なんとかなるよね
名前もない山奥の森の中で、少女がたったひとりで小さな小屋に住んでいる。
短い茶髪に、深い青緑色の優しい瞳。
少女の名前はアリシア。
幼い頃からここでずっと暮らしていた。
朝霧が立ち込める早朝、アリシアはくたびれたベッドに新品の服や小道具を並べていた。
服や道具は定期的にここへ来る商人から物々交換で手に入れたものだ。
理由は知らないが、死んだ両親の代からの付き合いで、今も商売をしに来てくれているらしい。
「何がどれだけあればいいのかわからないけど……。なんとかなるよね!」
アリシアが独り言を呟くと、それに答えるように肩に深い青色の小さなスライムが飛び乗る。
「どうしたの、ラピス。家を出るの、不安になった?」
ラピスに聞くと、なんとなく感情が伝わる。
ラピスはアリシアと同じく、ワクワクしているようだ。
「──そう。ラピスも楽しみなんだね」
アリシアはラピスと頬を擦り合わせる。
アリシアは、町へ出る準備をしていた。
商人のおじさんからの強い勧めだった。
町にはラピスとアリシアのように、魔物をパートナーにして暮らしている人がいるらしい。
そういった人たちを『魔物使い(テイマー)』と呼ぶ。
その話を聞いてから、アリシアの興味が尽きることはなかった。
町に行ったことは小さい頃に何度かある。
両親が生きていたころだ。
──その頃はアリシアが小さかったこともあり、あまりちゃんと覚えているわけではない。
唯一はっきり記憶していることは、スライムのお母さんからラピスを託されたことだ。
あのスライムが何者だったのか、誰に襲われたのか、アリシアは全く知らない。
両親の死も、現場を調査しに来た人たちから聞いただけだった。
唯一、手元に残された青い魔石とこの小さな小屋だけがアリシアにとっての現実だった。
そして、それから数日もしないうちに、その魔石からラピスは生まれた。
初めは驚いたが、その魔石が卵だったのだと気がつくまで、そう時間はかからなかった。
アリシアも魔物のことは父親の持っていた古い図鑑を読んで少しだけ知っている。
スライムは弱い魔物で、山に放したら十日も生きられないだろう。
だからアリシアはここでラピスと共に暮らすことに決めたのだ。
自分が十五歳になるまで、の期限付きで。
アリシアが望むのならお金の心配はないから、ここで暮らし続けてもいいと商人のおじさんは言った。
しかしアリシアも年頃になれば、自分の力で生活していきたいと思っていた。
そこで『テイマー』のことを教えてもらい、生活していくための職業として目指すことに決めたのだ。
「このお家ともお別れだ」
大きな穴こそ空いていないものの、ボロボロの我が家。
壁の煉瓦にも細かなヒビが入っている。
屋根は何度も雨漏りをして、その度にラピスと修理をした。
アリシアは小さな体に似合わない大きなカバンを斜めにかけて、呟く。
「お父さん、お母さん。私、頑張ってくる」
アリシアは大きく礼をする。
ラピスもカバンから顔を覗かせて、アリシアの真似をした。
「うん、ラピスにとっても大事なお家だもんね」
アリシアは優しく微笑む。
そして、希望を胸に、テイマーの町『アストレイラ』を目指して出発するのであった。




