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【物語】シャーロキアンのホームズⅥ〜虚構共同集団の物語〜  作者: 語り部ファウスト


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第六部 五幕 もう一人の刑事

やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。

なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。


第四幕では、シャーロキアンの全面協力を諦めた僕らの前に、レストレード刑事が現れた。

彼は僕らに何かさせたがっている。


虚実荘221Bの三階、この狭いが落ち着く居間。

その扉の前で、レストレード刑事は柔和な笑顔を貼り付けたまま立っていた。


「では、二人とも。動かないでいただきたい。

ーーさもないと、あなた方を逮捕することになる。」


金髪の前髪を、まるで舞台俳優みたいな仕草でかき上げる。

この男の“柔和”は信用ならない。期待しても裏切られるタイプだ。


「物騒な話だね。僕らが何をしたと言うんだい。」

そう言って、僕はワトソンを見た。


ワトソンは顔色こそ変えないが、酒瓶を抱きしめる腕に力を込めている。

それを奪われるくらいなら、指が折れても離さない気配だ。


「ボクらは英国紳士だ。悪事なんてしてない。」

彼の声は震えてはいなかったが、弱さを隠すための強がりが透けていた。


それを聞いたレストレード刑事は、喉の奥でクックッと笑った。

あの笑いは、誰かを小突き回す前の合図だ。


「私はジョセフ・レストレード刑事です。

あなた方に聞きたいことがあって来ました。

ここはグレグソン警部補のセーフティハウスだと“私は見ています”。

では、彼はここで何を企んでいるのかーー」


言葉の端々から、彼の焦りと警戒心が漏れていた。

新人刑事特有の“何か掴まねば”という焦りだ。


部屋を歩き回りながら、彼は続けた。


「ただのホームレスを囲っているにしては、この部屋は過剰です。

ーー明らかに、何かの思惑がある。」


彼の視線が、壁・テーブル・ソファ・窓・天井へと這うように動く。

そして僕らに戻ってきた。


「働きもせず、気が向いたら外をぶらつく。

……どこに“何もない”と言える要素があります?」


「何もないさ。」

僕は平然と答えた。

「日頃の行いがいいんだ、レストレード刑事。

僕らはベーカー街のマスコットみたいなものだよ。

グレグソン警部補は、それを自腹で支援してくれてる。

警察に秘密にしているのは、美徳ゆえさ。奥ゆかしいのだろう。」


レストレードの顔が赤く染まった。

怒りか、羞恥か、あるいは嫉妬か。


「あなた方は、私を愚弄しているのか。」

低い声に変わった。

「私は犯罪者は許さない。」


「ボクらは犯罪者じゃない!」

ついにワトソンが叫んだ。

「それとーー愚弄してるのは君の方だろう! ずかずか踏み込んで、脅して、見下して!

バカにしているのは、どっちなんだ!」


……まずい。

ワトソンの発言は、墓穴を掘っていた。


レストレードは薄く笑った。


「では、この場所が本当は何のための場所なのか、ぜひ伺いたい。」


ワトソンは息を吸い、吠えるように言った。


「ここはロンドン中の相談を受ける場所だ!

犬探しもやった! 依頼人と報酬があれば動く!

コナン・ドイルの描いたシャーロック・ホームズみたいにな!」


……ワトソンよ。

せめて“報酬”のくだりは言わないで欲しかった。


レストレードはすでに勝ち誇った顔をしていた。


「ではグレグソン警部補だけでなく、私の相談も受けてくれるのですね。

助手の方がそうおっしゃった。

違いますか?」


僕はーー観念して頷くしかなかった。


「けっこう。」

レストレードは満足げに言った。

「私は刑事になったばかりでしてね。この先を不安に感じていました。

あなた方から相談に乗ってもらえるなら、私も一歩前へ進めるでしょう。」


彼は扉の方へ歩き、振り返って言った。


「ごきげんよう、ベーカー街のマスコットたち。」


そのまま軽い足取りで階段を降りていった。


僕は下唇を噛んだ。

悔しさで、少し血の味がした。


(こうして、第五幕はベーカー街のマスコットにて幕を閉じる。)

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