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落陽の瞳  作者: Hozuki Rui
29/55

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結局、鶴望兰が罪に問われることはなく、孫と長林と阿霖には厳しい箝口令が敷かれ、馬と李の切り裂かれた遺体は秘密裏に修復され任務中に殉職したと報じられた。

 孫の礼物である「洗脳」によって天与礼者は軍の許可なしで礼物が使えないようになっている。しかし今回はその効果が薄れた頃に起きた事件であった為、軍の許可なしに礼物を使用した鶴望兰は処分されるはずであったが、馬と李の過去の醜聞を隠すためにも嘘の情報を流すことになった。


 その旨の報告を阿霖からの書面で知った長林は握りつぶした後、ゴミ箱へと無造作に放り捨てた。

 不幸中の幸いか鶴望兰が身籠ることはなく、傷も天与礼者によって全て治されたが精神状態はすこぶる悪く、少しでも目を離せば自ら命を絶とうとする。その都度長林は止めつつ自殺の道具になりそうなものはできるだけ遠ざけていた。

 時折カウンセリングを交えながら鶴望兰と会話するも良好な変化は感じられず、あれほど懐いていた楊と会うことや会話も避けるようになった。その上普段はぼんやりとした眼差しが長林がハサミを使っている時、包丁を使っているときは異様に生き生きとなるのだ。


(昨日はどこかへ行こうとするし、その前は親指で目をくり抜こうとする。王大佐が拘束したのも頷けるが、そんな事はできないし…姑娘はますますあの頃の璋月に似てくる。目つきや雰囲気が…まいったな)


長林が考え込んでいるとおもむろに鶴望兰は立ち上がり危なっかしい足取りで台所に入っていく。嫌な予感がした長林は鶴望兰の後をついていくと鶴望兰は引き出しの中から包丁を取り出して自分の首に向けているところだった。


「っ姑娘!」


間一髪のところで包丁が鶴望兰の喉に突き刺さることを阻止できたが長林の掌からはボタボタと真っ赤な鮮血が垂れ落ちる。痛みにうめきながらも鶴望兰の手から包丁を離させた。目を見開いて愕然とする鶴望兰に額に脂汗を浮かばせながら長林は笑いかける。


「ちょっと包帯とか薬を持ってきてくれないかな?これを抜く、から止血しなきゃね」


生唾を飲み込んで長林はそう言うとちらりと刺さったままの包丁を横目で示す。鶴望兰はコクコクと頷いて言われたものを取りに行った。

 長林は水を流しながら傷口周りの血を洗い流していると鶴望兰が包帯と布巾を持って来た。

 唇を噛み締めて俯く鶴望兰からそれらを受け取ると包丁の持ち手部分を握り思いっきり引き抜いた。


「大丈夫だよ、傷は浅いから…っ!まあちょっと痛いけどね、このくらいは」


途端に溢れ出る血の多さにヒュッと息を呑む音が隣から聞こえるが長林は構わず布巾を傷口に押し入れるようにして圧迫した上から何重にも包帯を巻いた。


「…あ、薬塗るの忘れちゃったね。せっかく持ってきてくれたのにごめんよ」


そんなことはないとでも言いたげに勢いよく首を横に振る鶴望兰の頭に手を置こうとしたがピタリと止まり、血が滲んだ包帯が巻かれた手を引っ込めて無傷な右手で控えめに、そっと頭を撫でた。


「明日は満月らしい。おばさんがこの時期になるといつも月餅を作って持ってくるんだ。明日の夜はそれを食べながら月でも見ようか。こんな傷、痛くもないんだから泣かないで」

「本当に、申し訳ありません、ごめんなさい」

「大丈夫、大丈夫だから。ね?責めなくて良い。今日はもう早く寝なさい」


長林は一度鶴望兰の頭をしっかりと胸に抱きしめると鶴望兰は小さく頷いた。

※万が一鋭利なものが刺さってしまった場合は無闇に引き抜かないように推奨されています。

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