祭囃子
長林は軽く礼をし、鶴望兰の肩を軽く抱き寄せながら狭い通路を通っていく。軍人からだいぶ離れたところまで来ると未だに早鐘を打つ心臓を上から押さえながら深呼吸をする。
「長林、これまだつけていたほうが良いでしょうか」
「うん、もういいかな。あ、でもその包帯はしばらく取っておいて。もしかしたらまた使うかもしれない」
鶴望兰は頷いて顔を覆う包帯を外した。包帯の下の顔は傷一つなくつるりとしていて健康的な血色をしていた。
「焦ったなぁ。でもあの時の口紅があってよかったよ。水に少し溶かして適当に塗れば血みたいに見えるし」
「はい、間に合って良かったです」
外した包帯を丁寧にまとめ、背負っていた鞄に入れる。鞄に入れた包帯の横にはあの小さな口紅が半分ほど減った状態で共に入っていた。
「次は夕崢町に向かうのですか」
「いや、行かないよ。あれはでまかせだよ。まともに海を見れなかっただろう?だからここからまた海沿いに行ってしっかりと海を見よう。私の故郷に着いたら海は見れないし、今のうちに見ておかなきゃね」
笑顔で問われた鶴望兰はほんの少し口元を緩ませた。
「危険のない範囲でお願いします」
「それはもちろん」
フードを再び被って長林に伸ばした手はしっかりと握られ、機嫌良さげに鼻歌を歌う長林の声に耳を傾けながら鶴望兰は長林のゆっくりとした歩みに合わせる。
最初の港町から約4日程かけて離れた港町にたどり着くとその町は尋常でない熱気に包まれており、至る所で爆竹由来の硝煙のような匂いや、楽器の音色、祝福の言葉を交わす人々のにぎやかな声が飛び交っていた。
初めてこのような騒々しい場面に身を置いた鶴望兰は目を白黒させ、不安げに長林を見上げる。
「何が起きているのでしょうか、ここから早く離れたほうが良いのでは...」
「大丈夫だよ、ただのお祭りでみんなはしゃいでるだけ。ほら、向こうをごらん。お面を付けて踊ってる人達がいるだろう?」
長林が示す先を見ると確かに手が込んだステージの上で派手な衣装、面をつけた役者達が踊っていて、民衆は敵が倒されるたびに歓声を上げ、離れたところではカラフルな煙を出す爆竹が鳴らされていた。
「この人混みじゃ向こうもそうそう私たちを見つけられないだろうししばらくここで観光がてら撹乱しようか」
「はい。長林、長林、あれはなんでしょう?」
いつになく浮き足立つ鶴望兰が指差す先を見て質問に答えていく。
「あれは果物に飴をかけたお菓子だよ」
「へえ、珍しい。蚕を揚げた食べ物だ。食べてみたい?いらないか」
「これは切り絵だね。壁に飾ったりするんだよ。欲しいならひとつ買おうか?ん、これもいらないのかい?」
どうやら見慣れないものが多く、それがなんなのか知りたいだけで特に欲しいという気持ちは無いようで、鶴望兰は長林の手を引いてあれこれと聞くだけだった。
長林もニコニコとしながら店頭に並べられた商品や劇の解説をしながら祭りを堪能していた。
その時だった。




