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落陽の瞳  作者: Hozuki Rui
20/55

受容

「私が伍長として頼りない、私の指示なんぞ聞けるかと思ったら言ってくれ。後任の目星はついてる」


眉間をもみほぐしながら部屋にいる全員に聞こえるように言うと、阿霖が代表するように一歩前に出る。


「铭睿はともかく、小官は上官の方針に異議ありません。5番隊を代表して鶴望兰隊員、これからよろしくお願いします」

「じ、自分も!上官の決定に異議ありません!」


鶴望兰に微笑みかける阿霖の後に続き、慌てて胸に拳を当て敬礼する繁许。そんな二人を見た長林は一瞬、虚を突かれたように目を見開いたが、すぐに安心したような笑みを浮かべた。


「こちらこそお願いします」


鶴望兰は帽子が落ちないようにしっかりと被り直し、二人に向かって再び深く礼をした。


 簡単な説明を受けた後、鶴望兰は長林に連れられて首都を歩いていた。


「…さっきは本当にごめんね。私の部下が君に失礼なことを言ってしまった」


唐突に長林は鶴望兰に謝る。驚いた鶴望兰が長林の顔を見上げるときつく口元を引き締め眉を寄せていて、一見すると怒っているようにも見える。


「お気になさらず、あの方のような反応には慣れておりますから」


鶴望兰としては慰めのつもりでかけた言葉だったのだろうが、長林はより一層悲しげな表情をした。


「姑娘、こんな扱いは慣れていいものじゃない。不当な扱いを受けたらちゃんと怒るんだ。そうやって感情を圧し殺してはいけないよ。心を圧し殺していくと本当に辛いことも分からなくなっていってしまう」

「それは良いことではないのですか?」


長林は緩く頭を振り、その動きの合わせて垂れ下がった一房の三つ編みも緩慢に揺れる。


「心が殺された瞬間、人間は死に向かっていく。驚くほど早く死へと走り出すんだ。もう誰かのそんな姿は見たくないし、姑娘にそんな道を歩んでほしくない」


長林は鶴望兰の冷たく冷えてしまった手を取り歩き始める。


「覚えていて、姑娘を大事にする人間がここにいることを。そして姑娘は決してぞんざいな扱いを受けて良いわけじゃないことを」


鶴望兰の手を引いて歩く長林の後ろ姿は沈みゆく太陽の逆光で黒く影どられていた。次第に周りの闇に溶け込んでいく長林の手を鶴望兰はひしと握りしめた。


 王との面談から何週間も過ぎたあと。すっかり日が暮れた町中を長林は脱いだ上着を肩にかけ、ズボンのポケットに手を入れ欠伸をしながら帰路についていた。

 自宅から漂う香りにすっと顔を上げると小さく笑い、軽やかな足取りになり弾むように歩みを進めた。


「ただいま。姑娘、楊おばさん、桃を買ってきたよ」

「あら、おかえり長林!桃だなんて気が利くわね!」

「おかえりなさい長林」

「外からもいい匂いがしてたよ。何を作ってたの?」


ひょっこりと台所に顔を覗かせると、ちょうど料理を乗せた皿を持っていた鶴望兰が湯気が立つそれを長林に見せる。


「楊さんが肉餅の作り方を教えてくれていたんです」

「鶴望兰ちゃんったら一回教えたらすぐできちゃうんだもの、教え甲斐があるってもんだわ」

「どうりで外からもいい匂いがすると思ったよ。なにか手伝うことあるかい?」

「あんたは手を洗って料理を机の上に並べなさい。あんたが料理に手を出したらとんでもないことになっちゃうんだから」


長林から桃を受け取った楊は苦笑いしながら台所に並べられた料理を顎で示した。


「あのねぇ…私だって一人暮らしが長いんだよ?そんなひどいことにはならないよ」

「だまらっしゃい。いいから早く料理を並べて頂戴。鶴望兰ちゃんは座ってていいわよ」

「わかりました」


一つ頷いた鶴望兰は湯気が立つ大皿を持って今に運んでいった。それを見送りながら長林は蛇口に手を伸ばした。

タイトルを入れ忘れていました。申し訳ありません

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