表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

無敵ギミック、三千億で買収しましたわ

皆様、ごきげんよう!

本日は、お嬢様、無敵ギミックを金で破壊するの回です。

ゆるーく見ていってください。



 一兆八千億ゴールド。

 それは小国の国家予算を数十年分合わせたとしても届かない、天文学的な数字である。

 その対価として、迷宮の最深部を閉ざしていた黒鋼の巨扉は、今やその「所有権」をセシリアへと譲り渡していた。

 扉が開く音は、ガガガガという重厚な音ではない。

 

 ピンポーン、パンポーン♪


 軽やかな電子音と共に、禍々しい彫刻の施された扉が、まるで街角の商店のように軽快に左右へとスライドした。


「あら。ようやく入店できましたわね。……アイザック、この扉の感度、もう少し上げられなくて? わたくしが近づいたら、コンマ一秒で開くように設定しなさい」

「一兆八千億で、扉が自動ドアに改造されてるぅぅ……!」


 モカがレジカウンターにしがみつきながら、涙目で絶叫する。

 だが、その叫びは、扉の奥から放たれた圧倒的な「死」の気配にかき消された。


『――愚かな人間め。我が眠りを妨げ、迷宮の理を汚す不届き者が現れたか』


 この口調の敵には見覚えがあるが(ヒント:九話)――

 それはそれとして、広大な玉座の間に鎮座していたのは、山のような巨躯を誇る漆黒の騎士――迷宮の主『ロスト・ガーディアン』。

 彼が放つどす黒い魔圧は、周囲の岩壁をミシミシと軋ませ、並の冒険者ならその場に平伏すほどの威圧感を放っていた。


 だが――


 ブロロロロロ……ッ!!


 暗闇を切り裂いて突進してきたのは、煌々と光るLED照明を撒き散らし、黄金のキャタピラで火花を散らすコンビニ戦車『ローゼン・タンク』であった。


「いらっしゃいませー! 揚げたてのか○あげクンはいかがですかーっ!」


 店員が元気に叫ぶ。

 ……外まで響く声とは、いったいどれほどの音量なのだろうか。


 戦車はボスの目の前数メートルの位置で、急ブレーキをかけて停車した。


「……あら。モカさん、あちらの方が今回の『商品の壁』……失礼、迷宮の主(ボス個体)かしら?」


 セシリアはイートインスペースの特等席に座り、優雅に紅茶を啜りながら、窓の外の巨像を見上げた。


「お嬢様ぁ! 商品じゃありませんよぉ! ロスト・ガーディアンですよぉ! 下手したら死ぬんですよぉぉぉ!」

「ふぅ。……それにしてもアイザック。このお部屋、少しばかり内装が暗すぎませんこと? わたくしの美しさが、見えなくなってしまいますわ。今すぐ照明を一括決済で追加しなさい」


【了解。ターゲット周辺に、魔導スタジアム級の照明設備を一括転送・設置いたします】


 次の瞬間、ボスの頭上に巨大な照明機材が何百個と出現し、一斉に発光した。

 昼間よりも眩しい光に包まれ、格好をつけていたロスト・ガーディアンが『……眩しっ!?』と、思わず巨大な剣で目を覆う。


『貴様らァアアアアッ! 我が聖域で何を……ッ!?』


 ロスト・ガーディアンが怒りの咆哮を上げ、巨大な大剣を振り上げた。

 だが、その威厳も何もかもが、次に始まった資産価値の暴力によって一瞬でかき消された。


「……あら、声が大きいですわね。アイザック、静粛にさせなさい。一秒あたり一億ゴールドの『修正』を加えて差し上げますわ」


【了解。対魔物用純金ガトリング砲、展開。支援用黄金主砲、照準設定完了】


 コンビニの屋根がガシャリと音を立てて展開し、鈍く黄金色に輝く巨大なガトリング砲がせり出した。

 同時に、屋根の上の主砲もボスへと銃口を向ける。


「撃ちなさい。弾丸はすべて純金製ですわよ。迷宮の壁に埋めるには少々高価すぎますけれど、このボスの『しつけ』代と思えば安いものですわ」


 ドドドドドドドドドッ!!


 耳をつんざく轟音と共に、黄金の弾丸が凄まじい密度で放たれた。

 一発、二発……いいえ、一秒間で一億ゴールド分もの「富」が、ボスの巨体へと殺到する。

 派手な金属音が鳴り響き、ロスト・ガーディアンの周囲は金貨が弾ける火花で真っ白に染まった。

 あまりの熱量と物理的質量に、迷宮の岩壁が耐えきれず崩落を始める。


「あはは! すごいですねぇ! ボスの周りが金貨で埋め尽くされて、まるで宝箱が開いたみたいですぅ!」

「わああああッ!? ちょっと待て、お嬢様! そんな無駄遣いをしてたら、王都の経済が傾くってぇぇ!?」


 カインがイートインスペースの床を這いながら叫ぶが、セシリアは紅茶を片手に優雅に微笑むだけだ。


「あら、気にすることはありませんわ。わたくしにとっては、これが一番効率の良い『投資』ですのよ」


 しかし、凄まじい飽和攻撃が止み、土煙が晴れた時。

 アビス・ガーディアンは、びくともしない様子でそこに立っていた。

 その身体を包むのは、攻撃を一切無効化する、迷宮特有の禍々しい「無敵ギミック」のバリアである。


『……ハハハッ。小賢しい。この聖域内において、我が身を傷つけられる存在などおらん!』


 どうやらこのボス、ただ札束で殴るだけでは足りないようだ。


「……攻撃が通りませんわね。ひどく不愉快ですわ。このお掃除、少々めんどくさいですわ!」

「お嬢様ぁ! 効いてないですよぉ! これ、迷宮の四隅にある祭壇を、特定の魔力順で起動させないと、一生ダメージが入らない無敵モードなんですよぉぉ! 攻略本にもそう書いてあるんですぅ!」


 モカはレジ台から転げ落ちそうな勢いで絶叫した。

 この迷宮のボスは、一筋縄ではいかない。地道なギミック解除こそが、このボスを突破する唯一の方法なのだ。


 しかし、セシリアは紅茶を置くと、ふう、と小さく溜息をついた。


「ギミック? 解く? ……アイザック、そんな面倒な手順、わたくしの美学に反しますわ。この『無敵状態』という設定、一括決済でショートカットしなさい」

【――了解。迷宮管理権限の即時買収を試行いたします。三千億ゴールド、決済しました】


「ええっ!? 今度は何に金を払ったんですかぁぁぁ!?」


 端末の画面が青白く発光し、迷宮の奥深くに眠る運営側のサーバへとアクセスする。

 かつて迷宮を設計した古代の魔導師たちが、何百年もの時をかけて構築した「無敵のバリア」が、たった数秒の電子決済で根底から書き換えられていく。


『な……っ!? 我が……我がバリアが……!?』


 アビス・ガーディアンの身体を包んでいた漆黒のオーラが剥がれ落ちていく。


「えぇ、めんどうな物が消えましたわ」


 セシリアは扇子を閉じ、退屈そうにボスを見下ろした。


「攻略法を考える時間は、わたくしの人生には一秒もございませんの。……アイザック、このボスの『無敵フラグ』と『防御力設定』、ついでに『敗北演出』までセットで購入しなさい」


【了解。全権利は、お嬢様のものとなりました】


「そんな、そんなことができるなんて……迷宮そのものを自分のものにしちゃったんですかぁぁぁ!」


 コンビニのイートインスペースは、もはや地獄絵図と化していた。


「……あ、あぁ……俺の知っている迷宮攻略が……音を立てて崩れていく……。攻略って……調べて、解いて、頑張って倒すものじゃないんですか……?」


 カインがコーヒーを片手に、遠い目をして泡を吹いている。

 モカもまた、レジカウンターに突っ伏し、虚空を見つめながら力なく呟いた。


「もうダメです……。この迷宮、お金を払えば『攻略済み』になるなんて……。冒険者の夢とか、努力とか、全部一兆ゴールドでお釣りが出るですよぉ……」


 そんな二人の「胃痛の共鳴」を、まるで極上の音楽のように楽しんでいる男がいた。


「がっはっはっは!! 見ろよこの顔!胃痛共の顔、最高のツマミだぜ! おい、そっちの店員! おかわりだ!」


 バッカスは、不発に終わったボスの必殺技(空振り)をBGMに、豪快にビールを煽る。

 無敵という最大の武器を「決済」で奪われ、システム権限を剥奪されたアビス・ガーディアンは、かつての威厳をどこへやら、ガクガクと震えながら膝を突いた。


『貴様……貴様らァ……! 我が存在意義は……! 我が守りし聖域は……ッ!!』

「存在意義? あら、今のあなたにそんな高尚なものはありませんわ。あるのは『わたくしの道に立ち塞がる邪魔者』という評価だけですの」


 セシリアは立ち上がり、端末を操作した。

 今やボスの防御設定は『0』。運営権限により、ボスの首には巨大な『弱点』マークすら表示されている。


「アイザック。この『迷宮の主』という役割、次の方に譲って差し上げなさい。……最大出力でお掃除ですわ!」


 主砲がチャージされる。黄金の光が、今まさに迷宮の主を消滅させようとした――その時、ボスの全身が不気味な紫色の光に包まれた。


『ぬぅぅぅぅぅぅぅ……ッ! 許さん……ッ! この聖域の理を、金銭如きで蹂躙した報いを受けてもらおうッ!!』


 ロスト・ガーディアンの身体が変形していく。

 防御設定が『0』だったはずの数値が、瞬時にエラーを吐き出し、数値そのものが『ERROR』へと書き換わっていく。


「あら? システムにない挙動ですわね」

『我は迷宮そのものッ! 貴様が買収したのはあくまで『管理権限』、我が内に眠る形態は変えていないだろうて!』


 ボスの巨体がさらに膨張し、背中から無数の黒い翼が噴き出す。

 先ほどまでの「管理されたボス」から、システムの枠組みを超越した「純粋な災害」へと変貌を遂げていく姿に、モカはついに泡を吹いて気絶した。


「あ、あぁ……進化しちゃった……。攻略法を無効化したのに、フラグを強引に無視して覚醒するなんて……そんなの聞いてないですよぉぉ……」

「がっはっは! 面白い! これぞボスの意地ってやつだな! 嬢ちゃん、次の酒の肴はこいつの『第二形態』で決まりだ!」


 バッカスが狂喜乱舞し、カインが椅子の上で白目を剥いて固まる中、セシリアは紅茶をカップに注ぎ足した。

 その瞳に宿るのは、恐怖ではなく、かつてないほど冷徹な「好奇心」だった。


「……なるほど。管理権限外の、予測不可能なエラーですのね。……よろしい、その『第二形態』とやら。わたくしのポートフォリオに、最高級のスパイスとして加えて差し上げますわ!」


 黄金のロー○ン戦車は、覚醒したボスを見上げて不敵に笑う。

 一兆八千億ゴールドの買収劇は、まだ序章に過ぎなかった。

 迷宮最深部にて、かつてないほど派手な「お掃除」が、今まさに始まろうとしていたのである。


ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。

ボスが第二形態になっちゃいましたね。

ですが、これもひとつのエンタメということで。

次回「第二形態?金で何とかなりますわ!」

面白いと思っていただけたら、星やレビューで応援してくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ