道場のお母さん
真由美です。
ふっこがヒーローのトレーニングを見たいと言うので道場まで来ました。正直、私はそれほど見たいわけじゃないけれど……。
「さぁ、ふっこちゃん上がりなさい。真由美も」
道場はちょっとした体育館くらいの広さがあります。中に入るとシャドウズの人たちが4人正座をして待機していました。見た感じ男性2人と女性2人のようです。普段、お話をしないし、顔はマスクで隠れているので誰が誰だかわかりません。
シャドウズの男の人がお母さんに言います。
「奥様、真由美お嬢様はまだしも一般市民の見学は……社長に怒られませんか?」
「大丈夫! 山田のふっこちゃんは口が堅いし、壽翁さんが怒っても、口喧嘩では負けないわ!」
「いや、そういうことでは……」
私もそういうことじゃないと思います。
お母さんは、板張りの床にゴトリと音を立てて両膝をつき、手拭いを頭に着けました。その真剣な表情はいつも冗談ばかりの姿とは違う、初めて見る働くお母さんのものでした。
ウィーン
プシューと機械音が鳴り、ヒーローマスクを装着します。
蜜蜂がモチーフのヒーロー『ハニービー』の完成です。この姿自体は時間がない時にこのままエプロンをつけて料理とかしているので見慣れていますが、道場で見るとなんだか凄味を感じます。
「ふっこちゃん、こっちへいらっしゃい。真由美、体育座りじゃなくて正座で見なさい」
ひぃぃお母さん、人が変わったように厳しいよ。
ふっこがお母さんに連れて行かれました。ちらっと目があったふっこ、すでに涙目だけど大丈夫かな?
「それじゃあ説明するわね。これから行うのは『ヴィラン組み手』、片方がヴィラン役になって卑怯の限りを尽くして戦うハードな組み手よ。凶器、目潰し、金的、唾吐き、つねくり、何でもあり。今回は私がヴィラン役、人質役がふっこちゃん……大丈夫よ、痛いことはしないから。そして、ヒーロー役は……まちこちゃん、あなたよ」
女性シャドウズの1人が顔を上げました。とても疲れているように見えます。隣に正座する女性が腰を浮かせて言います。
「奥様、トゥエルブはさっきの先輩たちとの組み手でボロボロです! ヒーロー役は私が代わります!」
「よっちゃん、あなたの優しい気持ちはヒーローに相応しいわ。でもね、ヴィランとの戦いは甘くないの。実戦では疲れたから待ってくれとは言えないのよ」
「サーティーン、奥様の言う通りだ。ここからが本当の稽古。筋肉も一度壊れて強くなるんだ」
「ナイン先輩……」
「ありがとね、純ちゃん。審判お願いできるかしら?」
「了解です。おいトゥエルブ、やるぞ。できるな?」
「……もちろんです。ありがたくヒーロー役を務めさせていただきます!」
えっと、すみません。お母さんが下の名前で呼ぶから、ややこしい!整理しますね。
トゥエルブ=まちこちゃん、サーティーン=よっちゃん、ナイン=純ちゃん、だと思います。
ナイン先輩と呼ばれた男性シャドウズの人が審判の位置につき、手を挙げます。
「それでは、ヴィラン組み手……始め!」




