残夜
夜中、いやな感覚に襲わればっと飛び起きた長林は荒い息を吐きながら部屋を見回す。そしてなにもないはずの机の上に手紙が置かれているのに気づき、恐る恐る封がされていない手紙を開き、読み進めていく。
最後まで読み終わった長林は手紙を机の上に放り投げ、着替えもせずに切羽詰まった表情で部屋を飛び出した。
荒い息を吐き、足の裏の皮膚が破けても構わず走り続け、汗が目の中に入るのを何度も拭い、長林はあるところを目指して走り続けた。肺が破裂してしまいそうになるほどの息苦しさや足の重い疲労を感じながらも足を止めることは一切せず、震える手を強く握りしめまだ暗く人気のない町を走る。
長い間走り続け、ようやく足を止めた長林の目前には軍服を着て僅かに項垂れる鶴望兰とその向こうに仁王立ちする朱铭睿がいた。切り立った崖に立つ二人は昇り始めた朝日に照らされ規則正しい波の音に包まれていた。
先に铭睿が長林に気が付き、腰に手を当てたまま満面の笑顔になり大きく長林に向かって手を降る。
「おや上官!お久しぶりですねぇ!あ、今は元上官でしたか。ですがそんなこと関係ありませんよね、あと5日もすればまた伍長になるのですから!」
声高らかに笑う铭睿に肩で息をする長林は一度息を呑んで険しい表情で铭睿を睨みつける。
「私は…軍に戻る気は更々ない。鶴望兰、こっちにおいで。私のために軍に戻るなんて、そんなことはしなくて良い」
静かに放たれたその言葉に铭睿の笑顔は凍りつく。
「…そんなにこの半鬼が大事ですか。そうですか。ご安心を、もとからこいつを軍に連れて行くなんて思っていません」
铭睿は懐から拳銃を取り出すと鶴望兰の眉間に向けた。
「こいつは殺そうと思っていましたよ。最初から。こいつを殺し、上官を保護した体で軍へ戻る。そうすれば上官はただの被害者となり、伍長に戻る。そうして上官が私を5番隊に戻していただければ私は上官がしたことを口外いたしません。どうです?完璧な筋書きでしょう?」
高笑いを暁天に響かせる铭睿が突きつける銃口に眉一つ動かさず、後ろを向いてしまわないように奥歯を噛み締めて睨むように铭睿を見る。その視線が気に入らなかったのか铭睿はピタリと笑うのをやめた。
「あ、やっぱり撃つのはやめだ。お前のその目を見たらその時のいらつきを思い出した」
拳銃を下げて嘲笑的に笑い、鶴望兰に手を伸ばそうとするその瞬間。
「っ長林…!」
「何度も言わせるな铭睿。軍には戻らない。鶴望兰も、私も」
铭睿の手が鶴望兰に届くより先に長林が後ろから鶴望兰を抱き寄せ、铭睿を鋭く睨む。铭睿は顔を真っ赤にして激昂し唾を飛ばす勢いで叫ぶ。
「その餓鬼みたいな我儘が通るとも思っているんですか上官!?分かっているはずだあなたも!今までのようにこの半鬼を連れていれば一生!死ぬまで追いかけられるだろう!こいつを捨てあなたは階級を取り戻す!なぜこれが最善だとわからない!?」
「生憎、私は階級だとか昇進だとかにはこれっぽっちも興味がない。私は私の正しさだけを信じる。たとえそれが間違っていようとも」
鶴望兰を抱える腕に力を入れ、铭睿を睨む。鶴望兰は持ち上げた腕を長林に重ねることができずに道を見失ったように視線を彷徨わせていた。
「お離しください、伍長様。自分はもう既に身に余るほどの栄誉をいただきました。これ以上ご迷惑をお掛けする訳にはいきません」
「だ、そうですよ上官。半鬼ですらよく分かっていることをどうしてお認めにならない?それに私は銃を持っている。対して上官は丸腰だ。私は上官を思っているのですよ」
銃を見せびらかすようにクルクルと回してみせる铭睿が持つそれをみて長林は小さく鼻で笑う。




