誰が
「カン違いしてるみたいだけどオシゴトしてもらうのはこのコじゃないわ。おにいさんよ?」
首をかしげる春薫に長林は表情を引きつらせる。
「…失礼ですが、私、ん”ん”〝俺〟は、男ですよ」
「あ、わかったわ。わたしの言い方が悪かったのね。別にお客さんと寝なさいってイミじゃないわ」
合点がいったようにぽんと手を打ち春薫がそう言うとあからさまに長林は胸を撫で下ろした。
「ちょっと人手が足りないのよ。お皿洗いとかお掃除してほしいのよ」
「それなら、喜んで」
ホッとした表情で頷く長林の袖を控えめに引っ張る鶴望兰は少し首を傾げる。
「長林がそんなに嫌がる仕事はなんですか?寝るってどういうことですか?」
「うぇっげほっげほっ、それは…私の口からは言えない、かな。うん」
突然ひどく咳き込んだ長林は曖昧に誤魔化す。が春薫はにやりと口元を長い袖て隠しながら鶴望兰の手に自分の手を重ねた。
「だめよおにいさん、ちゃぁんと教えなきゃ。あのねお嬢ちゃん、おにいさんが考えているのはね」
「春薫さん!?私元気になった気がします!仕事手伝いますよ!」
「寝てください、長林」
春薫の言葉を遮るようにして叫んだ長林をぴしゃりと言い伏せた鶴望兰はタオルを水に浸し長林の二の腕の包帯を外し傷口を拭った。
「お医者さんは明日いらしてくれるそうです」
「とても助かるんだけど…手持ち、足りるかどうか…」
「お代はスデに払って貰ってるからアンシンしてねおにいさん」
「え、どなたに?こちらに知り合いはいないはずですが…」
「わたし知らないわ。お金渡されてあなたの面倒を見てほしいと頼まれたダケだもの」
肩をすくめて言う春薫にそれ以上問い詰める気にならなかったのか、熱による眠気か長林はうとうととしながら頷いた。
「鶴望兰、もういいよ、ちょっと寝たいから。包帯は、自分で巻くよ」
あくび混じりに鶴望兰から包帯とタオルを受け取ると緩慢な動きで包帯を巻き、後ろで一つに結ばれた髪の毛を解くと気絶も同然に眠ってしまった。
「さ、お嬢さんはこっちで寝なさい。おにいさんのジャマになるといけないわ」
春薫は鶴望兰を隣の部屋へと連れて行った。何度も振り返って心配そうに長林を見る鶴望兰を大丈夫だと慰めながら春薫は鶴望兰を寝かしつけた。
次の日の早朝、まだ店も開けていない時間帯に草臥れた医者が門を叩いた。
「おぉーい、小春ー来たぞー」
「はいな、今開けますよ。センセ、診て欲しいの今日は女の子じゃないのよ」
「えぇ?客の治療はしないって言ったろうに。飲んだくれは自業自得だから診ないって」
「違うのよセンセ、撃たれたヒトを診て欲しいの」
「はぁ!?撃たれたぁ!?」
戸惑いを隠せない町医者を引きずるようにして長林のもとへ連れて行くと、鶴望兰が長林の額の汗を拭っているところだった。
「ほらこのヒト」
「はーこりゃまいった撃ったヤツ、ヘッタクソだねぇ…まあ弾を取り出したら後は若さ特有の回復力でなんとかなるよ」
医者は呆れたため息を付きながらも手早く麻酔を打ち、2時間もしないうちに縫合を終えた。




