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第九楽章 過去との邂逅

 昔々、ボクは古代種、という怪物を相手に戦っていた。その時は大体一万年以上前かな、正確なことは覚えていないんだけど、何にせよ、ボクは一人だった。前語ったユーリィって人のことは一旦置いておいてね。で、ボクはユーリィ先輩から授かった増殖の力で、人類のために───本当はボクの故郷を守るために───戦ってたんだ。それで、ボクは何体もの怪物を倒して、だんだん世界は良くなってくと思ってたんだ。でも、そううまくはいかなかった。一人でやれることには、限界がある。だから、ボクはある強い古代種を相手に負けかけたんだ。

 古代種、ってのは今から約一万年前に栄えた、異形の化け物たちでね、とっても強いんだ。いや、シャープよりかは流石に弱いけど───、昔の人類は今の技術なんて持っていない、被害はより甚大だったのさ。で、古代種には十メートルのものも、百メートルのやつも、たくさんの種類がいるんだ。いや、今はいないから、いたんだ、のほうが正しいかな。それで、ボクは古代種の中でも一際強い、次元種に負けかけたんだ。その時!何が起こったと思う?

 正解は、古代種狩りをしている人に助けられたんだ。まさか、ボクと同じで、個人で活動してる人がいるなんて、思ってもみなかったよ。その人は、炎のように燃える剣を持ち、誰よりも冷静に、次元種を処理して見せたんだ。すごいな、って思ったよ。いや、ちょっとの脚色というか、思い出補正はありそうだけど。とにかく、それからその人とボクは一緒に活動することになったんだ。

 ボクはその人と、古代種狩りを続けた。そして、そんな活動を続けていくうち、さらにもう二人とも出会った。片方は回復術を使う魔導士、もう片方は攻撃呪文を多彩に扱う魔導士。これでボクらは四人のチームを作った。「フォルテ」という「ボクが作った組織」の最高チーム、「リコルダ」というチームをね。でも、当時のボクたちには名前がなかった。昔は結構ありがちだったんだよね。古代種のせいで、赤ん坊が両親と離れ離れになって、名前も覚えていないなんてザラだから。だから、ボクは能力をシャープと名づけ、ボクを救った天才剣士をテノル、回復術の使い手をソプラ、攻撃術の魔導士をバースって名付けたんだ。

 そして、ボクらはどんどんと依頼をこなしたり、組織を作っていったりして、古代種をどんどん追い詰めていくことに成功したんだ。ソプラは医療を充実させるためにメッゾという組織を作り、バースは魔法を研究するためにピアニッシモっていう組織を作ったんだ。ああ、君はそのフォルテとかメッゾとかピアニッシモをまとめる狂詩曲(ラプソディー(R国))を作ったんだ。

 そして、僕らの後を追って古代種狩りを行う人も増えていったんだよ。フォルテの人員も着実に増加して、医療技術も進歩し、魔術に対しての理解も深まり研究は加速したんだ。

 それでも、やっぱり古代種は強力だった。能力を持たない君たちは、どうしてもボクに劣った。でも、その時ボクは考えたんだ。先輩がボクに能力を渡せたなら、ボクも誰かに能力を渡せるんじゃないかって。もちろん、全部を渡すわけにはいかないから、一部だけにしたけど………、でも、その成果は出たんだ。テノルは加速の能力、ソプラは安寧の能力、バースは拡大と拡張の能力を得たんだ。その時は、名前を決めてなかったね。今はもう決めたんだろ、テノル。さっきアレグロとか何とか言っていたじゃないか、それは、ボクの能力の分岐さ。

 古代種は目に見えて減ったよ。そして、ボクたちは古代種の王の居場所を突き止め、それを封印することに成功したんだ。喜ばしいことだったよ。

 でも、そろそろ代償について考えなきゃいけない時期に差し掛かっていた。能力には四フェーズある、三までは大丈夫なんだけど………四になった瞬間、その能力は暴走を始める。正直、ボクはもう自分で自分を保てていないんだ。今は、どうにか先輩からもらった力の片鱗を取り戻して、精神汚染をどうにか留めているけど………たぶん、これ以上は無理だと思う。

 ボクは、そんな危険な力を君たち三人に分割して与えてしまったんだ。しかも、先輩から貰った汚染抑制の能力をボクの中に留めたままで。ボクはとっても後悔した。でも、そうするほかなかったんだ。だって、死ぬよりかはマシだろう?………本当にごめん。

 最後の最後に、ボクは君たちの能力をどうにかして一時的に封印することができた。代償はあった。君たちの記憶が綺麗さっぱり無くなっていたんだ。しかも、一万年の間、一度たりと目を覚まさなかった。孤独ってのは辛いものだと、再確認できたよ。

 さて、本題に戻ろうか。ボクは一人、ずっと汚染に耐えながら能力の解除の研究をしてたんだけど、限界が来たんだ。シャープの力は、まだまだ強力だった。今、こうしてギリギリ正気で話せているのは、君たち全員が能力を発現させて、ここに居るからだろうね。

 シャープの力の暴走は止まらなかった。ボクはその時からすっかり正気を失ってしまって………いや、その暴走の中にも、ちょっとしたボクの悪心は混じっていたのかもだけど………、それでも、何とか唯一の目的である能力の研究だけは、できたんだ。シャープ③は、まだ動くことが可能だったんだ。世界中のシャープの被害者は放っておいて、ボクは研究室に閉じこもって、せめてボク本体だけは誰も傷つけないようにって………無駄だったけどね。

 そして最近、君たちがようやく目を覚ましたんだ。すっかり記憶は無くなっていたみたいだけど、なぜかフォルテとかリコルダのことは覚えててね、仲間の様子を確認しに来たボクを最初から仲間だと思っててくれたんだ。あの時は、舞い上がらんばかりの気持ちと共に、早く研究を完成させないと、という焦りも生まれた。

 それで、ボクは研究を加速するために、いろいろな実験材料を手にして───どうやって入手したのかは伏せておくけど、察しはつくんじゃないかな………───、もうどうなっても良いってがむしゃらに研究を加速した。ああ、君の能力がちょっとあれば、もう少し楽に完成させられたのかもね、いや、もう過ぎたことだ、諦めよう。

 だから、この薬は、君たちのための、本来の人間の姿に戻るための、最後の希望なんだ。ボクは、君がこれを使って元に戻ってくれたら、死んでも良い。シャープになってしまったソプラ、バースも、これを使えば戻るだろう。だから、どうか、正しい判断をしてくれ。これは、敵からの交渉でも、組織の一員としての意見でもない、かつての友人の、たった一つのお願いなんだ、だから、どうか、お願いだ。


 私の前に置かれたその液体は、どうしても、私にとって良い影響を与えそうには思えなかった。それに、この力を手放すなど、考えたくもない………。この力は、私の心であり、これからを生きていく道標なのだから。

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