告白
「ちょっとあんた」
「はい?なにか用で」
バチンッ
まだ言葉を言い切らないうちに妓女に平手打ちを食らった長林は硬直する。長林の視線の先にいた鶴望兰も口を押さえて目を見開いた。
「あんた私の客を取ったわね!この泥棒!」
キイキイと喚く妓女は数人の男に取り押さえられて奥へと連れて行かれた。
「災難ねぇ。でもその顔も色男に拍車を掛けてて良いんじゃないかしら?」
ゆっくりと鶴望兰を連れて長林のもとに歩いてきた春薫は長林の頬にくっきりと付いた手形をみて笑う。
「災難も何も身に覚えにない罪を問われて何がなんだか…」
ため息とともに肩を落とすその背に慰めのつもりか手を置いた鶴望兰に長林は力なく笑いかける。
「おにいさん声かけられてたでしょう?あのヒトあのコのお得意様なのよ。でもあのコ最近、月の物が始まって相手できなくなったからお客さんが離れると思ってピリピリしてたみたいねぇ」
「…私が男だってこと教えてあげてくださいね」
「んー...でもねぇ、あのコお客さんがどっちもイケる口だって知ってるから余計にタチが悪いのよねぇ」
ぞぉぉっと身震いした長林は両腕に出た鳥肌を撫でつけながら引きつった愛想笑いを浮かべる。
「し、春薫さん。私達は目的地への日程もありますので今日出発しようかと…」
「あらそうなの?まだ傷も治りきっていないんだからもう少しゆっくりしたほうが良いんじゃないかしら」
「いえ、これ以上はちょっと身の危険が…私だけならまだなんとかなりますが妹のほうが心配です」
「長林、安心してください。自分の身は自分で守れます。それに…」
鶴望兰は一拍置いて長林の平手打ちされた方の頬に手を添えて目線を合わせる。
「長林も自分が守りますからゆっくりしていてください」
時が止まったのかと思うほど静まりかえる場の空気を長林の小さな空気が漏れる音が打ち破いた。
「っはは、心配してくれるのかい?ありがとう、鶴望兰は優しいな。うん、強くて優しくていい子だ。心配させてごめんね、もうしばらく休むことにするよ。春薫さん、もうしばらくお世話になります」
慈しむような眼差しで頭を撫でられた鶴望兰は箒を片付けに行ってしまった長林の後ろ姿を納得がいかないような複雑な顔で見送り、春薫はその小さな肩に手を置いた。
「お嬢さん、あれは手強いわよ…お嬢さんのことを妹としてしか見てないもの。でもわたしは応援してるわ」
鶴望兰は少し項垂れて春薫の手に自分の手を重ね頷いた。
その日の夜、長林とは少し離れた所に用意された部屋で卓上の揺れる蝋燭の光を頼りに鶴望兰は春薫から渡された手紙を読んでいた。見覚えのない筆跡で書かれたその手紙を読み進めていくにつれて鶴望兰の表情は暗く、複雑になっていく。
手紙を見比べながら何かを数えるように折られていく指はちょうど中指を折り曲げた所でピタリと止まった。
「3日、3日過ぎてしまえば…」
独り言を呟いたあと、手紙を蝋燭の上に掲げ中央から灰燼を撒き散らしながら燃え焦げていく紙を見つめる。




