一括決済で海戦を終了させましたわ!
皆様、ごきげんよう!
本日は、海賊船ごと海賊達をお掃除するセシリア様と、その横で電卓を叩きまくるモカの回です。
ゆるーく見ていってください。
セシリアが優雅に、しかし一切の躊躇なく、ダイヤモンドを散りばめた黄金の引き金を引く。
――カチャリン、カチャリン、カチャリン!
鳴り響いたのは、およそ兵器とは思えないほど澄んだ、硬貨が重なり合うような高貴な音色。
だが、黄金の銃身から吐き出されたのは無機質な鉛の塊ではなかった。
高純度の魔力水晶を芯材にし、表面を最高級のダイヤモンドでコーティングした特注魔導弾――その名も『一括決済・バレット』だ。
『ひゃっはー……へっ?』
海賊の放った錆びついた大砲の弾が、セシリアの放った黄金の光と空中で激突する。
次の瞬間、鉄の塊であったはずの大砲の弾は、まるで薄い紙細工のように跡形もなく粉砕され、キラキラと輝く塵へと変わる。
ダイヤモンドの硬度と、一発一万ゴールドという金額の重みを乗せた弾丸は、物理法則すらも札束でねじ伏せていた。
光の尾を引く弾丸が、海賊船のボロボロの大砲を掠める。
ただそれだけで、強固なはずの鉄鋼が飴細工のようにひしゃげ、爆音とともに弾け飛んだ。
『な、なんだぁ!? あいつら、何を撃ってやがる!?』
『大砲が……俺たちの自慢の『壊し屋の大砲』が、一撃で消えやがった!』
海賊たちの驚愕を他所に、黄金のガトリングはなおも加速していく。
一秒間に数十発。
つまり、一秒ごとに数十万ゴールドという、平民が一生かかっても拝めないような大金が、ただの「清掃費用」として海にバラ撒かれていた。
「あら、意外と手応えがございませんわね。やはり安物の大砲では、わたくしのダイヤモンドに触れることすらおこがましいということかしら?」
セシリアは、降り注ぐ黄金の薬莢(それ自体が純金製である)を浴びながら、慈悲深い微笑みを絶やさなかった。
「あぁぁぁぁ! お嬢様、ストップ、ストップですぅ! 電卓の桁が足りないぃ!」
降り注ぐ黄金の薬莢の山に埋もれながら、モカが涙目で叫んだ。
彼女が握りしめているのは、一台100万ゴールドもする超高速演算魔導電卓だが、その液晶にはすでに『E』の文字が点滅している。
「いま一秒で、私の給料300年分が消えましたぁぁ! 空に放たれたダイヤモンドの総額で、隣の国が半分買えるレベルですぅ! お願いですから、せめて百枚に一回くらいは石ころ混ぜて撃ってくださいぃ!」
「あら、石ころ? モカさん、そんな不浄なものをわたくしのガトリングに込めたら、銃身が穢れてしまいますわ」
「銃身の汚れより、私のお財布の防衛ラインが崩壊してるんですぅ! 一発撃つたびに、美味しいショートケーキが数万個単位で消えてるんですよぉ!」
モカの必死の訴えをよそに、セシリアはさらに深く引き金を引き絞る。
【警告:清掃効率が目標値を上回っています。弾丸の消費速度を調整しますか?】
船内のスピーカーから、アイザックの無機質な声が響く。
「必要ありませんわ。ゴミを一掃するのに、予算をケチるなんてローゼンブルクの美学に反しますもの。アイザック、最大火力でリフォームを継続しなさい」
【了解しました。全砲門、一括決済モードへ移行します】
「アイザック君までお嬢様に毒されてるぅ! もうこれ、海戦じゃなくてただの金のバラ撒き大会ですぅ!」
モカの絶叫が響く中、黄金の弾幕はさらに密度を増していく。
海面上では、海賊たちが自分たちの運命(と、飛んでくる弾丸の価値)にようやく気づき始めていた。
黄金の弾幕が、海賊船の甲板を激しく叩く。
木っ端が舞い、帆が裂ける中、海賊の首領――『血まみれのビル』と呼ばれた男は、足元に転がってきた弾丸に目を剥いた。
『……あ、あぁ? なんだこりゃあ! おい、これを見ろ!』
ビルが震える手で拾い上げたのは、鈍く輝く鉛の弾ではない。
それは、太陽の光を浴びて七色に輝く、親指ほどの大きさがあるカット済みのダイヤモンドだった。
『ほ、宝石だ! これ、全部本物の宝石じゃねぇか! ひゃっはー! 野郎ども、拾え! この船に突き刺さってるのは全部宝の山だぞ!』
海賊たちは狂喜乱舞し、降り注ぐ死の雨の中を、我先にと這いずり回り始めた。
だが、その喜びは一分ともたなかった。
――ズガガガガガッ!
『ぐわぁっ!?』
『な、なんだこれは!?』
彼らが気づいた時には、すでに遅かった。
一つひとつが小国の家宝になり得るほどの硬度を持つダイヤモンドが、秒間数十発の速度で飛来しているのだ。
それはもはや宝の山などではなく、あらゆる防御を無に帰す、世界で最も贅沢な「超硬度切断機」であった。
厚さ三十センチの船壁が、まるで熱したナイフを通したバターのように、宝石の群れによって細切れにされていく。
ビルは、自分の自慢の海賊船が塵へと変わっていく光景に、顔を引きつらせた。
『な、なんだ……この女、金を……金を撃ってやがるのか!?』
自分の背後で、かつてないほど巨大な爆発が起きた。
一発一万ゴールドの弾丸が、船の動力源を正確に、かつ無造作に撃ち抜いたのだ。
『ふざけるな! 弾丸の一発一発の方が、俺たちの命より、この船より高ぇじゃねぇか!』
セシリアは、絶望に染まる海賊たちの姿を、どこまでも澄んだ瞳で見下ろしていた。
「あら、ようやくご自身の『市場価値』をご理解いただけましたのね。わたくし、安物のゴミと取引する趣味はございませんのよ?」
「お嬢様、もう海賊さんたちが戦意喪失して泣いてるぅ! これ以上撃ったら、海の生態系がインフレで壊滅しちゃいますよぉ!」
モカが壊れた電卓を振り回しながら叫ぶが、セシリアの指が引き金から離れることはなかった。
◇◆◇
黄金のガトリングから放たれた最後の連射が、海賊船の残骸を「美しく」粉砕した。
海面に浮いていた汚らしい木材も、継ぎ接ぎだらけの黒旗も、一発一万ゴールドの弾丸によって原子レベルまでリフォームされ、海底へと沈んでいく。
「ふぅ……。少しは空気が綺麗になりましたわね。モカさん、お紅茶の代わりをいただけますかしら?」
「お嬢様、紅茶どころじゃないですぅ! 見てください、海面がダイヤモンドの反射で眩しすぎて、直視できないんですよぉ! これもう、海じゃなくて『流動する宝石箱』ですぅ!」
モカが指差す先では、沈んでいった弾丸と薬莢と海賊が消えた光の粒が海底で層を成し、海全体が内側から発光しているかのような神々しさを放っていた。
もはやここは海ではない。世界で最も高価な「ローゼンブルク私有水槽」へと変貌を遂げたのだ。
【報告:周囲の不浄な反応、すべて消失。これより準決勝会場への最終アプローチに入ります】
「ええ、お願いしますわ、アイザック。……ああ、それから。船体にほんの少し、あの方たちの卑しい悲鳴の残響が付着している気がしますの。すぐに純水と聖水で全自動洗浄なさい」
【了解しました。外装の純水洗浄プロトコル、および全方位香水散布を開始します】
「アイザック君まで贅沢の権化になってるぅ! 聖水で船を洗うなんて、大聖堂の神官様たちが腰を抜かして泡吹いて倒れるレベルの罰当たりですぅ!」
モカの絶叫をBGMに、ロイヤル・ローゼンブルク号は優雅に加速する。
他の参加者たちが、海賊との死闘でボロボロになり、血と汗にまみれて島を目指す中――
セシリアは、潮風すらも高級な香水の香りに変えて、一筋の黄金の航跡を描きながら悠然と準決勝の地へと乗り込むのであった。
「……次の試験はどのようなものなのでしょうね。まぁ、わたくしに相応しい黄金の壁でできたお部屋があるとよろしいのだけれど」
お嬢様の不敵な微笑みとともに、二次予選は「圧倒的な一括決済」によって幕を閉じた。
ここまでお読みいただき、ありがとうごさいます。無事、海賊たちの清掃が完了しました。
弾丸一発で家が建つ……そんな贅沢な暴力はありなのでしょうか?
次回「二次予選突破、準決勝は迷宮攻略?!」
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