第二幕
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第一幕では、僕はかつてのシャーロキアンの仲間たちがどうなったかを調べることにした。
グレグソン警部補が用意してくれたロンドンの闇の犯罪ファイルは、個人で解決するには多すぎたからだ。
原作ホームズへの愛のために集まった連中だ。愛がなくなれば、解散するかもしれない。
原作ホームズの人気が続いてたらいいけれど。
さてベーカー街には、かつてシャーロキアンの溜まり場があった。
ホームズの格好をして、ホームズのように推理をする連中。
まるでインディアンのようにさ。
僕たちは群れで行動してた。
とある事情で、僕はコナン・ドイルに捕獲された過去を持つーー1903年頃にね。ここでは、詳しく話さない。
それで1910年頃まで、疎遠だったというわけだ。ある男をのぞいてね。
その男の事を帽子ホームズと、僕は読んでいる。原作ホームズのように生きたがってた。今でも、彼は帽子をかぶっているのだろうかーー。
ここはベーカー街の路地裏だ。
僕とワトソンは、恐る恐る歩いていた。道端にしゃがんでた浮浪者の姿を、時々見かけた。ーー前よりも多い気がした。異国の言葉を繰り返しきいた。彼らは僕らを注意深く見つめていた。
この路地裏は舗装されてない道もあり、土が剥き出しになっているとこもあった。靴が汚れていった。
「こんな土をつけて帰ったら、アダムズ夫人は発狂するよ。」とワトソンが言った。
「靴を磨かせたらいいさ。あんなヤツーー」と僕は吐き捨てた。
僕が知っていた倉庫は他の用途に使われていた。浮浪者が入れないように扉には鎖が巻かれていた。
「ここが君のいうホームズの溜まり場かい? そのーーシャーロキアンのホームズの。」とワトソンが怪訝そうに聞いてきた。
「ああ。ーーでも、時の流れが僕の記憶を嘲笑ってる。もう、ここには誰もいないんだろうなーー」と言いながら、僕は足元を見た。
その地面は、ここ最近、ここにーーほとんど誰も来なかったと教えてくれた。
僕らは一言も話さず、もと来た道をトボトボと歩いていた。
まだ浮浪者が道端にいて、異国の言葉でぶつぶつと何かを言ってた。
ワトソンが僕の肩越しに、囁いた。
「ホームズ。あの浮浪者、おかしい。
繰り返し、変なこと言ってた。
頭がおかしいのかなと思ったけど、ボクらに向かって話してるみたいだ。」
僕は立ち止まって、ワトソンを見た。
「浮浪者がいうのは、お情け、お恵みをと相場が決まっている。彼はなんと?」と、僕は座り込んでいる浮浪者を睨みつけながら聞いた。
「ずっと、”ありがとう”、”おはよう”、”おやすみなさい”だ。おかしいだろ?」
「ーーそれしか知らないんだーー」と僕は声を大きくした。
「おい、お前! 何者だ?」と僕は浮浪者の肩をつかんだ。彼は顔をあげた。
汚れた絵描き帽子に、黄ばんだシャツに傷だらけの黒のズボン。
髪の毛は灰色でボサボサ、顔はしわしわだった。
彼は再び異国語を口にした。
「ワトソン。ーーこれは、挨拶だな。」
「そうだよ、ホームズ。気をつけてーーなんか怪しい」
浮浪者は再び顔を下に向けた。
そして次の瞬間、彼は僕の手を払いのけた。そして、立ち上がった。みるみるうちに、身長が高くなった。
そして帽子を被り直した。ディアストーカーハットにね。
それから僕らに向けた顔は、灰色の目は鋭く、ワシ鼻で、顎は角ばっていた。僕のようにね。まるで原作ホームズのようだった。
「やあ、君。ベーカー街に戻ってきたのか。」と記憶と変わらない笑顔を向けてきた。そうだ、彼は帽子ホームズだった。彼は僕を見つめて、言葉を続けた。
「残念だけど、ボクらの拠点は変わったのさ。ーーあそこは売っちまった。
メンバーが多くなって、入りきれなくなったのさ。」と彼は面白そうに笑った。
「それにしても、君。ワトソンを連れて歩くなんて、うらやましい。
彼の名は、ジョン・H・ワトソンなんだろうね。原作の通りに。だが本名じゃないか。少し痩せているが、ーーまて、推理させろ。彼は時々、唇を舌で舐めるな。ノドが乾いているようにみえる。指先が時々震えいる。何か身体が不自由だ。服は手入れされてないな。汚れたままだ。顎の下、濡れている。雨が降ってないのに。飲み物をこぼした。ああ、君はアル中だーー飲む事しかしないな。その指の震えだと、ペンも持てやしない。書いている途中で、文字が崩れるーー記録係としては致命的だ。役立たずさ。太ってて、アル中のね。でーー」とまだ帽子ホームズは続けようとした。
役立たずと言われたワトソンは口をアングリと開けた。
「それ以上は、よせーー」と僕は帽子ホームズを睨んだ。彼の暴力的な推理は今も健在だった。
ーー帽子ホームズ。
シャーロキアンのホームズとして、
姿形思考すらも、シャーロック・ホームズを目指したグループのリーダー。インディアンの首長だ。
彼は僕を見つめると、ニヤニヤしだしたーー。
(こうして、第二幕は帽子ホームズによって幕を閉じる。)




