第三楽章 人員喪失
さて、この世界のルールを三つ。死んだ人は戻りません。しかし転生はございます。
そして、さまざまな化物がいます。デカいのも小さいのも。人間に化けて国に侵入する奴もいるとかいないとか。
魔法は精神を削って出力します。使えば使うほどパニックになりやすくなったり驚きやすくなったりするでしょう。
私の眼前に立つシャープ③。それを迎え撃つように立つ私たち三人。
恐ろしいほどの威圧感と共に辺りが暗くなる。生命の危機を感じる。
シャープ③「へえ、立ち向かってくるんだね。ボクに勝てると少しでも思ったのかな?」
おそらく目である部分をギュッと縮め、笑っているのだろうか。私たちを見定めるような視線に背筋がゾッとした。今からどうやってこんな化け物に勝てというのだろうか。自分の認識が間違っていたことを後悔する。だからと言って逃げても今の状況を先延ばしにしたに過ぎないと、そう思う。
テノル「勿論、私は死にたくないですからね。あなたの攻撃、全て受け止めてみせますよ。」
シャープ③に焦りと不安を見せてはいけない。勝つんだ。肉体の状態は精神に影響される……!仲間にも悪い影響を与えてしまうかもしれない!気を強く持て!自分に言い聞かせ、シャープ③に剣の切先を向ける。ソプラやバースも各々の臨戦体制をとる。
バース「俺の魔法は効いたか?あれは初級呪文だがな。」
バースが少し笑い、杖に力を込める。あたりの空気に冷気が宿り、鋭い氷柱が何本も生成される。
バース「シャープ③、これでくたばれ!円舞曲[迅速な氷刃]!」
バースの背後から射出された鋭い氷柱は、確実にシャープ③に命中し、致命傷を負わせた……筈だった。刺さってもいない氷の刃を蹴飛ばし、いや、気にも留めず踏み潰し、大地を鳴らしながら近づいてくる。ドシンドシンと余裕に満ちた顔で、勝利を確信した顔で近づいてくる。怯えた顔でソプラが見てくる。バースは冷や汗をかきながらも余裕ある表情を保っている。………こんな時にあの人なら全て一発で解決しただろうか。いや、今ここに居ない人の事を考えても仕方がない。今は、私たちで何とかするほかないのだ!
テノル「ソプラ、生物魔法で木を生成して足止めを!バース、攻撃呪文でなく弱化呪文を!」
ソプラ&バース「「OK!!」」
私たちはフォルテ最高チームだ。私たちより強い人はフォルテ総司令官と政府公認守護者しかいない。そして今その2人は別の場所で戦っている。今被害を減らせるのは私たちだけなんだ!勝つしかない!私たちならいける!
ソプラ「生命の輪廻[樹木産讃歌]!!」
バース「鈍化サイクル!!」
シャープ③の行手に高い木がいくつも生成され、バースから放たれた鈍化の魔法が的中した。私たちは指示を出しやすいようシャープ③から危害を加えにくい高台に登った。シャープ③は明らかに木の除去を面倒くさがっており、尚且つ自身にかけられた鈍化の魔法も鬱陶しく思っている。何なら私たちの場所も見失ったようだった。今なら仕留められるかもしれない。待機させているフォルテ戦闘員を投入するべきだろう。しかしあれだけ魔法が効かなかったこいつに打撃が通るのだろうか。………リミットは近い。早急に判断を下すべきだ。
テノル「よし、フォルテ戦闘員、1団出撃!2団は遠距離からの妨害、3団は味方の援護を頼む!」
こんな時にアルトが居ないのは非常に困る。最強のサポーターのあいつが居れば私が1人で相手できるところまで行けていただろう。アラームが鳴ったというのに、何処に居るんだ、アルト!
ソプラ「いいね、順調に足止めできている。倒せ、まではいかないけど総司令官が帰って来るまでの時間稼ぎはできる!まだ疲れてないよね、まだまだ縛り付けるよ、バース!」
バース「言われなくとも!」
ソプラとバース、そしてフォルテ戦闘員によりシャープ③は完全に封じ込めた。そして今、フォルテ総司令官エルケーニヒがシャープ清掃を完遂し、戻ってくると連絡が入った。あの人の事だろう、約100kmあるR国<->W国間でも10分で戻って来れる筈だ。おそらくシャープ③を仕留めた後は研究機関に送られ、シャープ③の貴重な研究資料となるのだろう。
テノル「万事休す、といったところですか。あと10分もすればエルケーニヒが帰ってきます。それまでの命、噛み締めておいてくださいね。」
木やツタに絡まれたシャープ③。微動だにせず何かを見つめている。視線が移動する。フォルテ戦闘員を見つめ、やめて、別の戦闘員を見つめ、やめて………そしてその視線が上がり、私たちを捉えた。
シャープ③「あ、みつけた。やっほー。」
シャープ③を縛っていた樹木、ツタが千切れ、攻撃をしていたフォルテ戦闘員をまとめて蹴散らした。場は混乱して、機能を失う。よく考えればただの魔力の木など一瞬で破壊されてしまうことはわかった筈なのに。シャープ③は大きく身を震わせたかと思うと、木を地面から引き抜き、此方へ投げてきた。咄嗟に私は剣に魔力を込め、木を切断する。後方で土埃が上がる気配がした。
テノル「仕方ありません!総員、撤た…………」
血飛沫がかかる。私の右横、ソプラがいた位置から。反応できなかった。私は何も気づかなかった。当たり前だ。何故シャープ③だけでこの広場に来たと思ってしまったのか。普通に考えれば、取り巻きも居るはずだろう。焦りは思考を鈍くする。何処かで聞いた言葉だ。私は今、その言葉を身に染みて感じている。考えたくなかった形で。私の判断ミスの人員喪失という形で。
バース「危ない!凍結魔法[足止め]!」
ソプラを殺した後、私の方に向かって来ていたシャープ②の腕を撃ち落とす。私は呆然としていた。このような状態で呆然とするのは焦るより更に悪い状況になる行動だと言うことも、忘れていた。無能、そう思うだろう。そう思ってくれて構わない。私に構ったせいで、バースは自分の身を守れず、死んだのだから。
テノル「はぁっ、ぁああ、」
バースによって息も絶え絶えとなったシャープ②の最期の一撃で、バースも持って行かれた。私が指揮したフォルテ戦闘チームも、シャープ②に囲まれて壊滅的状況だ。
この日、フォルテは戦闘員の3分の1を、喪失した。
………あとがきから見る人、居ませんよね?流石に全て読んでから見ますよね?
はい、絶望的状況、此処からどうなってしまうんだ〜!?的な感じでございますが、まま、楽しみにしていてください。絶対トゥルーエンドに持っていきますので。




