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第二の世界樹、爆誕

皆様、ごきげんよう!

本日は、お嬢様、第二の世界樹を爆誕させてしまうの回です。

ゆるーく見ていってください。



 かつて迷宮の最深部だった場所。

 そこには、絢爛豪華な温泉施設と、迷宮の主である巨大モンスターがいた。

 ――はずだった。


 だが、眼前に広がっているのは、まるで神が巨大な消しゴムで世界を拭い去ったかのような、あまりにも無機質な「更地」であった。

 視界の果てまで、何もない。山も、木々も、岩壁すらもが跡形もなく消え去っている。


 そんな荒涼とした、しかし妙に整頓された空間のど真ん中に、場違いなほど優雅なティーテーブルが置かれていた。


「……素晴らしい眺めですわね。遮るものが何一つなく、空がこれほど近くに感じられるなんて」


 セシリアは、黄金色に輝く紅茶をカップに注ぎながら、満足げに周囲を見渡した。彼女の背後には、かろうじて難を逃れたティーワゴンが佇んでいる。


「……静かですね。あまりに静かすぎて耳の奥がキィンと鳴りそうです。いえ、それ以前に――」


 モカは、腰を抜かさんばかりの震え声で立ち尽くしていた。彼女の視線の先には、本来あるべき島影が消え失せ、代わりに元・土地があった場所に穴が空き、海の水が流れ込んでいる光景がある。


「島が……島が半分なくなってますよぉぉ!? モンスターどころか、地形そのものが物理的に消滅してるじゃないですかぁぁ!!」


 モカは泣きべそをかきながら、周囲を見渡す。しかし、地面のどこを確認しても、そこにあるのはただの平らな石畳のような土だけで、凹凸一つ存在しない。


「うむ、余計なものがなくなって、実に風通しが良いのう。お嬢様、この開放感こそが、古の魔術師が追い求めた理想の地平じゃよ」


 シラヌイは、何食わぬ顔でティーテーブルの空いている席に座り、お茶を啜った。


「それにしても、あの弾丸の威力……。妾のバフも、少々ばかり効きすぎたかの? 加減を忘れて、つい全力で遊んでしもうたわ」

「いえいえ、シラヌイ様。あのような『優雅な消去』を拝見できたのですもの。おかげでこの場所も、わたくしが理想とする究極の庭園――『究極のホワイト・キャンバス』に生まれ変わりましたわ」


 二人は顔を見合わせ、まるで芸術作品でも鑑賞するかのように、その殺風景な更地にうっとりと見入っている。


「……あの、お二人とも。感覚が麻痺しすぎてますって! ここはただの更地です! 運営さんが必死に作ったリゾートは、お嬢様の『お掃除』で今やデータの海に沈んでしまったんです!」


 モカの必死のツッコミも、もはや更地に吸い込まれるように消えていく。


 あまりの広大さに、風すらも遠慮がちに吹き抜けていく。そこは、世界で最も過激で、かつ最もエレガントな「何もない空間」であった。


「せっかくですし、散策でもしましょうか」


 セシリアはそう言いながらティーテーブルを仕舞い、優雅に立ち上がる。


「ここの何処に景色を楽しむ場所があると思うんですかぁ?!」


 散策とは、景色や雰囲気、発見を楽しむ(目的意識なし・自由)歩き方のことを指す。(ByG〇〇gle)

 ……この広大な更地に、景色を楽しむなどありはしないのだ。


「まぁまぁ、その辺にしておくのじゃメイドさんや」

「……疲れたぁ」



 ◇◆◇



 静寂が支配する広大な更地を、セシリアは優雅に散策?していた。


 かつての絢爛豪華なリゾートは跡形もなく消え去り、そこにあるのはただ、無限に続くかのような平坦な大地だけ。

 しかし、そんな灰色の虚無の中に、ほんの小さな「緑」が灯っていた。


「あら?」


 セシリアが足を止める。

 視線の先、何もないはずの地面の真ん中に、ポツンと小さな芽が出ていた。それはあまりにも不自然で、そして何よりも場違いなほどに弱々しい、一本の小さな苗木だった。


「まあ、ご覧なさいな。こんな荒野に、健気に咲こうとする命がありますわ。なんて健気で、可愛らしいのかしら……」


 セシリアはスカートを翻し、慈愛に満ちた表情でその苗木に歩み寄った。


「……お嬢様、ちょっと待ってください!」


 背後から駆け寄ってきたモカが、その苗木を見て絶句した。彼女は地面に這いつくばり、苗木の根元を観察して、さらに顔を青ざめさせる。


「これ……! これ、絶対運営さんが泣きながら一本ずつ植え直してる最中ですよぉ!?これに触れたら、たぶん運営さんの心までポッキリ折れちゃいます!」


 モカは涙目で、必死にセシリアを制止しようとする。

 実際、苗木の根元には、微かではあるが【エリアデータ再構築中……あと300万時間】という、気の遠くなるようなシステムメッセージがある。


 しかし、そんな切実な訴えも、セシリアの耳には「栄養が足りてない」としか響いていないようだった。


「……これほど健気な命、放っておくわけには参りません。この子の生命力を、わたくしが引き出して差し上げますわ」

「ひぃぃ!? 嫌な予感しかしません! その『生命力を引き出す』っていうの、お嬢様の中ではだいたい爆発か強制進化なんですよぉ!?」


 シラヌイもまた、面白そうに袖で口元を隠しながら、その光景を眺めている。


「ふふ、まあ良いではないかメイドさんや。たまには植物の成長を見守るのも、いいものじゃろうて」


 シラヌイの言葉を合図にするかのように、セシリアは腰のポーチから、きらびやかに光り輝く小瓶を取り出した。

 それは、一瓶で小国が買えるほどの価値を持つ『最高級マナ・ポーション』。本来ならば、英雄の体力を全快させるための秘薬である。


「さあ、お食べなさい。パン代程度の栄養ですが、これで見事な大樹になってくださいまし」


 慈悲深い微笑みと共に、セシリアは禁断の秘薬を、その小さな苗木に向けてドボドボと注ぎ始めた。

 それが一瓶、また一瓶と注がれるたびに、苗木は不自然なまでの輝きを放ち始める。


【警告:個体識別番号001の苗木が過剰成長により巨大化・変異を開始しました。サーバー負荷が限界です】

【警告:苗木の魔力飽和率、1000%超過。ワールド内全域のメモリを強制回収します】


 宙に浮かぶ無数のシステム警告が、真っ赤な色で激しく明滅した。


「ひぃぃ!? 運営さんの必死の努力が、またお嬢様の有り余る財力で上書きされてるぅぅ! あぁぁ、ログが! マップのデータが書き換えられていきますよぉぉ!?」


 モカが絶叫し、周囲の空間がぐにゃりと歪み始める。苗木からは凄まじい勢いで枝が伸び、空を突き刺すような勢いで幹が太り、瞬く間に天を突く大樹へと変貌を遂げていく。


「……おぉ、これは見事じゃのう。第二の世界樹爆誕といったところか。実に良いことじゃ」


 シラヌイは、空を覆い尽くすほどの巨大な枝を見上げて微笑む。


「どこがですかぁ!? この世界に世界樹は一本で十分なんですよぉ!? しかもこれ、明らかにサーバーの容量を超えてます! 運営さぁん! すみません、うちのお嬢様が色々やらかしてますぅぅぅ!!!」

「あら、木が育つのは喜ばしいことですわね。モカさん、そんなに騒がずとも、この木があれば迷宮の管理もさらにエレガントになりますわよ」


 セシリアは満足げに、自分の背丈の何百倍にもなった巨大樹を見上げた。彼女の「パン代」によって誕生したこの異形の樹は、この後、このエリア一帯のすべての処理能力を食いつぶし、世界中のサーバーを停止させるほどの「大樹」へと進化を遂げるのであった。



 ◇◆◇



 天を突き抜け、雲の上まで枝を広げた異形の大樹――モカが言うには「ほぼ第二の世界樹」。

 その木陰で、セシリアたちは再び優雅なティータイムを再開していた。頭上ではサーバーの処理落ちによる黄金色の雷鳴が轟いているが、それすらも良いBGMだと彼女たちは信じて疑わない。


「さて、喉も潤ったところで、昔話でもするか」


 シラヌイは扇子で木漏れ日を遮りながら、遠い過去を見つめるような瞳で語り始めた。


「昔の運営というのは、今よりもっと酷かったんじゃ。バグを放置しすぎて、迷宮の入り口に『無限にボスが湧き続ける泉』ができたことがあっての。プレイヤーが近づくたびにボスが千年分くらい一気にポップして、エリアが物理的に崩壊したのじゃ」

「まあ、素敵なバグですわね! それはさぞ、お掃除のしがいがあったことでしょう」

「うむ。まあ、今こうして見ている更地の方が、余計なものがなくてよほど健康的じゃろうて。あそこまでデータがこんがらがると、修正する方も気が狂うからの」


 シラヌイは笑い、傍らにあった高級な金箔パンを二つに割った。セシリアはふふっと微笑み、その言葉に深く頷く。


「あら、本当に素敵な思い出話ですわ。シラヌイ様がおっしゃる通り、この更地は実に健康的ですもの。わたくしたちも、これからもっと『健康的』にお掃除していきましょうね」

「そうじゃな。お嬢様となら、退屈する暇もなさそうじゃ。妾のバフ、いくらでも使って良いぞ?」


 モカは、もうツッコミを入れることすら放棄して、ただただ空に見える運営のメッセージを眺めていた。

 その時、空が割れんばかりの轟音と共に、システム全体に強制通知が突き刺さった。


【――お願いです、もう休ませてください!! これ以上サーバーをいじらないでください! せめてその木だけでも伐採してくださいお願いします!!】


 運営の断末魔のような叫びが、何千回もの反響音として世界樹にこだまする。しかし、セシリアはティーカップの縁を指でなぞりながら、慈悲深い笑みを浮かべた。


「まあ、運営様ったら……。わたくしたちの健康を気遣って、こんなにも熱烈なエールを送ってくださるなんて」

「ふむ。実に情熱的じゃな。まあ、明日もこの調子で『お掃除』をすれば、きっと喜んでくださるじゃろうて」


 シラヌイはニヤリと笑い、立ち上がると大きく伸びをした。


「お二人ともぉ?! 伐採を手伝ってくださいぃ! この木大きすぎるんですよぉ!」


 更地となった世界にそびえ立つ、巨大な世界樹の影の下。運営とモカの絶叫を子守唄代わりに、セシリアたちのお嬢様とお姉様による、優雅で破滅的な新生活が幕を開けたのであった。


ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。

……PVが伸びる時間って、いつなんでしょうね。

次回「パジャマが防御力7000?!」

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