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決勝戦、なぜか買収で決着がつく

皆様、ごきげんよう!

本日は、決勝戦を金で終わらせるお嬢様の回です。

ゆるーく見ていってください。


 爆煙が晴れ渡り、かつての岩場が嘘のような平坦な更地となったフィールド。


 その中央に設置された優雅なティーテーブルで、セシリアは紅茶の香りをゆっくりと楽しんでいた。

 セシリアはティーカップを置き、話し出す。


「皆様、フラッグをちまちまと探し回るなど、冒険者としてあまりに非効率ではありませんか? ここはわたくしが、皆様のギルドごと買い取らせていただきますわ」


 セシリアは扇子で、目の前に立つ乾杯同盟の面々を優雅に指し示す。


「ええええっ!? ギルドを買うなんて聞いたことありません! ここ迷宮のど真ん中ですよぉ!? 無理ですよぉ、そんなの常識的に考えられませんっ!」


 モカがティーセットを片付ける手元を震わせ、悲鳴を上げる。しかし、セシリアはただ慈悲深い微笑を浮かべるのみだ。


「あら、モカさん。わたくしにとってギルドの買収など、パン代を支払うのと大差ありませんわ。皆様のこれからの食費と祝杯代も、まとめてお支払いいたしますわね」


 その瞬間、バッカスが豪快に肩を揺らして笑い出した。


「がっはっは! セシリアちゃん、太っ腹だな! ギルドが買収? 面白そうじゃねえか! よし、決まりだ! 勝っても負けても乾杯! 今夜は最高級の酒で乾杯しようぜ!」

「だめだぁ、これ……。団長、あんたもう少しだけ話を聞いてくれよ!? なんでそうなるんだよ!? 相手が何を言ってるのか分かってんのか!? あぁ、お腹痛い……」


 カインは白目を剥きかけながら胃を抑え、そのまま膝から崩れ落ちた。


「ひぃぃ!? カインさん、しっかりしてください! あぁ、もう……お嬢様ぁ、また私とカインさんの胃が、限界まで縮んでしまいますよぉ!」


 更地に響く、メイドの悲鳴と副団長の断末魔。

 セシリアは満足げに紅茶を一口飲み、何もなかったかのように優雅に微笑んだ。


「まあ、皆様。そんなに喜ばれるとは光栄ですわ。さあ、契約書の内容をアイザックに書き換えさせますわね」



 ◇◆◇



 更地の隅で、成り行きを見守っていた他の冒険者たちが、その光景を呆然と眺めていた。

 彼らの視線の先には、金塊を積み上げてギルドを買収するお嬢様と、それを笑って受け入れる実力派ギルド「乾杯同盟」の姿がある。


『……おい、見たかよ。あの金塊の量……。ギルドごと買収って、正気かよ!?』

『もうダメだ。フラッグ探しなんて次元の話じゃねえぞ……。あんなのが相手じゃ、俺たちがどれだけ隠れたって無駄だ』

『帰ろうぜ……。これ以上ここにいたら、俺たちの常識も胃も全部壊されちまう。こんなの、決勝戦じゃねえ……ただの狂気のティーパーティーだ!』


 戦意を完全に喪失した冒険者たちは、装備を鳴らしてそそくさと更地の外へと歩き出した。

 彼らが次々とリタイアを宣言し、フィールドから消えていく様子を、セシリアはティーカップの縁から覗き込む。


「あら、皆様お帰りで? 少し急ぎすぎではありませんこと?」


 去りゆく冒険者たちの背中を見送り、セシリアは扇子をパサリと閉じた。


「まあ、次々とリタイアしてくださるなんて……。わたくしが手を下すまでもなく、お掃除が早くて助かりますわね。これも慈悲というものですわ」

「ひぃぃ!? お嬢様、それは慈悲じゃなくてただの威圧ですよぉ……! あぁ、せっかくの決勝戦が、どんどん過疎っていきますぅ……っ!」


 モカが震える声で訴える傍らで、カインはさらに深々と胃薬を口に流し込み、バッカスは陽気に肩を組んできた。


「がっはっは! あいつら、せっかくの宴に呼ばれてないのに帰っちまうなんて、勿体ねえな! なあ副団長、俺たちだけで乾杯しようぜ!」

「……だめだぁ、もう何も考えたくない」


 カインが投げやりに空を見上げる中、更地にはただ、優雅なティーカップの音と、乾杯の鐘の音だけが虚しく響き渡っていた。



 ◇◆◇



 アイザックによって強制的に出力された契約書に、バッカスが豪快なサインを書き込む。もはや事務手続きというよりは、暴走する車両に飛び乗るような速度で買収は完了した。


「がっはっは! これで今日から俺たちもローゼンブルク家直属の『乾杯同盟』だぜ! おまけに、これ! 岩場で適当に拾ってきたフラッグだ!」


 バッカスはそう言って、泥と埃にまみれたフラッグの束を、セシリアのティーテーブルの上に豪快に放り投げた。

 セシリアは優雅に扇子でフラッグを扇ぎ、鼻先をかすめる土の匂いを一瞬だけ眉間に皺を寄せつつ受け入れた。


「まあ、フラッグを全部……。ありがとうございますわ、バッカス様。では、これはほんのささやかな『お駄賃』として受け取ってくださいまし」


 セシリアが何気なく背後の金塊の袋を指で弾くと、中から眩いばかりの金貨と金塊の塊が、ずしりと重い音を立ててバッカスの足元へと転がり出た。


「おいおい、金塊までいいのかよ!? さすがはお嬢様、スケールが違うな!」


 バッカスが喜ぶのも束の間、横にいたカインがその金塊の山に手を伸ばし、悲鳴に近い声を上げた。


「……だめだぁ、これ。重すぎて腰が持たねえ……っ。なんでフラッグごときに、こんな重い報酬を出すんだよ!? この重さは俺たちの寿命を削ってるのと同じだぞ!?」


 カインがその場に座り込み、腰を押さえながらガタガタと震えていると、隣からそっと白い手が伸びてきた。


「カインさん……! これ、私の予備です。最高級の胃薬ですぅ。さっきのは即効性、こっちは持続性ですので……っ」

「……モカ……お前、本当にいい奴だな。俺たち、どっちが先に倒れるかの競走をしてるみたいだ……」


 モカは泣きそうな顔でカインに胃薬を差し出し、カインはそれを涙ながらに受け取る。

 更地の中心で繰り広げられる、金塊の暴力と胃薬のやり取り。それはまさに、この決勝戦において最も悲劇的かつシュールな光景。


「あら、皆様。そんなに感動して泣かなくてもよろしくてよ? 十億の買収に比べれば、今の金塊などパン代にもなりませんわ」


 セシリアは満足げに、手元のカップをティーソーサーへ戻した。カチリ、と硬質な音が更地の静寂に響く。

 彼女は扇子をパサリと閉じ、キラキラと輝く金塊の山を背に、ゆっくりと立ち上がった。


「さて、皆様。フラッグも無事に揃いましたし、これで決勝戦の目的は達成されましたわね」


 彼女が更地の果て、迷宮の奥深くを見つめて微笑む。その瞳には、慈悲深いお嬢様としての「善良な」計画が宿っていた。


「後は残りのエリアも全部お掃除して……この島ごと買い取ってしまおうかと思いますのよ。そうすれば、次回からは皆様ももっと快適にお茶会を楽しめますでしょう?」

「ええええっ!? ど、どこの島をですぅ!? ちょっと待ってください! ここ、迷宮の決勝フィールドだけじゃなくて、迷宮全体を含めた島全体の話をしてますよねぇ!? フラッグに続き、迷宮の売買まで始めないでください!」


 モカが血の気が引いた顔で叫ぶが、セシリアは「まあ、些細なことですわ」と一蹴する。


「がっはっは! 島ごと買収? そりゃあ面白い! 俺たちの拠点にするなら、それくらいの広さは欲しいところだな! よし、決まりだ。島ごと買収に、乾杯!」


 バッカスがまたしても豪快に笑いながら、空のジョッキを高く掲げた。


「……だめだぁ、これ……」


 カインはもう、ツッコミを入れる気力すら残っていなかった。

 彼は白目を剥いたまま、がくりと肩を落とし、更地の上に力なく崩れ落ちる。彼の魂は今、間違いなく別の次元へと旅立っていた。


「あら、皆様。そんなに喜ばれるとは。わたくし、善良な淑女として、この迷宮をよりエレガントなリゾート地に改造して差し上げるのが義務だと思っておりますの」


 セシリアの言葉を聞きながら、モカは深々と溜息をつき、カインの背中を無言でさすった。


 更地となったフィールドに、新たな買収計画が告げられた。

 迷宮の運命は、今日もローゼンブルク家の財力と、それを上回る天然によって揺れ動いている。


ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。

ギルドが売買されちゃいました。次回、どうなるんでしょうね。

次回「大きい巨大ロボ出てきましたぁ!?」

面白いと思っていただけたら、星やレビューやリアクションで応援してくださると嬉しいです。

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