三秒で最終ボスが消えましたわ
皆様、ごきげんよう!
本日は、お嬢様、運営の最強ボスを三秒で破壊するの回です。
ゆるーく見ていってください。
決勝戦の開始から数分。
たった数分で決着がついてしまった。
そのあまりの異常事態に、迷宮の外にある運営本部では、今まさに担当者が青ざめた顔でキーボードを叩き壊さんばかりに焦っていた。
【緊急事態発生! 決勝戦の進行が早すぎるため、運営特別イベント、「超弩級迷宮守護ロボ・ジ・エンド」攻略イベントを発生させます!!】
ズゥゥゥゥンッ! と重低音を響かせ、鋼鉄の巨人がその巨体を大地に下ろした。
更地となったフィールドが激しく揺れ、ティーテーブルの上の高級なティーカップがカチャカチャと音を立てる。
全長五十メートル。全身に高出力の重火器を纏い、赤い眼光が殺意を孕んで周囲をスキャンする。数ヶ月の歳月をかけて調整された、運営が誇る「絶対に倒せないはずの」最終防衛ラインである。
「がっはっは! いい肴が出てきたじゃねえか! あのデカブツを倒して、旨い酒を酌み交わそうぜ、乾杯!」
バッカスがジョッキを空中に掲げて笑うが、その横でカインは、さっきまでよりもさらに深い絶望を瞳に宿していた。
「だめだぁ、これ……。運営も完全にヤケクソになってるだろ……。あんなの今の俺たちじゃ、まともに戦えば全滅確実だぞ。なんで決勝戦でこんな理不尽なモンが出てくるんだよ?!」
「ひぃぃ!? カインさん、そんな弱気にならないでください! でも……あのロボ、砲口がこっちを向いてますよぉ!? ちょっと待ってください、これ本当に撃たれたらひとたまりもないですよぉっ!」
モカは震える手でセシリアの手を引き、迷宮の影へと引きずり込もうとする。しかし、セシリアは一歩も動かず(動かせなかった)、パタリと扇子を閉じて不機嫌そうに空を仰いだ。
「まあ、モカ。そんなに騒がしくしないでくださいまし。わたくし、せっかく優雅にお茶を楽しんでいたのですのよ。あんな埃っぽい鉄屑が視界に入るだけで、わたくしのお茶会が台無しですわね」
セシリアの目は、最強の守護ロボを前にしても、恐怖など微塵も感じていなかった。あるのはただ、自分のティータイムを邪魔されたことへの「上品な怒り」だけである。
「置物にするにもセンスがありませんわね。あんな無粋なもの、一瞬で消し去って差し上げますわ」
そう言って、彼女は空を見上げ、ボーイング・セシリア号に向けて優雅に指先を向けた。
それと同時、鋼鉄の巨人が胸部の砲門を最大出力で輝かせた。その直後、まるで天から降り注ぐ審判のように、黄金に輝く巨大な弾丸が雲を切り裂いて落下した。
「少しばかり、わたくしの視界を塞ぎすぎですのよ。――さぁ皆様、お掃除の時間ですわ!」
セシリアが扇子を広げ、優雅に指を鳴らす。
――一秒。
空を裂いて降ってきたのは、一億ゴールドの価値を誇る特注の金塊弾丸。それがロボの頭部を正確無比に貫いた。
――二秒。
衝撃が巨体の内部を駆け巡り、鋼鉄の装甲が耐えきれずに悲鳴を上げる。防壁も迎撃プログラムも、圧倒的な物量と資金力の前には何の意味もなさなかった。ロボの全身が金色の閃光に包まれ、電子回路も装甲もすべてが光の塵となって蒸発していく。
――三秒。
轟音さえも「お上品ではない」と言わんばかりに、巨人は完全に消滅した。
そこには、先ほどまで最強のボスがいたことを示す痕跡すら残っていない。ただ、一億ゴールドが更地にめり込んだ結果として、綺麗に整形された巨大なクレーターが、真円を描いて刻まれているだけだった。
「……あら? もう終わりですの? 鉄屑にしては、少し脆すぎましたわね。お掃除するまでもありませんでしたわ」
セシリアは扇子で軽くクレーターを指し示し、何事もなかったかのようにティーカップを手に取った。
あたりを静寂が支配する。
爆発に巻き込まれたのではない。全員理解が追いついていないのだ。
そこに追い打ちをかけるように、システムログが表示される。
【ワールドボス:ジ・エンド 討伐確認】
【討伐時間:00:00:03】
【ワールドランキング更新】
1位 セシリア・フォン・ローゼンブルク
2位 該当者なし
3位 該当者なし
【討伐ダメージ:1,000,000,000】
【他プレイヤー平均ダメージ:83】
【システムエラー:討伐時間が想定範囲外です】
【再計算中……】
【再計算失敗】
【運営へ自動通報しました】
「……へ?……三秒? ……はは、運営の担当者、今頃控室で泣いてるぞ……。数ヶ月かけて調整したボスの最期が、たった三秒の『お掃除』だなんて……。いや、なんでそうなるんだよ?! 常識を一体どこへ置いてきたんだよぉ……」
カインはもうツッコミを入れる気力すら残っていなかった。白目を剥き、膝から崩れ落ちたまま、虚ろな目でクレーターを見つめている。
「……さ、三秒!? 三秒で終わったんですかぁ!? 運営さんの数ヶ月の努力が、お嬢様の「一億のパン代」で木っ端微塵になっちゃいましたよぉぉぉ!?」
モカが頭を抱えて悲鳴を上げるが、セシリアは至極優雅に、冷めた紅茶を一口だけ残してカップを置き、扇子をパサリと閉じた。
「あら、モカ。脆い置物が壊れただけですわ。それよりも、このクレーター……。丸くて綺麗ですし、ここを噴水広場に改造したら、かなりエレガントになりそうですわね」
その言葉を聞いた瞬間、バッカスが豪快に肩を揺らして笑い出した。
「がっはっは! 新記録に乾杯! いやあ、三秒で最強ボスを消し去るなんてな、最高に酒が進むぜ! さあ、新しい広場の誕生に、みんなで乾杯だ!」
「……だめだぁ、もう何も考えたくねえ。団長、俺は先に飲むぞ……」
カインが投げやりに空を見上げ、バッカスが満面の笑みでジョッキを高く掲げる。更地には、運営の断末魔と、お嬢様の「お掃除」完了を告げる風だけが吹き抜けていた。
「さて、皆様。運営様からのささやかな『無粋な置物』の排除も終わりましたし、リゾート開発の続きですわ。次はあそこの崖を……そうですね、露天風呂に改造しましょうか」
セシリアの慈悲深すぎる計画が、今日も更地となった決勝戦のフィールドで粛々と進行していく。
そこに、真っ青な顔をした運営の広報用アバターが強制的に召喚された。彼らの数ヶ月に及ぶ努力と開発費が、たった三秒で消失したことへの抗議と、現状の確認に来たのだろう。
【……こ、これはいったい……。私の、私が心血を注いだジ・エンドが……っ!】
「まあ、あらたなご挨拶ですわね。皆様、運営様がいらっしゃいましたわ。お茶をお出しする準備を……」
「ひぃぃ!? 運営さん、そんな泣きそうな顔で来ないでくださいぃぃ! こっちまで胃が痛くなりますぅ!」
モカが悲鳴を上げて隠れる傍らで、運営アバターは震える声で何かを訴えようとしていた。しかし、セシリアはそれを「少し騒がしい」と判断したらしい。
「まあ、そんなに泣かないでくださいまし。わたくし、先ほどお掃除をしたばかりで少し手元が狂いましたかしら? お詫びに、このクレーターを埋めるための金塊を投げて差し上げますわね」
セシリアが扇子で指を向けると、背後に控えていたアイザックが、金塊の山を重機で運ぶような勢いで運営アバターの上へと放り投げた。
「おいおい、そんなの埋まるわけ――あぁ……運営まで札束で殴り倒す気かよぉ……」
カインが顔を覆う。数トンの金貨と金塊の雨が、運営アバターを完全に埋め尽くした。
【このボスは本来、100人レイド想定で――】
「まあ百人?それは不経済ですわね」【っ!……こ、こんなことが……! 運営として、二度と、二度とこのお嬢様に関わらないことを誓い……ます……っ!】
運営アバターは金塊の山の中でそう絶叫し、強制的にログアウト(リタイア)していった。
「がっはっは! 金塊で埋め尽くすなんて、最高に粋な挨拶だ! なあ運営さん、また来たら乾杯しようぜ!」
バッカスが金塊の山に向かってジョッキを突きつけ、カインはついにその場で完全に白目を剥いて力尽きた。
運営が用意した最強の防衛線は、ローゼンブルク家のパン代の前で、塵に帰したのであった。
ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。
運営が可哀想ですね。最強だと思っていたボスをたった三秒で破壊されるんですから。
次回「運営、緊急会議」
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