第七楽章 終わりなき演奏
シャープ③とテノル一人、どちらが勝つんでしょうか?………いえ、シャープ③とアレグロ①の戦いですね。
「アルト………いえ、シャープ③!………必ず、討ち取らせてもらいますよ!」
激しい攻防の最中、アルトに聞こえるように大声で叫ぶ。アルトもそれに反応し、
「………やれるもんならやってみてよ。前だって、ボクに負けたじゃないか。」
低く嘲笑をする。シャープ③の長く鋭い鉤爪は死角からの攻撃が得意だ。そして後ろからやってくる。気配を察知し左肩の翼で身を守る。シャープ③の懐に潜り込み、細い胴体にラレルグでの薙ぎ払いを打ち付ける。ガキィッと変に伸びた金属音が耳に優しくない。
「………何を馬鹿なことを!私は貴方に負けた覚えはない!」
苛烈さを増していく撃ち合い。切りつけては後退し、身を守っては懐に潜り込む。相手もそれは同じ。腕を振りかぶり攻撃を繰り出しては鋼鉄の外皮で武器を弾き飛ばす。この戦いは勝負など付くはずもない。どちらも攻撃を受けることなく、又、攻撃を与えることも叶わぬのだから。私は身に纏われた武具により体力を消耗することもなく、アルトは異形の力で人間の体力などとっくのとうに突破している。
そうして全く進展もないまま時間だけが過ぎる。こんな戦いは望まなかったが………。実力差のない勝負だ、決着がなかなかつかないのも仕方ないのだろう。アルトもこの勝負の退屈さに辟易してきたのか、新たなる動きを見せた。
「ソプラ、バース!出て来て!」
更なる気配が唐突に出現する。それはアルトの背後から大きな質量を伴って現れ、またそれは敵意を持っていた。あの時見た通りの二人、シャープ③。数と質の両方を取り、押し潰す気だろうか。だがしかし、神の声が聞こえたかのように、私はあることをせねばと頭に浮かび、それがまた勝利を確実なものにするとお告げをもらっていた。闘争本能が叫んでいる。今ここで力を解放せよと。この身に纏われし灼熱の武具に、更なる爆発力を与えよと。
「アルト、隠し持った手段がこれだけだとは思っていませんよね。」
心臓の部分から、炎が吹き出す。それは周囲を包み、まるでバリアのように、そして鎧のように私を着飾った。シャープとアレグロはほぼ同一のもの、アルトはそう言っていた。そして、今の私は言うならばアレグロ①。それ即ち、私はシャープと同じようにアレグロ②を使用することができる。シャープ①と、シャープ②には雲泥の差がある。なたば、アレグロ①とアレグロ②にもそれほどの差があって然るべきだろう。
「………………知ってるよ、テノル。」
アレグロの鎧に炎が追加される。それはうねり、かたまり、一つの形状を成し遂げる。ああ、それはまるで龍騎士。テノルの手に握られたラレルグは伸縮をし、加熱され、今、薙刀のような形態になったのだ。
こうなってしまっては、もはや彼を押し留めることなどできやしないだろう。そう、爆発を起こし、四方から襲いくるシャープぼ手を切り落とし、その攻撃の手を緩めさせていく。恐ろしい成長度合いだった。確かに、シャープ①からシャープ②には恐ろしいほどの差があり、それは②と③でも然りなのだが、アレグロにも適用されるものなのか。同じ能力の発現方法なのだ。
「………いや、さすがだテノル。もう、終わらせてもいいのかもしれないね。」
まだ再生を続け、テノルに伸ばされる攻撃の手。だがしかし、それらの中からアルトの手が消える。一体何をしようというのか、そしてアルトが体全体から瘴気を噴き出す。恐ろしいことが起こりそうな怪しい予感が、テノルの背筋を伝った。
「何をしようというのですか、アルト!」
それを止めさせようと、テノルは槍をアルトに向かって投げつける。しかし、それは地面の隆起によって防がれた。地響きの音がそれ以外を掻き消し、実質的な静寂に包む。ああ、そうだった。③までしかないとは誰も言っていないんだった。そう。
「シャープ③の力がたくさん集まったんだ、これならわかるよね……。むかしも、こんな事をしたなあ………。」
思い出に耽るように、アルトは空を見上げる。そして、甲高い笑い声をあげ、語り出した。聞いてもいないのに。
「昔も、四人で色々やったんだよねえ………。それぞれ④を使うのには大量の力が必要でさあ………。ほぼ4人の合体技みたいなところがあったよねえ………。だからさ、もう一度、それを起こしてみようと思うんだ。君も思い出せるかもだろう?」
テノルの足掻き虚しく、それは呼び出されてしまった。はるか昔、いつか地上を席巻した大厄災を。大地の力、そして能力者四人の溢れ出る力を吸収して、かの邪竜は呼び出される。
「シャープ④ってさ、見た目かっこいいんだよね。だからボクは好き。」
絶望が。舞い降りてしまった。




