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落陽の瞳  作者: Hozuki Rui
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感想

夢中になって本に没頭している鶴望兰は長林が隣りにいることにも気付かず、最後のページをめくった。

 読み終わったのか小さく息を吐きながら本を閉じると隣で頬杖をつきながらこちらを見る長林に驚きわかりやすく身を強張らせる。


「ち、長林。いつからそこに…」

「ついさっきだよ。おばさんに台所から追い出されちゃってね」


肩を竦める長林に曖昧に返事をする鶴望兰の手元を覗き込むと長林は本を指差した。


「それ読み終わったの?早いね。面白かった?」

「はい、少し寂しい終わり方でしたが…少し奇妙な感じもしました」

「ん、なんで?」

「月を見ているのに、人は月に登った嫦娥を思って月を見るのでしょう。月は自分を見ているのではなく嫦娥を重ねている事も知らずただそこにポッカリと浮かんでいるのが寂しく奇妙に感じました」


古びた表紙を指先でサラリと撫でて言う鶴望兰の横顔を見て長林は驚いたように眉を上げる。


「へえ、そんな意見は初めて聞いたな。確かに月からしたら居たかもわからない嫦娥に重ねられるのは寂しく感じるのかもね。私はそんなこと考えたことなかったなぁ」

「長林は月と嫦娥、どちらを見ていたんですか?」

「私は…嫦娥かな。小さい頃は家から少し歩いたところで家族で嫦娥と兎の話をしてたと思う。思えば不思議だね、目の前にある月を見ないで居もしない嫦娥に思いを馳せるなんて」



長林は少しずつ暗くなっていくにつれて顔を表す月を見上げた。まん丸としたまだ少し薄い月はぼんやりと薄暗くなる空にぼんやりと浮かんでいる。


「はいはい!そこを退きなさいあんた達!月餅と西瓜を切ったからそっち置いてちょうだい!後これ提灯ね、倒さないように気をつけてよ長林?」

「はいはい。私をいくつだと思ってるのおばさん」


光る提灯の模様は美しい嫦娥を模していて、それに目を奪われる鶴望兰に優しく差し出された西瓜に目を丸くする。

 遠慮がちに受け取った西瓜に小さくかじり跡を残すと、甘さか、提灯の光が目に染みたか、はたまた自分を見てもらえぬ月に同情したか、鶴望兰の落陽の如きの目は潤んだような光の反射をした。


 静かに賑やかな月見の後の夜中、長林が物音に気付いて身を起こすと鶴望兰がゴミ箱の前で背を丸めて座り込んでいた。


「姑娘…そんな暗いところで何をしているんだい…?」

「…いいえ、虫が出ましたので…死体を捨てたところです。驚いてしまって…驚かせてしまい申し訳ございません。もう寝ます」


ゆっくりと振り返った鶴望兰のかすかに見えた微笑みのような口の形は闇に溶けてあっという間に有耶無耶になった。気にはなれどもしかし、すぐに寝室に戻ってしまったため深く追求することも出来ない。

 結局、睡魔に負けた長林は体を支えていた腕の力が抜け倒れるこむように枕に頭をうずめた。


朝になり起きた長林は昨夜の様子が気になり鶴望兰の部屋に顔を出すと机に向かって本を読んでいるようだった。


「おはよう、朝から本を読んでいるの?勤勉だね」

「おはようございます、長林。先ほど楊さんが来られたのですが、工房の方に来て欲しいと伝言を預かっております」

「おばさんが?おかしいな…全然気付かなかったよ。他になにか言ってた?」

「いえ、詳しくは自分も聞いておりません」


ゆっくりと首を振る鶴望兰は本当に何も知らない様子だった。顎に手を当て考えれども心当たりなどない長林は肩をすくめて息をついた。


「まあ考えていても仕方ないし、ちょっと行ってくるよ」

「かしこまりました」


手早く準備を済ませた長林はゴミ箱の中に封が開かれた手紙を見つけた。


(铭睿が昨日渡してきた手紙か。まあ特に大切な内容でもないだろう、せいぜい文句を書き連ねるのが関の山さ)


ふんと鼻を無らした後、その足で楊の職場である工房へと向かう。

 街に並ぶ木々は秋の趣を呈しているのに、夏の暑さはまだ未練たらしく肌にまとわりつく。その暑さにげんなりとしながら首筋を伝う汗を掌で拭い、楊の工房の戸を叩くと中から楊が首を傾げながら出てきた。

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