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落陽の瞳  作者: Hozuki Rui
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三者面談

光陰矢の如しとはよく言ったもので、長林が軍と自宅を行ったり来たりする日々の一週間はあっという間に過ぎていった。

 長林が軍へ赴く間、鶴望兰は楊に日常生活をこなすうえでの知識を教えてもらっていた。そのため今や疲れ切って家に帰ってきた長林を出迎えるのは鶴望兰だけでなく、香ばしい香りがする食卓もであった。


 そんな事がありつつも王に呼び出された当日。長林は鶴望兰に彼女が着ていた軍服を着せて、共に軍の本拠地へと向かう。

 最初はしきりに鶴望兰の体調を気にかけ、少しでも気分が悪そうに見えると踵を返そうとした長林だが、とうとう軍部の正門にたどり着くとあからさまに眉を寄せて、門番に雷華軍に所属していることを示すバッチを見せて重々しい門を通り抜ける。


 王の執務室に近づくほど長林の口数は減っていき、扉の前につく頃にはシワが残ってしまうのではないかと思うほど額に力がこもっていた。


「王大佐、劉です。要請通り鶴望兰を連れて参りました。入室してもよろしいでしょうか」

「入れ」


扉をノックして声を掛けるといつの日かと同じように短く返事が返され、長林が扉を開け敬礼をしてから入ると茶の香りが2人を出迎える。


「そこにかけると良い。茶を用意したが、淹れ慣れていないため少々味が悪い可能性がある。飲めない味ではないがな」


王はすでにソファーに腰掛け湯気が立つ茶を啜っている。座れと示されたソファーの前にはあたたかそうな茶のみでなく、柔らかな色合いの果物を模した小さな生菓子が1つ置かれていた。


 「失礼します」と口にしながらソファーに腰掛けた長林は随分丁寧な待遇に違和感を持ちつつも王にならい、出された茶に口をつけた。

本人は茶を淹れ慣れていないと言ったものの、さしてひどい味がする訳でもなく、少々渋めの茶だと言われれば納得する程度であった。


「さて、私は伍長にH862を連れてくるように言ったわけだが。鶴望兰と言ったか?それについて説明してもらおうか」

「はい。私が付けました。番号だけでは何かと不自由ですので」

「ふむ、そうか…しかし鶴望兰…鶴望兰か?…まあ、諸君らが良いのであれば構わん。して伍長、彼女の引き取ってからの様子はどうだね」


王は顎に生えた短く白い髭をざり、と撫でて鶴望兰の名前を難しい顔で思案した後、ちらりと菓子を見つめる鶴望兰の感情の読めない顔を見て頭を軽く振り、話を変えた。

 曖昧な王の態度に自身の名付けセンスのなさを貶した楊の姿が重なって見えた長林は遠くなりそうな目を必死に王に合わせた。


「ええ、はい。未だ不安定な様子があるようで、心的外傷後圧迫障害を患う患者特有ではありますが特定のものに忌避する様子を見せ、著しく感情的になります。私としてはこれを機に退軍を勧めたのですが、本人は復帰を望んでいます。私としても鶴望兰の願いに沿って手助けをしたいと思っています」


そう言いながら長林はついこの前のやり取りを思い出す。

 軍本部に向かう数日前、長林は軍をやめ、楊のところで世話になれば良いと提案したが、驚くべきことに鶴望兰は首を縦には振らず復帰すると言いはった。


鶴望兰のトラウマとなる根本的な原因は、人を手に掛けさせた軍である。そのため軍にいることは鶴望兰のためにも良くないと長林はそれとなく説得したのだが、鶴望兰は頑として首を縦に振ることはなかった。

 それは楊や長林に遠慮しているからではなく、どこか脅迫概念に囚われているようだった。まるで軍以外のところにいけば殺されてしまうとでも思っているような切迫した色を目に宿す鶴望兰をみた長林は、胸が痛むのを堪えながらも復帰できるように手伝うと言ってしまったのだ。


 王は長林の報告に耳を傾けて幾度か頷く。


「なるほど。2ヶ月間彼女の全てを君に任せると言ったのは此方である手前、伍長の進行に口を挟むつもりはない。だがこれからどうするつもりか聞こうか」

(自分の意に沿わない内容だったら止めるくせによくもまあいけしゃあしゃあと…)

「そうですね、私としましては症状緩和のために私の仕事に連れていきたいと思っています。鶴望兰の元の軍務よりかは血を見ずに済みますし、同じような環境に置くことで恐怖心を少しずつ薄めていく方法を取りたいと考えています」


心のなかで毒づいていることなどおくびにも出さず長林はにこやかに答える。王は少し考え込んだ後頷き紙を取り出しサラサラと何か書き始めた。

三者面談めっちゃ怖かった記憶

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