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少女とスライム、テイマーを目指して  作者: 上辻樹
第二章「孤高の竜」
13/17

挑発のつもり


一回戦第二試合。

二年生(モルテラ級)代表の女子学生ミレーユは、対戦相手の少女――セリスを見る。


この大会のために一年間鍛えてきた。

しかしどれだけ自信をつけても、心臓が締め付けられるような緊張を感じる。


さっき、同じくモルテラ級代表のカイがあっさりと負けた。

自分たちもたった一年早く入学しただけだから、足下をすくわれないよう気をつけようと話していたのに。


入学から二ヶ月であの強さは異常だ。

本来なら魔物だって指示を理解するのが精一杯だろうに、こんな結末を予想できるはずもない。


自分の目の前の相手、セリスも同じくフレッジリング級の上澄みだ。

この地域のテイマーなら『氷雪の餓狼』の二つ名は知っている。

実績を調べたわけではないが、氷結系の魔法を魔法使いと同レベルで使用でき、パートナーとの連携も巧みな、いわゆる天才と呼ばれる部類だと聞いた。


「スノーフォックス、来て」


指輪の魔石が白く光り、足下に魔方陣が浮かんで、体長二メートルほどの白銀の大狐が姿を現す。

ミレーユのパートナー、スノーフォックスは氷結系の魔力を持つ魔物だ。


セリスの二つ名の通りなら、彼女の得意魔法は氷結魔法であり、それは属性の関係でほぼ無効にできる。

フィジカル勝負に持ち込めばまだ勝機はある。


「出てきなさい、ガルム」


セリスの前に黒く沈んだ泥のようなものが広がり、そこから一匹の禍々しい黒いオオカミが現れた。

そこに満ちたセリスの魔力は間違いなく氷結系のもの。

まずは読みが当たったことに安堵する。


(だけど、スノーフォックスに比べて体格差は倍以上……。でもこの体格差に怯えている様子はない。何か隠している能力があるとみた方がいい)


試合開始の合図が鳴る。

ミレーユは先に仕掛けることにした。


「スノーフォックス! やつを凍らせなさい!」


スノーフォックスの周囲に集まった冷気が炸裂し、周囲の地面ごと凍らせる。

指向性を持たせなかったのは回避されることを恐れたからだ。

白く覆われた視界の中に、黒に揺らめく影が見える。


「やっぱり凍らないのね!」


向こうがどう防いだのかまではわからないが、氷結魔法は防がれている。

そう考えた矢先、セリスが信じられない言葉を発する。


「質の問題よ」


「え?」


「氷結魔法、アイスフィールド」


セリスが発した魔法は、周囲を地面ごと凍らせていく。

スノーフォックスがやったものと全く同じ魔法だ。


全く同じ魔法で、魔力の量では圧倒的に上回る魔物が、人間に負ける。

そんなあり得ない現象を目の前に、ミレーユの思考が固まる。


押し返された魔法は途中で止まり、スノーフォックスまでは届かなかった。

距離により魔力が減衰した様子ではなかった。

わざと届かせずに途中で止めたのだと察する。


「魔法勝負で勝っても仕方ないのよ。私はガルムのためにこの大会に参加したのだから。たとえ負けたとしても、私は手を出さないわ」

「挑発のつもり?」


どちらにせよ、チャンスだ。

セリスの気が変わる前に勝負を決めてしまおうと、攻撃の指示を出す。


スノーフォックスはガルムを追って駆けた。

視界は晴れているが、敵の素早い動きを完全には追いきれない。


それに、妙な感じがする。

常に動いているからか、全身が黒いからか、その姿の輪郭が揺らいでいて、そこにいないような感覚がミレーユを惑わせる。

まるで陽炎だ。


(私に見えなくたってこの子なら……!)


確実に端へと追い詰めていた。

スノーフォックスはガルムへと飛びかかる。


テイマーの支援なしにこの体格差は覆せない。

ミレーユの考えは半分は当たっていた。


確かに、体のサイズだけは圧倒的に勝っている。

しかし、致命的な勘違いをしていたことに、この時気がついた。


スノーフォックスの爪が、ガルムの背で受け止められていた。

正確には、背だと思っていた部分に口があり、しっかりと噛みつかれていたのだ。


「え、え!? 何これ!?」


「私もあの子みたいにパートナーを使いこなしてみたいのよね」


頭がもう一つ生えてきたとしか言いようがない。

そして、まるで穴の空いた瓶のように、魔力と体力が凄まじい勢いで減っていく。


「スノーフォックス! 離れて!」


そうしたくてもできないほどに、しっかりと噛まれている。

血が流れていないのがなぜなのかわからないが、そんなことを考えている暇はない。

このままでは魔力が尽きて終わる。


肉体強化パワーブースト! 肉体強化パワーブースト!」


肉体強化の魔法は持続力が低く燃費が悪い代わりに、重ね掛けができる。

ミレーユの足掻きは少しだけ効果があった。

スノーフォックスが噛まれた腕を、ガルムごと持ち上げられたのだ。


「叩きつけなさい!」


地面へ振り下ろした衝撃で周囲の氷が一気に割れ、白い欠片が宙を舞う。

感情に任せて殺してしまったかもしれない、と相手を心配しかけるが、ガルムは叩きつけられていなかった。

四つの足でしっかりと着地している。


「そんな……」


「まあまあだったわね」


セリスが長い金髪をかき上げる。

魔力が尽きたスノーフォックスはその場に倒れ伏す。

第二試合はセリスの勝利で幕を閉じた。


ーーーーー


試合を観戦していたアリシアは戻ってきたセリスへ興奮気味に声をかけた。


「な、なんですか今のあれ! あの、かっこいいやつ!」


なぜ頭が二つあったのか、背中から急に生えてきたのか。

セリスのことは知っていると思ったのに、まだ知らないことがあったと驚いたのだ。


「何って……。ガルムがどういう魔物か言ってなかったかしら?」


「言ってませんよ! 普通のオオカミじゃなかったんですか?」


「違うわよ。でも、ちょうどいいわね。次の試合はあなたが相手でしょ? ガルムの本気を見せてあげる」


彼女の含みのある笑みに、アリシアも思わず胸が高鳴る。

同室であっても、生活のほとんどを一緒に過ごしていても、セリスの全てを知っているわけではないのだ。

アリシアにその理由の説明はできないが、それがたまらなく嬉しいことだけは確かだった。


また後で、とセリスと別れ、アリシアは試合の観戦に戻る。

三年生(グリフォニア級)の試合は勝負にあまり関心のなかったアリシアにとっても見応えがあって面白いものだった。

知識がないからこそ、誰が勝つかわからなくて純粋に楽しめた。


第三試合は石の魔像ストーンゴーレムと骨の猟犬ボーンハウンドの試合で、これはストーンゴーレムがその硬さを活かして勝利し、第四試合は赤いドラゴンと霧の精霊の試合で、こちらはドラゴンの圧勝で終わった。


一通り見終わると、勝ち上がるのは恐らくこのドラゴンだろうとアリシアは感じていた。

自信に満ちあふれている姿が印象に残っている。


その堂々とした姿にグレイを重ねていた。

今はどこで何をしているのだろう。


彼は大鷲を従えて、アリシアにテイマーの基礎訓練を叩き込んだ。

魔法を教えなかったのはなぜなのだろうと今にして思う。


必要ないと判断したのか、教えられなかったのか。

生活に役立つものだけを教えて、戦う術までは教えなかったのかもしれない。


世界が広がっていって、初めて気がつく。

グレイは何者だったのだろうか。


一緒に生活しているセリスのことでも知らないことがあったのだから、グレイについてもそうなのではないだろうか。

いくつもの疑問が浮かんでは消える。

今すぐに、それを解消する手段はない。


時間ができたら調べてみるのもいいかもしれない。

グレイのテイマーとしての側面を、もっと知ってみたくなった。


(私、少し欲張りになってきてるのかな)


知らないことが増えると、もっと知りたくなる。

今まで感じなかった心境の変化に、アリシアは少し戸惑っていた。


もうじきセリスとの試合が始まる。

気持ちを切り替えて、もやもやとした思考を振り払う。


全身全霊で相手をしないのは、彼女に対して失礼になる。

何もかも考えるのは後でいい。

今はただ、目の前のことに集中するだけだ。


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