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歪んだ理性と自我

特に語ることはございませんが、もし何か話して欲しい裏話などあれば積極的に伝えていただいて。余り何が知りたいとか此方からは分かりませんので、是非ともよろしくお願いします。

 今完全に芽生えた自我の武具は、赫く焔を吹き出し空気を歪ませるほどの熱を発していた。心の中で燃え滾っていた魂が形を伴って身体の外に溢れ出したかのようだ。


シャープ③「仕方ない………そうだよね。きっとこれはボクが選択を間違えたからなんだ。」


 一人でぶつぶつと何かを呟くシャープであったが、狼狽えることはなく逆に私のことを両眼で確実に見据え、大ぶりな体での攻撃をかまして来た。前まではギリギリ受け流したり紙一重で躱したりするのが限界ではあったが、今では堅固に重量を受け止め勢いから反撃を入れるまでに成長している。一進一退の攻防だった筈の撃ち合いは今ではこちら側に勝利が傾き始めていた。だが私は気がついていた。ソプラ、バースを基としたシャープ③が未だ動きを見せていないことに。シャープ③元祖が動くよう指示を出さないのも不気味だ。何か思惑が、意思があるのだろうか?


シャープ③「終わりは近づくだけか………。でもさ。」


 ハハっと空気が漏れ出るような息が聞こえた。雰囲気からも弛緩した気分が見てとれた。


シャープ③「このまま終わるとボクとしては君を救えないんだ。」


 シャープ③が今まで待機させていたシャープ③(ソプラとバースの改造体)を動かす。三体のシャープ③に取り囲まれればまずいが………しかしシャープ③………いや………とにかくアイツらは私の身体能力の強化具合を甘く見ていたようだ。この防具は感情によって身体能力も強化される。今の私にかかれば一目散に逃げ出し追い付かれないことも容易だ。

そういえば、リコルダの中で私が一番足が速かったっけ。特にアルトは他の二人にも負けていた………。

勢いよく跳躍し、合間合間を抜け全力で逃亡する。私の判断に気がついたのか、シャープ③(バース)、シャープ③(ソプラ)、シャープ③(オリジナル)が順に私を追いかけてくる。周囲の建造物などとっくに瓦礫の山も残らず打ち砕かれ、広がる地平線が見えるが身を隠す場所は多く、散らばった建物の破片や街路樹の倒木の陰に身を潜めながらシャープ③たちから離れていく。アイツらは私を追いかけてくるが、正直言って索敵能力もないようなデカブツに負ける覚えはない。そもそも何かを探すのに向いて無さすぎるんだ。やはり節穴の目では私を見つけられなかったようで、シャープ③(オリジナル)は残りに何か命令をし去っていった。私の捜索を続けろとでも言ったのだろう。頭脳も与えられなかった木偶人形は本体が去った後もウロウロと瓦礫を破壊しては私の痕跡を探していた。


唯一の知能が去った今、逃げることは容易かった。此方が奴らの死角になっている隙に全力で走り抜けた。


あの場所から逃げ去り、リコルダの事務所に戻る。今では利用する人物が居なくなってすっかり埃まみれになっていると思っていたが、そうではないようだ。つい最近まで、いや、1日以内で誰かがここでコーヒーを飲んでいた形跡があった。自らの席に着き、腰を下ろす。懐かしい思い出となったあの日を再び思い起こす。

その時だ。

ガチャリと事務所のドアが開いた。驚いて其方に視線を向ければ、あの時よりも生気を無くした───血の気は失せ、痩せ細った───アルトがいた。時が止まった。


アルト「………テノル………なんでここに………」


ドサリとアルトの持っていた荷物が地に落ちる。チャリ、と鍵が曝け出される。アルトはそれらを持ち直すも仕舞い戻すこともせず、ただヨタヨタとこちらに寄ってきた。


テノル「………………まさか、まだ活動していたなんて………そう、でしたか………」


なんと言えば良いのかわからない。あの病室で会った以来、そして非常に残る物がある別れ方をしたのだ…。今更何か言っても意味はないし、きっと相手もそう考えているだろう。


テノル「もはや意味のないこんな寂れた事務所にいつまでも残っているなんて………何か目的があるんですか?」


返事は返ってこない。言葉を失ったアルトが私のわずか前で立ち尽くしているだけだ。何秒ほど待ったのだろうか、それともこの悠久に感じる時の中で夕焼けを何度か迎えたのだろうか、それはもはやどうでも良かった。アルトが話し始める。


アルト「………僕は、全てを間違えた。遠い遠い神代の伝説、偉大なる司祭ユーリィの頃………歪んだ自我と、逃げることを選択した理性が。もうきっと神の定めの元なんだろうね………。」


遥か過去、誰も知らぬ物語が語られる………。

回想に入りまーす!全てがどうでも良くなった人なので原本丸写しでいいですかあ?だめですかあ、そうですかぁ…

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