演技
小高い位置にある林の隙間から見える、宝石の如き輝きの海原を見た鶴望兰は目深に被った頭巾を少し捲り目に焼き付けんばかりにそれを見ていた。
「鶴望兰、少し街に降りてみようか。港町は首都とはまた少し違っていて面白いと思うよ」
「はい」
長林が微笑みながら手を差し伸べると鶴望兰はしっかりとその手を掴み、2人で街に降りた。
磯の香りが町中を漂う港町は確かに首都とは大きく違っていた。
店頭に並ぶ商品の種類、すれ違う人々の人相、聞こえる言葉のイントネーションすらも首都とは全く異なり、鶴望兰はキョロキョロと辺りを見回していた。
しかし活気付いている人々の間には場違いな凍るような緊張感を持った人間が混じっている。軍服を身につけて目深に被った軍帽のしたから鋭い眼光を何かを探しているかのようにあちこちに向けている。
嫌な予感がした長林は鶴望兰の前にさり気なく移動し、軍人の視界に入ってしまわないように鶴望兰を隠す。軍人らがどこかへ行くことを祈りつつ向こうを伺うも、一向に動く気配がない。
動くに動けずにいると長林とは反対方向でひったくりがあったのか、突如女性の甲高い悲鳴が上がり、軍人らはそちらへ向かって行った。
「鶴望兰、もう次に行ったほうが良いかもしれない」
鶴望兰は冷や汗が浮かぶ長林の顔を見て唇を引き結び頷いた。
薄暗く人気のない裏路地を素早く通り抜けて行く長林の耳に前方の曲がり角から、硬い二人以上の足音が届き、ピタリと足を止める。急に止まったせいでつんのめる鶴望兰にそっと唇に人差し指をあて、静かにとジェスチャーをする。
慎重にゆっくりと歩みを進めると案の定、雷華軍の軍人と鉢合わせた。
「まて、お前らこんなところで何をしている」
「すみません、慣れない街で迷ってしまったみたいです。この先の夕崢町に向かいたいのですが…」
高圧的な軍人に対し、あくまでにこやかに物腰柔らかく答える長林の後ろでフードを被り、さらに顔を伏せる鶴望兰に目をつけた軍人はもう一人に耳打ちし相手も頷いた。
「後ろのやつは何だ。どうして顔を隠している?」
「妹は顔に火傷がありまして、夕崢町で医者に見てもらいに行くところなのです」
「…少し確認させていただきます」
もう一人の軍人が鶴望兰に近づくと、鶴望兰は身を強張らせるのも構うことなくそのフードを捲りあげる。
「ッこれ、は…失礼しました」
顔の大半がところどころ血の滲んだ包帯で巻かれている鶴望兰の顔を見て軍人は顔を青くして手を離し、二歩程距離を取る。
「一応お聞きしますが、伝染病の類ではないでしょうね」
「はい、そちらの心配はありません。あの、もう行ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、行って良し。その前に、小柄の天与礼者を見ていないか?第一級天与礼者で犯罪を犯し現在逃亡中だ」
軍人が道を開け、その間を通りながら長林は少し考え、緩く首を振りながら眉を困ったように寄せて笑う。
「すみません、見たことないです。あと夕崢町はこの先真っ直ぐで合っていますか?」
「ああ、この先の道を左に曲がると良い」
長林は軽く礼をし、鶴望兰の肩を軽く抱き寄せながら狭い通路を通っていく。




