お母さんが現れた
「うぉい! 待てセイロンガー!」
戦闘員たちの小さい『イー』を台無しにする大声で、虎の怪人さんが呼び止めました。ふっこは怯えた表情でセイロンさんの後ろに隠れています。
「お前か。この前、散歩に連れていた迷惑な虎はどうした? 家でお留守番か?」
セイロンさんは呆れた様子で問いかけます。たしか私の記憶では、虎の怪人アミーゴって言っていたかな?
アミーゴさんは前に本物の虎を連れて現れ、フンを路上に撒き散らした挙げ句、セイロンさんとうちのお母さんに怒られ、掃除して帰ったことがあるのです。
アミーゴさんは下を向いて、力なく答えます。
「……引き取られた」
急に声ちっさい。
「ん? よく聞こえないが」
耳に手を当てて聞き返すセイロンさん。
「動物園に引き取られたんだ、馬鹿野郎!」
急に大きい声で怒鳴ります。この人、声のボリューム、大と小しかないのかな?
「そうか、子虎の頃から可愛がっていたとか言っていたが、残念だったな。しかし、動物園なら会いにいけるだろう?」
優しいよ、セイロンさん。
「怪人の動物園への入園は禁止なのだ、知らんのか!? 怪人は何をするかわからんからな!」
「自分で言うな……たしか怪人アムールとか言ったか? 市街地で虎を連れ歩いた貴様の招いたことだ。諦めるんだな」
怪人は動物園に入れないんですね、知りませんでした。この感じで歩いてたら着ぐるみのマスコットだと思われるかもしれません。あと、怪人さんの名前、アムールだった……間違えちゃった。
その時、後ろからガラガラとうちの門が開く音がしました。
お母さんです……。
お母さんはエプロン姿にサンダル履きでカランコロンと歩いて、アムールさんに近づいていきます。どうするつもりだろう。
セイロンさんが近づくお母さんを止めます。
「真佐江さん、ヒーロースーツなしでは危険です。私が相手しますので」
「セイロンさん、ヒーローの先輩としてアドバイスよ。私たちは、ヒーロースーツを着ているからヒーローなんじゃないの。ヒーローが、道具としてヒーロースーツを着るのよ」
わかるような、わからないようなことを言うお母さん。
「てめえはこの前のババア! 女だからって容赦しねぇぞ!」
怒鳴りながら横殴りする腕をお母さんが蹴り上げると、履いているサンダルが空高く舞い上がりました。そして、落ちてきたサンダルを掴むと、
「だれがババアだ!」
パッカーーン!
脳天を思い切りはたきました。木製のサンダルでしたたかに叩かれたアムールさんは、膝から崩れ落ちます。
「ホゥ〜、ワタッ」
さらに一回転しながら、横にしたサンダルで顔面を殴ります。たまらず後ろに倒れるアムールさん。最後に蹴りを股間に叩き込む寸前で止めたお母さん。
「じゃ、セイロンさん。真由美とふっこちゃんのこと、お願いね! ふっこちゃん、まったね〜」
と言って、手を振りながら家に入っていきました。
頭と口から血を流して倒れるアムールさんの顔を覗き込み、セイロンさんは言いました。
「おい、これに懲りたらこの近所で襲撃しないことだ」
戦闘員に抱えられて黒いバンに運ばれるアムールさんを見ながら、ふっこがやっと口を開きました。
「真由美の登下校、エグいね……」




