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最古参魔術師、参上!

皆様、ごきげんよう!

本日は、最古参魔術師、登場!の回です。

ゆるーく見ていってください。



 かつて迷宮の最深部だった場所、いまや薔薇の香りが漂う黄金の温泉湖を中心とした、超豪華リゾート「セシリア・ガーデン」へと作り変えられていた。


 そこではセシリアが、純金で縁取られたティーカップを優雅に傾けていた。傍らには、運営から献上された「地形変更の杖」が、あたかも高級な調度品のように立てかけられている。


「まあ。戦いの後のティータイムというのは、格別の趣がありますわね。モカ、おかわりをくださいまし」

「は、はい! ただいま! ……ふぅ、やっと一息つけますよぉ。もう、お嬢様があんなに派手に改造しちゃうから、心臓がいくつあっても足りません……」


 モカが震える手でポットを持ち上げようとした、その時だった。


「……この温泉饅頭というものは、なかなか乙な味をしておるの。皮のしっとり感といい、あんの程よい甘さといい、合格じゃ」


 不意に、すぐ隣の特等席から、ゆったりとした落ち着いた声が響いた。


「ひぃぃぃ!? だ、誰ですかぁぁぁ!?」


 モカが跳ね上がる。

 いつの間にそこにいたのか。隣のデッキチェアには、巫女服に身を包んだ一人の女性が、当たり前のような顔をして座っていた。手には半分に割った温泉饅頭。その所作はあまりに自然で、気配というものが一切存在しなかった。


「なっ……!? 私ですら、座るまで……いえ、声を出すまで気づけなかったなんて!? 不審者!? 不審者ですよぉぉ!!」

「不審者とは失礼な。妾はシラヌイ・カグヤ。ただの、通りすがりの隠居老人(?)じゃ。案ずるなメイドさんや。そちらのお嬢様がちょいと楽しそうなことをしておるから、気になって、ついふらふらと寄ってしもうたんじゃ」


 シラヌイは扇子をパサリと広げると、のじゃ口調でカラカラと笑った。その瞳には、このゲーム世界のすべてを知り尽くしたような、底知れない知性が宿っている。


 しかし、セシリアは驚くどころか、その謎の来訪者を見てパッと顔を輝かせた。


「シラヌイ様、とおっしゃるのですわね。素敵なお名前ですこと。モカさん、不審者だなんて失礼ですわよ。ご覧なさい、この方はとてもエレガントな空気(オーラ)を纏っていらっしゃいますわ」


 セシリアはゆったりと立ち上がると、まるでお茶会の主催者として旧友を迎えるかのような完璧なカーテシー(礼儀作法)を披露した。


「わたくしはセシリア・フォン・ローゼンブルク。折角の出会いですもの、温泉饅頭だけでは味気ありませんわ。シラヌイ様、お茶菓子にこちらの『金箔入りのパン』はいかがかしら? 一個一千万ゴールドほどいたしますけれど、わたくし、これを食べるのが日課ですの」

「ほう、一千万ゴールドのパンとな? それは、またとんでもないパンじゃ。頂こうかの」


 シラヌイはお嬢様の差し出した「パン代」という名の超高額アイテムを、躊躇いもなく受け取った。


「ええええっ!? お嬢様、初対面の人にそんな貴重なアイテム配らないでください! っていうかシラヌイさん!? シラヌイ・カグヤって『最古参の古代魔術師』ですよね……!? なんでそんな親戚のお姉さんみたいに馴染んでるんですかぁぁ!?」


 モカの悲鳴がリゾートに虚しく響き渡る。

 優雅にパンを齧るお嬢様と、それを面白そうに眺めながら頷くのじゃ系お姉様。

 とても穏やか?なティータイムだ。


 ――そんな穏やか?なティータイムは、けたたましい警告音と共に終わりを告げた。


 リゾートの遥か彼方、地平線の先から、迷宮の壁を突き破って巨大な影が躍り出たのである。

 それは運営がセシリアのさらなる増長を止めようと、悪あがきで本来の迷宮ボスの百倍のサイズに設定した『強制撤去用・特大災厄獣』であった。


「……あら、皆様。少しだけ空気が騒がしくなりましたわね。あんなところに、お掃除し損ねた塵が溜まっておりますわ」


 セシリアは優雅にカップを置き、立ち上がった。その瞳には、少しばかりの退屈を紛らわせるような、無邪気な好奇心が宿っている。


「ひぃぃ!? あれは何ですかぁぁ!? 巨大すぎますって! マップの端から端まで届きそうな……ええええっ!? 運営、またそんな無茶なモンスターを出して!」


 モカが震えながら戦技の構えを取るが、セシリアはどこ吹く風。彼女が杖を掲げ、魔法弾を生成しようとした瞬間、隣に立っていたシラヌイがふわりとその手を遮った。


「お嬢様や。その弾幕も良いが、少々芸がないぞ? せっかくの最高級リゾートじゃ、もっと華麗な散り様を見せねば、野暮というものじゃろうて」

「あら、シラヌイ様。では、何か良い案がおありなのですの?」

「うむ。お嬢様、お掃除に行く前に、妾のとっておきのバフをかけてやろうて。ちょいと昔(古代)の魔術式に、少しばかり妾のアレンジを加えたものじゃ。これを使えば、敵など一瞬で塵も残らぬぞ」


 シラヌイは妖艶に微笑み、杖で宙に複雑な紋様を描いた。その瞬間、空間が歪み、見たこともない黄金の光の粒子がセシリアの杖へと吸い込まれていく。


「まあ……! なんだか、体が軽くなって、世界がもっと輝いて見えますわ。これこそバフ……素晴らしい力ですわね!」

「そうじゃろう、そうじゃろう。妾も歳をとったとはいえ、まだまだ現役じゃからのう」


 シラヌイは自身の杖で、お嬢様の背後に光り輝く巨大な魔法陣を形成する。


 それは、お嬢様の弾幕を「加速」させ、「純度」を高め、「範囲」を広げるという至高のバフであった。

 ただし――そのバフを施すお姉様が、「たまにドジをするお姉様」であることを、この時の二人はまだ知らなかったのである。


「さあ、お掃除の時間ですわ。……皆様、弾幕というのはこう、優雅に広げるものですのよ」


 セシリアがガトリング砲を向ける。本来ならば、幾千もの光の矢が蝶のように舞い踊り、敵を鮮やかに打ち抜くはずの優雅なお掃除……であったはずだった。


 しかし、シラヌイが施した古代魔術のバフは、彼女の「ちょっとしたドジ」という名の演算ミスにより、とんでもない数値を叩き出していた。


 杖の先から射出されたのは、数千発の光の矢ではない。

 空間を塗りつぶすほどの轟音と共に、見たこともない漆黒の空間に、天体のごとき巨大な「光の塊」が次々と出現したのである。


「ええええっ!? ちょ、ちょっと待ってください! 弾丸一発一発が小惑星サイズになってますよぉぉ!? そんなの魔法じゃなくて天変地異じゃないですか!!」


 モカの絶叫も当然であった。空を覆い尽くさんばかりの質量を持った弾丸が、重力を無視して浮かび上がり、その威圧感だけで周囲の地形を歪めている。


「……ありゃ、すまぬ。ちょいと出力を少し間違えたかもしれん。本来ならもっと可愛らしい光の雨になるはずじゃったのだが……てへぺろ」


 シラヌイは袖で軽く口元を隠し、悪びれる様子もなく肩をすくめた。その瞳には、自身のドジすらも楽しむような余裕がある。


「あら、シラヌイ様。何をおっしゃいますの。見てくださいまし、この迫力。あのように大きな弾丸をあのように優雅に、それも大量に展開できるなんて……とってもエレガントですわ!」

「お嬢様ぁぁ!! エレガントの基準が崩壊してますってぇぇ!!」


 セシリアは自分の放った「惑星直列」にも匹敵する極大の弾幕をうっとりと眺め、満足げに杖を突き出した。


「さあ、皆様。お掃除を終わらせましょう。……消し飛びなさいませ!」


 彼女の号令と共に、天から巨大な岩石にも勝る光の弾丸が、一斉に降下を開始する。

 

 その瞬間、地響きが世界を揺らした。


 セシリアが放った「小惑星サイズ」の光弾が、対象である巨大モンスターに到達するより先に、周囲の地形をまるごと消し去ったからである。

 まばゆい閃光が視界を埋め尽くし、轟音の渦が過ぎ去った後には――そこには、リゾート地の面影など微塵も残っていなかった。ただ、地平線の彼方まで続く、平坦で滑らかな「何もない空間」が広がっているだけである。


「……あら? お掃除が終わりましたわね。まあ、少しばかりゴミを掃き出しすぎて、庭が広くなりすぎてしまいましたわ」


 セシリアはガトリング砲を収め、何事もなかったかのようにティーカップを手に取った。隣に立つシラヌイもまた、袖で口元を隠し、満足げにその更地を見渡している。


「いやはや、見事なものじゃ。あそこまで豪快にマップを消し飛ばすとはな。妾も長年このゲームを眺めてきたが、これほどスカッとする光景は初めてじゃ。良いお掃除じゃったぞ、お嬢様」

「うふふ、ありがとうございますわ、シラヌイ様。シラヌイ様のバフのおかげで、とってもエレガントに片付きましたの。いいものが見られましたわ」


 二人は顔を見合わせ、まるで長年連れ添った親友のように微笑み合った。



 一方、運営本部のモニターには、赤字で【サーバーエリア・データ損失率:99%】という絶望的な数字が表示されている。

【お嬢様、もうやめてくださいぃぃ!! 島が! 島が半分ほど消滅しましたよぉぉ!! これ以上サーバーを削らないでぇぇ!!】


 運営スタッフの悲痛な絶叫が島中に響き渡るが、二人の耳には届かない。



「ひぃぃぃ……っ!! モンスターどころか、島そのものが地図から消えてるじゃないですかぁぁ!! あぁぁ、私の胃が! 胃がまた悲鳴を上げてますぅぅ! とんでもないお姉様が増えてしまったぁぁ!」


 モカが砂のようになった地面で泣き崩れる横で、セシリアはシラヌイに二杯目の「金箔入りパン」を差し出していた。


「シラヌイ様、次はどのあたりをお掃除しましょうか? この世界、なんだか少し狭い気がいたしますの」

「うむ、そうじゃな。次は運営本部を少し整理してみるかの?」


 最強のお嬢様と、最高に気まぐれなお姉様。

 二人の優雅で破滅的な交流は、こうして迷宮の残骸の上で、新たな幕を開けたのであった。


ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。

一章の最後で出た人物は、シラヌイさんです。……二章の内容、まだ決めてません。どうしよう。

次回「妾を仲間にしてくれんかの?」

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