基礎攻撃力』×『所持金』に依存。

■パッシブ効果1:【淑女の防壁ドレス・プロテクト

大剣モードを展開している間、防御力が毎秒1%ずつ上昇(上限なし)。

■パッシブ効果2:【エコロジー・オブ・レディ】

弾丸を消費しない間、攻撃力が毎秒1%ずつ上昇し続ける(上限なし)。



 脳内に響く無機質なシステムメッセージ。

 しかし、セシリアはそのスキルの恐るべき破壊力やパッシブ効果には目もくれない。


「……まぁ! これ、ガトリングを剣の形にするというスキルなのですわね?」


 彼女は新しく手に入れたスキルの詳細画面を凝視し、そしてパッと顔を輝かせる。


「素晴らしいですわ! 剣として振るうのであれば、弾丸を一切消費いたしませんもの! 一発二ゴールドの浪費に心を痛める必要がなくなる……なんて画期的な機能かしら!」


 お嬢様は、ガトリングの銃身を愛おしそうに撫でながら、満足げに頷く。


「これなら弾代はゼロ。とっても地球に優しい、エコな戦い方ができますわね。やはりこれからの時代の淑女は、環境への配慮……『エコ』を意識しなくてはなりませんわ!」


 一億ゴールドのパンを食べるお嬢様が、わずか数ゴールドの弾代を浮かせるために「エコ」という言葉を誇らしげに掲げる。

 その光景は、側から見ればシュール極まりないもの、だが、本人は至って真剣そのもの。


「おーっほっほ! これで心置きなく、不作法な方々を『お掃除』できますわね!」


 隠し部屋を後にしたセシリアの前に、迷宮の真の主――エリアボスがその巨体を現す。


「今日は運がいいですわね!目の前に丁度いいサンドバックがいますわ!」


 目の前には、全身が硬質な岩石と魔力で構成された、高さ五メートルを超える巨像『ディープ・ゴーレム』。

 先ほどのオウガとは比較にならない、物理耐性の塊。


『侵入者発見。排除プロセス起動』


 ゴーレムが起動する地響きと共に放たれる威圧感。だが、セシリアは満足げに微笑む。


「あら、先ほどよりも一段と、頑固そうな方ですわね。ですが、今のわたくしにはこれがありますの」


 セシリアはふう、と小さく吐息をつくと、冷ややかな微笑を浮かべる。


「さぁ、初めてのお披露目ですわ。とくとご覧あそばせ!。――『換装キャスト』!」


 お嬢様の声に呼応し、ガトリング砲が駆動音を立てて変形を始める。

 銃身が二つに割れ、装甲がスライドし、重厚なパーツが緻密に組み合わさっていく。


 お嬢様の細い腕に握られていたのは、身の丈を優に超える、厚さ三十センチはあろうかという巨大な鉄塊の大剣でしたわ。


「……あら。重いかと思いましたけれど、羽毛のように軽いですわね?」


 パッシブの所持金依存の攻撃力が、握力にも影響しているようだ。

 セシリアは、その超重量の鉄塊を、まるで扇子でも扱うかのように優雅に一回転させる。


「おすわりを教え込んで差し上げますわ。――『淑女の断罪レディ・ジャッジメント』!」


 ゴーレムが巨大な岩の拳を振り下ろします。

 しかし、セシリアは避けることさえいたしません。


 ガギィィィィィィィン!!


 お嬢様が片手で掲げた大剣が、ゴーレムの拳を真っ向から受け止める。

 衝撃波で足元がクモの巣状に砕ける中、お嬢様は涼しい顔で、逆に拳を押し返す。


「さようなら。次はもっと、柔らかい素材に生まれ変わることですわ」


 ドォォォォォォン!!


 防御力など意味をなさない。一億ゴールド分(パン一億個分)の資産が乗った一撃は、まさに天災そのもの。

 岩石の巨像は、豆腐のように真っ二つに割れ、断末魔を上げる暇もなくただの光の粒へと還って行った。


「……ふぅ。大剣というのも悪くありませんわね」


 セシリアは、変形を解除して元のガトリングに戻った相棒を肩に担ぎ、満足げに微笑みましたわ。


「何より、一発の弾丸も使いませんでしたわ」

「……決めましたわ! わたくし、今日からエコな淑女を目指しますの!」


 宣言が、ダンジョン内に響き渡る。

 明後日のイベント(お嬢様は知らない)に向けて、また戦力を増やしたセシリアなのであった。





お読みいただき、ありがとうございました。

彼女の辞書に「やりすぎ」という言葉は載っていないようです。

次回、「お嬢様、メイドと出会う」

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