第六部十二幕:遺産の話
【第六部十二幕】
やあ、君。僕はホームズだ。そして、ホームズを愛するシャーロキアンの一人だ。
なのにーーシャーロック・ホームズと名乗っている。
第十一幕では、弁護士を調査しに来た僕らの前に叔母エミリー・グレイ夫人が現れた。彼女は足腰も弱りきって立つ事ができないというのにね。
僕は彼女の真意を探るために、彼女を見つめた。
すると帽子ホームズは、はっきりと言った。
「アシュワース弁護士。これは、大したことはない出来事です。
ロンドンにはホームズありき。
ボクは立っておく。
そこのホームズ君も立ち上がるべきだ。グレイ夫人を立たせるのかね?」
ここはアシュワースの執務室だ。
この部屋には四人分のシングルソファしかなかった。
僕とワトソン、アシュワース弁護士が向かい合ってたから、ソファは一つしかない。
「私はすぐに帰るつもりなので、入り口の近くのソファに座りたいわ。
お願いできるかしら?」と囁くように話した。
僕は話さない。ただ、彼女をジッと見つめていた。
返事をせずに彼女に席を譲った。
すると弁護士は僕を見た。
「あー、すまないが、グレイ夫人の要件を先にすまさせてほしい。場合によっては、先に来たホームズくんとワトソンくんには部屋を出てってもらう事になるな」とアシュワース弁護士は言った。
するとワトソンが、叫ぶように言った。
「待つのなら、お酒を少しいただけると助かる。ボクは喜んで部屋を出るよ」と言い終えるとワトソンは立ち上がった。
僕はワトソンを見つめて、うなづいた。
「アシュワース弁護士。僕らは待つ事には慣れている。お気遣いなく。
ただ、お酒は歓迎する。僕らの楽しみの一つなのだから」
「話は決まった!では、待合室に案内しよう。いい酒が置いてある。出しておくよ、ワトソンくん」
「アシュワース弁護士、ありがとうございます。あなたはロンドンの良心です」とワトソンの声は弾んだ。
ーーいい気なもんだ。
僕らは執務室の手前にある部屋にある待合室に連れてこられた。
そこは長方形の部屋で玄関と繋がっていた。壁のはモスグリーンの布製の壁紙が貼られていた。下半分が濃い色の木製パネルで覆われてた。
床には同じくモスグリーンの絨毯が敷かれていた。
部屋の中央には、オーク材のテーブルが置かれてた。テーブルの上には、無地の銀製のトレイがあった。
弁護士は受付のカウンターから、酒瓶と二つのグラスを取り出して、テーブルのトレイに置いた。
「これはいい酒なんだ。大切なお客をもてなしてくれるよ、ワトソンくん」
そう言ってから、彼は僕らに軽く会釈すると、執務室へと戻った。
「やったね、ホームズ。彼は英国紳士だった」そういうと彼はグラスに酒を注いだ。
僕は彼が部屋から出ていったのを確認して、また執務室へ行こうとした。
「どこ行くんだい?」とワトソンが聞いてきた。
「あの叔母。おかしいと思わないか?
タイミングが良すぎる。彼女は何か怪しい。トーストとコーヒーをかけてもいい。僕の知性が囁くんだ。調べろって」
「ふーん。ボクの知性は飲めって言ってる。」とワトソンは一人で飲みだした。
それから僕は一人で執務室の扉の前に立った。囁き声のようで聞き辛かった。なので、ゆっくりと扉を少しだけ開けた。
弁護士の声がした。
それから隙間から部屋の中身が見えた。
「内容でしたら、写しを持っています。それをご覧ください。夫人」
そういうと弁護士は金庫から、遺書の写しを持ってきた。叔母はサッと読み取った。ーー早すぎる。年配にしては、早すぎたんだ。読むのが。
「私は、あの子に肖像画を贈るつもりだったの? 遺産として? お金はないの?」と彼女は囁いた。
「これだけです。肖像画をあなたは私に預けました。でも、たいしたものではないしーー誰が誰を描いたものかわからない絵をーー贈るのは不自然かもしれませんね」と弁護士は言った。
「この肖像画は、あなたが保管してますわね。見せてくださる?」
「もちろん、構いませんがーーこれを贈ると、相手を落胆させるかもしれませんね」
「ーーかまいません」
弁護士は静かに顔を振った。
「ーーわかりました。少々お待ちください」そういうと彼は金庫から小さな包装された包みを取り出した。
包装を丁寧に外すと中から、肖像画があらわれた。男の肖像画だった。
もっと近くで見たかった。
アシュワース弁護士は少し震えていた。
「この絵に、価値はありません。
今日でなくてもいいので、新しく遺書を書き直すべきかとーー」
「ええ。そうね。あの時の私も頭がおかしかったかもしれないわ。
発作みたいなものよ」
僕は覗き見をやめて、ワトソンの所へと戻った。
「ワトソン。ベーカー街に戻るぞ。
すぐにだ。酒なんてほっておけ!
帰ったら飲めよ!むしろ、持って行こう。かまうもんか!」
そして僕らは、地下鉄を使ってベーカー街の虚実荘へと戻った。
(こうして、第十二幕はベーカー街により幕を閉じる。)




