表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落陽の瞳  作者: Hozuki Rui
31/55

裁定

捨てた手紙を一瞥することもなく微笑む長林を見て鶴望兰は困ったように視線をごみ箱と長林を交互に迷わせたがそうですねと返した。

 外ではまだ铭睿が騒いでいた。長林は眉を寄せて玄関の方面を睨む。


「铭睿はまだ外にいるのか。どうしたものかな」

「…長林は自分がしたことをどう思われますか」

「どう思うって、何を?」

「馬少尉と李中尉を手にかけたことです。自分の処罰がなくとも、自分が人を殺めたことに変わりはありません。長林は何が大切かはご自分で決められるのでしょう?なら自分のしたことが大事であったか、またそうではないか、長林が判断してください」


铭睿が帰ったのか、一拍の間を静寂が部屋を支配する。長林は少し考えた後、湯気の量が明らかに減ってしまった茶を見ながら口を開く。


「私は…正直に言うと殺人は良くないことだと思う。秩序を壊す行為だから。でも、姑娘がしたことが悪いこととも思えない。中尉と少尉がしたことは明らかに咎められるべき行為だ。だから誰も姑娘を責めたりなんかしない」


そっと目を伏せた鶴望兰の頭に遠慮がちに手を置き、撫でた瞬間を狙ったように忙しなく扉が叩かれた。

 警戒しつつもそっと玄関の扉を開けるとそこには脂汗を額に滲ませた楊が真っ青な顔で立っていた。


「ああ長林!良かった無事だったのね!」

「おばさん!?どうしたのそんな顔真っ青で…」

「どうしたもこうしたもないわよ!あんた自分の家の前で笑いまくってる頭イカレポンチが居るのに通報もせず…!あんたと鶴望兰ちゃんに何かあったらどうするの!?」

「元部下を通報しても来てくれるものかと思っちゃって…おばさんが通報してくれて助かったよ」


長林が困ったように眉を寄せて笑うと楊は目を剥いて長林の肩を掴んだ。


「あんた退軍したの!?とうとう!?」

「なんで私がクビになると思ってるのさおばさん?待ってちょっと痛い痛い!あっちの配属が変わっただけだってば!」

「え、退軍したんじゃなかったの?残念だわ…」

「まだ任務期間終わってないからね?全く…おばさん工房から直接来たの?粉付いてるよ」


長林がため息を付きながら楊の腕についていた粉を払うと楊は今気づいたのか慌てて他にも付いていないか確認し始めた。


「違うわよ、一旦家に月餅を取りに戻ってから来たの。そうそう忘れるところだった。これ月餅ね、鶴望兰ちゃんと食べてちょうだい」

「うん、毎年ありがとうおばさん」

「気にしないで。それより…」


楊は心配そうに眉を寄せるとそろりと部屋の中を伺った。


「…鶴望兰ちゃんはまだ良くないのかしら?」

「え?ああ、姑娘か。うーん…個人的にはもう良いかもしれないけど…」

「ねえ、そろそろ鶴望兰ちゃんに何があったのか教えてくれない?」

「ごめんね、おばさん…姑娘に会ってく?姑娘にとっても良い気分転換になると思うから」


楊はため息を付いて頷き、敷居をまたいだ。

 ギッ、ギッ、と古い木造の床を踏む音が聞こえた鶴望兰は入口を見ると心配そうに顔を覗かせる楊と目があった。しっかりと目があってしまった楊は気まずそうにほほ笑みを浮かべながら鶴望兰の前に座る。


「えっと…こんにちは、久しぶりね鶴望兰ちゃん。元気…してたかしら?」

「お久しぶりでございます、楊さん。お気遣いありがとうございます。おかげさまで恙無く過ごさせて頂いています」

「そ、そう…よかった。長林から鶴望兰ちゃんが体調を崩していると聞いていたから心配になっちゃって」


ほっと胸をなでおろし微笑む楊に申し訳無さそうに鶴望兰は座ったまま深く頭を下げた。


「楊さん、本当に申し訳ありません。楊さんから頂いたあの佩玉を壊してしまいました。せっかく作って頂いたのに、本当に申し訳ありません」

「え!?ああ!いいのよそんな頭下げなくて!柔らかい素材だから壊れやすいのね、気にしなくていいのいいの!」


大慌てで鶴望兰の肩に手を添えて顔を上げさせる。おずおずと顔を上げたものの、視線を合わせずに目を伏せる鶴望兰の頬に手を添えた楊は娘にやるようにそっと親指でその頬を撫でる。


「そんなに謝るくらい気に入ってくれたのはすっごく嬉しいけど、物はいずれ壊れてしまうんだから思い詰めなくて良いのよ。そうだ、あたしがもう一個作ってあげる。今度は壊れにくい石で作ってあげるから壊れる心配もないでしょ?」


優しく言い聞かせる楊の言葉に、喉が狭く絞られ、熱いものが溢れてしまいそうになるのをグッと唇を引き締めて鶴望兰は礼を絞り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ