女子高生は時代小説を読みたい
『ど正論ヒーロー セイロンガー』のスピンオフ作品。
真由美とセイロンガーの登下校を中心に日常を描きます。
セイロンガー本編はこちらから
ど正論ヒーロー セイロンガー
https://ncode.syosetu.com/n6961kj/
「じゃあ、ふっこ。また明日ね!」
横断歩道の信号が変わったので、ふっこにバイバイして渡ります。
「うん、バイバイ」
私が横断歩道に足を踏み出すと、
「はぁ……」
後ろのふっこがため息をつきました。
私は渡るのをやめて、ふっこの元に戻りました。ため息の理由ははっきりしないけれど、放っておけません。
「ねぇ、ふっこ。今日一緒に帰る?」
ふっこは頭をかきながらおどけた調子で言います。
「えっ、でもあっしは家の方向があさってなんで……へぇ」
「もう、その江戸時代みたいな喋り方やめてよぉ。なんなら今日、うちに泊まっちゃいなよ。お父さんもお母さんも喜ぶし。着替えもこの前泊まりに来た時の洗ったやつがあるよ? パンツとか」
「うぉい、パンツ言うなぁ! んん……じゃあ、泊まりに行っちゃおうかな」
「うふふ、じゃあ行こう!」
次の青信号を改めて渡ります。ふっこは親に連絡を入れながら言いました。
「ごめんよ、真由美。せっかくのセイロンさんとの帰り道を邪魔しちゃって」
「ううん、大丈夫だよ」
大丈夫? 何が? ふっこが変なこと気にするから答えも変になっちゃった……。
「セイロンさん、お待たせしました!」
「セイロンさん、こんにちは〜。この前はランチご馳走様でしたぁ」
「あぁ、こんにちは。今日は山田さんも一緒か、行き先は五百旗頭邸で良いのかな?」
「はい、今日はふっことお泊まり会します!」
「そうか、それは楽しそうだな。では、行こうか」
セイロンさんは私たちの会話を邪魔しないようにという気遣いなのか、少し後ろを歩いてついてきてくれています。
「ふっこ、せっかくだからセイロンさんに何か聞いてみたら?」
「えっ、私? ……えっと、あのう、セイロンさん。先日、時代小説をけっこうお読みになると仰ってましたが」
その時、黒いバンがまた現れて私たちの前に止まりました。セイロンさんはそれを見て、前へ出ながら話を続けます。……続けるんだ。
「そうだな、時代物でよく読んでいたのは柴錬だろうか?眠狂四郎シリーズは全巻読破しているはずだ。それと、なんといっても『赤い影法師』はワクワクして読んだな」
黒いバンから黒タイツと赤タイツの戦闘員さんたちが出てきます。
「山田さんはやはり、山田風太郎先生の忍法帖シリーズなどがお好みかな?」
「えっ、あぁ、柴田錬三郎は私も大好きです! でも山田風太郎もそうですけど古本屋さんでなかなか見つからなくて……ところで、あの、なんか出てきてますけど」
「そうか、確かに古本屋で見かけることが少なくなってきたかもしれないな。私の読み古しで良ければ貸そうか? 結構ボロボロになっているから恥ずかしいのだが」
セイロンさんは話を続けながら黒いバンに近づいていきます。そして、戦闘員さんに何やら話し、バンの中に入りました。
ボカッ!
黒いバンの中で音が鳴り、ほどなくセイロンさんが出てきました。そして、戦闘員さんの服を掴んで無理やり車に戻していきます。最後の人はお尻をバシンと蹴られていました。……痛そう。
ふっこはその光景に驚いた様子でしたが、それには触れず言いました。
「い、いいんですか? すっごく嬉しいです! 東海道五十三次を読みたいんですけど、なかなか見つからなくて」
ふっこがすごく喜んでいるので、私もなんだか嬉しくなります。2人は趣味が合うんだな。私も時代小説読んでみようかな? ふっこの兵馬が楽しめるんだから大丈夫だよね。
黒いバンの中から言い争う声が聞こえ、やがて走り去って行きました。
まるで荷物でも片付けたかのように、手を払いながらセイロンさんが戻ってきて、
「『眠狂四郎 東海道五十三次』か、あれは良い。当時の東海道の往来が目に浮かぶような作品だ。明日、一緒に登校するなら持ってこよう」
「セイロンさん! 私も時代小説読みたいです。何か貸して下さい!」
「ふむ、それでは真由美さんが好みそうな作品を持ってこよう」
やったぁ!
何事もなかったように悪者を退治するセイロンさんと、時代小説をねだる私たち。ちょっと変わってるけど楽しい帰り道でした!




