1/3 後半
「あらあら…どこへ隠れたのかと心配したのよ。こんな所にいたのね」
押し入れの中を覗き込んで声を掛けてきた春薫にしぃー、と口に指を添えた。
「どうやら眠ってしまったらしく…出るに出れません。しばらくこのままでいます」
「あら…それは大変ね」
「私?まあ姿勢は良くないですがね」
「いーえ、わたしが言ってるのはお嬢さんのことよ」
春薫は意味ありげに微笑んで部屋を出て行った。残された長林が春薫の言葉の意味を考えあぐねること約数十分、先ほどまで眠っていた鶴望兰はモゾモゾと動き出し、顔を上げた。
「ち、長林...!?なぜ、で、出ます、離れます」
目の前に長林がいることに驚いて目を見開き、押し入れから出ようとして慌てるあまり、強く頭を上段と下段の境目の天井部分にぶつける。
「っぃた」
「えっ、ちょっと大丈夫かい!?すごい音がしたよ?ぶつけた所を見せてごらん」
鶴望兰の頭に手を当て腫れていないことを確認した長林は力が抜けたように笑う。
「そんなにびっくりした?随分焦るじゃないか。まあ腫れてなくて良かったよ」
「...忘れてください...」
長林は声を上げて少し笑った後、恥ずかしいのか顔を覆って俯く鶴望兰の頭を庇いながら押し入れから出ると、タイミングを狙ったように春薫が入ってきた。
「やっぱり予想通りになったわ。大変だったわねお嬢さん」
まだ顔の熱が引かない鶴望兰を見て労るような視線を向けた春薫は一通の封筒を鶴望兰に差し出した。
「はいこれ、読むかどうかはお嬢さんの自由ですって」
一見普通の、というか少しくたびれたようなその手紙を見た鶴望兰は一瞬緊張した面持ちになったものの、春薫の言葉を聞いてすっと穏やかな表情になり、そっと手紙を押し返す。
「いいえ、大丈夫です。その手紙は燃やしてしまってください。もう不要ですから」
「あらいいの?なら薪の足しにでもしましょう」
春薫は手紙を懐へ戻し踵を返した。
パタンと閉ざされた扉を確認してから長林は鶴望兰を見る。
「誰からの手紙か見なくて良かったのかい?」
「はい、どうせ燃やしてしまうでしょうし、遅かれ早かれ燃やされるなら窯にでも焚べた方がよろしいでしょう」
曖昧な物言いで質問を交わした鶴望兰に長林はそれ以上追及することはなく口を閉ざした。
「あ、長林。お昼ご飯の後に来て欲しいと頼まれてはいませんでしたか?」
「しまった忘れてた。助かったよ鶴望兰、それじゃあ行ってくるね」
ペチリと額を叩いて急ぎながら部屋を出る長林を少し微笑みながら鶴望兰は見送り、ふと机の上に残った昼食を見る。野菜の比率が多めの肉まんは数口齧られたままその場に残され、すっかり冷めてしまっている。
鶴望兰はそのうちの一つ、長林が残した肉まんを手に取りじっと見つめる。
しばらくそうしていた鶴望兰だったが、ふ、と短く息を吐いて肉まんを戻して部屋を出て行った。




