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落陽の瞳  作者: Hozuki Rui
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理想

30分ほどした後、控えめにノックがされたのに気付いた鶴望兰はドアを開けると長林は二歩引いたところに立って目を伏せていた。


「先程は本当に済まない、許されないことだってことはわかってる。姑娘にとって一番してはいけないことをしてしまったし、」


そう言いかけたところで鶴望兰は長林の手を取った。驚いて手をひこうとした長林は鶴望兰の泣きそうな顔を見て手の力をそっと抜いた。


「申し訳ございません、自分勝手でした。きっと、長林は自分を軍に連れては行かないのだろうと、思って、そ、それに、汚れている自分に長林も、よ、楊さんも優しくしてくださるのが、騙しているようで申し訳なくて」


しゃくりあげながら続ける鶴望兰の手をゆっくりと握り返し、長林は静かに言った。


「鶴望兰、少し話そうか。伝えたいことがあるんだ」


長林の提案で机を挟んで向き合うがどこか気まずい空気のせいで口を開かない。一度強く唇を噛み締めた長林は覚悟を決めたようにまっすぐに鶴望兰の目を見た。


「私は殺人は良くないことだとは言ったけど…正直に言えば、姑娘が殺していなかったら私があの場で彼らを殺していたと思う。もちろん彼らが姑娘にしたことが許せないってのもあるけど、彼らは姉の、璋月の敵でもあったんだ。そして私が君に優しくするのは…実は君と、姑娘と璋月の境遇はよく似ていたからなんだ」


目を見開いた鶴望兰はなにか言いたげに口を開いたが、そっと口をつぐんで続きを促した。


「璋月もあの二人にその…姑娘と同じ年ごろの頃に手籠めにされて、それを苦に自ら命を絶った。それが原因で母も心を病ませたわけだけど…何から何まで璋月と同じになっていく姑娘を見捨てることは出来なかった。それに…もしかしたら、今度は救えるんじゃないかって、希望もあった。璋月は死んでしまったけど、姑娘は生きてくれるかもしれない。生きて、大人になって…私の、理想を押し付けてしまったね。本当に申し訳ない」


寂しそうに息をつき、頭を下げて謝る長林に掛ける言葉が見つからず、鶴望兰はゆるりと首を振って俯く。


「…手紙を見ただろう、姑娘。軍は君を連れてこいとは言うけど私はそんな気はサラサラない。だから、逃げてしまおうか」


驚き、素早く顔を上げた鶴望兰の前には手が差し出されていた。ほっそりと白魚のような手にゴツゴツとした関節が浮き上がった手の先をたどると少し微笑んだ長林と目があう。


「どこへ、行くのですか。きっとどこまでも追いかけられるはずです」

「私の故郷にでも行こうと思っていたけど…もしそこまで追いかけてきたなら、どこへでも行こう。この際だ、色んなところを回るのも楽しいかもしれないね」


鶴望兰はまだためらいが残るのか手を伸ばそうとして引っ込める。長林はその手を握ることはせずにじっと手を伸ばされるのを待った。


「だからさ、姑娘。一言、逃げたいって言って。この手を取っておくれ。そしたら」

「に、逃げたいです…ここから、軍から、逃げたいです」


とうとう泣きそうな顔で震える手を長林の手の上に重ねた。その小さな手を長林は優しく包み、笑った。


「ああ、逃げよう」

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