時速百キロのコンビニ
皆様、ごきげんよう!
本日は、移動が面倒だから、コンビニごと移動するお嬢様とメイド&乾杯同盟の回です。
実は、ロー○ンの○の中身はゼでもソでも行けるんですよ。
ゆるーく見ていってください。
迷宮のど真ん中に鎮座する、ロー○ン迷宮一号店(元は王都のロー○ン)。
その店内のイートインスペースで、セシリアは最高級の紅茶を飲み干し、優雅に立ち上がった。
「ふぅ。リフレッシュできましたわ。……さて、そろそろゴールへ向かいましょうか」
自動ドアから外を覗けば、そこには自分が爆破して作った、果てしなく続く黄金の直線道路。
セシリアは一歩足を踏み出そうとして――その足をぴたりと止めた。
「……歩くの、面倒ですわね」
「えええええっ!? お嬢様、数メートル前まで『わたくしの歩く場所が王道』とか仰ってたじゃないですかぁぁ!」
モカの絶叫が店内に響く。だが、セシリアは冷ややかな目で自分のドレスの裾を見つめた。
「歩けばドレスが揺れますわ。ドレスが揺れれば、わたくしの優雅さが一ミリほど損なわれるかもしれませんの。……アイザック。このロー○ンを、移動式に改造しなさい」
白金端末の『一括決済』ボタンが、ちょっと強めに押される。
【――了解。店舗ユニットに重装甲換装キット、「コンビニ」を適用。一兆二千億ゴールドを決済しました】
「い、一兆……! コンビニに、国家予算並みの改造費をかけたんですけどこのお嬢様ぁぁぁ!?」
次の瞬間、コンビニ全体が大きく振動する。
ギギギ、という重厚な駆動音と共に、店舗の土台から四基の巨大な黄金キャタピラがせり出す。さらに屋根の上には、二十四時間営業の看板の横に、眩い黄金の主砲が取り付けられる。
ちなみに、あの「酒、タバコ」看板の代わりに、「新発売! 一括決済!」が書いてあるでかい看板もある。
「な、なんだありゃあ!? コンビニに大砲が付いたぞ! 嬢ちゃん、最高にロックじゃねぇか! 面白すぎる、乾杯だ!」
店内でビールをカゴに買い込んでいたバッカスが、窓の外で変形していく店舗を見て腹を抱えて笑い転げる。
一方で、その隣にいたカインは、もはや真っ白な灰のようになって壁に手をついていた。
「……あぁ……胃が痛い……。俺は、ただ迷宮を攻略しに来ただけなんだ……。なんでコンビニが戦車になってるんだよ……だめだぁ、これ……」
カインの呟きを無視して、セシリアは再びソファに深く腰掛けた。
「さあ、発進なさい。次の目的地はゴールですわ。……店員さん、移動中は揺れますから、陳列棚からおにぎりが落ちないよう、一括決済で磁力固定しておいてくださる?」
『あ、はいっ! お嬢様、ありがとうございます!』
高額手当に毒された店員(ヒント:この子は金欠)が元気に返事をする。
かくして、LED照明を煌々と輝かせた『ロー○ン・タンク』は、爆音と共に迷宮の更地を爆走し始める。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
迷宮の静寂を切り裂くのは、数千頭の魔物の咆哮――ではなく、巨大な黄金キャタピラが岩盤を削る重低音だった。
「あら、意外と静かですわね。アイザック、サスペンションに一億ゴールドほど追加投資した甲斐がありましたわ」
セシリアは、激しく揺れるはずの車内(店内)で、微塵も紅茶をこぼすことなく優雅に寛いでいた。
窓の外では、先ほど爆破して作った『薔薇道』の景色が、凄まじい速度で後ろへと流れていく。時速に換算すれば、優に百キロは超えているだろう。
「お嬢様ぁぁ! 窓の外の景色が速すぎて、迷宮の魔物たちが豆粒みたいに見えてますよぉ! これもうコンビニじゃなくて、もう兵器ですよぉぉぉ!」
モカは飛んでいかないよう、しっかりと固定されたレジカウンターにしがみついて絶叫していた。
自動ドアの向こう側では、爆走するコンビニに驚いた迷宮の固有種たちが、撥ね飛ばされまいと必死に壁際へ張り付いている。
そんな阿鼻叫喚の車内で、唯一、悟りを開いたような表情で椅子に座る男がいた。
「……はぁ。この『ローゼン・ブレンドロー○ン限定版』、めちゃくちゃ美味しいですね……。豆の挽き具合が絶妙だ……」
カインである。彼はもはや考えることを放棄し、イートインスペースで提供された一杯120万ゴールドのコーヒーを、虚ろな目で啜っていた。
「うん、外を見たら負け。うん。そう、俺は今、王都のテラス席にいるんだ。迷宮を爆走する戦車の中にいるんじゃない。そう思えば、胃の痛みも和らぐ……!」
「カインさん! 現実に戻ってきてくださいですよぉ! あなたのリーダーは、屋根の上で『もっと飛ばせぇ!』ってビール瓶振ってるんですよぉぉぉ!」
モカの指摘通り、バッカスは砲塔の横に陣取り、風圧で髪を逆立てながら「がっはっは!」と笑い声を上げている。
「おーっほっほ! カインさん、良い心がけですわ。贅沢とは、周囲の喧騒を忘れて己の時間を楽しむこと。この『ロー○ン・タンク』は、まさに究極のプライベート空間ですもの」
そうやって大爆走するコンビニ戦車の前方に、迷宮の主を気取る凶悪な魔物の一団が現れた。
全身を硬質の鱗で覆った大トカゲや、三つの首を持つ魔犬たちが、突如現れた「光る箱」に対して一斉に牙を剥く。
「あら、営業妨害ですわね。モカさん、あのような不潔なものを見ていると、せっかくの紅茶が苦くなりますわ」
「お、お嬢様! あいつら、この迷宮でも最強クラスの魔物たちですよぉ! いくら戦車でも、正面衝突はまずいですぅぅ!」
モカがレジ横の棚に爪を立てて叫ぶ。だが、セシリアは悠然と白金端末を操作した。
「――アイザック! お掃除なさい。わたくし達の視界から、塵一つ残さず」
【――了解。主砲に高純度金貨弾を装填。資産価値(威力)を最大に設定して、一括決済を開始します】
ズドォォォォォン!!
放たれたのは、砲弾ですらない。圧縮された数兆ゴールド分の金貨そのものが、超高熱のプラズマとなって射出された「富」の奔流だ。
『ぎ、ぎぎぎ……ッ!?』
魔物たちは、自分たちが何に撃たれたのかを理解する暇もなかった。
牙を剥こうとした瞬間に、圧倒的な質量の「金」が、彼らの存在を概念ごと真っ白な光へと書き換えていく。
「がっはっはっは!! 魔物が金貨の海に沈んでいくぞ! これだ、これこそが真の『景気払い』ってやつだな!!」
屋根の上でビールを掲げるバッカスが、爆風に煽られながら愉快そうに咆哮した。
「……あ、あはは。……すごいなぁ、魔物って金貨で撃たれると、光の粒にすらなれずに『消滅』するんだ。……あぁ、コーヒーが染みる。……だめだぁ、これ。もう一生迷宮なんて来たくない……」
イートインスペースのカインは、窓の外で起きた「殲滅という名の公共事業」を虚ろな目で見送り、震える手でコーヒーを口に運んだ。彼の精神は、すでに迷宮の深淵よりも深い絶望へと沈み込んでいた。
爆光が収まった後。
そこには魔物の死骸も、迷宮の凹凸も、血の一滴すら残っていなかった。
ただ、黄金の熱によって平坦に焼き固められた、美しく輝く直線の道だけが、遥か彼方まで伸びていたのである。
「お、お……おぉ……。魔物がいなくなったどころか、新しい道路ができてますよぉ……」
「これが『薔薇道二号』ですわ。公共事業とは、こうしてスマートに行うものですのよ?」
「公共事業じゃないですよぉ! それ、ただの轢き逃げと不法投棄の合わせ技ですよぉぉぉ!!」
モカの絶叫と店内BGMをバックに、コンビニ戦車は再び「いらっしゃいませ!」という呑気な自動ドアの音を響かせながら、完成したばかりの二号線を猛スピードで爆進し始めた。
◇◆◇
迷宮の深部。そこでは、生き残った実力派の冒険者たちが、冷や汗を流しながら慎重に歩を進めていた。
『おい、この先の床には高度な感知罠がある。慎重に解除するんだ。一歩間違えれば全員……』
リーダー格の男が、ピンセットのような道具で床の石板を調べようとした、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!
背後から、迷宮の構造そのものを揺るがすような地響きと、やけに陽気な電子音が迫ってきた。
『なんだ!? 魔物の大暴走か!?』
『いや、見ろ! 光ってる……光る箱が、凄まじい速度でこっちに来るぞ!!』
冒険者たちが慌てて壁際に飛び退いた瞬間。
彼らの目の前を、眩いLED照明を撒き散らし、「新発売! 一括決済!」の看板を立てたロー○ンが、爆風を巻き起こして通り過ぎていった。
『……夢か? 今、ロー○ンが時速百キロで魔物を轢き殺していかなかったか?』
『……ああ。屋根の上でビール飲んでる男と目が合った気がする……』
呆然と立ち尽くす彼らの視線の先で、コンビニ戦車――『ロー○ン・タンク』は、急激なブレーキをかけて停車した。
キィィィィィィィィッ!!
その巨大な車体の前に立ちはだかっていたのは、迷宮の行き止まり……ではない。
あまりにも巨大で、禍々しい魔力を放つ、黒鋼の扉だった。
周囲にはおどろおどろしい彫刻が施され、一目で「この先には最悪の何かがいる」と分からせる絶望の象徴。
特徴的な音を鳴らし、自動ドアが開く。
「あら、ようやく止まりましたわね。モカさん、着きましたわよ」
ロー○ンから、セシリアが何食わぬ顔で外へ降り立った。
「お嬢様ぁ……もう胃液が空っぽですよぉ……。あ、見てください! あんなに不気味な扉があるですよぉ! きっと、中には伝説の魔王とかがいるに決まってますぅ!」
ガタガタと震えながら扉を指差すモカ。
だが、セシリアはその扉に刻まれた歴史や魔力には一切目もくれず、白金端末を取り出した。
「あら、行き止まりかしら? 鍵を探したり、わざわざ戦ったりするのは優雅ではありませんわね。……アイザック。この扉、いくらで買い取れますの?」
【――了解。歴史的価値、および封印の魔力強度を換算……。一兆八千億ゴールドの提示で、迷宮運営側の譲渡権を上書き可能です】
「おーっほっほ! リーズナブルな価格ですわね! さあ、一括決済で買い取りなさい!」
「扉を買い取ってどうするんですかぁぁぁ!!」
モカの絶叫が迷宮に響き渡る中、一兆八千億ゴールドの「決済完了」の音が、扉の封印が解ける音よりも大きく鳴り響いた。
ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。
時速百キロのコンビニ(ロー○ン)って、パワーワードですよね。
ところで、皆さん一度はコンビニが移動しないかなとか考えたことあると思うんです。
それをやって見たかったんですよ。
次回「ボスはロー○ン戦車で破壊ですわ!」
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