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落陽の瞳  作者: Hozuki Rui
11/55

発覚

「はい、できたよ…姑娘?姑娘!」


処置が終わり声をかけても返事を返さない鶴望兰を不思議に思った長林が顔を上げると、鶴望兰の様子がおかしく、焦り混じりに声を荒げる。

鶴望兰は目の前の葬式の行列に目を見開いて凝視していた。文字通り呼吸も忘れて見開いた目から次々と涙が溢れ出る様子は異常だった。


(この反応は…心的外傷後圧迫障害か?だがしかしなぜ…)


 長林が疑問を抱えつつも焦りから強めに揺すって何度か名前を呼ぶとはっと我に返って、溺れた人間のように浅く早い呼吸をくり返した。


「目を閉じて息を吸って…よしよし、いい子だ。さっきの葬式で何を見たんだい?」

鶴望兰の背中をさすって呼吸するように促しつつ長林は冷や汗をかきながら独り言のように尋ねる。


 鶴望兰の表情が変わらないのは彼女の生い立ちを考えれば仕方のないことかもしれないが、このように、むしろ過剰に反応することなど長林が読んだ調査書には1文字だって記載されていなかった。

 長林自身、このような反応は心理療法士として働いていた数年間のときでさえ見たことはない。


「泣いているあの御方が、自分を、人殺しと叫んでいるように見えて、」


背中をさすられ、少し落ち着いた鶴望兰は声を震わせながら顔を覆い椅子に腰掛けたままうずくまる。

普段表情を変えない鶴望兰がここまで不安定になっているのを重く受け止めた長林は買い物途中の楊を手招きで呼び寄せた。


「おばさん!ごめん、私は姑娘を連れて先に家に戻る!会計は私の財布を渡しておくからそれで!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいってちゃんと説明を…!って、はぁ…」


ただ事ではない雰囲気を察知した楊が長林と鶴望兰のもとに駆け寄ると長林が財布を押し付け、目を白黒させて財布を受け取った間に長林は鶴望兰を背負って足早に去ってしまった。

残された楊は長林の財布を片手に、彼らを溜め息と共に見送った。


 鶴望兰を背負った長林は閑静な住宅路にある小さな広場につくと、鶴望兰を下ろして椅子に座らせる。そして自身は鶴望兰の前に髪が地面につくのも構わずしゃがみ込み鶴望兰の顔を見上げる。


「すこし顔色が良くなったかな…さっきの泣き女を見て、彼女らが姑娘を『人殺し』と言ったように見えたのは何故か教えてくれる?嫌だったら言わないままでも構わない。でも、言ってしまったほうが楽なときもあるよ」


青白い顔で唇を噛み締めうつむく鶴望兰の肩に長林が手を置くと鶴望兰の体が大きく跳ねる。目を見開いて長林を見つめる表情はどことなく追い詰められているようにも見える。


「じっ、自分は…大丈夫です。ご迷惑をおかけいたしました。誠に…申し訳ございません」


見開いた目を伏せて声を上げず、静かに涙をボロボロと零す。が、どれだけ頬を伝おうとも服を濡らしても鶴望兰が涙を拭う素振りはなかった。代わりに長林が涙を拭えば鶴望兰は今涙が流れていることに気がついたかのように慌てて顔を擦って涙を拭う。


「姑娘、私はちっとも迷惑だなんて思っていないし、この程度なら蚊に刺されるより煩わしくない。私が心理療法士だったのは知ってるね?私は当時、姑娘よりもっと厄介な患者の面倒を見たものだ」


乱暴に顔を擦る鶴望兰の腕を軽く抑え、優しく赤くなった目元を親指でなぞる長林。そのしっかりと合わせられた目に鶴望兰は目を合わせ続けることができず、段々と視線が下がっていく。


「自分の、話を聞いてくださいますか…?」

「もちろん」


絞り出すように出された言葉に間一髪いれずに長林は大きく頷いて答える。その返事に鶴望兰は震える唇を噛み締めた。


「自分の話を聞いても、変わらずっ…笑ってくださいますかっ…?」

「…当たり前だろう?」


膝の上で組んだ鶴望兰の手を力強く包み込み微笑む長林に鶴望兰は再び涙が溢れ、一度大きく息を吸った。

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